総裁記者会見 2023年7月28日(金)午後3時30分から約60分
2023年7月31日
日本銀行
(問)
会合の決定内容と、展望レポートも含めてご説明ください。
(答)
それではご説明します。今日の決定会合ですが、長短金利操作、いわゆるイールドカーブ・コントロールないしYCCですが、これについて短期政策金利-0.1%、10年物国債金利の操作目標ゼロ%程度という水準を、いずれも現状維持とすることを全員一致で決定致しました。そのうえで、イールドカーブ・コントロールの運用を柔軟化することを賛成多数で決定しました。わが国の物価情勢を展望しますと、賃金の上昇を伴うかたちでの2%の物価安定の目標の持続的・安定的な実現を見通せる状況には至っておらず、イールドカーブ・コントロールのもとで、粘り強く金融緩和を継続する必要があります。そうした中、経済・物価を巡る不確実性がきわめて高いことにかんがみますと、この段階でイールドカーブ・コントロールの運用を柔軟化し、上下双方向のリスクに機動的に対応していくことで、この枠組みによる金融緩和の持続性を高めることが適当であるというふうに判断致しました。以上に加え、資産買入れ方針を現状維持とすることを全員一致で決定致しました。なお、中村委員は、長短金利操作の運用の柔軟化については賛成であるが、法人企業統計等で企業の稼ぐ力が高まったことを確認したうえで行う方が望ましいとして、イールドカーブ・コントロールの運用に関する議案には反対されました。
本日は展望レポートを公表しましたので、最初に経済・物価の現状と先行きについてご説明します。まず、わが国の景気の現状ですが、緩やかに回復していると判断しました。先行きですが、当面は海外経済の回復ペース鈍化による下押し圧力を受けるものの、ペントアップ需要の顕在化などに支えられて、緩やかな回復を続けるとみています。その後は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まるもとで、潜在成長率を上回る成長を続けると考えられます。物価ですが、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、政府の経済対策によるエネルギー価格の押し下げ効果などによって、ひと頃に比べればプラス幅を縮小していますが、既往の輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響から、足元は3%台前半となっています。先行きはそうした価格転嫁の影響が減衰していくもとで、プラス幅を縮小した後、マクロ的な需給ギャップが改善し、企業の価格設定行動などの変化を伴うかたちで、中長期的な予想物価上昇率や賃金上昇率も高まっていくもとで、再びプラス幅を緩やかに拡大していくとみています。わが国の物価は4月の展望レポートの見通しを上回って推移しており、本年の春季労使交渉などを背景に賃金上昇率は高まっています。企業の賃金・価格設定行動に変化の兆しが窺われ、予想物価上昇率も再び上昇する動きがみられています。リスク要因ですが、海外の経済・物価動向、資源価格の動向、国内企業の賃金・価格設定行動など、わが国経済・物価を巡る不確実性はきわめて高いと考えています。そのもとで金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響を十分注視する必要があります。
以上のような経済・物価情勢のもとで、イールドカーブ・コントロールの運用を柔軟化した背景を改めてご説明します。今後も物価や予想物価上昇率の上振れ方向の動きが続く場合には、実質金利の低下によって金融緩和効果が強まる一方、長期金利の上限を0.5%の水準で厳格に抑えることで、債券市場の機能やその他の金融市場におけるボラティリティに影響が生じる恐れがあります。イールドカーブ・コントロールの運用の柔軟化によってこうした動きを和らげることが期待されます。一方、わが国経済・物価の下振れリスクが顕在化した場合には、イールドカーブ・コントロールの枠組みのもとで、長期金利が低下することによって、緩和効果が維持されることになります。このようにイールドカーブ・コントロールの運用の柔軟化は、上下双方向のリスクに機動的に対応していくことで、この枠組みによる金融緩和の持続性を高め、賃金の上昇を伴うかたちで2%の物価安定の目標を持続的・安定的に実現することに資する措置であるというふうに考えています。運用の柔軟化の具体的内容ですが、長期金利の操作目標はゼロ%程度、変動幅は±0.5[%]程度に維持したうえで、現在の変動幅の位置付けをめどとして、イールドカーブ・コントロールを従来よりも柔軟に運用します。これに伴い、市場の状況によっては、長期金利はその範囲、ゼロ±0.5%程度を超えて動くこともあると考えています。ただし、1%を超えて長期金利が上昇しないように1%の水準では連続指値オペで金利上昇を抑制します。0.5%から1%の範囲では、長期金利の水準や、変化のスピード等に応じて機動的に国債買入れ額の増額や指値オペ、共通担保資金供給オペなどを実施することで、過度な金利上昇圧力を抑制します。
次に、先行きの金融政策運営の基本方針です。日本銀行は、内外の経済や金融市場を巡る不確実性がきわめて高い中、経済・物価・金融情勢に応じて機動的に対応しつつ、粘り強く金融緩和を継続していくことで、賃金の上昇を伴うかたちで、2%の物価安定の目標を持続的・安定的に実現することを目指していく方針です。具体的には、物価安定の目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、長短金利操作付き量的・質的金融緩和を継続します。マネタリーベースについては、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで拡大方針を継続します。引き続き企業等の資金繰りと金融市場の安定維持に努めるとともに、必要があれば躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じます。
(問)
幹事社から二問質問させて頂きます。一つ目は、今おっしゃられたYCCの柔軟化についてです。今回±0.5%程度をめどという表現に修正されてまして、一方で1.0%の利回りに抑えるという内容にもなってます。これ日銀としてですね、その長期金利、この特に1%のとこなんですけど、1%までは認めるというメッセージなのか、もしくは1%に行かせないというメッセージなのか、その辺の意図を教えて頂きたいのが一点目です。
二つ目が物価についてです。今2%の、CPIが15か月連続で上回っている状況で、企業の価格転嫁、想定以上に続いているという状況で、その中で消費もプラス圏になっていたり、賃金の効果っていうのも少し出てきてる、賃上げの効果も出てきてるかなっていう前向きな見方も出ていますが、日銀としては、もちろん賃上げを伴う2%の目標というのは、物価目標はまだ届いてないというふうにしてると思うんですが、目指すべき好循環のレベルが100とした場合に、植田総裁が今、現状の物価とか経済、どのくらいの位置にあるっていうふうにとらえているのか、この点を伺いたいと思います。
(答)
一点目ですけれども、申し上げましたように、今回のイールドカーブ・コントロール運用の柔軟化ですけれども、長期金利の操作目標はゼロ%程度、変動幅±0.5%に、ここは維持したうえで、変動幅の位置付けをめどとして、柔軟化したものです。ここまでの、足元、長期金利の動きをみますと、0.5%を下回る水準、わずかですが、で推移してきております。今後、仮に0.5%を超えて動く場合には、長期金利の水準や変化のスピード等に応じて機動的に対応することになります。そうしたもとで、長期金利が1%まで上昇することは想定していませんが、念のための上限キャップとして1%としたところでございます。
それから、後半の物価安定の目標の実現を100とした場合に、現状はどの辺かというご質問ですが、これは数値的にはなかなか難しいと申し上げるしかないかなと思います。繰り返しになりますが、今年の春からの賃金に関する労使交渉で、昨年までの物価上昇を賃金に反映する動きが広がったこともあって、賃上げは、ベースアップも含めまして昨年を大きく上回るものが実現してますし、企業による価格転嫁の動き、あるいはもう少し広く、賃金・価格設定行動には変化の兆しがみえているということも申し上げてきた通りです。ただ、現時点では、2%の物価安定の目標の持続的・安定的な実現を見通せる状況には至っていないというふうに考えてございます。目標実現に向けて、今申し上げたような変化の芽を大事に育てていくことが重要であるというふうに考えております。
(問)
今の総裁の発言でありました、長期金利が今後1%まで上昇することは想定していないが、念のために今回の対応を取ったということなんですけれども、決定会合の中でも中村委員がもう少し統計等を見たうえで判断したいというような反対もあったということなんですけれども、今回のタイミングで、この判断を提案して、決定したところを改めて教えて頂きたいと思います。
(答)
少し長くなるかもしれませんけれども、今回発表しました私どもの経済・物価見通しをご覧頂きますと、まず足元23年度の物価見通しをかなり大幅に修正しています。他方で、24年度、25年度の物価見通しについては、概ね4月時点のものと同じという見通しになってございます。まず第一点として、23年度の見通しが大幅に上振れた、つまり4月時点の見通しは、やや過小、あるいはかなり過小であった。その分、上振れ方向にかなり大幅にずれた。そういう不確実性をやや過小評価していた可能性が4月時点ではあるということでございます。24[年度]、25[年度]については、中心的な見通し、中央値が[概ね]変わってはいませんけれども、リスク評価のチャート等をご覧頂きますと、特に24年[度]もそうですけれども(注)、物価見通しについては上振れリスクを意識している委員が多いということが一つございます。つまり、不確実性がきわめて高い。他方で実質GDPの方はやや下振れリスクをみていらっしゃる委員も多いという意味でも不確実性が高いということでございます。それでYCCですけれども、昨年来の経験もみますと、そういうリスク、特にYCCの場合は上振れリスクですけれども、これが顕在化した後で対応しようとするとなかなか大変なことになる、あるいは副作用をすごい大きくしてしまうということがあるわけです。ですので、先ほどもちょっと申し上げましたが、現在、一応債券市場の環境はここまで相対的に落ち着いてきたというふうに考えられる中で、将来の不確実性を今回改めて認識したということでありますので、対応措置、手直し、枠組みのですね、をするのにちょうど良いタイミングではないかなというふうに思った次第でございます。
(問)
今回の修正措置はですね、見方によっては、事実上YCCのバンドといいますか、0.5%だった上限をですね、1%に拡大したようにも映るんですけれども、なぜ上限の拡大ですとか、YCCの撤廃、変動幅の撤廃といった措置ではなくて、0.5%の上限をめどとして残されたのか理由を伺えますでしょうか。
また、場合によってはですね、近い将来に撤廃であったり、めど、バンドの再拡大といった、追加措置をとる可能性もあるのか、その点伺えますでしょうか。
(答)
まずはやや繰り返しになりますけれども、先ほど物価の見通しで申し上げたように、足元23年度の見通しは2%を大きく超えていますけれども、24年度、25年度については、わずかとはいえ2%を下回っている。生鮮食品・エネルギーを除くベースでも同じような姿になっています。更に申し上げれば、先ほどの最初のご説明で申し上げたように、その見通しももう少し分解してみると、当面はインフレ率が下がっていって、どこかで底を打ってまた上がってくるという見通しを、全体ならしてみるとこういう姿になるということです。これも前回の会見でも申し上げましたが、その後半の部分については、まだなかなか自信がない面もあるということでございます。従いまして、まとめて申し上げると、基調的な物価上昇率が2%に届くというところにはまだ距離があるという判断は変えてございません。そういう中で、これまでの強い金融緩和の基調を維持することが適当という結論に至ったわけですが、それと呼応するかたちで長期金利の変動幅についてはゼロ±0.5[%]ということを維持したわけでございます。ただし、先ほど申し上げましたように、物価の見通しには下振れもありますけれども、上振れリスクもあって、その不確実性がかなり大きい。足元を外したということを考えても大きい。これに対する対応も考えておかないといけないということで、ある種、将来のリスク対応として、ゼロ±0.5[%]の外に0.5[%]から1[%]という枠を、柔らかなかたちでといいますか、全体が柔らかになっていますが、作ったということでございます。
今後は、その先どういうことになるのかについて何か展望があるかというご質問だったと思いますけれども、それは今、考慮に入れているような範囲の外に物価見通しが上振れるというようなケースになると思いますけれども、例えばですが、そういう際にはまたその時点で適切な対応を考慮していきたいというふうに思っております。
(問)
一問お尋ねします。今回のYCCの修正の評価についてです。市場は円高・株安で反応しています。この修正は緩和の縮小に当たるのでしょうか。総裁の見解をお聞かせください。
(答)
申し上げましたように、上振れリスクが顕在化してから何か対応するということですと、後手に回ってすごい混乱してしまったり、あるいは副作用が大きくなる、あるいは最悪の場合に嫌々YCCを離脱するというようなリスクもゼロではないわけで、それに対して今回の措置は、前もってリスク対応を考えておくという措置ですので、YCCの持続性を高めて、金融緩和全体の枠組みの持続性も高め、最初に申し上げましたように、物価目標の達成に資する措置であるというふうに考えております。
(問)
二点お願いします。一点目は今回の緩和のYCCの柔軟性を高めたということですが、一方でその持続性も確保と、ただ上下双方のリスクに柔軟に対応したいという文言の趣旨からすると、どちらかというと将来のリスクにより機動的に動けることに重点を置いてるようにみえるんですが、そういう理解でよろしいのでしょうかというのが一点目です。
二点目は政策のバイアスについては、やはりそのリスクの面で物価の上振れリスクについてより今回意識したような展望レポートや声明の文言に4月に比べるとなっているかなという印象なんですけれども、今後の金融政策のバイアスが若干緩和バイアスから中立的なものになったというのはちょっと言い過ぎなのか、今後の政策のバイアスについてお話し頂ければと思います。
(答)
前半は物価に関する上方リスクあるいは下方リスクにどういうふうに、非対称的に対応しているのかいないのかというご質問ですかね。これは申し上げましたように下方リスクについては、ある程度、自動的に対応できるような枠組みにYCCはなっているという中で、上方リスクに対応する余地を少し広げたという、物価についてですね、ことであるかなと思います。ただ、下方リスクも無視できる状態ではなくて、例えば物価の一つ手前になりますけれども、世界経済等をみますと、中国経済等やや弱めの動きになっているようなこともありまして、楽観できる姿では必ずしもないということだと思います。
そのうえで政策全体が、これまでよりもやや引き締めないし正常化方向にバイアスをかけているのかというご質問だったと思うんですけれども、それはそうではなくて何度か申し上げてますように、YCCを柔軟化することによって、政策の持続性を高めて、目標へ到達できる確率を高めようという措置でございます。
(問)
一問ご質問させてください。今回、柔軟化で、指値オペで10年金利を厳格に抑制する金利を1%とされたと思うんですが、この1[%]にした理由を教えて頂きたいと思います。例えば、0.75[%]とかではなく1[%]にした理由っていうのが何なのかっていうのをもうちょっと詳しく教えてください。
(答)
やや繰り返しになりますけれども、足元、先ほど来申し上げていますように、少なくとも昨日までは0.5[%]を下回って推移してきているということ、それから、0.5[%]を仮に超えていった場合には、機動的にオペを打つということを今回決定したということの中で、1[%]に非常に近づいていくという可能性は低いというふうに考えてございますけれども、念のためのキャップとして1[%]を提示させて頂いております。
(問)
今回のですね、修正という言葉を使って報道されることも多いんですけども、おっしゃられてるようにイールドカーブ・コントロールについてはですね、0.5%を柔軟化するとはいえ、0.5[%]という数字が残ったりしております。明確にこれ、非常にですね単純化していいのかってのは、非常に恐縮なところなんですが、今回のこの金融政策決定会合の結論というのは、総裁からみてこれははっきりと修正したといえる理解なんでしょうか。その一点を是非伺わせて頂きたいのとですね。
もう一点がちょっと繰り返してしまって恐縮なんですが、0.5%程度と言いながら、利回り1.0%の指値オペということで、これ若干やはり普通の方になかなか伝わりづらい。なぜ最初から1.0%程度をめどとしと、やはりできないのかというところが非常に気になっております。やはり市場へのメッセージ等ですね、激変的なものを抑えるためのロジックでこうしているのか、それとも何か狙いがあるのか教えてください。
(答)
前段につきましては、柔軟化というふうに私どもの紙に書いてございますけれども、それは修正とそんなに別に意味としては違わないとは思いますけれども。イールドカーブ・コントロールのですね。
後段の-0.5[%]から+0.5[%]を維持しつつ、その外にまた1[%]というのは分かりにくいということだったと思いますけれども。これはちょっと繰り返しになるかもしれませんが、現状で1[%]まで行くのが適当というふうに考えているわけではなくて、将来今みているような物価の見通しの姿から上振れていった場合に、そういうリスクが顕在化したときに、長期金利が0.5[%]を超えて上昇する余地を、現在、前もって作っておこうという修正ないし柔軟化でございます。これはなぜ今やるのかということですけれども、そういうリスクは、目に見えてきたところでやろうとすると、きわめて副作用が強くなる。これは昨年の12月から今年の1月にかけて起こったことに近いこと、あるいは場合によったらそれ以上のことが起こる可能性もあるということで、それを避けるために前もって手を打っておこうという意味合いでございます。
(問)
YCCの運用見直しの解釈について伺います。長期金利については三つの数字が示されたり、幅を持たせた表現になってます。一方で、1%の指値オペの注釈のところで現在の金利情勢では応札が見込まれないと考えられるとあります。これ解釈すると、緩和スタンスは変えずに、過度に金利が上昇しないように国債の買入れ量を調整しつつ、金利の水準は市場に委ねていく方向に持っていくっていう考えなのか、その点を伺います。
もう一つが、展望レポートについてなんですけれども、22年度のインフレ率の実績値さかのぼると日銀の見通し期間の3年間の2%超えになる可能性がかなり高まってます。前総裁を含めて、見通し期間の2%割れを緩和継続理由にしてきたと思うんですけれども、この3年連続達成が現実味を帯びてくると、短期金利の引き上げ、もっと言うとマイナス金利の解除の検討に入るのか、その二点について伺えればと思います。
(答)
前段ですけれども、おっしゃった質問に対する答えは基本的にはイエスです。つまり、もう少し長期金利形成を市場に委ねるという意図があるのかどうかということですが、それは基本的には、程度の問題はありますけれども、イエスで、敷衍しますと、申し上げてますように、経済・物価情勢が上振れた場合に、それを反映するかたちで長期金利が上がっていくということについては、0.5[%]と1[%]の間でそれを認めると言うのも変ですけれども、そこに上昇していくことを容認しようという姿です。ただし、完全に自由にするというところ、それだったらYCCの撤廃に近いわけですけれども、ではなくてスピード調整等を入れつつ、これも表現難しいですけれども、根拠のない投機的な債券売りというようなものがあまり広がらないようなかたちでコントロールをしつつ、しかし、ベースとしては、市場の見方がもう少し長期金利に反映される余地を広げようという措置でございます。
後段の物価見通しと政策の関係ですけれども、これはちょっと誤解したかもしれませんが、私の方で。2%、過去についてはかなり長い間、既に達成されてるわけですけれども、ここから将来というところでは、まだ先ほど申し上げた見通しではやや2%を下回ってますし、子細にみますと、下がっていって上がっていくという、上がっていくところにまだ自信がないというようなこともあって、強い金融緩和の継続を決めておりますけれども、当然そこが変わってくれば政策も将来変わってくるということではあります。
(問)
先ほど、市場にある程度委ねるということで、それは市場機能の健全化のためにはとても重要なことだと思うんですけれども、景気期待によるある意味健全な金利の上昇というのとですね、投機筋のアタックによる上昇、こういったものを、ではどうやって見極めていくのかというのが一つ目の質問です。そしてもう一つ、先ほどスピード調整というお話もありましたが、0.5%を超えてきた場合に、どの程度どんなスピードまでを容認するのか、その辺り具体的に教えて頂ければと思います。
(答)
大変難しいご質問ですけれども、前段ですが、健全な金利上昇とやや投機的なアタックによる上昇、どういうふうに識別するのか。これは、理論的には金利を決めるファンダメンタルズの変化がある、あるいはそれが高い確率で予想されるという動きに基づいた金利の上昇は健全な上昇でしょうし、そういう根拠がないような、売り浴びせの投機は、必ずしも健全でないという区別ができると思いますが、例えば、オペレーションの現場で毎日それを識別しつつオペの対応ができるかと言われると、それはきわめて難しいんだと思います。従いまして、今のような原則を念頭に置きつつ、日々のオペレーションなのかもうちょっと長い、週毎とか月毎になると思いますが、その判断は金利がどれくらいの水準でどれくらいの速さで上がってきたのかというのは、一方にどういう取引があるのかということもみつつ、一方に経済データでどういうものが出ているのかということをみつつ、オペレーションデスクが判断しつつ、私たちボードとも連絡を取りながら決めていくということにならざるを得ないかと思います。
(問)
先ほどの話に関連するんですけれども、YCCを撤廃するわけではないけれども、市場の動きにある程度委ねると。ただ投機的とみられる動きにはある程度対応できるようにするとおっしゃっていますけれども、それ裏を返すとですね、逆に言うと、今までのようにきつく抑えるというYCCのもともとのコンセプトをむしろ事実上緩くするというか、あるいはなくす、なくしてただ投機的な動きとかあまりにも高い水準には対応すると、そういうふうにも聞こえたんですけれども、要するに、修正というよりもかなりそういう質的な大きな転換を伴った今回変更なんでしょうか。
(答)
こういうふうにお答えしたいと思います。いろんな要因で金利はファンダメンタルズ的に上昇すると思いますが、例えば予想物価上昇率が少し上がったということだとします。名目金利をそのときに例えば0.5[%]で厳格にコントロールし続けるということをしますと、名目金利-予想物価上昇率の実質金利は大きく低下します。従ってYCCの持つ緩和効果は一段と強まるということになるかと思います。他方で、そこでは0.5[%]を必死に守るということで、オペをたくさん打つということになりますから、副作用もものすごい今よりも拡大する、大変なことになるリスクもあるということで、YCCの効果と副作用が両方ともものすごい大きくなるという事態になるかと思います。そこは、今回の措置は、例えば予想物価上昇率が上昇したときに、それと同じだけ名目金利を上昇させるというよりは少し手前、少し抑えつつも0.5[%]で何が何でも頑張っちゃうということは少し緩める、その結果として副作用も少し小さめになる、というふうに、YCCの効果と副作用のバランスを少し、プラスとマイナスがものすごい大きくなるというところから少しずつ緩和した状態で、しかしYCCの緩和効果は保つというところに少し、修正という言葉を使えるのかどうかあれですけれども、変えてみようという措置だと考えております。
(問)
二点お尋ねします。今回、上限というかバンドを維持したままで、それをオーバーしても一部許容するというところではありますけども、そうなったときに、このバンドの存在意義みたいなものがやはり薄れてしまうんじゃないかというふうに感じてしまうんですけども、バンドの存在意義というふうなものに関してはどういうふうにお考えなのかというのが一点。
もう一点、2%の物価安定目標まではまだ見通しが立ってないというふうにお話しでした。そのうえで、このYCCというのが改めて緩和的な環境を作り出すのにどの程度強力なツールなのか、どういうふうに植田総裁ご評価されているのか、教えて頂けますでしょうか。
(答)
前段ですけれども、0.5[%]から1[%]まで行ってもいいというふうに言っちゃった場合に、ゼロ±0.5[%]の意味は何かというご質問だと思うんですけれども、これは先ほど来申し上げていますように、ある種、経済・物価情勢が上振れして、それに伴って金利に上昇圧力がかかる場合は、0.5[%]を超えることを容認しようという措置ですので、そこが起こらなければ、つまり、経済・物価情勢が現状程度の、といってもいろいろな動きをみたうえでの、見通しベースで走っているのであれば、ゼロ±0.5[%]が適当であるという意味で、意味があるんだと思います。
それから、そもそもYCCの緩和効果とは何かというのが二番目のご質問だと思うんですけれども、いろんな緩和効果があると思いますけれども、特に強い緩和効果が出るのは、先ほどちょっとお答えしたように、予想物価上昇率等が上がってきて、YCCのバンド、現状で言えば[±]0.5[%]ですけれども、ここを超えて金利が上がろうとするときに、日本銀行がオペでそれを抑える、そうすると実質金利が下がって、それが出発点となっていろんな物価を刺激する動きが起こっていくというところが一つ大きいのかなというふうに思っております。ここ暫く濃淡はありますけれども、そういう、ここ1年強ですかね、局面に入ってきて、そこそこの効果は出ていると思いますけれども、同時にそれは先ほど申し上げましたように、副作用も大きくなる局面でもあるので、そこのバランスをうまくとって持続性を高めようというのが、今回の柔軟化でございます。
(問)
アメリカ経済に関してお伺いしたいんですけども、よく言われる米国経済が壊れると日本の物価状況とか経済も大きな影響を受けるかと思うんですけども、現状では、FRBの標準シナリオとしてソフトランディングの話をされてますけれども、FEDの言うように、通常の金融政策と比べて今回の利上げの影響が出てくるには結構時間がかかるってことを言われてますけれども、そうすると、昨年の3月から金利を引き上げ始めてですね、金融政策の効果が影響出てくるの大体1年半から2年っていうと、ちょうど今年の9月以降からその影響が出てくるかと思うんですけど、不透明が多い中で、現状だとソフトランディングっていうシナリオがありますけれども、これから先々利上げの影響が出てくるということを前提にすると、そう楽観もできないと思うんですけども、その辺のリスクのことをお伺いできればと思います。
(答)
これは私ども常に議論している問題でございます。足元の動きをみますと、ちょっと前に出たインフレ指標あるいは昨晩出たPCEのコアの指数もやや下がってきている。一方で、やはり昨晩のGDP統計は予想を上回るデータとなっているということ等をみまして、ソフトランディング期待が以前よりも高まっているというのは確かだと思います。ただ、そういう中でも、いろんな人が答えがないんですけれども、おっしゃいましたようにアメリカですと500bpsを超える利上げの効果がラグを伴って出てくる可能性があるんではないかということは、常に気にされているポイントだと思います。ただ、確実に1年半経ったら出てくるとかそういうものでもないですし、ある程度の部分は既にかなり出ていても不思議はないというような種類のものでもあると思うんで、もちろんちょっと前まで住宅投資が弱かったとか、そういういろんなところに出てはいますが、それにしてはアメリカ経済、足元やや堅調だなというのは、皆さんある種の謎として頭にある点だと思います。ですので、データ等からみますと、ソフトランディング期待は少し高まっているけれども、過去の引き締め等の影響がこれから出てくるというリスク、特に、例えば金融面で3月に起こったような動きがまた別のかたちで出てくるというようなリスクも含めまして、注意深くみていくしかないという状況にあるのかなというふうに私は思っていますけれども。
(問)
物価の見通しについてですね、一点伺いたいんですけども、総裁かねがね持続的・安定的な2%の実現にはまだまだ距離あるとおっしゃってましたけども、今回の展望レポートで23年度は、見通しは大幅に上方修正したことになりましたが、この4月の展望レポートの時点から、この7月にかけて実現に向けた距離感ですね、距離が縮まったのか、まだまだ距離が変わっていないのか、その辺のご認識をお願いします。
(答)
23年度が大幅に上方修正されたという点は、距離が遠くなったか、近くなったかということで言えば、少し前進したということは間違いないと思います。ただそれでも24年[度]、25年[度]含めまして、あるいは除く生鮮・エネルギーの姿、更にはもう少しきめ細かいインフレ率の経路に関する見通し、そしてその後半に関する私どもの自信の程度等、全体をみますとまだまだ距離感があるというふうには判断してございます。
(問)
今回その1%まで許容するということですけれども、市場の一部にはこの1%まで許容するというのはこれはコントロールなのかっていう見方もあります。その点についてと、あとこの1%というのを更に上にする可能性はあるのかどうかというのをまず一点。
あと、総裁の中で、今日のような動きをみるとですね、マーケットの中では正常化とか引き締めとか、いつだとかそういったことがですね、いろんな見方が出てくると思うんですが、正常化と、あとマイナス金利を引き上げるような引き締め的な動きと違うのか同じなのか、総裁の見方を教えてください。
(答)
その一番最初の、コントロールなのかどうなのかというのはどういう意味でしょうか。
(問)
要するに幅が広過ぎてです。幅が広過ぎてですね、コントロールと言えるのかというところですね。その見方があります。
(答)
それについては先ほど来申し上げていますように、依然として幅はゼロ±0.5[%]という中で、将来の動きに合わせて、将来の物価・経済情勢に合わせて、金利が0.5[%]を超えていくという可能性も視野に入れようという話でございます。そのうえで1[%]に迫ってきたときに、更に上に調整する可能性があるのかという点は、先ほどお答えしましたように、それはそのときの物価・経済情勢次第でどうするかということを改めて考える、というふうにお答えするしかないのかなというふうに思います。
これは政策の正常化へ歩み出すという動きではなくて、YCCの持続性を高めるという動きであるということは繰り返し申し上げてきた点です。それとマイナス金利についてはどうかというご質問もあったと思いますけれども、大前提として、これも繰り返し申し上げていますように、基調的なインフレ率がまだ2[%]には達していないというところですので、短期の政策金利を引き上げていくというところには、まだだいぶ距離があるというふうに思ってございます。
(問)
今回2023年度の物価見通しを変えられて、22年度が3%強で、今年度も2.5[%]と、2年間はもう2%を超えている状況ですけれども、先々が下がる可能性があると言っている限り、安定的・持続的という言葉は、ずっとそう言ってる限りは、いくら足元が2%超えてもずっとこの緩和の政策を続けられてしまうということにもならないでしょうか。
(答)
切りがないというご質問ですね。
(問)
そうです。
(答)
そこは、結局切りがなくなっちゃうっていうリスクはゼロではないとは思いますけれども、先ほど来申し上げてますように、24年度1.9[%]、25年度1.6[%]という数字が上方修正されるか、あるいはあまり大きな姿に変化がなくても、先ほど来申し上げてますように、それに対するわれわれの自信といいますか、確度が上がったような場合には、政策の修正にいけるかなというふうには思ってございます。
(問)
学者時代のですね、植田総裁は昨年、新聞への論考で、イールドカーブ・コントロールについて微調整には向かない仕組みだというふうにおっしゃってます。今回の修正というのは明らかに微修正だと思いますけれども、これは学者時代の植田さんがおっしゃってたことと、ちょっと矛盾するのではないかと、日銀の論理に取り込まれたんじゃないかっていうことは一つお伺いしたい。
まだ質問が出てないんで、是非もう一問伺わせて頂きたいんですけれども、15か月連続で消費者物価指数がですね、上昇率が2%目標を上回ってるというのは、明らかにこれ日銀の見通しが外れてきたと思うんですけれども。
今、一般物価だけではなくて、分譲マンションのですね、東京23区内の平均価格が今年上半期に1億3000万、前年同期から比べて6割上昇してます。明らかにその資産価格の上昇、バブルのような動きが、1980年代の後半のバブル経済のような動きまで出ているわけですけれども、こうした動きに対して日銀の対応は後手に回ってるんじゃないでしょうか。
(答)
前半ですけれども、確かに例えば、オーストラリアもYCCのようなことをやりまして、いっぺんにやめざるを得なくなってるということもあったりしまして、微調整をするのは容易でない仕組みだというのは、私も昔からそう思ってましたし、今でもそう思ってますし、おっしゃる通りかと思います。そのうえでどういう場合に微調整ができて微調整ができなくなるか、どういう場合にできなくなるかということをもう少し考えてみますと、インフレ見通しが上がって、その後でそれに合わせて微調整しようとすると投機を呼び込んでしまって、その上にまた金利が行ってしまうんじゃないか、YCCを放棄せざるを得なくなるというようなことがオーストラリアのケースでも、あるいは戦後1951年くらいですかね、アメリカのケースでも起こったと思っています。それもありまして、今回は、そういうことが起こる前に少し手前で対応の余地を広げるという手を打たせて頂きました。これが本当にうまくいくかどうかは結果次第ではございますけれども、考え方としてはそういうことでございます。
それから、ご質問は三つぐらいあったような気がしますが、二点目は物価見通しが長期間外れてきたじゃないかということで、これもお答えすると長くなっちゃいますけれども、やはり単純に輸入物価が国内物価に波及する、もちろんそういうふうになってきてそれが更に賃金に波及してきたわけですけれども、そのプロセスプロセスで、文章的な表現では企業の賃金・価格設定行動に変化[の兆し]がみられるということを申し上げているわけですが、もう少し違う表現をしますと、インフレ期待が変わってきたとか、物価・賃金設定のノルムが変わってきたとか、そういうことが少しずつ起こってきて、予想を超える物価上昇に今つながり、それを必ずしも当てられていないということだと思うんですね。これは、欧米に比べてもちょっとやや異質のところがあって、欧米では中長期のインフレ期待は2%ぐらいで大まかに安定してる中で、インフレが起こってるんだと思うんですけども、日本の場合はその中長期のインフレとかノルムとかそういうものが、ゼロ%近辺で凍り付いていたものが、今溶け始めてだんだん上がり始めている。上がりつつある。そういう中で、例えば輸入物価の国内物価への波及も予想以上に大きくなっている。その溶けつつあるというところを、必ずしも事前にうまく予想できなかった可能性はあるにしても、前もって予想に織り込むほどの確証はなかったということで、見通しが外れてきたんだと思います。従ってその点は、今後ももう少しきちんとみていきたいと思います。
最後に不動産価格ですけれども、都心部のマンションの価格についてはものすごい上がってますけれども、そのかなりの部分は個別要因が大きいかなというふうにデータを見て今のところは考えています。ただそれにしても不動産価格が上昇していたり、不動産向け融資がかなり高いところに例えばGDP比できているということは、当然私どもも気がついておりまして、この辺は気をつけて今後みていきたいと思っております。
(問)
YCCの運用の柔軟化に絡めてなんですけれども、今後国債の買入れ額が減少すると見込まれるんですけれども、これは国債買入れ額が減っていくと、今ちょっと高原状態になっているマネタリーベースが基調的に減少するんではないかと。そうすると、今、日銀として掲げているオーバーシュート型コミットメントとの整合性が問題になるのではないかと思うんですけれども、植田総裁はこの点どういうふうにお考えでしょうか。
(答)
本当に国債買入れが今回の柔軟化で減るかどうかは、ちょっとやってみないと分からないと思います。そのうえで、ベースマネーあるいはベースマネーの動き、あるいはそれに関するコミットメントは、トレンドとして上昇しているというところというふうに思っております。短期的にちょっと上昇率がマイナスになったからということで、約束破りであるということではないと思いますし、トレンドとしては続いていくように、オペを続けたいと思います。
(問)
今回の政策修正の根拠として挙げられている長期金利の上限を厳格に抑制することの副作用として、声明文によると債券市場の機能ということと、その他の金融市場におけるボラティリティへの影響ってのが挙がってて、この文脈から判断するその他の金融市場って為替市場というふうに読めるんですけども、私の理解では従来、日銀はYCCの副作用について言及する際に、円安と為替市場への言及は注意深く避けていたようにみえたんですが、何かその辺に判断の変更があったのか、あるいはこれは為替市場を指していないとすれば、一体どの市場、今さっき言及あった不動産市場とかそういうところを指してるのか、その辺りについてちょっとご説明を頂きたいんですが。
(答)
日本銀行として、当然のことですが為替をターゲットとしていないということは変わりはありません。ただ、この副作用の話の中で、金融市場のボラティリティをなるべく抑えるというところの中に、今回は為替市場のボラティリティも含めて考えてございます。
- (注)会見では「24年[度]、25年[度]」と発言しましたが、正しくは「24年[度]」です。本文に戻る
以上