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総裁記者会見 2023年9月22日(金)午後3時30分から約65分

2023年9月25日
日本銀行

(問)
本日の政策決定会合の内容についてご説明お願い致します。

(答)
今日の決定会合ですが、長短金利操作、いわゆるイールドカーブ・コントロールのもとでの金融市場調節方針、それからその運用、更に資産買入れ方針について、いずれも現状維持とすることを全員一致で決定致しました。経済・物価動向についてご説明しますが、わが国の景気の現状については、緩やかに回復していると判断しました。先行きですが、当面は海外経済の回復ペース鈍化による下押し圧力を受けるものの、ペントアップ需要の顕在化などに支えられて、緩やかな回復を続けるとみています。その後は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まるもとで、潜在成長率を上回る成長を続けると考えられます。

物価ですが、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、政府の経済対策によるエネルギー価格の押し下げ効果などによって、ひと頃に比べればプラス幅を縮小していますが、既往の輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響から、足元は3%程度となっています。先行きは、そうした価格転嫁の影響が減衰していくもとで、プラス幅を縮小した後、マクロ的な需給ギャップが改善し、企業の賃金・価格設定行動などの変化を伴うかたちで中長期的な予想物価上昇率や賃金上昇率も高まっていくもとで、再びプラス幅を緩やかに拡大していくとみています。

リスク要因ですが、海外の経済・物価動向、資源価格の動向、企業の賃金・価格設定行動など、不確実性はきわめて高いと考えています。そのもとで、金融・為替市場の動向や、そのわが国経済・物価への影響を十分注視する必要があります。

最後に、先行きの金融政策運営の基本方針です。わが国の物価情勢をみますと、企業の賃金・価格設定行動の一部に従来よりも積極的な動きがみられ始めていますが、物価安定の目標の持続的・安定的な実現を見通せる状況には至っていません。日本銀行としては、内外の経済や金融市場を巡る不確実性がきわめて高い中、経済・物価・金融情勢に応じて機動的に対応しつつ、粘り強く金融緩和を継続していくことで、賃金の上昇を伴うかたちで、2%の物価安定の目標を持続的・安定的に実現することを目指していく方針です。具体的には、物価安定の目標の実現を目指して、これを安定的に持続するために必要な時点まで、長短金利操作付き量的・質的緩和を継続します。マネタリーベースについては、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続します。引き続き企業等の資金繰りと金融市場の安定維持に努めるとともに、必要があれば躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じます。

(問)
幹事社からの質問は二問です。まず、読売新聞がですね、先日総裁が、マイナス金利の解除に絡めてですね、インタビューで来春の賃上げが十分だと思える情報やデータが年末までに揃うことも可能性としてはゼロではないと答えたと報じ、市場では早期の利上げ観測が強まっています。市場の受け止めは総裁の意図された通りでしょうか。何か従来と姿勢が変わられたのか、総裁の考えをお聞かせください。

もう一問は物価についてです。本日発表された8月の消費者物価指数は前年同月比+3.1%で、日銀が目標とする2%を1年半近く上回っています。前回の会合時より円安が進みですね、様々な物価に影響を与える原油価格も上がっています。物価が想定より上振れるリスクについてどうみていらっしゃるのか、またかねてから総裁ですね、物価の見通しが大きく変わるということであれば、それは政策の変更につながってくるとおっしゃっていますが、政策対応が必要になる可能性もあると考えているのか、お聞かせ頂けますでしょうか。

(答)
最初のご質問ですけれども、インタビュー後、読売新聞のですね、を含めて金融市場での短期的な資産価格の動き、あるいは市場参加者の見方について、個々具体的にコメントすることは差し控えたいと思います。そのインタビューでは、現状、物価安定目標の持続的・安定的な実現が見通せる状況に至っておらず、従って粘り強く金融緩和を継続する必要があるというふうに申し上げました。そのうえで、先行き実現が見通せる状況に至れば、政策の修正を当然検討することになりますが、現時点では、経済・物価を巡る不確実性はきわめて高く、政策修正の時期や具体的な対応について到底決め打ちはできないというふうに指摘致しました。賃金上昇率あるいはインフレ率が目標に沿ったものとなる見通しになるかどうかということですけれども、これは以前からそうですけれども、当たり前のことですが、毎回の金融政策決定会合で、前回に比べて出てきた新しいデータとかその他の情報を丁寧に分析して決めていくものでございます。こうした政策運営の基本的な考え方については、従来から変化はございません。

それから二番目のご質問ですけれども、7月の展望レポートでは、2023年度と24年度の物価見通しについて、上振れリスクの方がやや大きいというふうに判断致しました。先行きの物価を巡っては、先ほどもちょっと申し上げましたが、為替相場、資源価格の動向だけでなく、内外の経済動向や企業の賃金・価格設定行動に関する不確実性もきわめて高いと認識しています。こうした点、次回の10月の展望レポートに向けて、ご指摘頂いた要因も含めて、更に政府のガソリン価格抑制策の延長の影響も考慮に入れて、様々なデータや情報を丹念に精査してまいりたいと思っております。そのうえで、日本銀行としては、情勢に応じて機動的に対応しつつ、粘り強く金融緩和を継続していくことで、物価目標の持続的・安定的な実現を目指していく方針でございます。

(問)
今の質問に関連して一点お願いします。見通せる時期というのを決め打ちすることはできないというお話がありましたが、足元、物価高がこうして続く中で、春闘における企業の賃上げ姿勢って重要だと思うんですけれども、それも踏まえても、年内にそういうことが見通せるというか判断できるっていう局面はあるかどうか、その一点お願いします。

(答)
それは今申し上げたことですけれども、来年度の春闘ですよね。通常で考えますと、来年の今ぐらいになれば大体の情報は揃ってると思うんですけれども、その手前でどうかということについてですけれども、ご承知のように1月から3月にかけて、大企業の結果が少しずつ出てきて、その他の企業についてはやや遅れるというタイムラインの中で、それぞれにどういう要因が影響するかということもある程度分かっている。そのそれぞれの影響する要因について、どういう動きが起こっているかということをみつつ進むわけですけれども、それは繰り返しになりますが、毎回の決定会合で判断するということで、前もってどの時点になれば非常にはっきり分かるかということは、決め打ちできないというふうに考えてございます。

(問)
総裁はかねて金融政策運営につきまして、物価目標との関連で、引き締めが遅れるリスクよりも拙速に引き締める、こちらのリスクの方が大きいとの趣旨の見解を示しておられますけれども、現在でも同様の認識を持っておられるのか確認させてください。そのうえでですね、物価上昇圧力が根強い中で引き締めが遅れるリスクを従来よりも重視する必要性、つまりリスクのバランスがですね、変化してる可能性についてはどのようにお考えかお願い致します。

もう一点なんですが、前回の会見で市場のボラティリティの抑制に為替市場を含むとの認識を示されましたけれども、7月の柔軟化措置、これが為替市場のボラティリティ抑制に効果を発揮してるのかどうか、総裁のお考えをお願いします。

(答)
政策運営に関するリスクマネジメント・アプローチですけれども、これについては、物価目標を下側に外してしまうリスクと上側に外してしまうリスクを比較して、これまで下側に外してしまうリスクの重さを重視して行動してきたということをご説明してまいりました。繰り返しですが、その根底には、長い間のデフレやゼロ近傍のインフレの時期、その一つの原因となった金利をゼロ以下には十分下げられないという制約ということがございます。こういう認識は今のところ変わってございません。それを含めてどういうリスクマネジメントをとるかという点ですね。もしもその点についてバランスが変わるということがございましたら、またそれはきちんとご説明していきたいと思っています。

それから、為替のボラティリティに関する7月会合での措置ないしそれに関する発表ということですけれども、その時も申し上げたかと思いますけれども、7月会合での措置は、将来、7月会合時点でみて、物価見通しが上振れする、あるいはインフレ期待が大幅に上振れするということになってそれがYCCの修正という予想につながる、それが更に場合によっては、不要な金利や為替レートのボラティリティの上昇につながるということを、できれば前もって抑制したいというための措置でございます。従いまして、そういう大幅なインフレ期待、物価見通しの上昇が7月から現在までの間に生じているというわけでは必ずしもないということだと思いますので、その効果がどれくらい表れてるか表れてないかという点をみるには、まだちょっと時期尚早かなとは思っております。

(問)
7月の政策の見直し以降、銀行が設定する住宅ローンの固定金利が上昇傾向にありまして、街で取材してみてもこれから固定も変動もどんどん上がっていくんじゃないかというふうに気にしてる人も増えてきているように感じておりまして、この住宅ローンの金利の上昇傾向の現状ですね、日銀としてどのようにとらえていて、この上昇ペースが続いていくのかどうかという点を、総裁のご見解頂ければと思います。

(答)
長期金利が若干上昇していますので、固定金利の住宅ローン金利が上昇するということは当然起こっている現象かと思います。ただ上昇幅も限定的ですし、また、固定金利で借りていらっしゃる方の比率もそれほど高くないという現状ですので、マクロ的な影響は限定的と考えています。今後こうした住宅ローン金利が上昇を続けていくのかどうかということは、当然今後の金融・経済・物価情勢およびそれを受けた私どもの政策の動きに大きく影響されるわけで、それについて今のところは最初に申し上げましたように、目標に達するという見通しが立っていないという中、現状維持ということですので、大きくこっちの方に動くということは、今の時点で申し上げられる状況ではないというふうに思っております。

(問)
先日、植田総裁は基調的なインフレ率は2%を若干下回るということで総合判断されてると思うんですけども、日本ではなかなかザ・予想インフレ率というものがない中で、日銀が公表している基調的な数字ですね、先日ですと、最頻値と刈込み[平均値]と加重中央値で、前の日銀の分析だと[加重]中央値と最頻値は需給ギャップとの関係が薄いので、そこの数字が上がっていくにはノルムが変わらないと難しいということを言ってたんですけれども、足元の[加重]中央値が1.6%ということは、2%を推測するうえで、その数字が最低でもやっぱり2%にいかないと、なかなか安定的・持続的な2%達成が難しいというふうに考えてよろしいのか、その点をお願いします。

(答)
おっしゃってたのは、Weighted Medianのことですかね。確かにそこはまだ2%に達していないんですけれども、これは繰り返し申し上げてますように、やや紋切型で恐縮ですけれども、単一の指標で基調的な物価上昇率が判断できるというわけではないですし、現在、これがクリアされればそこのところが条件が満たされることになるというようなきわめて適切な指標があるかと言われますと、そうでもないということで、そこは曖昧で申し訳ないんですが、以前より申し上げてますように物価変動の背後にある需給ギャップ、予想物価上昇率、賃金上昇率、これらを総合的にみて判断していくということになるかなと思います。これも以前の記者会見で申し上げたと思いますが、そういうことを考慮に入れたうえで、われわれなりの物価の見通し、基調的部分に関する見通しのかなりの部分は、展望レポートで出している将来の物価見通しに反映されてくると思いますが、それも同じ数字であってもその背後にある姿次第で、どれくらい自信を持てるものかということは、変わってくるものかなというふうに考えてございます。

(問)
物価目標実現に向けた認識をお伺いしたいと思います。先ほどインフレ率、賃金上昇率は毎回の決定会合で丁寧に分析するものだというお話があったと思うんですけれども、本日発表の8月の消費者物価も上昇率3%を超えている状況でですね、今回の決定会合でどのような総裁自身がですね、物価の実現に向けた認識をお持ちになったかというのをお聞かせ頂ければと思います。併せて8月以降、各政策委員の方が、各地の講演でですね、ご自身の物価目標の達成に向けたその現状の認識っていうのをお話されているんですけれども、今日の決定会合の中で、そこの辺り、どのような議論があったかというのをお話し頂ける範囲でも結構ですので、教えて頂ければと思います。

(答)
詳しくは、[再]来週以降出ます主な意見や、議事要旨をご覧頂きたいと思います。大まかな点としましては、足元1、2か月の物価動向をみた場合に、7月の展望レポートで出した、あるいはそこでみていた姿と比べてということですが、どんどんインフレ率が上振れしているということではないですけれども、当時の見通しに比べて、当面は下がっていくという見通しを持っていたわけですけれども、その下がり方が少しゆっくり目かなという雰囲気はあるかと思います。ただそれが定量的にどれくらいのものかということについては、10月の展望レポートに向けて精査してまいりたいというふうに思っています。

(問)
今回は直前にFOMCが行われました。そこでアメリカの利下げ局面というのは暫く来ないだろうという認識が広がっていますけれども、それが今回の日銀の決定会合の中で、どのように議論されたでしょうか。日米金利差というのが円安の背景でもあることを踏まえて、どのような議論がなされたのかというのを教えて頂ければと思います。

あともう一点なんですが、実質賃金についてです。これは7月の毎月勤労統計で、前年同月比-2.5%ということでマイナス幅が広がっていますよね。物価高になかなか賃金上昇、賃金の伸びが追い付かないという状況が続いている中で、足元では円安それからエネルギー価格の上昇というのがまた一段と進んでいるわけですが、この影響も今後出てくることを考えますと、総裁が考えていらっしゃる賃金上昇を伴う持続的な物価上昇というのと現状というのは、どのぐらいかけ離れているものなんでしょうか。

(答)
アメリカ経済ですけれども、例えば前回会合に比べて、追加的に得られた情報という意味で申し上げれば、少しソフトランディング期待が高まったかな、その中でFOMCあるいはその後のパウエル議長の記者会見にもありましたように、どんどん金利を上げていくということではないですけれども、この高くなった金利を高いまま維持していくという姿勢がみられているのかなということだと思います。ただそういうふうにアメリカ経済が若干強めなんですけれども、一方でその他の国をみますと、中国あるいはヨーロッパのように少し弱めのところもありまして、全体としてこれらが将来に向けてのリスク要因ではあるものの、今回の決定に対して、強い影響を及ぼしたということではないかなと思ってございます。

それから、おっしゃいますように、実質賃金がなかなか上昇率でいってマイナスのままでプラスに転じないということは、私どもも非常に心配してみています。実質所得が低下するという中で、家計に大きなインフレが大きな負担となっているということだと思います。この一つの背景として、先ほども申し上げましたが、ヘッドラインあるいは除く生鮮のインフレ率は低下し始めてるとは思いますが、低下のスピードが思ったよりは少し緩やかであるということが、一つあるかなとは思っております。賃金は上昇しているわけですけれども、ただ今後、私どもの見通しではインフレ率がもう少しはっきりと低下していくというふうにみております。ここから先は、先ほど来議論に出ています来年に向けての次のラウンドの名目の賃金の上昇率がどうなるかということ次第でもありますが、賃金・雇用を掛け算した雇用者所得[の伸び率]が上がっていくという局面に至っていくというふうに考えてございます。

(問)
読売新聞さんのインタビューのご発言に戻って恐縮なんですけども、インタビューでは、総裁、賃金上昇に伴う持続的な物価上昇に確信が持てた段階になれば、いろいろなオプションがあるとおっしゃったということですけども、政策修正の手順についてですけども、オプションがあるということですので、まずYCCの撤廃があるのか、またYCCの撤廃とマイナス金利の解除ってのは同時に行われるのか、それともマイナス金利が解除された後もYCCというのは存続していくのかどうか、その点について伺えないでしょうか。またオーバーシュート型コミットメントについても、どういう位置付けにしていくのかっていうのを教えてください。

あともう一つ、マイナス金利の解除の条件っていうのはどういうふうに総裁は考えていらっしゃるんでしょうか。物価上昇を止めるために需要を抑えなきゃいけないと、そういった場合に必要になるとお考えでしょうか。

(答)
まず前提と致しまして、最初に申し上げましたように、まだ賃金上昇を伴う2%のインフレ、持続的・安定的なインフレが見通せる状況にはなっていないので、現行の枠組みのもとで粘り強く金融緩和を続けているということでございます。そのうえで、目標の実現が見通せる状況になった場合ですけれども、そうなりましたら、YCCの撤廃やマイナス金利の修正を検討するということになるかと思います。ただ、その場合にオーバーシュート型のベースマネーに関するコミットメントも含めてどうするかということを考えるということだと思いますが、その様々な手段についてどれをどういう順序で、具体的にどういうふうに変更していくのかということに関しては、様々なオプションがありますし、そのときの経済・物価情勢次第だと思いますので、具体的にどうするかということを申し上げられる段階では、今ないと考えてございます。

(問)
追加で伺ったマイナス金利の解除の条件みたいなもの、もう少し具体的に。

(答)
それについても同じでございます。物価目標の実現が見通せる状況になった場合には、マイナス金利の解除も視野に入るということでございますけれども、それがどういう変数とどういうふうにひも付いて、短期金利がどれくらい動かないといけないのかということについては、まだ決め打ちできる段階ではないというふうに考えてございます。

(問)
マイナス金利のことについての質問なんですけれども、読売新聞のインタビューで年内という言葉が出たということで市場で早期の利上げの可能性っていうのは以前よりも高まったと思うんですが、総裁ご自身のマイナス金利の解除に関しての距離感というのは、物価が上振れしている中でも変化はないんでしょうかというのをお伺いできますでしょうか。

(答)
そのインタビューの関連で。

(問)
はい、そうですね。そういう憶測がちょっと高まったところはあるんですけれども、総裁ご自身の中で特に距離感というものは、以前まだまだ距離があるとおっしゃっていたので、それに関しては変化はないのか。

(答)
正直に申し上げて、そこの距離感がすごい動いたから、ああいうふうに申し上げたということではなくて、金融・経済情勢は、最初に申し上げた点ですけれども、毎回の決定会合で議論して、例えば物価目標が達成される見通しが立ったかどうかということを毎回毎回新しいデータに基づいてチェックしていくものだと思うんですよね。従いまして、前もって年内はそういう可能性は全くないということを、例えば総裁の立場で言ってしまうということは、毎回の決定会合の議論にある種強い縛りをかけてしまうというリスクを伴っているものであると、そういうことは言わない方が望ましいなという趣旨の発言でございました。

(問)
二点あるんですけれども、一点目は、声明文を改めて読みますと、物価安定目標を安定的に持続するために必要な時点までYCCを維持とありまして、YCCとは何かというと、短期金利と長期金利それぞれにターゲットを設置していると。つまり、こちらの短期金利、長期金利の目標水準を修正するというのは、やっぱりこの短期、長期金利ともに、この安定的・持続的な物価目標の達成が見通せるという要件がかかると。つまり10年金利のターゲットだけではなく、マイナス金利の修正についても、やはりどちらも同じ要件を満たさないと、解除、修正はしないという理解でいいのか。市場の一部では、その辺、マイナス金利の解除と10年金利ターゲットの扱いというのは要件が違うと、解除の要件は違うんだという理解があると思うんですけれども、その辺の整理を是非お願いしたいのが一点目です。

二点目は、先ほどアメリカの経済等の話が少し出たんですけれども、Fedはソフトランディングに自信を高めている様子がこの間のFOMCで窺えました。中国経済についてもちょっと弱さはみられるものの、底入れの兆しもあるのではという見方も出ています。海外経済の動向は日本の企業収益や、来年の賃金動向に大きな影響を及ぼすので、その観点からみて、日本経済にとっての海外経済からのリスクというのは少し後退してきているとみられるのか、その辺についての見方をお願いします。

(答)
まず前半ですけれども、おっしゃるように、厳密に申し上げますと、YCCに関する現在のフォワードガイダンスで約束されているのは、YCCという枠組みを目標達成の見通しが立つまで維持するということだと思います。そのもとで、短期金利の水準とか長期金利の水準について、変更があり得るかどうかというようなご質問だったと思いますけれども、長期金利については、7月に実施したような修正あるいは枠組みの柔軟化ですね、ということをYCC全体の枠組みは維持した中で実施したわけでございます。これに対して、短期金利については現状、私どもは、全体の見通しが達成されるまではマイナス金利でいくという認識でいるというふうに考えてございます。

それから、世界経済についてのリスクをもう少し詳しくというご質問だったと思いますけれども、中国については、取りあえず足元の指標は若干の底入れの兆しがあるということだと思いますが、住宅周りに関して打たれてる政策、それぞれ適切な政策だと思いますが、これがどれくらいの効果を今後発揮してくるのかという点に関しては、いろいろな不確実性があると思いますので、そこは注意深く見守りたいと思います。それからアメリカ経済ですけれども、これはソフトランディング期待がやや高まってるというふうに先ほど申し上げましたけれども、先に行って本当にその通りになるのかという点については、様々な不確実性はやはりあるかと思います。例えば、既に随分と利上げをしたわけですけれども、その利上げの景気等に対するマイナスの効果が少し遅れて出てくる、思った以上に出てくるというリスクもございますし。全く逆に、ソフトランディングの期待の中に含まれていますインフレ率の着実な下落というのが、あるところで止まってしまって2%まで下がっていかない、従ってもう一段の利上げにFedが走らないといけない、そこから来る様々なリスクっていう辺りも、可能性がどれくらいあるかは微妙ですけれども、一応念頭に置いておかないといけないかなというふうに思っております。

(問)
二点伺います。一点目はですね、イールドカーブの運用に関連してなんですけれども、今回の会合では全員一致で運用方針を据え置きました。運用を柔軟化した前回は、中村委員が企業の稼ぐ力が高まったことを確認したうえでと反対票を投じられました。今回の全員一致を踏まえますと、持続的賃上げにつながるというか、ある種重要な要素の企業の収益力向上が政策委員の間でコンセンサスになっているのか。もっと言いますと、2%目標の達成へ前会合から近づいているととらえていいのか、これをまず伺いたいと思います。

もう一点がですね、ちょっとこれは少し先の話になるんですけれども、2%目標を達成した際の選択肢とされているマイナス金利解除についてなんですけれども、その選択肢を取った後に、危機というか、そういう緩和が要する局面が訪れた場合、再びマイナス金利を復活させる考えなのか、それとも早い段階で短期の政策金利をプラス圏に持っていって緩和余地を設ける、もしくは異なる緩和策を検討されるのか、そういう先々の危機時の緩和余地ですとか手段について伺えればと思います。

(答)
まず企業収益ですけれども、この間に出てきましたいろいろな統計等をみて、委員方、概ね企業収益は、ばらつきはあると思いますが、個別企業、好調であるという判断であったかと思います。従って、やや余計なことかもしれませんが、来年の賃金に向けて、これは良い材料であるという議論もなされました。

それから、いったん物価目標が達成された後、短期金利、上げるのか上げないのか、まだ決まっていませんが、その後再度情勢が悪くなったときにどういう政策オプションを短期金利周りで考えてるのか、というご質問だったと思いますが、重要なご質問だとは思っておりますけれども、そこについてまだ特定の戦略を持っているわけではないということしか今の時点では申し上げられないです。

(問)
7月の決定会合で決められたYCCの運用の柔軟化に関してなんですけども、現状では長期金利の方は0.7%台で推移してまして、為替の方は円安の方に進行していると思うんですが、現時点での総裁の評価というのを教えてください。

もう一点なんですけれども、7月の記者会見では政策修正について、先ほども出ましたけども、為替市場のボラティリティを含めて考えたと総裁はおっしゃっていました。今回の決定会合も為替市場を踏まえて政策を維持されたのかどうか、そこをちょっと確認させてください。これまで日銀は為替に対して言及しないという慣習があったと思うんですけども、そこは従来とちょっと変わってきたっていう認識を持っていてもよろしいんでしょうか。この二点、よろしくお願いします。

(答)
金利と為替と両方についてのご質問だったと思いますけれども、これは申し訳ないですけれども、どちらもそれぞれの短期的な動向についてはコメントを差し控えるというスタンスで変わりはありません。それぞれについて若干更に申し上げますと、長期金利の方ですけれども、これは7月に修正しました後のYCCの運用方針のもとでの調節方針と整合的にその後形成されているというふうに考えてございます。

為替の方ですけれども、これもやや紋切型で恐縮ですけれども、ファンダメンタルズに沿って安定的に推移するということが望ましいと考えてございます。ただ、そのうえで先ほど質疑がありましたように、例えば7月の時点で政策変更しなかったとすると、インフレ期待等が上振れた場合にYCC修正の妙な思惑から不必要な金利あるいは為替レートのボラティリティの上昇を招いてしまうリスクがあると考えましたので、7月に政策修正を行ったということでございます。更にそのうえで申し上げますと、為替の動向については、いずれにせよ将来の経済動向あるいは物価動向にいろいろなかたちで影響を及ぼす、従ってわれわれの物価見通しにも影響を及ぼすものであるという観点からは常に注視しているところでございます。この点、為替市場の動向だけでなく経済・物価への影響について、もちろん政府とも緊密な連絡をとりながら注視してまいりたいというふうに常に考えてございます。

(問)
二問お伺いします。一点目のオペレーションについてなんですけれども、7月の金融政策決定会合後の記者会見で、総裁の方から市場の見方が長期金利に反映される余地を広げるとのご説明がありましたが、定例の輪番オペについては買入れ額が7月会合以前の水準を維持する状況が続いています。大規模な国債の買入れが債券市場、その他金融市場に与える影響を、総裁ご自身どのようにみているのか、また足元円安も進んでいますが、市場でもちょっと期待が高まっていますが、今後の買入れ減額の可能性についてどのように考えてらっしゃるのかお聞かせください。

二点目がちょっと離れますが、総裁が4月に就任されてからまもなく半年になります。7月にはYCCの運用の柔軟化に踏み込みましたが、ここまでの任期を振り返られて、ご自身が就任前に思い描いていた金融政策がどの程度実現されたというふうにお考えでしょうか。二点お願い致します。

(答)
一点目は依然として大量の輪番オペが続いているけれども、これについてどう思うかというご質問だったと思いますが、事実としておっしゃる通りかと思います。ただ今後の姿については、長期的な視点から検討していきたいと申し上げるにとどめたいと思います。

後半の、ここ半年間を振り返ってどうだったかというご質問ですけれども、経済・物価情勢の動きは、もちろん半年前にある程度予想していたものとはやや違った動きをしているかと思いますが、それをとらえたうえで、ある程度適切に金融政策対応をできてきたかなというふうに考えてございます。

(問)
家計についてちょっとお伺いします。7月の家計調査では、物価変動を除いた実質の消費支出が5か月連続でマイナスになってるかと思いますが、これについて総裁どのように考えてらっしゃるのかということを一点。

あと日銀はインフレ率ははっきり今後低下していくというふうに予想されて、以前から輸入物価が下がっているので今後下がっていくというふうにおっしゃっていますが、そうおっしゃってからずっと物価は下がっていないというような感覚があるんですけれども、なぜインフレ率は下がらないのかという点について、総裁のご見解を教えてください。

(答)
消費の方ですけれども、まず7月については、様々な私どもが把握しています消費関連のデータを総合しますと、緩やかな増加ないし回復の基調にあるということだと思いますし、8月以降についても、ヒアリング等からの情報を現時点でまとめてみますと、そういう動きは総体としては続いているということだと思います。家計調査との整合性については、もう少し検討してみたいと思います。

それからインフレ率の下がるピッチが遅いというのは、私も申し上げましたが、おっしゃる通りかと思います。現象面としましては、輸入物価が国内物価に転嫁される動きがある経済主体、企業については大体終了したんだけれども、次の瞬間になってみるとまた違う企業群が、輸入物価をここまで転嫁してなかったのを転嫁するという動きがやや続いているかなというふうに思ってございます。全体としてある種のインフレ期待の上昇とかノルムの変化、つまり、企業にとっては自分の価格を動かすことが難しい世界から、他の企業も動かしている中で自分も動かすことができるという世界に少しずつ変わりつつある中で、少し遅れて価格の転嫁を自分もしてみようという企業が次々と出てきているという状況かなと思いますが、一応それも毎回の点検で、毎回同じことを申し上げているようで恐縮ですが、そろそろピークに近いのかなとは思ってございます。

(問)
繰り返しになって本当に恐縮なんですけれども、やはり不確実性が高いということでマイナス金利の解除を見通せる状況にはないと度々おっしゃられているんですが、長らくこうした会見を通じてみますと、マイナス金利解除に向けた鍵というのはですね、やはりこれは非常に簡潔に言っていいかは難しいところあるんですが、やはりここは継続的、持続的な賃金の上昇、この一点が一番大きなウエイトと考えていいでしょうか。

(答)
それは端的にお答えすれば、物価上昇の継続性を判断するための最重要な要素の一つであるということになるかと思います。

(問)
金融緩和を粘り強く続けてる間に、更に円安が続いて今年最安値を記録して更なる輸入物価を招いて国民生活が苦しくなるということでですね、要は総裁の金融緩和修正のスピードがあまりに遅くて小規模だということを見透かされてるんじゃないかと思うんですが、国民生活のために金融緩和修正のスピードアップをされるお考えはないんでしょうか。

(答)
先ほど来、複数の方からご指摘、ご質問がありました物価の下がり方が遅い中で、人々の実質所得が伸び悩んでるあるいは低下して家計に負担が重くかかっているということは重く認識してございます。ただ、私どもとしましては、これも何回も繰り返し申し上げていますように、中長期的に持続的・安定的に2%のインフレ率が達成される世界を目指して金融緩和を続けているということでございます。そういう世界に到達するということができる場合には、ヘッドラインのインフレについても短期的な上下はいろいろな要因であると思いますが、2%に収束していくというふうに思ってございます。

(問)
総裁、先ほど決定に縛りをかけてしまうようなことは言わない方が望ましいとおっしゃったんですけれども、4月以降コミットメントも整理されて、賃金の上昇を伴うかたちでということを明示されたとなると、日本の歴史的な経緯として、賃金形成にとっては年に一度の春闘が節目となるわけで、なるべく中央銀行として政策決定のフリーハンドを持ちたいということから、この縛りをかけないような、年末までに可能性はゼロではないという発言だったかと思うんですけども、同時に賃金を要因に挙げると縛りが生じてしまうという面があるように思うのですが、その点いかがでしょうか。

(答)
国によって違いますが、日本の場合は労働者のかなりの部分が年1回の賃金改定であるということは事実かと思います。ただそうでない部分の労働者も、かなりの比率でいらっしゃいますので、賃金上昇率自体は連続的に動いていくものだと思います。仮に年1回の賃金改定だと致しましても、最初の方で申し上げましたが、それに影響を与える要因は複数あり、ある程度は知られているわけですから、その賃金改定を動かす変数に関する情報は連続的に入ってくるわけで、全体の判断も連続的に行い得るものだと思います。

(問)
7月の政策修正から金利水準が切り上がっているわけですけれども、インフレ期待が上がってですね、実質金利という若干とらえどころが難しいところではあるとは思うんですが、名目金利は実際には上がっているわけで、これ自体に対する経済主体というか、個人や企業の耐性っていうのは、ある程度経済・物価情勢が良くなっていく中で増しているというふうに総裁はお考えになりますでしょうか。

(答)
金利上昇に対する経済主体の耐性に関するチェックはどうだというご質問だと思いますが、そこは今後、仮に本格的に金利を上げていくあるいは金利が上がっていくという局面になった場合、あるいはそれが展望されるような局面では非常にしっかりと点検したうえで、金利を上げていかないといけないというふうには思ってございますが、現状は7月との比較ということで言えば、わずかの長期金利上昇ですし、それも若干のまだはっきりとは確認できたと言える段階ではありませんが、インフレ率、インフレ期待の上昇の中での動きですので、それほど心配する動きではないかなっていうふうには思ってございます。

(問)
先ほどから物価と政策の関係について縷々ご説明頂いてるわけですが、やっぱり足元で消費者物価が3%を超えているのに相変わらず物価を上げるための政策を続けているというのは国民にとってみると非常に分かりにくい政策だと思うんですね。これすぐにまた物価が下がってくるという説明は日銀ずっと続けているわけですが、これは前回会見でも伺いましたが、前回から更に2か月足して17か月連続で2%インフレを超えている状況が続いてるわけです。つまり日銀は物価見通しを外して誤った政策を相変わらず続けているんではないかという仮説が一つと、あるいは展望レポートで来年度1.9%の見通し、再来年度は1.6%の見通しで、これ四捨五入するとほぼ2%なわけですよね。そうすると見通しはむしろ2%インフレ目標を達しているという見通しを立てているのに、相変わらず日銀は理想とする世界を実現するための社会実験を続けるために足元で物価の番人としての役割をないがしろにしてるんじゃないかという、そういう見方もできるわけですが、その辺はいかがでしょうか。

(答)
ご指摘の点は非常に重要なポイントだと思いますが、既に複数のご質問に対する答えの中にも含まれていたかと思いますが、終わりの方からお答えしますと、やはり私どもの問題意識としましては、長い間、インフレ目標2%、あるいはより柔らかに言ってプラスで安定的なインフレ率というのを達成できてこなかったという経験に対する反省が強くあるというふうに思います。足元、輸入物価の上昇に引っ張られまして、いったんやや高めのインフレ率になっているわけですが、それの助けも借りて長年達成できなかった2%のインフレ率を持続的・安定的に是非達成したいなということで金融緩和を今のところは持続していますし、われわれのインフレ見通し(注)が四捨五入すれば、2%ではないかというのもある意味ではおっしゃる通りかとは思いますけれども、もう一つ、これで大丈夫というふうに必ずしも思えない最大の理由としましては、2%達成が持続的・安定的に回っていくためには、やはりある程度強い総需要に支えられたもとで、賃金と物価が好循環を続けるという姿が確認できることが必要だなというふうに思ってございます。そこの確認にちょっと時間をとっているということでございます。そのうえで全体をみてみますと、基調的なインフレ率はそういう意味ではまだちょっと2%に物足りない、それを上げていかないといけない。しかし、全体のヘッドラインのインフレ率は2%を大幅に超えている、これは下がっていくことが望ましい、この二つを達成していかないと、日本銀行としては評価されないということは十分承知しておるつもりでございます。

(問)
先ほど総裁は、YCC撤廃、マイナス金利解除、オーバーシュート型コミットメント撤廃、この三つのエグジットポリシーの順番は様々なパターンがあり得ると。従って、どれが最初になり得ることもあるし、どれが最後になり得ることもあるというご趣旨と受け止めましたが、従来の一般の市場の理解ではYCC撤廃やマイナス金利解除は物価の見通しにひも付けられて、いわばフォワード・ルッキングな解除条件に対して、オーバーシュート型コミットメントは物価の実績値にひも付けられたバックワード・ルッキングな解除条件なので、オーバーシュート型コミットメントの解除の条件が一番厳しく、一番最後になるという見方が多かったと思うんですが、必ずしもそういう見方は正しくなくて、その三つの解除条件は状況次第というか、事前に明確に厳しいもの甘いものがあるわけではないと、そういうふうに理解しておけばよろしいんでしょうか。

(答)
おっしゃるように、YCCとマイナス金利については、見通しベースのコミットメントであるのに対して、ベースマネーのところはバックワードなコミットメントであるということだと思います。そのうえで、これは考え方ですが、先ほど来議論ありますように、全体のインフレ率は2[%]を超えるという期間がそこそこ長引いていますので、これをどう織り込むかということがあるかと思います。更に、もう2[%]をだいぶの期間を越えたので、ベースマネー・ターゲティングだけ先に外すというオプションはロジカルには考えられるかもしれませんけれども、それが持つアナウンスメント効果とか、全体をパッケージとして考えてきたというようなことの中で慎重に考え、まず物価目標達成の見通しが持てるようになるかどうかというところを先に考えたいという趣旨で発言致しました。

(問)
物価の見立てについて一問お伺いします。一部のエコノミストなどではサービス価格で特に帰属家賃を除いた数値の上昇率が相応に高いことなどを主な理由として、輸入物価上昇の転嫁にとどまらない内生的な物価上昇のメカニズムが働き始めているんじゃないかと指摘する声もあるんですけれども、それについて総裁の見解をお願いします。あともしそういう内生的なインフレ圧力が高まっているとすれば、それは好循環を目指すうえで、チャンスになる要因なのか、あるいは上振れリスクとみた方が良いのか、その見解も併せてお願いします。

(答)
サービス価格のところは非常に注目してみております。おっしゃるように持続的・安定的なインフレが達成される、2%達成されるというケースでは、サービス価格もそれ相応の上昇率で、全てのサービス価格とは限らないですけれども、ある程度以上のサービス価格が上昇を続けないとそういう状態にはならないということで、ここは以前も申し上げましたが、大変注目して毎回点検しております。

  • (注)会見では「目標」と発言しましたが、正しくは「見通し」です。本文に戻る

以上