総裁記者会見 2023年12月19日(火)午後3時30分から約60分
2023年12月20日
日本銀行
(問)
本日の金融政策決定会合の内容につきましてご説明をお願い致します。
(答)
今日の決定内容およびその背景となる経済・物価情勢についてご説明します。本日ですが、長短金利操作、いわゆるイールドカーブ・コントロールのもとでの金融市場調節方針およびその運用、更には資産買入れ方針についても現状維持ということを全員一致で決定致しました。
経済・物価動向についてご説明します。わが国の景気の現状ですけれども、緩やかに回復していると判断しました。先行きについては、当面は、海外経済の回復ペース鈍化による下押し圧力を受けるものの、ペントアップ需要の顕在化などに支えられて、緩やかな回復を続けるとみています。その後は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まるもとで、潜在成長率を上回る成長を続けると考えられます。物価ですが、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、政府の経済対策によるエネルギー価格の押し下げ効果などによって、ひと頃に比べればプラス幅を縮小していますが、既往の輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響から、足元は3%程度となっています。先行きは、来年度にかけて、既往の輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響が残ることなどから、2%を上回る水準で推移するとみられます。その後は、これらの影響の剥落から、前年比のプラス幅は縮小すると予想されます。この間、消費者物価の基調的な上昇率は、マクロ的な需給ギャップがプラスに転じ、中長期的な予想物価上昇率や賃金上昇率も高まるもとで、物価安定の目標に向けて徐々に高まっていくと考えています。
リスク要因ですが、海外の経済・物価動向、資源価格の動向、企業の賃金・価格設定行動など、わが国経済・物価を巡る不確実性はきわめて高いと考えています。そのもとで、金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響を、十分注視する必要があります。
最後に、先行きの金融政策運営の基本方針についてです。日本銀行は、内外の経済や金融市場を巡る不確実性がきわめて高い中、経済・物価・金融情勢に応じて機動的に対応しつつ、粘り強く金融緩和を継続していくことで、賃金の上昇を伴うかたちで、2%の物価安定目標を持続的・安定的に実現することを目指していく方針です。具体的には、物価安定の目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、長短金利操作付き量的・質的金融緩和を継続します。マネタリーベースについては、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続します。引き続き企業等の資金繰りと金融市場の安定維持に努めるとともに、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じます。
(問)
幹事社からの質問は二問です。賃金上昇を伴った2%の物価上昇の持続的・安定的な達成、賃金と物価の好循環への距離感について、総裁のお考えをお教えください。達成に向けた確度は高まっていますでしょうか。
(答)
最近発表されました12月短観等、各種統計から賃金を巡る環境をみますと、労働需給が一段と引き締まる方向にあることや、企業収益の改善が継続していることが確認されます。また、来年の春季労使交渉に向けた動きをみると、労働組合からは今年を上回る賃上げを要求する方針が示されているほか、大企業を中心に、一部の経営者から賃上げについて前向きな発言もみられています。また、物価情勢をみますと、既往の輸入物価上昇の価格転嫁の影響が徐々に和らいでいる一方で、サービス価格等は、人件費上昇なども背景に、緩やかに上昇幅を拡大する方向にあります。もっとも、ヒアリング情報によると、先行きの経済情勢に対する不確実性が高いこともありまして、現時点で、来年の賃上げについて、方針を固めきれていない先も多くなっています。また、価格設定面においても、中小企業を中心に、人件費や間接費の上昇の販売価格への転嫁については容易でないとの声も聞かれています。こうした点を踏まえますと、基調的な物価上昇率が、2025年度にかけて物価安定の目標に向けて徐々に高まっていくという見通しが実現する確度は、引き続き、少しずつ高まってきているとは思いますが、先行き、賃金と物価の好循環が強まっていくか、なお見極めていく必要があると判断しています。
(問)
質問の二点目です。金融市場では、日本銀行が来年にもマイナス金利政策の解除やイールドカーブ・コントロールの撤廃観測が高まっていますけれども、安定的な物価上昇の達成見通しを判断するうえで、どのようなデータや情報を重視して政策変更を検討するのか、改めて総裁のお考えをお聞かせください。
(答)
繰り返しになりますが、2%の物価安定目標の持続的・安定的な実現を見通すうえでは、賃金と物価の好循環が強まっていくか確認することが重要と考えています。物価から賃金への波及の面では、例えば、労使交渉を含めた賃金の動向、その前提となる労働需給や企業収益動向などを確認していきます。賃金から物価への波及の面では、企業の価格設定スタンスや様々な物価指数の動向、特にサービス価格の動向等をみていきたいと考えています。いずれの側面についても、データだけでなくヒアリング情報を含め、丹念に点検していくつもりです。
(問)
二点お願いします。先ほどおっしゃったように好循環の見極めという、なお時間が必要というお考えでしたけれども、その確度を上げていくためには、もちろん春闘での賃上げが重要だと思うんですけれども、その確度に関しては、例えば年始には賀詞交歓会などがあって企業が前向きな発言があったりとかすると思うんですけども、それだけではなくて、やはり春闘における企業側の回答っていうのをもってその確度を高める、確認する必要があるかどうか。これが一点目です。
あともう一点なんですけども、今の政治資金パーティーの裏金問題で岸田政権が揺れています。この影響が日本経済ひいては金融政策運営にどのような影響があるとお考えでしょうか。二点お願いします。
(答)
一点目ですけれども、先ほど申し上げましたように、今後の賃金動向とか賃金の物価への波及とか、データだけでなくてヒアリングも重視していくという姿勢でございます。そういうことですので、どの時点のどのデータ、あるいはどういうイベントをもって十分だ十分でないということを、それだけで決定してしまうということではなくて、いつも申し上げていることで恐縮ですけれども、総合判断にならざるを得ないということかなと思います。
二点目の政治資金パーティー問題ですけれども、私の日本銀行総裁としての立場からコメントできることは残念ながらないと言わざるを得ません。ただ、これまで同様、政府と密接な連絡を取りつつ、適切な金融政策を遂行していきたいと思っております。
(問)
二問お尋ねします。先日ですね、国会答弁で総裁は今後の取り組みについて所見を問われ、年末から来年にかけて一段とチャレンジングであると答弁されました。市場の一部はマイナス金利の早期解除の意気込みと受け止めました。この発言に金融政策の早期正常化を示唆する意図はあったのか、確認ですが教えてください。
もう一つはFRBの利下げの影響です。FRBのパウエル議長は先日のFOMC後、将来の利下げ時期を議論したことを明らかにし、市場では米国の利下げは来年前半に始まるのではないかとの見方が強まっています。米国の利下げとマイナス金利の解除の正常化のタイミングが重なれば、急激に円高になる可能性があります。利下げが政策判断に与える影響をどのように考えているか、総裁のご見解をお聞かせください。
(答)
一点目ですけれども、二週間前ですかね、国会でその時のやり取りとしては、今後の仕事の取り組み姿勢一般について問われましたので、二年目にかかるところですので、一段と気を引き締めてというつもりで、先ほど引用して頂いた発言を致しました。金融政策については、同じ委員とのやり取りの中で粘り強く金融緩和を継続するというふうに述べたところです。
それからFRBの金融政策、場合によっては、来年、金利引き下げもあるかもしれないという中で、その日本経済、日本銀行の政策への影響というご質問だったと思いますけれども、そもそもそういう話がアメリカで出てくる背景と致しまして、おそらくアメリカの、ここは若干意見が分かれるかもしれませんが、供給サイドが、経済の供給サイドですね、改善する中でインフレ率が低下を続け、金融引き締めの影響もあるかもしれませんが、その中で所得と支出の好循環も続いていて、ソフトランディング期待が上昇しているというところがあるかと思います。それ自体を取り上げますと、日本にいろいろなプラスの影響もある動きであります。それも含めて総合的な日本への影響を配慮しつつ、私どもの金融政策を実行していくということですが、いずれにせよ金融政策は各国独自の要因をみつつ、独立に遂行するということになっていますので、日本銀行としても適切な金融政策運営に努めたいと思います。
(問)
一点目はですね、先ほどの総裁の冒頭のご説明でも、物価安定目標の確度が少しずつ高まっているという、そういう表現されましたけども、11月の名古屋の講演でもですね、確度が少しずつ高まっているとおっしゃいましたけど、11月から現時点において、その後入ってきたデータとか情報を含めて、距離感がどのぐらい縮まっているのか、その辺の認識を教えてください。もう一つはですね、ちょっとこれ確認なんですけど、本日の声明文で、物価の先行きについて、総裁もご説明されましたけども、消費者物価の基調的な上昇率について、中長期的な予想物価上昇率や賃金上昇率が高まるもとで、物価安定の目標に向けて徐々に高まっていくってところで、10月にはですね、見通し期間終盤にかけてっていう文言が入ってましたけども、この文言が抜けたということなんですけども、これは見通し終盤ってことですから、25年度を待たずにも物価安定目標の基調的な物価上昇率が高まっていくと、そういうふうにみていらっしゃるのか、ご確認をお願いします。
(答)
関連するご質問ですので、両方合わせてお答えしてみたいと思いますけれども、ここのところのデータをみて、物価に関する見方はどう変化したかというご質問だと思いますけれども、私どもは時々使っています表現で、「第一の力」とか「第二の力」っていうのがありますけれども、「第一の力」の方をみますと、様々な指標等から、ようやくピークアウトしつつあるかなという感じがみえるかと思います。例えば食料品等の価格の落ち着きであります。これに対して「第二の力」の方ですけれども、これはサービス価格が緩やかに上昇しているということ等から判断しまして、少しずつ上昇が継続しているというふうにみています。この点、第二のご質問ですけれども、私どもの表現ぶりが、見通し期間終盤にかけて高まっていくというふうに前、書いていたところが抜けているというご指摘ですが、ちょっと気付かなかったんですが、そこについては特に見方を変えたということではなくて、非常に大まかに言えば、これまでの見方に沿って上がってきている、「第二の力」のところですが、というふうに考えています。ただ、物価安定目標を十分な確度を持って見通せる状態にはまだ至っていないという最初に申し上げた判断に、現状ではあります。
(問)
先ほどの基調的な物価上昇率がですね、2%に向けて徐々に上昇する確度が高まっていると、そうおっしゃったわけですけれども、そうであれば、かねがね総裁が指摘しておられる物価目標実現に向けた判断の閾値みたいな部分ですね、そこに向けて差し掛かっているのか、そうした状況がみえてきているのか、総裁がみえている風景みたいなものを教えて頂ければと思います。これが一点目です。二点目なんですけども、先ほどご説明があった賃金から物価への波及についてです。来年の賃上げの上にですね、一段と高いハードルが設定されているようにも思うのですが、来年の賃上げの見極めと、賃金から物価への波及の見極めにはタイムラグがあるのでしょうか。来年の賃上げに確証が持てた段階でも、それが物価に反映されるかは、更に見極めが必要とお考えなのか、総裁のご所見をお願い致します。
(答)
これも関連する二つのご質問だと思いますが、うっかり前回閾値と申し上げたんですけれども、それとの関係で、現在高まった確度がどれくらいかというご質問が最初のご質問の一部だと思いますけれども、感覚的なものでしかないですけれども、確度は少し上がってきているけれども、閾値に達するまでにはもう少しデータや様々な情報をみたいなというところでございます。その際、何をみたいかという点になりますと、先ほど申し上げたことと重なってしまいますけれども、賃金のこれからの動き、あるいはこれまでの賃金の動き、あるいは今後の賃金の動きの価格への波及ということに基本的にはなるかと思います。それぞれについてデータや情報が連続的に入ってくるものですので、どこまでみれば十分だ、どこまでみないと不十分だ、ということはなかなか前もっては言いにくいかなというふうに思います。
(問)
先ほども質問ありましたけれども、アメリカの金融政策との関連性についてお伺いします。金融政策は各国独自のものとおっしゃいますけれども、やはり他の主要中央銀行、特にFRBの金融政策の動向というのはリスク要因にもなりますから、よく見極めていらっしゃると思うんですが、FRBが利下げ局面に入ったら、日銀というのは利上げしにくいものなのでしょうか。やはり急激な円高を引き起こしかねないという部分もあると思います。そうなったときにFRBが利下げに動く前、つまり来年の早い段階である程度政策修正、特にマイナス金利の解除に動くべきなのでしょうか。それかいったんFRBの利下げ局面が落ち着くまで待つ、こういう選択肢もあるのでしょうか。
(答)
多少は先ほどの私の回答と重なりますけれども、もちろんFRBが利下げ局面に仮に入るとしますと、それに入っていくことに至った理由も含めて、いろいろな影響は日本経済にあるかと思います。為替レートの変化もあるかもしれません。更には先ほど申し上げたように、経済自体がインフレ率が低下するというソフトランディング的な動きを示しているからということもあるかと思います。それら全体が日本経済あるいは物価にどういう影響を与えるかということを考慮しつつ、私どもの金融政策も決定していくということでございます。その中で、例えば、3か月後、6か月後にFedが動きそうだから、その前に焦って私どもの政策変更をしておく、そういうような考え方は不適切だと思っておりますので、持っておりません。
(問)
二点お願いしたいんですけれども、最近の消費について今回の声明の判断では増加の基調を維持されているとの判断ですが、実際指標をみると、良くて横ばいなのかなと、あんまり強さを感じられません。ペントアップ需要の減退ということがあるとは思うんですけれども、この内需の力強さ、ここが欠けてしまうと、賃金上昇が本格的に始まる前に消費が落ち込んで、育ってきた芽が枯れてしまう可能性もあると思います。この内需の判断について、先行きを中心に改めてちょっと教えて頂きたいです。
二点目なんですけれども、緩和の修正、つまり金融緩和の度合いを少し落としていくときというのは、政策変更については市場にサプライズがあってはならないという見方があります。総裁もそのようにお考えなのか、そうだとすれば現行のフォワードガイダンスを市場へのメッセージの伝え方としてどう位置付けているのか、こちらもあまり有効なものではないのか、どのような市場とのコミュニケーションがサプライズを起こすため望ましいのか、そこをお願いします。
(答)
一点目の消費ですけれども、おっしゃいますように、食料品・日用品辺りには生活防衛的な弱めの動きもみられています。ただ、様々な指標を点検しますと、全体としてまだ少し残っているペントアップ需要も含めて、緩やかな増加が継続しているというふうに判断しています。今後については、消費が弱いと賃金がという因果関係もあるかもしれませんが、もう一つの因果関係として来春の賃金が強く出てくればそれがその後の消費を支えていくという因果関係もあると思いますし、その辺を見極めていきたいというふうに思っています。
それから、政策修正に関するサプライズについてどう考えるかという二番目のご質問ですが、これはいつもお答えしている通りですけれども、政策変更、政策修正は、毎回の決定会合で議論して決まるものですので、1回の決定会合からその次の決定会合までに新しい情報がたくさん入ってくれば、それはその次の決定会合で政策修正や政策変更があり得るということですし、それは前の会合では必ずしも予想できなかったものということになりがちですので、サプライズは必ずしも避けられないということに一般論としてなるかと思います。ただし、新しい情報をどういうふうに使って政策判断をしていくのかという基本的な考え方については、常日頃からできる範囲で丁寧にご説明する、している、しようと努めているつもりですので、それをお使い頂いて、皆さま方の方で予想して頂くということは、完全にはできないにしても、ある程度できるのかなというふうに思っております。
(問)
質問は二点ありまして、一つが物価認識についてなんですが、先日、総務省が発表した11月の東京都区部の消費者物価指数なんですけども、生鮮食品を除いて2.3%の上昇と、16か月ぶりの低い水準でした。また、日銀発表の11月の企業物価指数は前年同月比で0.3%の上昇で、マイナス圏が目前となっています。ここにきてですね、物価上昇の勢いがかなり鈍ってきているようにも思われます。国民負担の軽減といった面がある反面でですね、賃金と物価の好循環といった面では、循環の回転がストップしてしまうようなリスクもあるのかなと思います。総裁のご見解を伺えますでしょうか。
もう一点はですね、今回は解除されなかったマイナス金利政策についてなんですけれども、過去25年の長期レビューを実施されて効果と副作用を検証されてますが、今、足元で、マイナス金利政策を継続していることによる副作用みたいなもの、今継続していることの副作用というものがあるとお考えなのか、もしあればどういったものか、伺えますでしょうか。
(答)
一番目ですけれども、先ほどもちょっとご説明しましたけれども、今、特に11月の東京CPI等において確認でき始めている動きは、「第一の力」が弱まりつつある、ピークアウトしつつあるということだと思っています。それはもっと前の、輸入物価の国内物価への転嫁の動きがそろそろ終盤に差し掛かりつつあるということだと思います。そういうことが起こるのが私どもの予想よりはちょっと後ずれしてしまったわけですが、ある意味予想通りに起こり始めているというふうに思っています。これに対してわれわれが目指しているのは、「第二の力」の方が着実に上がっていって、2%に到達していくという姿ですので、ここのところは先ほども申し上げましたように、少しずつ、サービス価格の上昇等に反映されますように、継続しているというふうに考えています。
それから、現時点でのマイナス金利政策の評価というご質問だったと思いますが、副作用を現時点で厳密にどれくらいかというふうに抽出してみることは難しいですけれども、やはり金融機関収益とか金融仲介にいくばくかのマイナスの影響を持っているということは否めないかなと思います。ただ、そういう中で金融機関の足元の収益をみますと、非常に好調であるということもあって、決定的にまずい事態を起こしているということでもないかなとは思っております。
(問)
二点あります。昨日、経団連の会長が日銀の金融政策についてできる限り早く正常化すべきとの発言がありました。今の経済界とかマーケット、また物価上昇の影響を受ける国民の間からもですね、少しずつこういう声がですね、正常化というか政策の見直しの声が増えてきているのを感じるんですが、今回の発言の受け止めをまずお願いします。
二点目は、最近、政策委員の間でも出口戦略に関する発言というか、そういう文言がいろいろ出てきてるかなと感じるんですが、この出口戦略の議論というのが、日銀の中でも深まってきているというふうにお考えでしょうか。
(答)
経団連会長のまずお話ですけれども、個別のお話にはコメントは差し控えさせて頂ければと思います。ただ、いろんな皆さんの金融政策に対するコメントは真摯に耳を傾けたいと思っております。ただその中で、正常化してもいいんではないかという声が仮に以前よりも増えてきているとしますと、先ほど来申し上げているような「第二の力」のところが回り始めているという感じを、ある程度の人が持ってらっしゃるということかなとも想像したりもします。
二番目の出口戦略のところですけれども、これは当然のことながら、こういう状態になったらどこをどういうふうに変えていくか、政策のですね、それは常日頃からいろいろ考えてはおります。ただ、先行きの不確実性がまだきわめて高い状況ですし、物価目標の持続的・安定的な達成が必ずしも見通せない状況ですので、出口でどういう対応をしていくかということについて、また確度という言葉を使って恐縮ですが、確度の高いこういう姿になるというものを示すことが現在では困難であるということかなと思います。そこが見通せる状況になれば、適宜発信していきたいと思います。
(問)
来年以降、マイナス金利の解除ということがあった場合、企業ですとか家計の状況というのは大きく変わると思うんですけれども、変わることにおける、金利のつく世界と言われてますけれども、良い面、悪い面などをどう考えてらっしゃるか。
あともう一点なんですけれども、不確実性が引き続き高いと言われている中で、緩和環境というのはマイナス金利解除後も維持されるかどうかというのの、現時点でのお考えについてお伺いできますでしょうか。
(答)
仮に金利が上がった場合ということですけれども、それはいろんな影響があると思います。資金運用、それから資金を借りる人、いろいろ影響が当然あると思いますし、それが方向感としてどういう影響かということはいろんな本にも書かれていますし、皆さん、日本では遠い過去の話になりますが、過去の経験として持ってらっしゃるということだと思いますが、一つ言えることは、金利が上がる場合に金利だけ上がるということではなくて、例えば日本の現状ですと、少し長い期間をとらえてみますと、経済・物価情勢が好転しているという中で中央銀行が利上げの方向に舵を切るということですから、利上げで例えば資金を借りてる人の利払い費が、当然、全員ではないですが、一部増加するということはありますが、他方に、経済・物価情勢が好転してるということのプラスもあるわけで、両方を合わせて考えていくということが重要であるというふうに思っています。ご質問すみません、二番目の質問の後半。
(問)
不確実性が高い中で、もしマイナス金利解除という政策変更が来年以降、もし行われたとしても緩和環境というのは維持されていくべきかどうかというのの、現時点でのお考えをお伺いできますでしょうか。
(答)
それについては先ほどお答えした質問とかなり重なるところがあると思いますが、出口のときに今使っているいろんな政策手段をどういう順序でどういうスピードで修正していくかということについて、現状まだ具体的にこうであるという発信ができる状態にありませんので、確固たることは申し上げられないですけれども、マイナス金利、仮に解除した直後ということだけをみますと、今-0.1%ですが、これが少し上がるということですから、そこだけをみますと実質金利のようなものを考えていますと、インフレ期待はそこそこプラスで大きい値をとっていますので、実質金利はマイナスということで緩和の状態は維持されるということだと思いますが、それはどの程度の期間そうなのかということは当然金利の上昇スピードに依存しますし、現時点でどれくらいであるということは申し上げにくいというふうに取りあえず言わざるを得ません。
(問)
政策変更後において市場機能の復活とか金利機能の復活ということが言われるかと思うんですけども、長期金利をすぐに自由化するわけではないと思うんですけど、政策変更後の市場の不安定とか長期金利の急騰など、日銀として注意すべき点をお伺いしたいのと、FRBのように政策金利の見通しですね、日銀は成長率とCPIの見通しを公表してますけれども、政策金利の見通しを発表する必要性、またするに当たってはそのメリットとデメリットをできればお伺いしたいんですけども、よろしくお願い致します。
(答)
一点目は長期債市場の機能について日本銀行のオペとの関係でどう考えるかというご質問だと思うんですけれども。
(問)
長期金利を含めて一般的な市場機能とか金利機能の復活へ向けての動きだと思うんですけれども、その辺における心配点というか、日銀として注意すべき点をお伺いできればと思います。
(答)
これはちょっと中長期的な話になりますけれども、様々なところで平常時では中央銀行はやらないようなオペをまだ実行しています。それが市場の機能度を場合によっては低下させているという面はある程度あるかと思います。その理由として緩和効果を維持したいということがあって、緩和効果を維持していくということの必要性が低下していくに連れて、様々なオペを終了させていったり、縮小させていったりするということになるかと思いますが、その場合もそういうことで先を行ってる米国の例をみても分かりますけれども、時々、様々なボラティリティの上昇等がマーケットで起こるということが必ずしも排除できないということだと思います。そういうことに対する対応余地を残しておくべきかどうか、おくべきと考えたらどのように残しておくかということは中長期的な考慮すべきポイントの一つかなとは思っております。抽象的な言い方で恐縮ですけれども。
政策金利の見通しを公表すべきかどうかということが二番目のご質問だったと思いますけれども、これは現状全ての中央銀行を調べたわけではないですけれども、大きなところで公表しているのはFedだけかなというふうに思っております。もちろん自信を持ったものが公表できれば、それは一つの大きな手掛かりになるわけですが、金融政策、現状の政策をある程度正常化した後で、そういうものを公表していくのが良いことかどうかという論点もありますが、その手前の問題として、現状は様々な、例えば短期の政策金利以外の手段を用いて金融政策をしている中で、短期の政策金利の近い将来の私どもの予想パスを示していくことがいいのかどうかという点は普段以上に難しい、あるいはやや混乱させてしまう面の方が大きい話かなと、今ちょっとご質問を伺っていて思いました。
(問)
総裁ご自身の正常化に対する距離感について、ちょっと改めてですけれども伺います。先ほどおっしゃったように足元の企業業績ですとか、あと人手不足感ですとか、あと物価見通しをみますと、いわゆる教科書的には賃金と物価の好循環ができかかってるようにもみてとれるんですけれども、一方で不確実性が高いということで緩和姿勢は保つ必要があるかもしれませんが、現状では効果の乏しい、ある意味異例な政策を手じまう条件、そういった行動にも耐え得る経済環境が整っているのではないかという見方もあります。政策委員会のある意味議長として伺いたいんですけれども、年度内で特に企業の決算の期末が集中する3月を避けるかたちで、1月会合でマイナス金利の解除ですとか正常化を提案するお考えが現時点でどの程度あるのか、併せてですけれども正常化した場合の政策スキームですとか想定があれば伺えればと思います。これ、時期は別にしてということですけれども。
(答)
政策正常化に踏み出すかどうかということですが、これは先ほど来お話ししてることと重なってしまいますが、賃金と物価の好循環が実現するかどうかについて、もう少し情報をみたいなというのが現在の政策委員会メンバーの大勢でございます。来年正常化を仮にする際に、3月決算への影響を避けようという意図があるかどうかというご質問が後半だったと思いますが、今のところそういう議論は出ておりません。
(問)
賃金と大規模緩和の出口戦略について伺います。個人消費が強くないと思われますが、その理由は、物価上昇に賃金上昇が追い付いていないからということが大きいかと思われるんですけれども、現状、実質賃金がマイナスが続いていますが、実質賃金はマイナスのままでもマイナス金利解除をするということはあり得るのでしょうか。その場合、個人消費の腰折れによって景気が減速する可能性はないのでしょうか。教えてください。
(答)
短くお答えすれば、足元の実質賃金が前年比マイナスであっても、先行きをみた場合に、賃金上昇が続く、そして消費者物価総合のインフレ率が低下を続けるということで実質賃金が好転するという見通しが立つんであれば、足元の実質賃金低下が必ずしも正常化の障害にはならないと思いますけれども。
(問)
先ほど来総裁が、政策変更の条件、その前提として持続的・安定的な物価上昇の実現可能性を判断するのに企業業績ですとか労働需給、物価から賃金への波及、賃金から物価への波及、特にサービス価格と様々なデータについてご紹介されましたが、この中で、他のものでもいいんですけれども、総裁が今の段階で丹念にみたい、逆に言うと、なかなか確度があんまり高くない、現時点ではですね、それなので時間をかけてみたいというデータ・情報は何でしょうか。
(答)
これは、今ご指摘頂いたデータ全部というふうに、更にそれ以外のデータも含めてですね、お答えせざるを得ないかなと思います。毎日データが発表される毎に、私なりにそれまでの見方と突き合わせて分析をしているところでございます。
(問)
これまでの会見でも何度も伺ってる話ですが、あえて今日も伺わせて頂きます。消費者物価指数の上昇率が、もう20か月連続で2%超ですね。2%超の、インフレ目標以上の上昇が20か月になろうとしている。日銀が国民の声を聞くためにですね、定期的に実施している生活意識アンケート、こちらで8割の国民が物価上昇困ったことだとずっと答えています。つまり、国民はもうこれ以上の物価上昇を望んでいない。経済界からも、早期に正常化をするようにという声も出ている。こういう国民の声があるのに、日銀は物価を上げるための社会実験にあまりにこだわり過ぎているのではないかと思うんですけれども、物価の番人としての使命を果たしていないのではないかという指摘に対して、どういうふうにお答えになりますでしょうか。
(答)
物価、例えば消費者物価全体として、総合の姿をみますと、1年半強2%を超えているというのはおっしゃる通りで、これは下がっていくことが当然望ましい。これに対して私どもは、中長期的に2%の物価上昇が続くという姿を作り出すことを目指して、「第二の力」と呼んでおるものが、基調的な物価上昇ですが、育っていくということを目指して、持続的な緩和を続けてきております。その後者の背景には、そういうことが20年間強できていなかったということに対する反省もあるということでございます。足元、消費者物価総合が依然として2%を超えているということは事実でございますが、先ほど来申し上げておりますように、「第一の力」、消費者物価総合の高いインフレ率を牽引してきた力ですが、これがピークアウトを示しているという中ですので、もう少し辛抱頂いて、私どもの金融緩和が「第二の力」を目標まで引っ張って育てていくというところをみて頂ければなというふうに思っております。
(問)
総裁が求めてらっしゃるその確度のことでお伺いしたいんですが、いったん見通した後に、その見通しがどの程度の期間維持されるということを想定して、その十分度を求めていらっしゃるのか、極端な話、もちろん次の決定会合でまた議論をするということであり、展望レポートは3か月後にもう一度物価見通しを示すということであるんですが、意識されたのはそれよりもう少し長い期間、確度が維持されるということをイメージされてらっしゃるのかなと思うんですが、その点をお聞かせ頂けますか。
(答)
これは確率論の話になってしまいますけれども、持続的・安定的な2%の物価上昇が達成されそうだ、そこまで待って解除したということであっても、絶対2%を大きく下回るところにいかないかと言われれば、絶対はないと思います。ただそれは程度問題で、大きなマイナスのショック等がないときに2%を大きく下回るところにいかないという確度が高まったかどうかという基準で私どもは判断するんだと思います。繰り返しですが、印象論的、直感的な世界ではあるかとは思いますが、なるべくもう1回駄目になってしまうという可能性を無理のない範囲で低めるという選択をできればと思います。
(問)
1月決定会合でマイナス金利解除をみる向きがマーケットの中には依然多いんですけれども、年末年始を挟んでということになりますが、1月決定会合までに賃金・物価の好循環が見極められるその可能性についてお願いします。
もう一点、総裁、先ほどからフォワードガイダンスについて質問が出ていますけれども、以前の利上げ局面で日銀は明確にその利上げを示唆、前もって示唆したことありますけれども、今次局面では経済・物価等の見通しを通して、そういった政策変更の可能性を示唆していくという理解でよいのかどうかお願いします。
(答)
1月に向けてですけれども、これは現在から1月の後半にある決定会合までの間に入ってくる新しい情報次第ということにならざるを得ませんが、新しいデータはある程度入ってきますが、そんなに多くないということが一つあるかと思います。ただ、間には支店長会議も私どもありますし、地方を含めた様々な情報を吸い上げることもできるということで、そうした結果およびここまでのデータを1月にかけて新しい見通しとして整理しますので、それらを含めて判断するということになるかと思います。
それから二番目の、利上げをすることになるときに予告するかどうかというご質問だと思いますが、これは繰り返しになりますが、データや情報をどういうふうに活用するかという私どもの考え方を繰り返しご説明していくということですし、それに今後の展開に応じて付け加えられるような、こういう見方もあるということが出てくれば、それも適宜追加的に情報発信をしていきたいと思いますが、来月上げますよということをいきなり言いますということになる可能性は、あまりないかなとは思っております。
(問)
先ほどおっしゃったようにマイナス金利解除をした後、短期金利が少し上がるということであれば、日銀はそういう言葉は使わないかもしれませんが、いわゆるゼロ金利政策状態になると思うんですが、その際にいわゆるコールレートっていうのがある程度変動する市場機能を尊重されると考えるのか、それとも別にゼロ%近辺でピンポイントに近い水準で変動すればいいと考えているのか。その短期金融市場の機能に対して、総裁の政策思想はどのどういうものなのか、ちょっと教えて頂けますでしょうか。
(答)
これはマイナス金利を解除するときに短期の政策金利として何を採用するかということ、あるいは当座預金の階層構造をどう変えていくか、維持するか変えていくかということと関連すると思いますが、現時点でまだ決め打ちできる状況ではございませんので、重要な論点とは認識していますが、よく考慮のうえ、適切なところを選んでいきたいと思います。
(問)
先ほど2%目標の達成に向けた閾値が少しずつ高まっているというお話でしたけれども、実際に今回のMPMでマイナス金利の解除に向けた議論がどの程度なされたのかどうかというのをお伺いできれば幸いです。10月会合で出口に向けた情報発信が重要との見方が主な意見でありましたけれども、今回の会合でもそういったディスカッションがあったのでしょうか。
(答)
一般論として、今後の金融政策運営に関していろいろな議論がございましたが、具体的なところについては、もうすぐ出ます主な意見をご覧頂ければと思います。
(問)
資産の買入れ方針について伺います。ETFの保有を減らす局面になったときに個人に直接譲渡するのではないかという観測も一部ありまして、海外の中央銀行で実施された例がありますが、この手法が検討に値すると総裁は考えられますでしょうか。ご見解をお願いします。
(答)
ETFですけれども、今、方針としてこれはできればこういうふうにしたいなというふうに思っておりますのは、抽象的なところになりますが、適正な対価で処分するということ、それから日銀の損失、それから市場のかく乱、これを極力避けるという方法を選びたいなということではあります。ただ、そのうえで具体的にそういう基本線に則ってどういうオプションが適当かということについては、まだ決めかねておりますので、適切なタイミングで決めましたら公表していきたいと思います。
以上