総裁記者会見 2025年1月24日(金)午後3時30分から約70分
2025年1月27日
日本銀行
(問)
本日の金融政策決定会合の内容について、展望レポートの内容も含めてご説明をお願いします。
(答)
今日の決定会合ですが、金融市場調節方針について、政策金利であります無担保コールレート・オーバーナイト物の誘導目標をこれまでの0.25%程度から0.5%程度へと変更しました。また、これに伴い、補完当座預金制度の適用利率および基準貸付利率の変更も決定致しました。なお、これに関しまして、中村委員は、次回の金融政策決定会合において、法人企業統計等で企業の稼ぐ力が高まったことを確認したうえで、金融市場調節方針の変更を判断すべきであるとして、金融市場調節方針等に反対されました。
このほか、今日の会合では、貸出増加支援資金供給について、予定通り本年6月末をもって新規の貸付を終了するとともに、本資金供給を円滑に終了する観点から、経過措置として7月以降、2025年中は、満期到来額の半分を上限として、貸付期間1年の借り換えを認めることを全員一致で決定致しました。
続いて、今日の政策変更の背景にあるわが国の経済・物価について、展望レポートも参照しつつ、簡単にご説明します。わが国の経済・物価ですが、これまで示してきた見通しに概ね沿って推移しており、先行き、見通しが実現していく確度は高まってきていると判断しました。すなわち、経済の現状をみますと、一部に弱めの動きもみられますが、緩やかに回復しています。賃金面では、企業収益が改善傾向を続け、人手不足感が高まるもと、本年の春季労使交渉において、昨年に続き、しっかりとした賃上げを実施するといった声が多く聞かれています。先行き、名目賃金や雇用者所得は増加を続けるとみられ、わが国経済は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まることから、潜在成長率を上回る成長を続けると考えられます。物価面ですが、賃金の上昇が続くもとで、人件費や物流費等の上昇を販売価格に反映する動きが広がってきており、基調的な物価上昇率は、2%の物価安定の目標に向けて徐々に高まってきています。こうしたもと、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響は減衰してきているものの、このところの為替円安等に伴う輸入物価の上振れもあって、2024年度が2%台後半となった後、25年度も2%台半ばとなる見通しです。この間、海外経済は緩やかな成長経路を辿っており、様々な不確実性は意識されているものの、国際金融資本市場は全体として落ち着いていると判断しています。こうした状況を踏まえて、今日の会合では、2%物価安定目標の持続的・安定的な実現という観点から、金融緩和度合いを調整することが適切であると判断しました。政策金利の変更後も、実質金利は大幅なマイナスが続き、緩和的な金融環境は維持されるため、引き続き経済活動をしっかりとサポートしていくと考えています。なお、展望レポートでは、リスク要因について、海外の経済・物価動向、資源価格動向、企業の賃金・価格設定行動など、わが国経済・物価を巡る不確実性は引き続き高く、金融・為替市場の動向や、そのわが国経済・物価への影響を十分注視する必要があると評価しました。特にこのところ、企業の賃金・価格設定行動が積極化するもとで、過去と比べると、為替変動が物価に影響を及ぼしやすくなっている面があると考えています。
今後の政策運営については、先行きの経済・物価・金融情勢次第ですが、現在の実質金利がきわめて低い水準にあることを踏まえますと、今回の展望レポートで示した経済・物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになると考えています。日本銀行は2%の物価安定の目標のもとで、その持続的・安定的な実現という観点から、経済・物価・金融情勢に応じて適切に政策を運営していく方針です。
(問)
幹事社から二問お伺いします。まず追加利上げを決めた理由について伺います。総裁は12月の会見で、利上げの判断材料として、春闘でのモメンタム、米国のトランプ新政権の経済政策の不確実性、円安の物価への影響を挙げていました。それぞれの見方がこの1か月でどう変わったのか、変わっていないのか、それが政策の判断にどう影響したのか教えてください。
二問目は、利上げの影響と今後のペースについてお伺いします。0.5%への利上げによる実体経済への影響をどうお考えでしょうか。それも踏まえたうえで、0.75%以上となる今後の利上げについては、これまでと同様の考え方、ペースで進めていくんでしょうか。それとも、利上げが企業とか家計に与える影響をこれまでより慎重に見極めていくということもあり得るのでしょうか、考え方を教えてください。
(答)
まず先ほど申し上げましたように、今日の会合では、展望レポートの見通しについて議論しまして、わが国の経済・物価が、これまで示してきた見通しに概ね沿って推移しており、先行き見通しが実現していく確度が高まってきていると判断しました。ご指摘頂いた今年の春季労使交渉ですが、昨年に続き、しっかりとした賃上げの実施が見込まれると判断しました。すなわち、今年も賃上げを継続するという企業の声が増加しているほか、支店長会議では、継続的な賃上げが必要との認識が幅広い業種・規模の企業に浸透してきているという報告もありました。また、各種のアンケート調査でも、昨年の同時期対比で賃上げの実施を計画する先が増加していることを確認致しました。米国についてですが、まずインフレ率が低下するもとで、様々なデータをみますと、経済がしっかりとしていると評価しました。また、今週入り後、トランプ大統領が就任し、政策の大きな方向性が示されつつありますが、その後も国際金融資本市場は、全体として落ち着いていると判断しました。輸入物価ですが、前年比でみれば、引き続き抑制された水準にあるという点は変わりはないとみています。ただ、前回10月の展望レポート時点との対比でみますと、為替円安等に伴い、輸入物価が上振れていまして、本日取りまとめた新しい展望レポートでは、先ほど申し上げましたが、消費者物価の見通しは、24年度が2%台後半となった後、25年度も2%台半ばと高めとなりました。こうした状況を踏まえ、2%目標の持続的・安定的な実現という観点から、金融緩和度合いの調整をすることが適切と判断したところであります。
それから、利上げの影響と今後のペースに関するご質問ですが、今回の金利引き上げは、昨年7月の0.25%への引き上げ時と同様、市場金利等の上昇を介して、経済に影響を及ぼすと考えています。もっとも、今回の金利変更後も、実質金利は、繰り返しで恐縮ですが、大幅なマイナスが続くことになります。従って、緩和的な金融環境が維持され、引き続き経済活動をしっかりとサポートしていくと考えています。今後ですが、経済・物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和度合いを調整していくという基本的な考え方に変わりはありません。そのうえで、緩和度合い調整のペースやタイミングについては、今後の経済・物価・金融情勢次第であって、予断は持っていません。毎回の決定会合において、その時点で利用可能な各種のデータ・情報から、物価・経済の見通しやリスク、見通しが実現する確度を随時アップデートしながら、適切に政策を判断していきたいと思っております。
(問)
今回出された展望レポートで、物価見通しですが、特に25年度、0.5%の上方修正と、大幅な上方修正になってますけども、これ米の価格の上昇とか、輸入物価の上振れということですが、この大幅な上方修正を受けてですね、日銀の利上げがビハインド・ザ・カーブに陥るリスクっていうのは出てきているのかどうかということですけども。市場は日銀が大体半年に概ね一度利上げということを想定してますけども、もっと早めに金融の緩和の度合いをですね、調整しなければいけないという場面が出てくるのかどうかというところをまず伺えないでしょうか。
もう一つトランプ政権ですけども、大統領就任直後はですね、高関税政策の発動、即時の発動というのはですね、見送られたわけですけども、これは実際に発動された場合ですね、米国のインフレを再燃させ、為替相場にとっては円安ドル高が加速すると思います。こうした状況では輸入物価の上昇を通じて、日本の国内物価の上振れリスクを招くということもあるかと思いますが、その場合はですね、日銀は、早めのですね、利上げっていうことで対応することになるのか。またもう一つのシナリオとして貿易戦争が激化して、報復関税の応酬となって世界経済の下振れリスクが高まるという、そういった場合にはですね、現在日銀が進めている金融緩和の度合いを調整していく、政策金利を中立金利に戻していくという、こういう作業がですね、中断される場合もあるのか、この二つのシナリオをどうみているのか伺えないでしょうか。
(答)
最初のビハインド・ザ・カーブになりつつあるのではないかという点ですけれども、この消費者物価全体、ヘッドラインといいますか、ここでは除く生鮮ですが、これがおっしゃるように25年度にかけて、少し大幅に上方修正になっています。ただこれは、私どもの現在の見通しでは、取りあえずカレンダーイヤーで言って、今年の半ばくらいまでの上方修正で、その後は落ち着いてくるものというふうにみています。その理由はおっしゃったように、ここの原因がコストプッシュ的なものであるからです。一方で、いつも申し上げてる、目に見えないもので恐縮ですが、基調的な物価上昇率については、見通しに沿って緩やかに上昇し続けているという範囲にとどまっているかなというふうにみています。従って深刻なビハインド・ザ・カーブ現象、あるいは政策金利がそういう水準にあるというふうには今のところみておりません。
それからトランプ政権の関税政策の影響ですけれども、これはもちろんアメリカが関税を引き上げたときに、どういう影響があるか、更に報復関税が他の国によって採用されたときに、総合してどういう影響があるか、それぞれインフレ率、世界経済、いろんな影響があると考えられますが、現状ではアメリカのそもそもまず関税の規模であったり、広がりについても非常に不確実性が高い、決まっていないという段階であるとみています。従って、具体的にこうなりそうだということを申し上げられる段階ではないかなと思います。ある程度固まり次第、私どもの見通しにもなるべくきちんと反映させ、それに応じて政策運営にも生かしていきたいというふうに思っています。
(問)
一点目が、段階的な利上げを進める理由についてです。日銀は基調的な物価上昇率が2%に向かって上昇していくことが見込まれるために利上げを進めているというのが理屈だと思うんですけれども、率直にちょっと分かりにくいなというふうに思ってまして、経済を冷やす効果があるというふうな側面もある利上げというのを続けていくことの説明をもう少し分かりやすい言葉でご説明頂けますでしょうか。
もう一点が、金融政策の運営方針についての情報発信です。昨年3月からカウントして1年足らずで3回利上げ判断をしたことになると思うんですけれども、これから0.5%程度っていうのを含めて日本の経済社会が長らく経験していなかった政策金利の水準になってると思うんですけれど、こういった利上げが経済社会に与える影響とかをかんがみて、今後、中立金利に近づいてきたときに、利上げをどのぐらいのペースで進めていくかみたいなところについて、考え方をもう少し詳しくはっきりと説明する機会はあるんでしょうか。
(答)
利上げを行っていく理由が分かりにくいという話と、段階的に何回かに分けてやるのが分かりにくいと、両方ご質問の中にあったと思いますが、まず利上げをしていく一般的な理由としては、インフレ率が徐々に上がっていく、あるいは基調的なインフレ率が上がっていく中で、きわめて金融緩和度合いが強い状況、金利が低い状況をあまり長期間続けますと、インフレ率が後になって急上昇する、そうするとそこでものすごい急激な金利の引き上げを迫られることになりがちである。これは歴史的にもいろんな国で時々みられた現象です。そうなってはコストの方が大きいので、まず経済の体温あるいは物価の情勢に合わせて、適宜利上げをしていくことが必要であると考えています。更に利上げをした場合に、影響はどうなんだっていうのが二番目のご質問ではありますが、その影響は必ずしも事前にはっきりとは分からないという部分もありますし、それから、他方で、どれくらい基調的な物価上昇率あるいは予想インフレ率みたいなものが現在上がりつつあるのかっていうのも、データで分かる部分もあるし分からない部分もあるという中では、やったことの効果を確かめつつ段階的に動いていくというのが適切な対応かなと思っています。
それから、今回0.5[%]に引き上げたことの影響についてどう考えるか、あるいは、今後、引き上げのペースについて詳しく説明する意図はありや否やというご質問だったかと思いますが、もちろん今回の利上げの影響については、詳しく検討したいと思います。これは、去年の3月、7月の利上げのときも行ったことですが、まず利上げの影響はマーケットに出て、それがいろんな、一方で借り手、企業、家計、場合によっては政府、それから資金運用主体、その中に預金者が含まれますが、それに少しずつ及んでいくということかなと思います。それは金利の動きであったり、経済主体の行動にどう影響を与えるかというところを丁寧にみていきたいと思います。ただその中で、一方で、利上げだけではなくて、インフレ率が上がったり賃金も上がっているということの中で利上げの影響を考えていくということが必要かなというふうに思います。今後の利上げの考え方の基本線については先ほどお話しした通りで、これまでと同様でございます。今のところはペースあるいはタイミングについて予断を持っていなくて、今、直前に申し上げたような、今回の利上げの影響はどういうふうに出てくるかということも確かめつつ、今後の進め方を決めていきたいというふうに思っております。
(問)
二点伺います。まず、不確実性が高い環境のもとでの政策判断、意思決定について教えてください。前回の総裁会見での発言ですとか、その前後の日銀の発信をみますと、賃金・物価動向とか、トランプ政権下の影響に関する表現で、不確実性という表現とリスクという表現、あと定量化という言葉を組み合わせて発言・発信されてるケースが目につきます。総裁、こういった言葉は市場とのコミュニケーションで使う場合に、特に不確実性とリスクなんですけれども、明確に切り分けて使われているのか、少し専門的なんですけれどもケインズの確率論ですとか、もしくはまたそういう思想に似た考え方を今の政策判断のよりどころとしているのか、政策運営に対する考え方を教えて頂ければと思います。
あともう一点が今後の利上げスタンスについて伺います。先日の氷見野副総裁の講演で、国内経済の構造的な課題についても、その解消に向けて前向きな言及が多くみられました。長年続いてきたその課題を乗り切る経済がかなり近づいてきているようにみえるんですけれども、そうした中で今後の利上げが1回ですとか2回で済むものなのか、現状の認識を伺えればと思います。
(答)
前半は前回も若干議論があったと思いますけれども、不確実性とかリスクという言葉について、どれくらい深い意味を込めて使ってるのかというご質問だと思いますが、学界とか中央銀行界の一部で時々使われる使われ方として、将来全く分かんないっていう種類の不確実性と、どこかの国で例えば金利が上がるというような政策変更がありそうなんだけれども、そこまでは分かってるけど何%になるかは分からない、ただ1%上がる確率が5割ぐらいでもうちょっと上がる確率が5割ぐらいとか、そういうふうにある程度若干なりとも定量化できるような、しかしそういう中で不確実なケース、後者をriskと読んで、前者をuncertaintyというように区別するというような用語法を、確かナイトという学者が提唱して、それが一部で使われ続けているということがあると思います。私どもも両方の意味で、時々使ったりしますので、ごちゃごちゃになったりして申し訳ないと思いますが、ただし私どもが物価やGDPの見通しを作るときには、ある程度定量化できる部分と定量化できない部分がかなり大事になってきますので、そこでは分かんないけど、どう出るか分かんないっていう話とこれくらいになる可能性とこれくらいになる可能性があると、そこは多少識別して見通しを作る際に取り込んでいくという対応はあるかなと思っています。すみません、いずれにせよちょっともう一つはっきりしないのははっきりしませんが。
それから今後の金融引き締めのペースとの関係で、どういうところというか、構造的な問題とおっしゃいましたけれども、部分を着目しているかというご質問と受け取りましたけれども、二番目ですね。
(問)
社会構造が変化している中といいますか、長年続いてきた課題を乗り切ろうとしている環境の中で、今のようなこの超低金利の環境から1回か2回の利上げで済むものなのか。例えば40年前ですかね、その金利水準が一つのベースになるのか、そのちょっと感覚を教えて頂ければと思います。
(答)
いろんなことが関わってくると思いますが、一つ例でお話ししますと、例えば企業の賃金設定のところで、時々賃金だけじゃなくて、物価でもそうですが、ノルムというような概念を使ったりしますけれども、今年の春闘に関係してヒアリング結果等をみていますと、単純に今年どれくらいにするかっていう視点だけではなくて、何となく中期的に賃金が上がるということを企業の中期計画の中に取り込みつつ、今年の賃金をどれくらいにするかっていうことを決めていかないといけないという言及が少し増えてきているというふうに感じたところです。これこそ、ある種のノルムの変化であって、それがそこそこの幅で、例えば前と比べると2%上にずれるとか、そういう幅で起こるということになりますと、やっぱり基調的な物価上昇率が大きく上昇する、あるいはわれわれの目標に近づいていく、収束していく可能性が非常に高まるということかなと思います。それはもちろん中立金利に持っていくということを可能にする、あるいはそこへのスピードを早めるという要因ですが、そのうえで中立金利がどれくらいにあるかっていうところにも、社会構造の変化が影響するとは思いますが、そこについては今のところ新しい分析なり情報を得ているという段階では残念ながらございません。
(問)
ターミナルレートについてちょっとお伺いしたいんですけれども、声明文の中でも実質金利はきわめて低いということをここ暫く日銀としてはおっしゃってきていて、それを受けるとですね、まだ相応の利上げの幅があるのかなという見方もでき得ると思います。その一方でマーケットの今の見方っていうのは、今年あと1回、2回ぐらいの利上げで、来年1回ぐらいで大体1%ぐらいになるんじゃないか、その点について総裁どういうふうにお考えになってるのかっていうことと、あと、今回0.5%に上げたことによって、中立金利に少なくとも25bps近づいてきてると思うので、その分これまでよりも注意深く影響をみなければいけない状況に少しずつなってきているのかどうか、その点お願いします。
(答)
先ほど申し上げたんですが、中立金利についての私どもの見方についてはこの間変更していません。つまり、以前よりかなりの幅があるっていうふうに申し上げてきているところで、その幅があるということについても、幅の範囲というのも変ですが、大体同じようなものをみています。そうした中で、その幅全体をみますと、中立金利に対して現在の政策金利が0.5[%]になったとしても、まだ相応の距離があるというふうにみています。もちろん、0.25%のときと比べれば0.25%分、中立金利に近づいたということはおっしゃる通りでございます。従ってというよりは、いずれにせよ金利が引き上げられた後というのは、常にその影響について注意深くみていくということになるかと思います。もちろん、その影響の出方次第によっては、中立金利についての何らかの新しい情報があるという可能性もありますので、そこは注意してみていきたいとは思っております。
(問)
日銀の物価の見方でお伺いしたいんですけども、暫く前までは「第一の力」、「第二の力」という表現を使われてたのが、前回、植田さんの会見で、古い表現で恐縮ですがって言葉を付け加えられて、あまり「第二の力」の言葉は使わなくなったんですけど、これは、日銀がみてた「第一の力」っていうのは、輸入コストによって上がってきたものが減衰していって、「第二の力」にバトンタッチするという見方をずっと言われてたと思うんですけども、そこの動きが変わってきたというか、日銀が想定したような物価の動きではなくなったので使わなくなったんでしょうか。
(答)
考え方そのものは全然変わっていません。何となく政策委員会の議論で「第一の力」、「第二の力」という表現を使われる方がたまたま少し最近減ってたんで、前回そういうふうに申し上げたんだと思います。基本線として、暫く前までのインフレーションは「第一の力」の影響力が強くて、それは減衰しつつあるんだけれども「第二の力」にだんだん移りつつあるという見方が生きてるし、そのプロセスが続いているということだと思います。ただ、そのうえで申し上げれば、今日発表しました[消費者物価の]見通しで、除く生鮮の24年度、25年度の見通しが、かなり大きく上方修正になっているというところは、この分類で言いますと、「第二の力」によってるのではなくて、ある種の「第一の力」、米ですと輸入価格ではないですけれども、コストプッシュという意味では「第一の力」的なもの、これの影響が強く働いてこういう上方修正になっているというふうに申し上げておきます。
(問)
ちょうど今のお話についてお伺いしたいと思っていたんですが、2024年度、25年度の物価見通しの上振れ理由、これがあまり使われなくなっているのかもしれませんが「第一の力」、コストプッシュ要因であるということであればですね、日本経済の実力としての物価上昇とはまた違う要因ということになるかとも思うんですが、それでもオントラックと考え、利上げをした理由というのは何なんでしょうか。
それから二問目なんですが、経済のリスク要因としてですね、展望レポートの中にもアメリカの政策運営を巡る不確実性というのを挙げていらっしゃいます。これいよいよトランプ政権が発足しまして、これまでにトランプ大統領が打ち出した政策ですとか発言の中で不確実性という点で総裁が今注目、それから気になっていらっしゃるのはどういうことでしょうか。
(答)
まず前半ですけれども、今回の利上げですけれども、あるいはオントラックという表現ですけれども、オントラックという意味では、特に除く生鮮の24年[度]、25年度の上方修正は、オントラックから少しずれてる部分になります。上方にずれてる部分。ですから、ここがほとんど前回の見通し通りであってもオントラックということになって、つまり米価格上昇とかがなくても、概ね前回の見通し通りに経済が進んでいるということ、すなわち表現を変えれば、先ほどの「第二の力」とか、基調的物価の上昇が見通し通りに続いている。去年の賃金上昇が価格に少しずつ反映されていくという動きが続いているという意味でオントラックであるということで、それは続いているので見通し期間の後半、大まかには26年度のどこかで、基調的な物価上昇率も2%に収束していく可能性が高まったというふうにみました。それが利上げの最大の理由でございます。
それから、トランプ政権のこれまでの動き、あるいは今後をみた場合に、どこに特に注目しているかという点ですが、他国の政策ですのであまり具体的にコメントするのは適切でないと思いますが、取りあえず先ほど質疑にありました、関税政策の具体的な姿がどういうふうになるのか、その世界経済への影響はどういうふうになるのかという辺りは最大の注目点の一つでございます。
(問)
今の質問の関連でトランプ政権の与える影響の見極めについてお伺いします。総裁、前半の方で、発足直後の国際金融市場は全体として落ち着いていると判断したとおっしゃった一方で、別の質疑応答の中では、その関税の規模や広がりについて非常に不確実性が高いので具体的にこうなりそうと言える段階ではないというふうにおっしゃいました。この12月会合からの1か月で総裁がお考えになっていたこの見極めたいというのは、その就任直後の初動の反応だけだったということなのかという点を伺いたいんですけれども、まずなぜ1か月みたうえで今回の決定会合において、海外の与える影響について、ある種利上げの障害になるほどではないとゴーサインを出されたのか、もう少し詳しくご説明を頂ければと思います。
(答)
先ほど申し上げましたように、今回の政策変更の主な要因は、経済・物価が、若干の上方修正も物価についてありましたけれども、概ねこれまでの見通し通りに沿って推移し、今後、持続的・安定的な物価目標が実現する可能性が高まってきているという点にあります。そのうえで、前回も懸念していたのは、こういうことに対してマイナスのショックが発生したら、それは見方を変えないといけない、その一つの大きな可能性として、アメリカ新政権の政策動向があり得るということだったと思います。今回までのところ、新政権の出だしの動きは概ね予想の範囲内にとどまっていて、マーケットも大きな混乱は発生していないという中で、経済・物価見通しが先ほどのような姿ですので、それはここで動かないということにはならないのではないかという判断でございます。もちろんこの先、米国の新政権からどんな政策が出てくるか分からないという不確実性は残りますが、それは先ほど来申し上げていますように、非常に不確定性が高い中で、どの辺というふうに決め打ちもできないですから、具体的な姿が決まったときにきちんと分析して、適宜見通しにその時点以降を織り込んで対応が必要なら対応していくという、行き方にならざるを得ないかなと思います。
(問)
一点目、先ほどおっしゃった、コストプッシュの上昇圧力が、足元および2025年度の物価の上方修正の主因だということなんですが、いわゆる「第一の力」が割とstickyに残っていると、この「第二の力」による順調な物価上昇と加わると、物価の上振れリスクがかなり意識されるのではないかと思うんですが、そうした国内の物価の上振れリスクと、今後のトランプ政権の政策を巡る不確実性や海外のいわば下振れリスク、日本経済にとって下押しになり得るリスク、そのバランスを今後先行きをみるうえでどういうふうにご覧になっているのか。リスクはバランスしているのか、どちらかというと物価の上振れが気になるということなのか、その辺りを伺いたいのが一点目です。
二点目は、今回の1月の会合を巡るコミュニケーションについてなんですけれども、氷見野副総裁の講演で1月会合では利上げを議論すると。その直後に植田総裁ご自身も同じように、1月の会合で利上げの是非を議論すると、かなり予告型に近い発信だったなという印象を受けたんですが、この背景と今後のコミュニケーションもこういったスタイルに変えていく可能性があるのか、この点お願いします。
(答)
一番目は、24年[度]、25年度の物価上振れをコストプッシュとして、そのまた波及みたいなものをどういうふうにみるかというご質問だと思いますけれども、現状ではまず、そもそも可能性として、今後のより広い波及の可能性としましては、例えばコストプッシュでありますが、物価が上がってるということで、期待インフレ率を少しでも若干なりとも上げてしまうっていう可能性があると思います。可能性ですね。それから、今年度の平均的な姿として、25年度のインフレ率が高まるということになると、26年の春闘において25年度のインフレ率を参照するという行動をとるところについては、賃金に上向きの圧力がかかるという可能性もなきにしもあらずだと思います。そういうことは今後の少し先の基調的物価上昇率を少し引き上げるっていう可能性もあるとはみていますが、現在その可能性が非常に高いというふうにはまだみておりません。むしろ現在でのいろんなところに対する影響という意味では、基調的物価上昇率がこれまでみていたものよりも下振れするというリスクは常にあるわけですけれども、その下振れリスクが少し低下する方向に働いている。その意味でも見通しが実現する確度が高まっているということが言いやすい環境になっているかなというふうに思っています。
それから二番目に、コミュニケーションの話ですけれども、これは形式的な答えになって恐縮ですが、私ども昨年の後半から、例えば、ボードメンバーの講演等について、時期を平準化するとかスケジュールを早めにアナウンスするというようなことを心掛けるようにして、そのうえで、各講演で物価・経済見通し、政策の基本的な考え方を丁寧に説明するということに努めています。そういう中で1月は、氷見野副総裁の講演でも私どもの基本的な考え方ですね、すなわち、各会合でそこまでのデータをきちんとみて、それに応じて金融政策を変更することが適当かどうかということを議論するという基本線を改めてリマインドさせて頂いたというふうに考えております。
(問)
質的緩和の手仕舞いのあり方についてお伺いしたいと思います。具体的にはETFの処分の方針のことですけれども、植田総裁は昨年来、かねてですね、もう少し時間をかけて検討する必要があるとこのように説明をしてこられました。ただそれも1年が近づこうとしておりまして、そろそろETFの処分についてですね、判断を下すときが近づいてきているのでしょうか。あるいは今後も時間をかけて更に検討を進めるということでありましたら、その時間がかかっている理由について何かボトルネックのようなものがあるのかどうか、この辺り総裁のお考えをお知らせください。
(答)
これは大変申し訳ありませんが、もう少し時間を頂きたいということと、理由としては、基本的になかなか難しい問題であるということでございます。
(問)
中立金利について先ほど政策金利の0.5%はまだその中立金利まで相応の距離があるというふうに総裁がおっしゃいました。一部では人口減少の日本の継続などを考えると、その中立金利、推計で幅があるものの1%に届かないのではないかという見方もあります。総裁がその距離があるというふうに考える理由は、日本企業の価格設定行動が過去30年の停滞期から変わってくる中で、経済の体温をかんがみてそうお考えになるということでしょうか。理由をお伺いできればと思います。
(答)
これは距離があると申し上げた理由は具体的な数字を申し上げてしまえば、これまで日本銀行の分析の例として中立金利についてお示ししたものは、名目では例えば1[%]から2.5[%]くらいの間に分布しているということですので、0.5[%]という金利水準はまだ距離があるということで、もちろん先ほど議論がありましたが、0.25[%]分、その範囲に近づいたことは確かですけれども、まだ距離があるというふうに考えております。もちろん人口減少が続くとか、あるいは他に様々な構造的な要素が変化しているかもしれませんので、そういうことがどういうふうにこの中立金利に影響するかっていうことは分析を深めるのが望ましいわけですけれども、努力はしたいと思いますが、なかなかリアルタイムでは分からない問題でもあるということだと思います。
(問)
今の金利の関係なんですけれども、市場等では中立金利に近づいてきているという見方もある中で、今回これまで0.25ずつ上げてきているわけですけれども、これを例えば経済等への影響にかんがみて、少し引き上げる率をですね、例えば0.1にするとかそういう調整をするといったような可能性があるのかどうか、なかなか難しいところだと思うんですが現時点の総裁のお考えを聞かせください。
(答)
それは結局は金利引き上げのペースをどうするかというお話だと思いますけれども、今回の利上げの影響も含めて、今後のデータ、情報を丁寧にみて判断していきたいと思います。
(問)
本日ですね、追加の利上げの背景だとか伺っていまして、賃上げや価格転嫁も広がっていて、物価も上昇しているという中で、なんだかデフレ時代というものがちょっと遠い過去のように感じられたんですけれども、総裁自身、日本経済の変化をいろいろお感じになる中でこのデフレ脱却の時期についてのお考えはいかがなのかを教えて頂けますでしょうか。
(答)
デフレ脱却って、いろいろな意味で使われてると思いますけれども、政府がお使いになってる意味としては、おそらく普通の意味でのデフレに戻る確率がものすごい低くなった状態ということかなと思います。私どもは、目標としては、2%に持続的・安定的に到達するかどうかというところで、そこにはちょっと違いがあると思いますけれども、矛盾はしていない二つの表現だとは思いますが、そのうえで、現状デフレという状態、その政府の定義ではなくて、普通の意味でのインフレ率がマイナスという意味でのデフレにはかなり遠いところに来ていますが、将来、長期間にわたってデフレに戻る確率がほぼゼロかと言われるとそこは必ずしも自信はないと思いますが、非常に低いところに今あるということは確かだと思いますが、政府はもう少しもっと低いところまでそれが下がることを目指してらっしゃるのかもしれないです。
(問)
展望レポートで物価上昇率を上方修正した件でお伺いします。結構、24年、25年度を大幅に修正したことで、賃上げがあっても実質それが、賃金が物価を上回る状況が遠のいて、実質賃金のマイナスみたいな状況が続くことによる個人消費への影響とか、そういう下方リスクについて総裁はどのようにお考えなのかお聞かせください。
(答)
実質賃金が伸び悩んで消費が結果としてやはり伸び悩むというリスクについては、常に意識しています。その点については、ただ、今朝方発表されました毎勤統計の直近の確報では、取りあえずその月だけかもしれませんが、実質賃金がプラスになっているということと、今後ですけれども、先ほども申し上げましたように、消費者物価の25年度にかけての高い伸びを見通しとして出したわけですけれども、どちらかというと前半型でありまして、今年の後半には2[%]に向けて低下していくという姿を、コストプッシュということもありまして、描いています。従って、そこそこの賃金上昇が続けば、実質賃金がプラスに転じていくというふうに考えております。
(問)
先ほど来出てますけれども、アメリカのトランプ大統領がダボスの会議の中でFRBの金融政策に触れて、原油価格が下がった場合、利下げを求めるという発言をされました。政治が金融政策に介入するっていうのはご法度にもなりますけれども、今後こうしたことがある場合、金融市場の不安定化にもつながる可能性があるかと思います。今回のトランプ大統領の発言であったりとか、その影響、こういったところもまた金融政策運営していく中で難しさが出てくるかと思いますが、いかがでしょうか。
(答)
これへの対応はアメリカの中央銀行でありますFRBにお任せするというコメントにとどめさせて頂ければと思います。
(問)
中立金利まではまだ距離があるって意味では、またこれから更に利上げがあるってことだと思うんですけど、一方でこれまで30年間ぐらい、0.5%を超えてこなかった。そういう意味では前回2007年に利上げをしても、またその翌年には戻ってしまったという経緯もあると思うんですけど、そのときと今と、国際金融環境だったり、国内の環境だったり、何が違うのか。国内の賃上げっていう意味ではかなり賃上げのムードが広がってきているとはいえども防衛的賃上げっていう印象を私は強く思ったもので、業種、業界、事業規模によってもいろいろと様々あると思うんですけどもその辺のお考えいかがでしょうか。
(答)
過去20年くらいに、金利0.5[%]程度になったことはあるわけですけれども、そのときと何が違うかということですが、おそらく一番大きな違いは、例えば2006、2007年ですと、インフレ率は大まかにゼロになったくらいであったと。今回は除く生鮮でみれば、2%を超える期間がもう3年前後続いているという点は非常に大きな違いかと思います。ただ、だからといって、ポンポン上げていけるかとかそういうことについては、安易に考えずに注意深く進んでいきたいというふうにはもちろん思っております。
(問)
再三ご指摘されたような基調的な物価上昇率についてなんですが、これまでの総裁の発言とか日銀の分析を踏まえると、おそらく1.5から2%の間ぐらいのイメージだと思うんですけども、徐々に高まっているというふうに言ってる中で、実際にどの辺なのか、2%に近いのか、それとも1.5%に近いのか、あるいは中間ぐらいなのか、その辺、現在の総裁の認識をお願いします。
(答)
これは私どもなりに工夫したかつ定量的な基調物価の指標みたいなものをおみせして、それがこう動いてるということができれば一番いいわけですけれども、まだ残念ながらそこに到達しておりません。基調物価に関係する分かりやすい指標としては、そのものではないですけど、賃金上昇率であったり、様々な期待インフレ率であったり、だんだん抽象的になってしまいますが、賃金が物価にどれくらい転嫁されるか、更にその背景にある経済の動き、こういうものを総合してみていくというお答えを取りあえず今日のところは続けさせて頂きます。
(問)
トランプ大統領が昨日ダボスでですね、AIとクリプトカレンシー、暗号資産、あるいは仮想通貨のことですけど、の首都に米国をしたいという発言を改めてされまして、従前から育成あるいは規制緩和をすると、クリプトカレンシーについてですね、言ってきてるわけですけども、これそうなると、実現していくとですね、既存の通貨に対してはですね、使われづらくなったりするということになると思うんですが、そのことが金利政策を運営していくうえでどんな障害あるいは弊害があるのかと。それから日銀を含めて各国進めているデジタル通貨についてのこの育成、運営にどんな影響があるのか教えて頂けますか。
(答)
これはいろんな観点からお答えできるというか、いろんなインプリケーションがある問題だと思いますけれども、まずアメリカでの動きが他の通貨にどういう影響があるかという点については、やはりそういう場合に弱いのは、信認の程度が低い通貨であって、そのまた先を考えますと結局は通貨価値を安定的に保つような金融政策をきちんとできてるかどうかっていうところだと思います。そこができていない国の通貨は、使いやすい、例えば、アメリカドル建てステーブルコインに人々の利用が流れてしまうというリスクを抱えているんだと思います。そういう観点から私どもも繰り返し申し上げていることですが、物価安定の目標をちゃんと達成するということが必要かなと思っております。それに加えまして、デジタルカレンシー分野でいろんな動きが出てくると思いますし、私どもは私どもでCBDCの技術的な検討を進めております。そういうことを導入するかどうかについては国民的な議論の中で決まってくるものだと思いますが、そこに今回のアメリカの動向も含めまして、海外の動向が議論に影響を与える可能性はあるかとは思います。いずれにせよ、導入するというふうに日本で合意が得られましたら、動けるように準備は進めていっているつもりでございます。
(問)
今回の利上げをしてもですね、実質金利は大幅マイナスということですから、結局この物価高の局面で日銀は一度も実質引き締めをしていないってことになると思うんですが、こういうぬるま湯状態を10年とか20年とか日銀はずっと続けてきたわけですが、その結果、政府も国会も財政規律を弛緩してですね、マーケットも国民生活もですね、ゆでガエル状態になってると。これほどゆっくりとしか利上げできない日銀の現状は、日銀の見解はどうであれ、フィスカル・ドミナンス、財政支配とか金融支配とかそういう状態を作り出してしまってるのではないかと思うんですが、総裁はいかがお考えでしょうか。
(答)
財政の問題については、繰り返し申し上げてるところですけれども、政府・国会の責任において、中長期的な財政規律を確保して頂くということだと思います。そのうえで私どもの緩和度合いの調整ですけれども、これは夢のような話かもしれませんが、すごい緩和度合いが強いところから過去出発して、少しずつ緩和度合いを絞ってきてるわけですけれども、本当にものすごい実質金利で高いプラスにいくということはなしに、緩和度合いを少しずつゼロに近づけていって、ゼロになったときにインフレ率を目標にうまく収束しているというふうなスムーズな着陸ができれば、それはそれが一番いいんだと思います、という考えもございます。
(問)
今回の展望レポートで、日銀の潜在成長率の推計値を従来のゼロ%台後半からゼロ%の半ばに下げてるんですが、この潜在成長率は中立金利や自然利子率とそれなりの関係のある概念と受け止めておりますが、このタイミングで潜在成長率の推計値を下げたことは、日銀のターミナルレートなどを巡る議論に対して、何か一定の意味を持つ情報発信なのか、それとも大した意味を持たない情報発信と受け止めておけばいいのか、その辺りについて教えてください。
(答)
潜在成長率の推計値を若干下げた理由は、人手不足であります。簡単に申し上げますと。潜在成長率を決めるものは、労働の伸びだけじゃなくて資本の伸びもあるわけですが、現状例えばホテルとかに代表されますように、設備はあっても人手不足で余ってる設備を十分に使えないというようなことがあります。ここを若干正面からとらえると、設備を必ずしもフルに使えないというようなことから、潜在成長率の伸びが少し下方修正されたということでございます。ただ修正の幅は小さいものですので、中立金利に影響あるかもしれませんけれども、そこもごくわずかの修正になるかと思います。
(問)
先ほどの0.5%でも中立金利に対して相応の距離があるということに関連して伺いたいんですけれども、次は0.75%に引き上げると政策金利としては30年ぶりの水準になるかと思います。これに対し0.75というのが壁として認識されているのかされていないのか、総裁のお考えをお聞かせください。
(答)
先見的に、いつかも申し上げましたが、ある数字を壁として意識しているということはございません。ただそれは本当に何かの壁、あるいは中立金利にものすごい近づいてくる、あるいは若干上回るというようなことになれば、何らかの反応が経済の方で起こってくるというふうに考えます。例えば、投資であったり、住宅投資が大きく減少するとか、そういうことを通じてその辺に関する手がかりを得ることができるということだと思います。もちろんものすごい大きなマイナスの影響が出るまで待って確認するということではなくて、出始めくらいの段階でつかみたいとは思いますが、そういう手探りの前進を続けたいというふうには思っております。
(問)
先ほどの潜在成長率の引き下げの話題も出たんですが、今の人手不足で成長率の伸びが頭を押さえられている状況があると思いまして、総裁としては次回の利上げに臨む際に今のように経済が緩やかな成長を続けていると、そういう状況であれば追加利上げに踏み切ってOKということなのか、あるいは現状の成長よりももう一段加速したうえで利上げ判断していきたいということなのか、この点をお聞かせください。
(答)
次の利上げですけれども、これは成長率の動向というよりも、やはり特に物価の見通しが実現していくかどうか、その中でも特に26年度[、見通し期間の]後半にかけて基調的なインフレ率が2[%]に収束していくかどうか、可能性が高まっていくかどうかという点を主なポイントとして判断したいと考えています。そこはこれまでと変わりがありません。
(問)
米国に関連してなんですけれども、FRBが気候変動リスクに係る金融当局のネットワーク、NGFSという組織から脱退したというふうに発表されましたけれども、日銀もこちらの組織にメンバーだと思うんですけれども、今やってらっしゃる気候変動オペも含めてですね、日銀の気候変動分野での対応方針はこれまで通り変えるつもりはないという理解でいいでしょうか。
(答)
FRBのことについてはノーコメントとさせて頂きたいですけれども、日本銀行としては気候変動問題については大事な問題と考えていまして、様々な国際的なフォーラムにも参加しています。そのうえで中央銀行ですので、中央銀行のマンデートの中でこの問題に関わるということでオペをやっていますが、これは気候変動対応オペをするということによって、説明としてはおそらく中長期のインフレ率を安定的に保つという、物価安定目標を実現すべき中央銀行というマンデートの中に収まる話だというふうに解釈しております。
以上