総裁記者会見 2025年5月1日(木)午後3時30分から約65分
2025年5月2日
日本銀行
(問)
本日の金融政策決定会合の内容について、展望レポートの内容を含めてご説明をお願いします。
(答)
今日の決定会合では、無担保コールレート・オーバーナイト物を0.5%程度で推移するよう促す、という市場調節方針を維持することを全員一致で決定致しました。
今日は展望レポートを公表しましたので、これに沿って、経済・物価の現状と先行きについてご説明します。最初に、今回の見通しの前提について一言お話しします。4月初めの米国による相互関税等の発表以降、各国の通商政策等を巡る不確実性はきわめて高い状態にあり、今後の展開を巡っては、様々な見方が存在します。こうした中で、今回の展望レポートの中心的な見通しは、今後、各国間の交渉がある程度進展するほか、グローバルサプライチェーンが大きく毀損されるような状況は回避されることなどを前提に作成致しました。中心的な見通しを巡る不確実性は従来以上に大きく、今後の各国の政策の帰趨や、それを受けた各国の企業・家計の対応次第で、経済・物価見通しが大きく変化し得る点には注意が必要と考えています。そのうえで経済についてです。わが国の景気の現状は一部に弱めの動きもみられますが、緩やかに回復していると判断しました。先行きについては、各国の通商政策等の影響を受けて海外経済が減速し、わが国企業の収益なども下押しされるもとで、緩和的な金融環境などが下支え要因として作用するものの、成長ペースは鈍化すると考えられます。その後、海外経済が緩やかな成長経路に復していくもとで、成長率を高めていくと見込んでいます。前回の展望レポートからの比較でみますと、2025年度と26年度の成長率の見通しは、各国の通商政策等の影響を受けて下振れています。次に物価です。生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、賃金上昇の販売価格への転嫁の動きが続くもとで既往の輸入物価上昇や米などの食料品価格上昇の影響もあって、足元では3%台前半となっています。先行きについては、2025年度に2%台前半となった後、26年度は1%台後半、27年度は2%程度となると予想されます。前回の展望レポートからの比較でみますと、25年度と26年度の物価見通しは、原油価格の下落や、今後の成長ペース下振れの影響などから下振れています。この間、消費者物価の基調的な上昇率ですが、成長ペース鈍化などの影響を受けて伸び悩むものの、その後は成長率が高まるもとで人手不足感が強まり、中長期的な予想物価上昇率が上昇していくことから、徐々に高まっていくと予想され、見通し期間後半には、物価安定の目標と概ね整合的な水準で推移すると考えられます。見通しを巡るリスク要因ですが、最初に申し上げたように、特に各国の通商政策等の今後の展開や、その影響を受けた海外の経済・物価動向を巡る不確実性はきわめて高く、その金融・為替市場やわが国経済・物価への影響については十分注視する必要があります。リスクバランスは、経済・物価見通しともに、25年度と26年度は下振れリスクの方が大きいとみています。
続いて、今後の金融政策運営です。金融政策運営は現在の実質金利がきわめて低い水準にあることを踏まえますと、以上のような経済・物価の見通しが実現していくとすれば、経済・物価情勢の改善に応じて、引き続き、政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになると考えています。そのうえで、こうした見通しが実現していくかどうかという点については、各国の通商政策等の今後の展開や、その影響を巡る不確実性がきわめて高い状況にあることを踏まえ、内外の経済・物価情勢や金融市場の動向等を丁寧に確認し、予断を持たずに判断していくことが重要と考えています。日本銀行は2%の物価安定の目標のもとで、その持続的・安定的な実現という観点から、経済・物価・金融情勢に応じて適切に金融政策を運営していく方針です。
(問)
トランプ大統領の一連の関税政策について、現時点でどのように分析していらっしゃいますでしょうか。今回の決定会合の結果と展望レポートについて、関税政策がどう影響したか教えてください。
(答)
今回の展望レポートでは、最近の関税政策ですが、これは海外経済の減速、わが国企業の収益の減少、不確実性の高まりによる支出の先送りなどの経路を通じて、経済の下押し要因として作用すると評価しています。ただその後は、海外経済が緩やかな成長経路に復していくことなどから、下押し圧力は次第に弱まっていくとみています。物価に対しては、成長ペースの鈍化などを通じて、押し下げ方向に作用をすると考えており、基調的な物価上昇率もいったん伸び悩む姿を想定していますが、その後は徐々に高まっていくと予想しています。ただ、物価安定の目標と概ね整合的な水準で推移すると考えられる時期は、見通し期間の後半になる見込みです。こうした意味で、今回お示しした経済・物価の見通しは前回と比べて下振れていますが、見通し期間内に基調的な物価上昇率が物価安定の目標と整合的な水準まで高まるという姿は、これまでと変わっていないところでございます。こうした中、今回の決定会合では、実質金利がきわめて低い水準にあることなどを踏まえ、現在の緩和的な金融環境を維持することで、引き続き、経済活動をしっかりとサポートしていくことが適当と判断しました。そのうえで、各国の通商政策等の今後の展開や、その影響を巡る不確実性がきわめて高い状況にあることも認識しております。この点を含め、経済・物価の見通しが実現していくかについては、今後とも予断を持たずに点検し、2%の物価安定の目標の持続的・安定的な実現という観点から、適切に政策を判断してまいりたいと考えています。
(問)
二問お願い致します。最初は、展望レポートの中で、持続的な安定的な物価、基調インフレが達成する見通し期間が後半ということで、展望レポートの見通し期間が1年間延びた、その中での後半に物価安定の目標と概ね整合的な水準で基調物価が推移するということであれば、当然のことながら利上げのタイミングやペースもその分遅れるという判断でよろしいのでしょうか、という点が一点目です。
二点目は、金融政策の基本的な方針は利上げを続けるということだと思うんですけれども、これはすなわち賃金と物価の好循環等の基本的なメカニズムは維持されていると、ただそこを巡る不確実性が高いと、そういう理解でよろしいでしょうか。
(答)
後半からお答えしますと、この見通しのまず成長率といいますか実質GDPの姿に示しましたように、関税政策の影響等を受けて、今年度と来年度、成長率が少し下振れするという姿をみています。その結果として、物価上昇率と賃金上昇率はやはりやや下振れするというふうに、あるいは伸び悩みの状態に入っていくというふうに考えています。ただ、その間もかなり深刻な労働者不足は続いているというようなこともあって、賃金と価格がお互いに相手を上昇させるという意味での好循環は継続していくというふうに考えています。もちろんどの程度の水準でそれが続いていくかという点については、見通しの姿のうえで、上下にリスクがあるということは認識しております。
そのうえで、それを前提にということですけれども、おっしゃいましたように、基調的物価上昇率が2%に近いところに収束していくというタイミングは、見通し期間が延びてその後半ということですので、やや後ずれしているという姿になっています。それが金融政策にどう影響するかということですけれども、これまでのように割と単調に基調的物価が2%の上昇率に収束していくという姿から、いったんちょっと足踏みするようなところを経てまた上昇するという姿にやや修正していますので、その中のどこでその見通しの確度が高まったということを判断できるかというのは、なかなか難しい問題かなと思います。その辺、柔軟に考えて政策対応したいと思いますし、それから、先ほども強調させて頂いたと思いますが、中心的な見通し自身の確度が、これまでほどは高くないというふうに残念ながらみています。従って、例えば関税政策等について大きな動きがあるという場合には中心的な見通し自体も変わり得るし、それが将来の金融政策の動向にも影響を与えるというふうにみております。
(問)
前回の3月会合で、総裁は米国の関税も含めて、4月になればある程度みえてくるというふうに話しておられましたけれども、その結果として米国の関税政策というのは想定よりも悪かったというか、景気に対しては下押しかなり強かったと考えているのかという点と、その結果として、現時点でですね、経済と物価、オントラックというふうに言えるのでしょうか。
もう一点、次回の6月会合で国債買入れの中間評価と26年度の減額計画を示すと思うんですけども、経済の減速のリスクを受けてですね、景気を支えるために買入れの減額ペースを緩めたり、あるいは減額を止めたりといったことは選択肢として取り得るのでしょうか。
(答)
まず経済自体ですけれども、足元までは概ねオントラックできているというふうにみています。経済と物価ですね。ただし、おっしゃったように、懸念していた米国の関税政策が、特に4月2日の時点では、かなり悪い方に振れた。その後、若干の巻き戻しがあって、現在もうひとつ分からない状態になっているということ。その後、ある程度交渉の進展があるということは、見通しの中に織り込んでいますけれども、それでも無視できないレベルの関税が残るということを前提にした見通しになっています。その結果、見通しがやや下振れたという姿になっています。
そのうえでですが、国債の買いオペの中間評価に関わる部分ですけれども、これは以前から申し上げていますように、金融政策としての対応は短期金利の操作を中心に行うということで考えています。今回の中間評価は、債券市場、国債市場の市場動向、機能度をしっかり点検しつつ、26年4月以降の姿も提示するということを基本線に行うということでございます。
(問)
総裁、冒頭のご説明で、この中心的な見通しを作るうえで各国間の交渉がある程度進展すると、関税についてですね、ということを前提に置いているというご説明がありましたけども、具体的には現在、日米の関税交渉が進行中でありますけども、相互関税の上乗せ分が今一時停止されてますが、それがかからない、発動されないということなのか。それともう一つ、自動車への関税っていうのもこれは撤廃されるという前提で想定して見通しを作ってるのか。各委員それぞれ前提が少しずつ変わると思うんですけど、総裁自身はどういった前提を置いて見通しを置いたのかをまず伺えないでしょうか。
もう一つは展望レポートの最後のところの先行きの金融政策のパートの部分ですけども、「経済・物価の見通しが実現していくとすれば」、この後にですね、この文言、「経済・物価情勢の改善に応じて」っていうこの一言が加わりましたけども、このリスクバランスについてはですね、多くの委員が25年度、26年度とも物価も経済も下振れリスクが大きいと判断してますから、経済・物価の改善は25年度、26年度なかなか見通しづらいと。その意味では、この25年度、26年度っていうのはなかなか利上げの判断がしづらい状況が続くと、そういう見通しになってるんでしょうか。
(答)
まず、関税に関する仮定ですけれども、おっしゃるように各委員、個別にそれぞれだと思いますけれども、私も含めて大まかな姿としては、これまでに議論されてきたものの中の一番極端なところにはいかない、それから全くゼロとか、10%だけで済むというよりはもう少し高いレベルに交渉の結果落ち着く程度の前提で、それぞれ具体的な姿は各委員に任されているというところでございます。
それから展望レポートの金融政策運営に関するパラグラフの解釈ですけれども、これは先ほどのご質問にお答えした内容とかなり重なりますけれども、大まかなここでのイメージとしましては、まずやや下振れさせた見通しが実現していくとして、今後、見通し通りに、その中でどういうふうに政策の調整を行うかという点については、これまでのように単純ではなくて、間に基調的物価、インフレ率の足踏み状態とかも入るというパスをみていますので、途中のどこで見通しの実現確度について自信を持てるかというのは、ちょっと今の時点で何とも言いにくい部分があるということと、それから中心的な見通し自体の確度が低い中で、様々な前提条件、あるいはデータの推移によって、見通しを修正するという可能性もかなりある。その両方をにらみつつ政策を適切に運営していくという気持ちを表現したものだというふうにご理解頂けると幸いです。
(問)
基調物価がいったん足踏みするっていうご発言がありましたけれども、これまでは物価はむしろ国内要因、食品などを起因とした上振れリスクがあったかと思います。展望レポートで示しているように、経済・物価がいったん下押ししてその後反転していくという構図で、経済と物価の反転する時期がずれて、経済はまだ下振れていても物価が先に反転してくるないし基調物価が反転してくる、上振れてくるという状況が考えられるのかどうか、いわゆるスタグフレーション的な状況が想定されるということなのかお伺いしたいと思います。その場合はどういうふうに政策対応をするのでしょうかというのが一点です。
もう一つは、今後見通しが大きく変化した場合に、展望レポートがない会合でもそういう見通しをアップデートして示すということになるのでしょうか、というご見解を頂ければと思います。
(答)
基調的物価、中心的見通しでは、途中でいったん足踏みというふうに言っているわけですけれども、おっしゃるように、様々な要因、例えば現在少し足元では強めですが、これが更に長引くとか、根っこにこれまで続いてきた賃金・価格設定行動の積極化というような話との相乗作用で、物価見通しが今回の中心的見通しよりも上振れるという可能性はそれなりにあると思います。かつ、そのときに成長率見通しの方は当たって、少し下向きになるという難しい場合にどうするかというご質問だったと思いますけれども、それは一般論としてはスタグフレーション的な際に、金融政策というのは実体経済とインフレのどっちに重点を置いて運営するかというのは、常に難しい立場に置かれるわけで、現時点ではどっちだということを決め打ちするのは難しいかなと思います。そのときの物価の上振れの程度と、成長の下振れ、更にその後の展開についての見通し次第、というふうにお答えせざるを得ないかと思います。
二番目の、見通しが展望レポートがない回で変わったりしたときにどうかというご質問ですが、展望レポートを新たに出すということは多分しないと思いますけれども、こうした記者会見等の場で、見通しの変化について丁寧にご説明していきたいと思います。
(問)
今の質問にも関連する点で二点お願いします。一つは、これだけ読みにくい関税政策の影響、きわめて高い不確実性ですけれども、見極めに現時点でどの程度時間がかかるかという点において、例えば今90日間の関税の猶予期間というのをトランプ政権、設けてますけれども、これが7月の上旬に来ますけれども、例えばやはりその90日の期限が終わってある程度関税の中身が確定するまでは、なかなかこれは見極めにくいと現状でみていらっしゃるのかどうかという点が一つです。
もう一つは、先ほどの質問にもあった、これまでのように単調に基調物価が上がるよりも、足踏みしてまた上昇していくというのが中心的な見通しだとしますと、これをそのまま解釈すると、やはり次の利上げというのは足踏みした基調物価がまたトランプ関税が出る直前の姿まで戻ってくるところまでは次、利上げできないんじゃないかというふうに普通に考えれば読めると思うんですが、総裁の感覚としては、そういう意味で言うと、次、利上げをするということになるケースというのは相当程度先というふうに現状ではみてらっしゃるのか、この二点お願いします。
(答)
まず、関税政策について不確実性が大きく低下するのはいつ頃かというご質問だと思いますが、おっしゃるように90日間で交渉を米国政府としては終わらせたいという意向が表明されてますので、そこは一つのポイントになるとは思いますけれども、その手前でも、例えば現在の日米の交渉のように順次行われている交渉もありますし、90日経ってもまだっていうところも残ると思いますので、そこは何とも言えないと思いますし、いったん大体これでいくというふうにセットされても多少の不確実性はまだ残るという、何とも断定のしにくい状態が続くかなと思います。それと余談になるかもしれないですが、関税の体系が決まっても、その経済への影響というところは、これまでにない規模の関税の発動ですので、なかなか不確実性は大きいということだと思います。
そのうえで次の利上げのタイミング等については、これは繰り返しになりますが、今回の中心的な見通しにどのように沿って経済が動いていくか、それから、見通しの確度がやや低い中で、関税を含む諸条件の変化で見通しの変更を迫られるケースもかなりの確率であると思いますので、そういうことがどういうふうに起こるか次第で大きく前後するというふうにお答えしておきます。
(問)
今、縷々総裁にお話し頂いた経済の見通しに関連してなんですが、利上げの判断に当たっては賃上げが続くかどうかというのも重要になってくるかと思います。来年の話をすると何とかと言いますが、ただ、今年の冬のボーナスですとか、来年の春闘といったところについてもある程度見通せるかどうかということが、次の利上げの判断に際して大事になってくるのではないかと推測していますが、この辺の見方ですが、どういうふうに判断をしていくか、そもそもその手前で利上げについては判断できるのか、そういったことについて教えてほしいです。
もう一点、時々質問が出るETFの処分についてなんですが、今回のトランプの関税の影響でこの辺の検討状況に変化があるかどうか、この辺についても併せて教えてください。
(答)
確かに関税がかかってきて、それが企業収益にマイナスの影響を与えるであろう、そうすると冬のボーナスとか来年の春闘に影響を及ぼす可能性がある、それはまたその後の物価に、というメカニズムがありますので、そこは重要なポイントだというふうにみています。ただ、そこを絶対待たないと何か決断できないというわけでもなくて、例えば手前の企業収益の動向に関する先行指標等から、ある程度賃金の先行きを推し量ることもできますし、そもそも関税政策が日本を含めて世界に対してどういう姿になるかということからもある程度見当がつく。それは見通しを修正するかどうかということとも関係してきますが。ということですので、一つの指標、大事な指標であっても、そこの高低大小で利上げの判断が決まってくるということではないというふうに言わざるを得ないかと思います。
それからETFについては、引き続き時間を頂いて検討中でございます。
(問)
総裁、不確実性が非常にきわめて高いということなんですけれども、今回この展望レポートを出されてですね、市場の受け止めとして2%と整合的な水準になるのが約1年遅れたことによって、利上げのペースに関しては緩やかなものになるだろうっていう受け止めが多数だと思います。ただ総裁がおっしゃってるのは、この不確実性の高い中で必ずしもそうではないっていうことをおっしゃってらっしゃるんでしょうか。
あと国債の買入れについてですけれども、次回会合で議論されるということですが、最近の超長期金利の動きだとか、債券市場全体のボラティリティだとかを受けてですね、もっと減速ペースを来年度ですね、26年度に早めるべきだとか、いやそうじゃないという意見もいろいろありますよね。今、総裁、そういったことについてはどういうふうにお考えになってるんでしょうか。
(答)
前半ですけれども、これまで申し上げたことと重なりますけれども、確かに基調物価が単純に言えば2%に到達するという時期は、やや後ずれということでございますけれども、そのうえで必ず利上げの時期が同じように後ずれするかということは必ずしもそうではないということを二つのポイントで申し上げてきたと思います。それは基調的物価の辿るであろう経路がやや複雑なもの、要するに途中で足踏みするというようなものになりそうですので、そのどこでどういう判断をするかというのは難しいポイントになるかなということが一つと、それから中心的見通し自体が変わる可能性も随分あるということだと思います。
それから国債の買入れについては、中間評価でこれまでの経験をレビューするわけですけれども、おっしゃった点を含めまして、市場参加者会合でのやり取りも含めて市場の機能度等について判断していきたいというふうに思っています。
(問)
国内物価に関して二点伺います。一点目が海外が騒がしくなってちょっと霞んでしまってますけれども、国内のインフレは、年度ベースでみると日銀の見通し期間と同じスパンの3年間2%を超すというか3%台となってます。一方で、実質金利はきわめて低い水準で推移しておりまして、そうした情勢下で不確実性はきわめて高い局面に入りました。この局面での政策判断の考え方をちょっと改めて伺いたいなと。正常化のタイミングが遅れたある種のビハインド・ザ・カーブに陥っているのではないのか、現状の認識を伺えればと思います。
あともう一点は、構造的な人手不足について伺います。展望レポートの物価のリスク要因に、企業の賃金・価格設定行動やそれが予想物価上昇率に与える影響をみられて、上振れリスクについても触れられていますが、労働供給構造の変化が中長期的なインフレ動向にどういう影響を与えているとみているのか、例えば昔は土曜日も働いていたりですとか、あと働き方改革を伴いながら、時間管理されている労働者の割合が変わっていたりですとか、過去の労働市場との関係で、少し長い目線の物価動向見通しを伺えればと思います。
(答)
消費者物価総合では3%を超えるインフレ率が足元続いていまして、これは直ちに2[%]に下落するとか2[%]を下回るという状況ではないわけですけれども、一方で、これも前から申し上げています通り、数字できっちりお示しすることができないのは、なかなか申し訳ありませんが、基調的物価上昇率は、2%をやや下回っているというふうにみています。上昇してきてはいるけれども、2%まではある程度の距離があるというふうにみていたわけですが、従って金融緩和基調を、ここまで調整しながらも維持してきたということでございます。ちょっと先に行きますけれども、この基調的物価上昇率がどんどん急上昇してくるということになれば、場合によってはビハインド・ザ・カーブということだと思いますが、これまでのところゆっくりとした上昇できている、ということで、ビハインド・ザ・カーブではないというふうに考えてきましたし、更に今回の見通しにありますように、少し先にいって、基調的物価の上昇には足踏みの可能性が出てきている、という中では、現在の金融緩和の程度を取りあえず、少なくとも今回の会合では維持するのが適当というふうに考えたところです。
それから、労働供給のこれまであるいは今後ですけれども、よく言われていることですけれども、労働者不足の中で、更に働き方改革の影響もあって、総労働時間がなかなか伸びない。ただその中で、これをやや打ち消す方向に動いてきた点としまして、高齢者と女性の労働参加率が高まり続けてきたということだと思います。これはある意味では足元でも予想以上に長引いてというのも変ですけれども、そうした動きが継続していることもあって、雇用が少しずつ伸びる状態が続いているということだと思います。ただ長期的な視点からということでは、こうした動きも、どこかで頭打ちになってくるということを覚悟しておかないといけないということだと思いますし、そうした意味での中長期的な人手不足という問題が存在するということは、私どもの経済・物価見通しの一つの柱にもなっています。
(問)
一点目、今後の金融政策の運営の方針のことで伺いたかったんですけど、今回、利上げの方向性っていうのは維持されてると思います。ただ、見通しをみるとかなり不確実性も高くて、基調的物価も足踏みするっていうようなパスも想定されてるという中で、利上げの方向性、1回例えば利上げをストップしますだとか、もっとニュートラルな方向性を示すこともできたのかなとも思うんですけれども、そうはせずに利上げの姿勢を維持してるっていうところのその理由を伺わせて頂ければと思うのが一点です。
もう一点がちょっと確認になって恐縮なんですけれども、物価安定目標達成する時期、見通し期間の後半っていうことで、これは25年度、26年度、27年度の3年度の中の後半、つまり26年度の後半から27年度中のどこかっていうそういうことでよかったでしょうか。
(答)
まず後半から申し上げますと、おっしゃる通り。ただ、そうは言っても、今後のデータの出方次第によってその中の後ろの方に寄ったり、少し前倒しになったりということは十分あり得るかと思います。
それから、基本的に、金融緩和度合い調整ないし利上げの方針を維持する理由は何かという前半のご質問ですけれども、下方修正になったとはいえ、お答えとしてはこの見通し期間の後半ではありますが、見通し期間内に基調的物価が2%に大体到達するという見通しが維持されているということでございます。
(問)
正直言いまして今回の展望レポートはがっかりです。私が接している企業関係者の景況感とは全く大きなギャップがありますね。これは何も私が取材でそう感じているというだけでなくて、最近の決算をみれば明らかに企業が萎縮し始めてることははっきりしてると思います。例えば昨日のある企業の決算発表ではですね、大幅な減収減益、今年度ですね発表しつつ、配当についてはですね、前の期については増配しているにもかかわらず、今期については前の期の半分以下にまで落としたんですよ。自社株買いもしないと言ってんです。ものすごく萎縮してますよ。この展望レポートでは下振れリスクをですね、通商問題だけに求めているようにしか読めませんけれども、そもそも今年の初めから生成AIのバブルがはじけていて、米国のIT大手は、データセンターの投資などを抑制し始めてましたよね。これはトランプ以前からです。ですから、トランプ問題、トランプ関税問題が解決したからといって、景気の下振れリスクは全く解消しないんですよ。と私は思いますけどね。これは市中の人たちも相当そう考えてるんですよ。日銀がこんなレポートを出すのは、利上げに固執してですね、最後の政策対応とかそうですよね。引き続き利上げ、さっきの方言ってましたけども、利上げに固執しててね、政策の正常化ということにこだわり過ぎて、今の動きを見誤ってるんじゃないですか。それが証拠にと言えばオーバーですけれども、今年に入ってから日米の株式市場はずっと売り超ですよ。何もトランプ政権が、トランプが関税を出してからじゃないんです。もちろん加速してますけどね。今こういうレポートを出していたら、それこそ不確実性が増してしまうと思いますよ。市中の人たちの。日銀がいざとなったらば、大きく動くのだということを表明できなければ、不確実性は増すばかりだと思います。これについてはどうお考えなのか教えて頂きたい。
(答)
まず日本経済ですけれども、申し上げましたようにハードデータをみますと、これまでのところ順調な姿できています。経済・物価の動きですね。それから、様々なマインド指標をみてもですね、家計や企業コンフィデンス、例外的なものはありますけれども、これまでのところ、ある程度しっかりした動きが続いています。ただ、それでも私どもとしましては、関税政策が発動され、ある程度のレベルで残りそうだということで、足元のデータにまだ表れていないけれども、今後、経済に下押し圧力がかかってくるだろうということを考えて、それを前提に見通しを作ったところでございます。諸外国はもうちょっとマインド指標に表れているというところも、いくつかありますけれども、ハードデータはこれまでのところ、どちらかといえばしっかりしてるという国が多いと思いますが、それでも先行きを心配しているという点は同じかと思います。それからトランプの政策がなかったら経済は強かったか弱かったか、今非常に難しい問題だと思いますが、例えば日本の設備投資等をみますと、構造的な要因、デジタル化への対応とか、人手不足への対応の設備投資が構造的に根強く続いていて、経済を引っ張る、特に関税政策の影響が一巡すれば、また引っ張り続けるだろうという予想は十分に立つのではないかなというふうにみて、それも今回の見通しにはある程度含めているところでございます。
(問)
やはりね、今の見解では、マーケットは不安になるだけだと思いますね。なぜかというと、要するに、米国も中国も大きな金融不均衡を抱えてますよ。それがはじけるかもしれないというような見通しを立て始めたエコノミストもいますよ。そんな中でですね、下振れについては、下振れリスクについてこの程度の認識なのかっていうことは、非常に日銀としてはですね、問題があるんじゃないかと。私はこういうような見解を利上げにこだわってし続けるのであれば、中央銀行はいらないというような議論が出てきてしまうんじゃないかと思うぐらいですよ。もう一度伺いますけれども、見通しをさっきの人も伺ってましたけどね、なぜニュートラルな、いや、経済が悪くなったら全力で支えるとかね、正直言って利下げをしてどうなるような問題じゃないと思いますけれども、そのときはですね。利下げはあんまり効かないと思うので、もはや。そういうことじゃなくて、総動員でいろんなそういうことをね、総動員する可能性もあるし、その覚悟もあるんだというようなことを言うべきだったんじゃないですかね。
(答)
まず見通しについてですけれども、対市場でも対家計・企業であっても、例えば関税政策を巡る不確実性について無視するという態度はいけないと思いますし、当然のことですが。一方でその影響を現時点で過大評価するということもあってはならないことかなというふうに思います。私どもとしてはベストエフォートで中立的に中心的な見通しを出し、そしてそのうえで上下のリスク要因も指摘したというところでございます。それから、そうした見通しがややこれまでと比べて確度が低い可能性がある、従って見通しが変わる可能性があるということも申し上げました。見通しの変わり方によっては、政策の対応が必要になり、それがいろいろな政策の可能性があるということも申し上げたかと思います。
(問)
今回展望レポートで見通しが下方修正されて、今まで以上に不確実性が高まっていて政策判断も難しくなってきている中で、これまでのオントラックとは変化したと受け止めていいのでしょうか。また不確実性がこれだけ高まっている中で、柔軟に考えるという点では利下げの局面が早めに来る可能性もあるのでしょうか。
(答)
これは前回の見通しですね。ですから1月に出した見通しに沿っているかどうかという意味では、ちょっと前までの足元までのデータはオントラックであったということだと思います。しかし、関税政策の将来の経済への影響を考えて見通しを変えたわけです。それに経済が沿って動いているという意味でオントラックかどうかは、まだ見通しを変えたばかりですので、今後のデータをみてみないと分からないという状態だと思います。その意味で今回の見通しに沿って、そういう意味でオントラックにいくかどうか、それはどういう姿でオントラックなのか、あるいは見通しが変わるかもしれない、そういうことが今後の金融政策に影響してくるというふうに申し上げているところでございます。
(問)
消費のことでお伺いしたいんですけども、本日の展望レポートをみると、先行きに関しては、春闘での賃上げを受けてしっかり賃金が上がっていく見通しで緩やかな増加基調ということだと思うんですけれども、日々のデータというか日銀が出してる消費活動指数をみても非耐久財はずっと下がってますし、食料品の値段も下がってるとはいえずっと高止まりなんですけれども、やっぱりGDPのうちの6割を占める消費のところが崩れてはいないんでしょうけども、勢いがあるという感じもしないんですけども、今後先行きのことでお話も出ました冬のボーナス、もしそれが下振れすると来春の賃金にも影響するし、そうなってくるとその消費者のマインドのところも冷えて、更にその消費を控えるようなことになるかと思うんですけども、その辺のところを現時点でどうお考えなのかをお伺いしたいと思います。
(答)
消費については、緩やかな増加基調を維持しているという判断を一応維持しております。おっしゃったように食品価格が上昇し、野菜の値段は下がり始めてるわけですけれども、米の価格は高水準が続いていて、更にそれだけでなくて加工食品に波及が続いています。こうしたことが一部の消費を弱めているということは確かかと思います。ただそれが消費全体には、波及、必ずしもしていないという中で、消費全体はゼロをちょっと上回るくらいの成長率で、弱いですけれども増加基調を維持しているというふうに言っています。取りあえず少し先の冬のボーナスとか、来年の春闘についてはちょっと不確実性があるわけですけれども、今年の春闘については強い姿で大体決まりつつある。一方で今申し上げた食品価格の上昇等は、だんだん落ち着いてくるというふうにみていますので、実質の賃金は良い方向に動いていくということが期待され、これが消費をサポートするというふうにみています。実質賃金はこれからだと思いますが、実質の可処分所得等は取りあえず足元増加しています。雇用の影響が入ってるということで。これらも消費をサポートする方向であるというのが、一応私どもの中心的な見通しでございます。
(問)
基調的物価上昇が足踏み状態に入るというお話でしたけども、実現の確度が高まっていると判断できれば利上げをする可能性っていうのは十分にあるのかをちょっとお伺いしたくて。その場合は、賃金の上昇の強さなどが利上げのトリガーになり得るのでしょうか。
(答)
今日お示しした中心的な見通しに沿って、経済が大体動いていく中でも、その見通しが実現、つまり、来年度後半以降(注)には2%に到達するということについて、自信がかなり持てれば、それはある程度持てたという段階で利上げになるという可能性は十分考えられるということだと思います。
(問)
総裁、先ほどビハインド・ザ・カーブは否定されましたけれども、やはり現状をみてますと絶好の正常化のチャンスを逸してしまったんではないかっていうような感じにも受け取れております。ゆっくりやってきた前提というのは先ほどお話あったように基調的物価上昇率が2%に達してないってことですけれども、その基調的物価上昇率って非常にブラックボックス的な指標の前提っていうのは、おそらく賃金と物価の好循環があり得るという前提だったと思うんですが、現実に起きていることはですね、2年連続で非常に高い春闘の賃金上昇率が、賃上げがあったにもかかわらず、ほとんどの月で実質賃金がマイナスになってると。つまり現実に起きてることは、賃金と物価の悪循環が起きてるわけですけれども、そもそも植田総裁が追い求めていた賃金と物価の好循環というのは幻想だったんではないんでしょうか。
(答)
賃金と物価の好循環はある程度回っているというふうに、もちろん考えております。ただ、やや誤算だったという意味では、去年の半ば過ぎから、食品価格の上昇が目立ってきた、これが以前に使っていた言葉で申し上げれば「第一の力」がまた出てきたような動きで、賃金がある程度上がっているにもかかわらず、実質賃金を抑えてきたという動きになっているということだと思います。それからもう一つ、好循環という意味では、まだかなと思いますのが、賃金が上がり続けていますし、今回の春闘も強いわけですけれども、財価格への波及はある程度進んでるわけですけれども、サービス価格のところへの波及がもう一つ思ったほどのところではないかな、というところを注意してみております。
(問)
総裁、先ほどですね、関税の体系が決まってきてもですね、これだけ大きな規模の関税ということで不確実性が高いままだというふうなお話があったかと思うんですが、このまま不確実性の高い状態が続いたとして、中期的な見通しっていうところも常に変化し得るっていう状況の中でですね、その都度都度の時点で政策判断、利上げの判断というのは理屈としてし得るんでしょうか。その考え方を教えてください。
(答)
そこは程度問題だと思いますが、ある程度固まっても、その後また変更されてしまうというリスクは常に残ると思いますが、それでも、例えば90日間内外にはある程度不確実は低下するというふうにはみています。
(問)
端的にお聞きしますが、今回のトランプ関税を巡るこういった経済・物価情勢の混乱というのは、日本の金利の利上げ到達点、ターミナルレートといいますか、そういったものにはどのような影響を及ぼすというふうに理解すればよろしいんでしょうか。
(答)
インフレ目標には変化はないわけですから、自然利子率がどうなるかということ次第だと思いますが、そこは直ちに直接自然利子率に大きな影響があるというのは、なかなか言いにくいかなと思います。もちろん関税がずっと入るということは資源配分の効率性上はマイナスなわけですけれども、それが直ちに大きな自然利子率の、例えば、低下に結びつくという結論、すぐにはなかなか出せないかなと思っております。
(問)
先ほど来、基調的物価の上昇がですね、足踏みするという言及されているんですけども、これが緩やかに下がっていく、そういうリスクを総裁がどうみてらっしゃるのか。関税を巡るですね、不確実性が長引いて先ほど言及されていたサービス価格ですとか、あるいはこれまで進んできた価格転嫁の動きがですね、止まったりするそのようなリスクをみてらっしゃるのか、お願いします。
(答)
それはあり得ると思います。具体的には、企業収益が関税で下押しされる中で、企業が暫く前までのコストカット型の行動様式に戻る傾向を示し始めるというような場合に起こり得るかな、というふうに思っております。
(問)
アメリカの経済政策のですね、為替市場に対するリスクについてお考えをお聞きしたいんですけれど、ご承知のように、現在関税政策をですね、安全保障と絡めたりしてやってる、これまでにない対応ですけれど、そこのベースとなってるのがアメリカの大統領の経済諮問委員会の委員長のミラン委員長のですね、ミラン論文にあると言われてますが、ご承知のようにミラン論文では準備通貨高をですね、ベースに、アメリカの俗にいう基軸通貨の強いドルを維持しつつも、ドル安をですね、実現できるっていう方法論が記されてまして、それが正しいかどうかは別にしてですね、実際にそういうふうにやっていこうとしたときに、現状の金融政策で、日銀のみならずですよ、いわゆるゲームチェンジを仕掛けてくるような相手に金融政策でどこまで対応できるとお考えなのか、ちょっとご見解をお伺いしたいと思います。
(答)
これは外国の政策担当者の為替レートに関するご意見に関するご質問ですので、恐縮ですがお答えを控えさせて頂きたいと思います。為替はファンダメンタルズに沿って安定的に推移するのが望ましいということだけを申し上げておきます。
(問)
不確実性のことなんですけども、思ったよりも早く晴れていって、逆に利上げを急がなきゃいけないケースとか、そういった可能性はどれだけあるとみていらっしゃいますか。
(答)
それは例えば何らかの理由で、トランプ大統領が関税ゼロにするとか、あるいはきわめて低い水準で満足するというオプションを取られたときに、場合によっては起こり得るということだと思います。
(問)
物価の基調が伸び悩むようなことが今後想定される中で、それでも利上げは必要があればやるということだと理解してるんですけれども、その物価の基調が伸び悩むことが予想される局面で、利上げをするとしたら、どういう必要性といいますか、どういう理屈でやるものなのでしょうか。
(答)
基調的物価上昇率が伸び悩んでいるときに、無理に利上げをするということは考えていません。ただ足元は伸び悩んでいるけれども、その先いろいろな条件が重なって、また上がり出して2[%]に到達する可能性がすごい高くなったなと判断した場合にはやるということだと思います。
- (注)会見では程度と発言しましたが、正しくは以降です。本文に戻る
以上