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総裁記者会見 2025年6月17日(火)午後3時30分から約65分

2025年6月18日
日本銀行

(問)
本日の金融政策決定会合の内容について、総裁ご説明をお願い致します。

(答)
今日の決定会合では、金融市場調節方針を決定したほか、昨年7月に決定しました長期国債買入れの減額計画の中間評価を行い、それを踏まえて、2027年3月までの新たな減額計画を決定しました。最初に、これらの決定内容についてご説明します。まず金融市場調節方針ですが、無担保コールレート・オーバーナイト物を0.5%程度で推移するよう促す、というこれまでの方針を維持することを全員一致で決定しました。

次に長期国債買入れの減額計画です。本日の会合では、先日の債券市場参加者会合など、市場参加者のご意見も参考にしつつ、国債市場動向と機能度を点検しました。その結果、国債買入れの減額については、月間の買入れ予定額を2026年1~3月までは原則として毎四半期4,000億円程度ずつ、26年4~6月以降は原則として毎四半期2,000億円程度ずつ減額し、27年1~3月に2兆円程度とする計画を賛成多数で決定しました。なお、田村委員は、長期金利の形成は市場と市場参加者に委ねるべきであるとして、27年1~3月まで月間買入れ予定額を原則として毎四半期4,000億円程度ずつ減額するという議案を提出されましたが、この議案は反対多数で否決されました。新たな減額計画の基本的な考え方は、従来から変わりません。すなわち、長期金利は金融市場において形成されることが基本であり、日本銀行による国債買入れは、国債市場の安定に配慮するための柔軟性を確保しつつ、予見可能なかたちで減額していくことが適切である、と考えています。このうち予見可能性という点では、27年3月までの月間買入れ予定額を具体的に示すことにしました。また柔軟性を確保する観点からは、来年6月の決定会合において、新たな減額計画の中間評価を行うこととしました。中間評価では本日の会合同様、それまでの減額の経験も踏まえ、国債市場の動向や機能度を点検する方針です。今回の減額計画を維持することが基本と考えていますが、点検の結果、必要と判断すれば、適宜計画に修正を加えることになります。また、その時点で、2027年4月以降の国債買入れの方針についても検討し、その結果をお示しする予定です。加えて、これまでと同様、通常の市場の動きとは異なるようなかたちで、長期金利が急激に上昇するといった例外的な状況においては、市場における安定的な金利形成を促す観点から、機動的に国債買入れの増額や指値オペ、共通担保資金供給オペなどを実施します。なお、必要な場合には、決定会合において、減額計画を見直すこともあり得ると考えています。

続いて、金融市場調節方針決定の背景となりました経済・物価動向についてご説明します。わが国の景気の現状については、一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復していると判断しました。先行きについては、各国の通商政策等の影響を受けて、海外経済が減速し、わが国企業の収益なども下押しされるもとで、緩和的な金融環境などが下支え要因として作用するものの、成長ペースは鈍化すると考えられます。その後については、海外経済が緩やかな成長経路に復していくもとで、成長率を高めていくと見込まれます。物価については、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、賃金上昇の販売価格への転嫁の動きが続くもとで、既往の輸入物価上昇や米などの食料品価格上昇の影響もあって、足元では3%台半ばとなっています。先行きについては、既往の輸入物価上昇や、このところの米などの食料品価格上昇の影響は減衰していくと考えられます。この間、消費者物価の基調的な上昇率は、成長ペース鈍化などの影響を受けて伸び悩むものの、その後は成長率が高まるもとで、人手不足感が強まり、中長期的な予想物価上昇率が上昇していくことから、徐々に高まっていくと予想されます。展望レポートの見通し期間後半には、物価安定目標と概ね整合的な水準で推移すると考えられます。見通しを巡るリスク要因としては様々なものがありますが、特に各国の通商政策等の今後の展開や、その影響を受けた海外の経済・物価動向を巡る不確実性はきわめて高く、その金融・為替市場やわが国経済・物価への影響については、十分注視する必要があります。

最後に金融政策運営についてです。金融政策運営は、現在の実質金利がきわめて低い水準にあることを踏まえますと、以上のような経済・物価の見通しが実現していくとすれば、経済・物価情勢の改善に応じて引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになると考えています。そのうえで、こうした見通しが実現していくかについては不確実性がきわめて高い状況にあることを踏まえ、内外の経済・物価情勢や金融市場の動向等を丁寧に確認し、予断を持たずに判断していくことが重要と考えています。日本銀行は、2%の物価安定の目標のもとで、その持続的・安定的な実現という観点から、経済・物価・金融情勢に応じて適切に金融政策を運営していく方針です。

(問)
幹事社からの質問は二問です。まず一問目は、国債買入れの減額計画についてお伺いします。26年4月以降に四半期毎の減額幅を2,000億円にした理由を教えてください。26年3月までと比べて半分のペースに緩めるうえで、どういった観点を重視したのかを具体的に教えて頂ければと思います。

二問目は、経済・物価情勢の考え方についてお伺いします。足元のインフレ率は3%を超えています。5月の展望レポートを出したときと比べて物価上振れリスクは高まっているとお考えになりますでしょうか。また、今後の利上げ判断において経済の不確実性も考慮し、どういう指標を重視するかについて教えてください。

(答)
まず国債買入れの減額計画ですが、基本的な考え方はこれまでと同じでございます。すなわち、長期金利は金融市場において形成されることが基本であり、日本銀行による国債買入れは、国債市場の安定に配慮するための柔軟性を確保しつつ、予見可能なかたちで減額していくことが適切と考えています。そのうえで、金融市場において長期金利がより自由なかたちで形成されていくようにするためには、国債買入れ額を更に減額していくことが望ましいと考えられます。一方で、国債買入れの減額が進展する中で、今後の減額ペースが速過ぎますと、市場の安定に不測の影響を及ぼす可能性もあるとみています。本日の会合では、市場参加者の意見も参考にしつつ、この両方の考え方のバランスを勘案し、国債市場の安定に配慮したかたちで市場機能の改善を進めていけるよう、申し上げましたように、来年の1~3月までですね、[毎四半期]4,000億の減額を続け、26年4月以降は月間買入れ予定額を、[毎四半期]2,000億円ずつ減額して、27年1~3月に2兆円程度とするということが適当と判断したところでございます。

経済・物価情勢ですが、先ほども申し上げましたように、本日の会合では、前回会合時点からわが国の経済・物価を巡る大きな構図に変化はないと判断致しました。直近の消費者物価の上昇率は3%を超えていますが、これにはこれまでの輸入物価上昇や米を含む食料品価格上昇が大きく影響しています。こうした物価上昇が国民生活にマイナスの影響を与えていることは、十分に認識しております。先行きについては、これらの影響は減衰していくと基本的には考えています。ただ、物価を巡って上下双方向のリスクがあるとみています。コストプッシュによる物価上昇が、人々のマインドや予想物価上昇率を介して、基調的な物価上昇率に二次的な影響を及ぼす可能性があることも認識しておく必要があります。そのうえで現時点では、各国の通商政策等の今後の展開や、その影響を巡る不確実性がきわめて高いことを踏まえると、先月の展望レポートで示した通りですが、経済・物価ともに下振れリスクの方が大きいと判断しています。日本銀行としては、今後明らかとなるデータや情報を引き続き丁寧に確認し、経済・物価情勢を点検してまいりたいと思っております。不確実性がきわめて高い状況にあることを踏まえますと、各種のデータに加えまして、本支店を通じて得た企業ヒアリング情報を含め、できるだけ幅広い情報に基づいて分析を行うことが従来以上に重要となっていると考えています。

(問)
二点お伺いします。まず利上げの考え方についてですけども、今後、経済が減速していく見通しの中で、経済の改善に応じて政策金利を引き上げていくというお話でした。その判断においてデータが重要になると思うんですけども、データの改善がなかなか追い付いてこないけれども、見通しとしては上がっていくという見通しがついた段階でもう利上げという判断はあり得るのか、というところを一点目教えてください。

もう一点が国債買入れの減額について、先ほど減額ペースについては債券市場の安定に配慮したというお話がありました。金利の急騰に対する配慮だと思うんですけども、これは財政に対する配慮という面もあるんだと思いますが、この点を総裁はどのようにお考えでしょうか。それも踏まえてなんですけれども、減額のペースを緩めなくてはいけないということを考えると、それは異次元緩和の副作用といったものがまだ顕在化してきているという面もあるのかなと思いますが、その点も含めて総裁のお考えをお願いします。

(答)
今後の金融緩和度合いの調整を判断するに際してのデータの点ですけれども、難しい局面にありまして、前回も申し上げたかもしれませんけれども、センチメント関係の指標は今悪いものが割と増えてきています。世界的にですね。一方でハードデータについては、いろんな理由がありますが、まだしっかりとしているという大まかには感じかと思います。ですので、おっしゃったように悪いのが良くなってきたところ、そのどこのタイミングで利上げをするのかという話のまだ手前にありまして、悪くなっていない段階で。ただし、例えばタイミング的にいえば、今年の後半ですね、7月以降後半に入りますけれども、いくつかのデータに悪い動きがみられるんではないかというふうに予想している人が多いかと思います。そういう動きがどれくらいになっていくか、われわれの見通しとの関係で、それとの判断、比較において見通しが実現しそうかどうか。その判断次第では、はっきりとそこから先もう1回上向きに転じるっていうところが確認できなくてもというご質問の点は、確か1、2回前にもそうお答えしたと思いますが、その通りかと思います。見通しの確度次第ということになるかと思います。

それから買いオペの減額についてですけれども、これは申し上げるまでもなく財政の配慮というよりは、あまり早めに減額を進めて、国債金利が異常なボラティリティを示す、それが経済にマイナスの影響を与える、そういうことが起こらないようにという配慮からの今回の措置でございます。従って、大規模緩和の副作用ということとの関連で申し上げれば、副作用が顕現化しないように注意深く進めているということかと思います。

(問)
国債買入れの減額について伺いたいんですけれども、一つは、今回、来年4月以降の減額のペース緩和を判断するに当たってですね、4月から5月にかけての超長期金利の急騰というものがどの程度その判断に影響を及ぼしたのか。仮に何らかの影響を及ぼしたとしたらですね、なぜこの足元の計画ではなくて来年4月以降の計画での対応になったのかということを伺えますでしょうか。これはまず一点です。

もう一つはですね、これも来年4月以降の減額計画なんですが、この計画でいきますと1年後には月間の買入れ額が2.1兆円まで減るということになりますが、総裁としては、これで減額は打ち止めだと考えていらっしゃるか、あるいは更にその先もですね減額を進めるべきだと考えていらっしゃるか、仮に進めるんだとしたらですね、どの程度の水準が着地点だと考えてらっしゃるか伺えますでしょうか。

(答)
まず、例えば4月、5月の超長期債市場の動向をみたうえでの対応かというようなご質問だったと思いますが、それも含めて、国債市場全体の状況、機能度をみて、今回の決定になったということであります。ただご指摘のように、当面は4,000億で減額をしておいて、先に行って2,000億に減らすということですので、将来の金利あるいは国債市場の不安定さを未然に防ぐための措置であるというのが基本的な考え方でございます。

それから2.1兆円、27年1~3[月]期に予定通りいけばなるわけですけれども、そこで打ち止めなのかあるいはどこまで、どの辺が適当かと考えるかというご質問だったと思いますが、これについては、来年の中間評価の段階で改めて考えを示せればというふうに思っております。

(問)
先ほど物価の先行きについて少し言及がありましたが、食品価格の上昇と併せて、イランとイスラエルの間の中東情勢の緊張によって、原油価格の上昇も今後懸念されるところですが、既に基調的なインフレが2%に近づいている中でこうしたコストプッシュの上昇圧力と原油価格の今後先行き次第では、物価の上振れリスクが無視できなくなる可能性がどれぐらいあるのか、先ほどはやはり景気・物価ともに下振れリスクが依然大きい、より大きいということでしたが、そのバランスが今後変化して、物価の上昇が家計のインフレや基調インフレに影響を及ぼすリスクがどの程度になりそうなのか、ちょっと原油価格の動向を含めて展望をお聞かせできればと思います。

(答)
お答えは、基本的に注意深くみていきたいということに尽きてしまうんですが、おっしゃるように、食品関連の価格上昇に加えまして、足元、イラン、イスラエルの問題で原油が上昇している。こうした動きが広がったり続いたりする場合には、期待物価上昇率とか基調的物価上昇率に二次的な影響を与えるリスクはあると思っています。現状そこまで至っていないと思いますけれども、そこについては注意深くみていきたいということであります。ただし一方で、先ほども申し上げましたように、通商政策の影響がだんだんこれから出てきて、製造業、特に製造業ですね、の企業収益が低下に向かう、それが場合によっては、暫く前まで続いていたようなコストカット型の価格、あるいは賃金設定行動を復活させるというリスクも無視できないと思いますので、両方注意深くみていきたいと思っております。

(問)
金利操作に関してお伺いしたいんですけども、現状日銀では目標とする2%の物価と推計された中長期の予想インフレ率で説明されてると思うんですけど、諸外国をみると金融政策運営に関しては実際の物価と目標の物価を使って説明されてるというか、金融政策を運営されてるかと思うんですけど、欧米のように2%でアンカーされているという点があるかもしれませんけれども、日本でやはりその目標とする2%の物価と中長期の予想インフレ率で説明するのがなかなか分かりにくいと思うんですけども、その辺を現状どういうふうにお考えかということと、それに絡めて日本でも中長期的に2%でアンカーされることが必要だということでよろしいんでしょうか。そうすると、結構金融政策の運営スパンが長いような気がするんですけれども、その辺をどういうふうにお考えかよろしくお願い致します。

(答)
基本的には2%の目標インフレ率を短い期間だけではなくて、持続的・安定的に実現するためにどういう政策運営が良いかという観点から政策を行っています。これはある意味では、あるいは少し広くとれば、他の中央銀行も同じかなと思います。ただ、持続的・安定的に2%が実現されるためにはということで、われわれは基調的な物価上昇率という概念を使い、様々な指標からそれをみているわけです。その指標の一つが予想インフレ率、あるいは特に中長期の予想インフレ率ということでございます。もう一度、欧米との微妙あるいはかなりの違いということで申し上げれば、予想インフレ率あるいは基調物価のところが2%にまだ日本ではアンカーされていないという点は意識しつつ、そうなるように政策を続けているということであります。

(問)
二点伺わせて頂きます。世界経済の見方の部分なんですけれども、前回の会合から今回の会合まで大きな構図には変化はなかったと先ほど総裁おっしゃられましたが、その後アメリカと中国の間での関税の引き下げの合意、結構大きな引き下げになってると思いますが、それでも世界経済の先行きの不確実性が高いっていう見方には変化がないのでしょうかというのを一点伺わせてください。

もう一点が、国債の買入れ減額とも関連するんですけども、金融政策の正常化を一段と進めていくということだと思うんです。ETFもかなり保有の残高あると思いますが、これに関してはこの先の処理というか、処分の方針っていうのはどのように今お考えでしょうか。

(答)
世界経済ですけれども、確かにアメリカと中国の間の関税については、前向きの動きが5月ですか、以降みられたわけですけれども、その後も今後の関税あるいは関税だけでなくて輸出規制がどうなるかとか、米中だけをとっても通商政策の先行きの不確実性は高いですし、他の国については引き続き不確実性が高いということだと思います。更に通商政策がどこかのレベル内容で落ち着いたとしても、それが経済にどういう影響を及ぼしていくかということについての不確実性もきわめて高いというふうに考えています。

それからETFについては、何度か申し上げてきておりますように、私どもの三原則に従って処分していける方法について時間をかけて検討していくという姿勢に変更はございません。

(問)
二点お伺いします。まず一点目、賃金の関連でお伺いします。物価とともに賃金上昇が政策判断で重要な要素になってくるかと思いますけども、関税を巡るこれまでの状況が企業の賃上げの行動に与える影響に関しては、先ほども少しお話がありましたけども、現時点でどのように考えているか、その影響の結果をどういうタイミングでみていくのか考えをお聞かせください。

二点目が、来月7月に短観が発表予定ですけども、関税の影響をまだ見極めようとしてる企業が多いかと思いますけども、判断材料になり得るのかどうかその辺りのお考えをお聞かせください。

(答)
関税から賃金へという影響の波及経路ですけれども、これはおそらく常識的には、先ほどもちらっと申し上げましたけれども、企業収益に負の圧力がかかる、それが例えば冬のボーナスであったり、長引けば来年の春闘にマイナスの影響を及ぼす可能性があるということだと思います。それについていつになったら影響の度合いが分かるのかという点は、これは非常に悩ましいかと思います。現実のデータをみないと分からないというケースもあり得るでしょうし、企業収益の悪化動向あるいはその持続性に関する情報等からある程度推測できるというケースもあり得るかなと思います。

私どもの来月の短観については、もちろんいろんな側面、業況判断とか、あるいは設備投資計画とかを含めてみていきたいと思いますけれども、そのどれがすごい重要で、それでその後の経済・物価見通しが決定的に左右されるということではないと考えております。ただ、重要な情報として、当然分析していくということになります。

(問)
二点お願い致します。まず一点目は、国債の買入れ減額計画について、先ほど来、来年4月から2,000億円に半減する狙いというか背景について、未来の国債市場の安定性に配慮されたということなんですけれども、今回決定会合で逆に2,000億に半減することでどういうリスクがあるのか、起こり得るのか、どのようなことを検討、議論されたのか教えてください。例えば、為替市場への影響というのが4,000億円の場合と2,000億円で違って、為替相場を通じて物価水準や基調的物価に与える影響など、そういったことも検討されたんでしょうか。まず一点目をお願いします。

(答)
4,000ではなくて2,000にするデメリットというご質問だと思いますけれども、マクロ的な悪影響についてはそれほどみておりません。むしろ減額を続けることによって、国債市場の機能度の回復を目指しているわけですが、そのペースが限界的にですけれども、少しゆっくりになるということはあるのかもしれないと思っています。ただし、1年先の4,000億か2,000億、それが1年間という違いですので、例えば、残高でみた私どもが保有する国債がどれくらい減るか、それが機能度に強く影響すると致しますと、そこの違いはそれもかなり限界的なものであるかと思います。限界的な違いではありますが、少し慎重に進もうということで、2,000億という数字の決定に至ったところです。

(問)
二点目はアメリカの関税と日本銀行の政策についてお伺いします。カナダ時間の昨日にですね、日米首脳会談が行われて、そこでの関税協議が合意せず、継続協議ということだったんですけども、この日米の関税の協議がどれぐらい続くかということによって、中身も重要だとは思うんですけれども、日本銀行の政策金利の調整の判断の時期に与える影響というのはどうなるのでしょうか。

(答)
これは、通商交渉自体は私どもとしては見守るしかないというふうに思いますけれども、これが後ずれすればするほど、通商政策を巡る状況が不確実であるという判断は続いていくということにならざるを得ないかなと思っております。

(問)
二問伺います。まず国債買入れ減額計画についてです。ちょうど1年前のこの会見で総裁は減額計画の策定スパンに関して、日銀の向こう1年間のオペの大まかな姿を明らかにして、そのうえで政府の国債管理政策などを決めて頂く姿勢、とおっしゃっていました。計画期間を1年延長した今回の中間評価においてもこのスタンスは変わっていないのか、改めてなんですけれども財政政策と金融政策の距離感、もう少し言うと政治と中央銀行の距離感について伺えればと思います。

二点目はちょっと今の金融政策から少し離れてしまうんですけれども、先日経済学者でFRBの副議長ですとかイスラエルの中銀総裁を務められたスタンレー・フィッシャーさんが亡くなられました。指導を受ける立場だった時期もあったかと思うんですけれども、改めて植田総裁にとってどのような存在だったのか、金融政策運営を指揮するお立場でいらっしゃることも踏まえて伺えればと思います。

(答)
まず、国債買いオペ減額に関連してというご趣旨だったと思いますけれども、政府・財務省との意思疎通はということのご質問だったと思いますが、これは様々なレベルで日頃から密接にとっております。そうした意思疎通を行ったうえで、今回私どもとしては政策委員会で今回の減額[計画]の案を作成し決定したということであります。それを少し先まで明らかにするということによって、政府にとっても発行計画にとって不確実性が一つ減るというプラスがあるかと思いますが、引き続き政府とは密接な意思疎通を図っていきたいというふうに考えております。

それから、二番目はスタンレー・フィッシャー先生についてというご質問だったと思いますが、考えてこなかったんですが、今思い出しますのは授業の中でぽろって余談で言った話としまして、経済理論の説明では数学的なモデルというものを使うことが多いんですけれども、そのモデルにいろんな種類があるんですが、完全雇用のモデルってよく言うんですが、ここでは典型的に金融政策は実体経済に効かなくて、ただし物価にはすぐ綺麗に効く、貨幣数量説の世界です。そういうモデルが一方にあります。それからもう一方に不完全雇用のモデルで、失業率とか景気循環が動いたりするというモデルで、ここでは金融政策も実体経済に影響を与えるという二分法があるんですが、前者のモデルは作るのは簡単である。ただし、言外のインプリケーションとして、現実性は少し低い。後者は現実性はあるけど満足のいく理論を作るのは非常に難しいというふうにおっしゃったことを覚えておりまして、私は今、政策を担当する中で、後者のモデルが必要なところにいるわけですけれども、なかなかいいモデルがあるかないかというところを日々悩んでいるところでございます。

(問)
今後の利上げの考え方について、二点伺います。足元、消費者物価の上昇率が3%半ばと、米の影響で想定よりも強い数字で推移しています。更に、今政府が検討している定額給付金だったり、参院選に向けて野党が表明している物価高対策は、却ってインフレ圧力を高める可能性もありますが、これが今後利上げを急がなければいけないビハインド・ザ・カーブになるリスクは高まるとお考えでしょうか。その場合、アメリカの通商政策の影響はどのタイミングで見極めるべきなのか伺いたいです。

もう一点が、日銀は政策を判断するうえで春闘など賃上げを重視していると承知していますが、毎月勤労統計をみると、最近の労働時間は減っていて、労働時間によって賃金が決まる人の所得は伸びにくくなっていると予想されますが、これを賃上げが弱まっていると解釈して利上げの判断を変える可能性はあるのでしょうか。

(答)
給付金等の財政政策それから物価への影響、利上げ判断という辺りですけれども、まず消費者物価総合のインフレ率については、おっしゃったように3%台半ばであるわけですが、これは先ほど申し上げましたように食料品価格上昇の影響が非常に強く響いてまして、私どもはここはインフレ率としては年後半に低下していくというふうにみています。そうした部分を除いた基調的物価上昇率については、これも繰り返しですが、まだやや2%を下回っていると考えています。そうした中で給付金等の措置は、インフレ率を高めるというよりは、一時的に非常に高い率になっている消費者物価総合のインフレ率の消費に与えるマイナスの影響を少し弱めて、息の長い消費のゆっくりとした成長を支えるという結果をもたらし得るものだと期待します。そうしたことが、基調的物価上昇率でどういう影響を与えていくかというところをみていきたいですし、同じようにこれは先ほど来の繰り返しになりますが、海外の通商政策の影響も、今年後半に本格化する可能性があるので、それは逆方向に基調的物価に影響を与える可能性がある。これらを総合して基調物価の見方、政策判断につなげていきたいというふうに思っております。

それから、確かに労働時間はある種社会政策として引き下げてきているという面があると思いますが、家計の可処分所得全体をみてみますと、そこそこの率で伸びている。これは賃金と雇用の伸び、両方から来ていますが、消費を腰折れさせるというようなところには至っていないというふうにみております。

(問)
一点、国債の買入れのところでちょっとお伺いしたいです。昨年4月の会見で国債の買入れについて質問があった際に、減額するときになった場合はその減額が金融政策の能動的な手段として使いたくないという総裁のご発言があったかと思うんですけど、今も同じようなお考えをお持ちかどうかをちょっとお聞かせ頂ければと思います。

(答)
国債オペの金額の増減を金融政策手段として用いないという考え方は、1年前と同じであります。主な金融政策の手段は、現在、短期金利の操作ということで行ってきております。

(問)
先ほど関税の影響に関しまして、ハードデータはまだしっかりしているというふうにご発言されましたけども、一方で足元の消費者物価は堅調に推移しておりまして、日銀も予想物価上昇率は緩やかに上昇しているというふうに判断してると思います。この間の実質金利はマイナス幅が深まる方向だと思うんですけれども、このまま不確実性ということを理由に政策判断を維持を続けた場合、ビハインド・ザ・カーブに陥ってしまう、そういうリスクにつきまして総裁はどのように現時点でお考えなのか、よろしくお願いします。

(答)
現状そういう状況ではないとみていますが、と申しますのも何度も申し上げて恐縮ですが、基調的物価上昇率が上がりつつあるとはいえ、2[%]を下回っているということ、加速感を持って上がってるという状況ではないということ、ただしこれも申し上げた通り、現在の消費者物価総合の高い伸び率が期待インフレ率への影響等を通じて基調的物価に影響していくという可能性もあり得ないことではありませんので、注意深くみていきたいと思っております。

(問)
今日、金融市場局の方から、国債補完供給に係る減額措置について、要件緩和の対象銘柄の拡充などを行うということで発表がありました。これに関しては、YCCの末期の頃に国債補完供給がそもそもの制度の趣旨から逸脱するかたちで活発に利用された結果、金利上昇圧力になって、日銀としてはこの国債補完供給について使いづらくする制度改正をしたという過去がありますけれども、今回、国債補完供給の減額措置をより使いやすくするということで、先行き金利上昇についてより上昇しやすくなるリスクについては、総裁はどのようにお考えでしょうか。

(答)
今回の措置で一方的に金利がどっちに動きやすくなるというふうには考えていないと申し上げますか、むしろ、措置の狙いは市場機能の回復の度合いを高めることであると。ポイントは、買いオペの減額を進めることによって、新発債のところの日銀保有比率はだいぶ低くなってきているわけですけれども、既発債についてはそうでない銘柄がたくさんある。そこについて、この措置を利用して頂くことによって、ある程度対応することができるということでございます。

(問)
長期金利に関連してお伺いしたいと思います。日銀が2016年にイールドカーブ・コントロールを導入したときに、日銀はそれまで長期金利はコントロールできないという見解を明らかにしておりましたが、その時点で、いや、長期金利はコントロールできるんだという見解に変えられました。今、植田総裁は、長期金利はコントロールできると考えていらっしゃいますでしょうか。いざ必要だと判断したときに、イールドカーブ・コントロールという政策は、日銀の政策の引き出しに入っているんでしょうか。

(答)
長期金利が本当にコントロール可能かどうかという点についてですけれども、決定的な答えはないと思いますけれども、場合によってはコントロール可能だということだと思います。つまり、インフレ率あるいは特に期待インフレ率がある範囲に入っていて動いたりするときに、あまり大幅な動きでないときに、長期金利に上昇圧力がかかる、それをかなり思い切って買いオペをすることによって抑えるということは可能だと思いますが、この圧力が非常に強くなっていったときに、それを無限に続けられるかというと、そう簡単ではないというふうに思います。今後YCCのようなことを再び使う可能性という部分については、どんな政策も可能性を否定はしたくないというのが今の気持ちではありますが、いずれにせよ私どものレビューで行ったような、例えば、この政策のメリット・デメリットの分析結果を意識しつつ、決定するということになると思います。

(問)
付利と預金準備率についてお伺いします。現在日銀は短期金利をコントロールするために超過準備に支払っている利息、付利の額は2024年度の決算で1兆2,517億円ということでした。今後利上げの一方で、バランスシートが大きな状態が続くと付利の額が増えると想定されます。付利対象の超過準備を規定するのは預金準備率、これは今の金融政策手法と金融環境に即して妥当なものなのかどうか。預金準備率が今、日銀の付利の支払額を通じて、国庫納付金を左右するものとなっていることを考え合わせると、分配を左右するもの、財政の領域にも立ち入ることになって、日銀が決めるべきかどうかという論点もあるかと思うんですが、総裁、この点はどのように、今の預金準備率の現在の金融政策に即した妥当性についてどうお考えかお伺いできるでしょうか。

(答)
預金準備率ないしその操作は、かなり前までは金融政策の主要な手段の一つという位置付けだったと思います。ただ、現在では、主要国ではそれを使っている国はないと思います。日本の場合は法律上は、通貨の調節を図るため必要があれば準備率の変更を検討できるという規定になっております。現状ではその必要性がないと判断しておりますので、準備率の変更を検討するということは考えておりません。

(問)
本日の総裁のご発言はですね、1か月半前の楽観的な展望レポートに比べるとですね、下振れリスクを強調され、また利上げ、次は利上げというのをきちんと封印されておられるので、大変トーンが変わってほっとしております。あのままだったならば2011年のギリシャ危機を軽視してインフレのために利上げをしたトリシェ欧州中銀に二の舞なのではないかとすごく心配でした。ただ金融危機のですね芽は全く世界中にたくさんあるような気が致します。特に気になるのは、米国で拡大したプライベート・クレジットが急速に縮小していることです。これはFRBの利上げ・利下げに影響を受けずに縮小が始まっていると思います。一部ではそれによる倒産も起こってますね。プライベート・クレジットがおかしくなると2007年のリーマンショックの前哨戦であったパリバショックに匹敵するリスクがあると思いますけれども、総裁はこれを、あるいは日銀はこれをどう分析しておられて、どう対処策を練っておられるのでしょうか。

(答)
対応策というところまでなかなかいかないですけれども、プライベート・クレジット、エクイティあるいはNBFI、ここを通じる金融仲介については今、世界中で非常にみんなが注意してみているところでございます。大きなポイントとしては、データ、活動等が他の銀行等と比べて十分に開示されていないところ、そういう業態であるわけですが、が多いので、何が起こってるかみえない部分が多いということでございます。従って、データをきちんと集めるというところからみんな協力して始めないといけないということにはなってきております。ただその中で、私どもの日本の金融機関や投資家がこういうところと取引を行っているという部分も増えてきていますので、そうした点については注意深くモニターしていきたいと思っております。

(問)
食料品価格の上昇について質問です。5月のですね、国際コンファランスの中のご挨拶の中で、総裁、食料品価格の上昇についてもう一つのサプライショックに直面しているとご発言がありました。今日の資料の中にも、その上昇の影響が減衰していくというふうに記載されてるんですけども、当時のご挨拶の中にですね、食料品価格の上昇が基調的な物価上昇率に与え得る影響に注意する必要がありますという言葉がございました。今現時点で、総裁、どういうふうに今、お米を含めてですね、この点についてどういうふうに考えてらっしゃるか教えてください。

(答)
基本的にはサプライショックで、原因からみると一時的なものであるというふうに、こうしたインフレですが、みていますけれども、基調的なインフレに影響を及ぼすとしますと、少なくとも二つのルートはあるかなと思っています。一つは賃金を企業等が設定する際に、その直前までのインフレ率の動向をみる。従って消費者物価総合のインフレ率が高いと賃金の上昇率も高くなってというふうに基調的物価のところに影響が及んでいくというケースと、インフレ予想が一般的に高いときに、サプライショックが起こると物価を上げやすい環境というふうにみんなが判断して、物価がサプライショックに応じて上がる度合いがそうでない場合よりも増してしまうという効果もあるかもしれないと思ったりしています。いずれにせよ、この辺は注意深くみていきたいと思います。

(問)
国債買入れの減額についてですね、国債市場の安定ということと市場機能の回復を非常に強調されてます。先々とはいえ、今回減額ペースを緩和したということは、今回は国債市場の安定の方をやや優先したと、そういう判断なのでしょうか。そしてその市場機能の改善についてですね、今改善としては何合目ぐらいで、機能が回復したというゴールはどんな姿をイメージされてるんでしょうか。

(答)
まず今回の判断においてはどっちを優先したということではなくて、機能回復と安定性のバランスを取った結果、今回のパッケージになったということでございます。それから、ゴールはどういう姿かということですけれども、例えばですが日銀の国債保有残高はどれくらいであるのが適当か、市場の機能度とは直接ではないですけれども間接的には関係していると思いますが、その変数、指標だけを取ってもなかなか決めがたい難しい論点がございますので、少し時間をかけて決めていきたいと思っております。

(問)
市場の一部でですね、7月にも利上げがあるんじゃないかっていう見方があります。というのも、やはり物価が上昇していると、基調も高まっているんじゃないかと。ただその一方で総裁先ほど来おっしゃっているように、まだその利上げを考えるかどうかの前のタイミングであると。ハードデータっていうのもこれから出てくると。年後半に関税が決まったとしてもその影響をみなければいけない、そういったご発言を私なりにそしゃくすると、近い将来に利上げの判断ができる蓋然性というのは低いんではないかというふうに感じるのですが、その点について、総裁お願い致します。

(答)
近い将来の利上げ判断確率について私から申し上げることは適切でないと思いますが、おっしゃって頂いたように、私も申し上げたように、ハードデータが今後どうなっていくかということはみてみたいですし、この直前にいくつか何度か議論になりましたように、今高い、しかし減速していくというふうに思われます消費者物価総合のインフレ率が、基調物価に影響を与えるというようなことに至るかどうかということもみていきたいと思います。その他様々なデータ、情報の総合判断として、利上げ確率が決まってくるということになるかと思います。

(問)
一般的な非伝統的な政策の評価っていうのは出口政策を無事終えたところで初めてできるというようなことが指摘されますが、その意味でかつて日銀が実施した銀行保有株の買い取りの分の出口政策がそう遠からず終わりそうになっています。この政策は、個別株を中央銀行が買ったという意味で結構異例で、歴史的な出来事だったと思いますが、それがほぼ無事に出口政策を終えつつあるというのは相応の意味を持つと思いますが、にもかかわらずこの政策は金融政策として位置付けられなかったために、多角的レビューでも十分に検証されなかったものと承知していますが、当時この政策の導入に審議委員であった総裁も賛成をされたと承知してますが、この政策をどのように今振り返るか、この出口政策はほぼ無事に終えられつつあることをどのように受けとめられているかお聞かせください。

(答)
確か2002年に始まった政策だと思いますが、当時金融システムが非常に不安定であった中で、その問題の中心でありました銀行、更に、不安定性の大きなポイントの一つでありました銀行保有株式のリスクを削減する仕組みとして、株式買入れを導入したところでございます。そういうことによって、金融政策でなくて、金融システムの安定性を図るという目的で実行した政策であります。結果的に銀行部門も株式保有リスク削減に取り組んだということもあって、所期の、その後金融システムも基本的には安定的に推移してますので、目的を達成したのかなと思っておりますし、処分につきましてもまだ完全には済んでないですけれども、市場への影響を極力回避しつつ、日銀の損失も回避するという方向で進められてきているのかなというふうに思っております。

(問)
国債買入れの減額のことについてなんですけれど、今回削減がこれから進んでいって不測の事態が起きないようなバランスを勘案されて、来年3月までの4,000億円を2,000億円のペースに緩やかにするというお話だったと思うんですが、この2,000億というのが他の金額、例えば1,000とか3,000ではなく、2,000にしたという理由をちょっとお聞かせ頂ければと思います。

(答)
そこは結局、総合判断といいますか、絶対2,000でなくてはいけなくて、2,500ではいけないのかということを聞かれると困りますけれども、ここまで4,000でやってきたということからすると、予見可能性という意味では、4,000をずっと続けるということに一つメリットがあったんだと思いますけれども、何度も申し上げてますが、市場安定性に配慮するということで、もう少し減らそうという決断を下したわけですが、それが切りの良いところで2,000になったということでございます。

(問)
REITの処分についてのその検討状況を教えて頂きたいと思っています。検討に当たって、ETFの処分と異なるような論点があれば、それも併せて教えてください。

(答)
これについてはETFと同じようにいつも申し上げてる原則に沿って、時間がかかってて申し訳ないですが、検討を続けております。

以上