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【挨拶】全国信用組合大会における挨拶

日本銀行総裁 黒田 東彦
2014年10月17日

目次

はじめに

本日は、全国信用組合大会にお招き頂き、誠に有難うございます。

信用組合業界は、平素より、相互扶助の理念に基づく協同組合組織の金融機関として、地域・業域・職域で活動する中小企業や個人に対して金融サービスを提供し、わが国経済の発展に貢献されています。こうしたご努力に対して、日本銀行を代表し、心より敬意を表したいと思います。

さて、本日は、最近の金融経済情勢および日本銀行の金融政策運営と、金融システムを巡る話題について、お話しさせて頂きます。

最近の金融経済情勢と日本銀行の金融政策運営

わが国の景気についてみますと、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動などの影響から一部業種に在庫調整の動きがみられており、生産はこのところ弱めの動きとなっています。もっとも、今月初めに公表した短観をみますと、企業の業況感は、消費税率引き上げの影響などから改善に一服感がみられますが、総じて良好な水準を維持しています。2014年度の事業計画についても、収益見通しが上方修正されるもとで、設備投資をしっかりと増加させていく計画となっています。また、家計部門についても、雇用・所得環境が着実に改善するもとで、個人消費は基調的に底堅く推移しており、駆け込み需要の反動の影響も、ばらつきを伴いつつも全体として和らいできています。このように、企業・家計の両部門において、所得から支出へという前向きな循環メカニズムはしっかりと作用し続けており、わが国経済は基調的には緩やかな回復を続けています。

先行きについては、輸出は、海外経済の回復などを背景に、緩やかな増加に向かっていくほか、設備投資は、企業収益が改善傾向を続けるなかで、緩やかな増加基調をたどるとみています。また、雇用・所得環境が着実な改善を続けるなかで、個人消費は引き続き底堅く推移すると予想しています。こうしたもとで、先行きのわが国経済は、緩やかな回復基調を続け、駆け込み需要の反動などの影響も次第に和らいでいくとみています。

物価情勢をみますと、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみて、1%台前半で推移しています。先行きは、暫くの間、1%台前半で推移した後、本年度後半から再び上昇傾向をたどり、2014年度から16年度までの日本銀行の経済・物価見通し期間の中盤頃に、「物価安定の目標」である2%程度に達する可能性が高いとみています。

金融政策運営については、日本銀行は昨年4月に導入した「量的・質的金融緩和」を着実に進めています。そのもとで、消費者物価は2%の「物価安定の目標」実現に向けた道筋を順調にたどっており、「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しています。日本銀行は、今後も2%の「物価安定の目標」を安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続していく考えです。もとより、今後、何らかのリスク要因によって見通しに変化が生じ、2%の「物価安定の目標」を実現するために必要になれば、躊躇なく調整を行う方針です。

金融システムを巡る話題

次に、金融システムを巡る話題についてお話しします。

わが国経済が緩やかな回復基調を続ける中、金融機関の貸出は、このところ前年比でみて2%台前半の伸び率で推移しています。貸出の内容をみると、中小企業向け貸出の伸びが高まっているほか、徐々にではありますが、業種や地域の広がりがみられるようになっています。こうした中、信用組合の貸出も、緩やかながら伸びを高めています。このように、信用組合を含む地域金融機関の貸出の伸びが高まっているのは、景気回復に伴って少しずつ広がっている資金需要に、地域金融機関の皆様が丁寧に対応してこられていることの反映だと思います。

地域経済においては、高齢化や人口減少などが地域の成長や資金需要にとって逆風となっていますが、改めて申し上げるまでもなく、高齢化や人口減少に直面しても成長できる地域の産業分野は多くあります。例えば、医療・福祉業のように高齢化のもとで需要が増加する分野や、観光業や農業のように地域外の需要を取り込みながら成長する分野です。重要なことは、こうした地域において成長できるビジネスをしっかりと育成し、活性化することによって、地域経済の活力向上、ひいてはわが国経済全体の活力向上につなげていくことであると考えられます。この課題の実現に向けては、様々な主体がそれぞれの役割を果たしていくことが不可欠ですが、その中で金融機関が果たし得る役割は小さくありません。この点、信用組合は地域の中小企業や個人に密着して事業を展開されており、個々の地域経済の状況を熟知されていますので、こうした強みを活かした役割の発揮が期待されているように思います。

既に多くの信用組合におかれては、こうした期待に応えるかたちで、それぞれの地域における資金需要に応じると同時に、事業再生や創業・新事業への支援、大学や商工団体との連携といった取り組みを積極的に進めておられます。また、PFIなどの様々な公民連携への取り組みもみられはじめており、今後の成果の拡大が期待されています。さらに、業界ネットワークを活用したビジネス交流事業の強化や、全国の組合員をつなぐ「しんくみネット」の加盟店の拡大など、業界全体としての取引先支援活動にも注力されているとお伺いしています。

信用組合の皆様がこのように地域経済に深く根差した活動を幅広く展開されていることは、地域産業の活性化を後押しするうえで、大変意義深いことと考えています。地域経済の活力向上は、信用組合自身の経営基盤の強化にもつながっていくと考えられます。今後、信用組合の皆様の取り組みが、さらなる成果をあげていかれることを強く期待しています。

おわりに

最後になりますが、今後とも、信用組合業界が取引先の幅広い金融ニーズに適切に応えながら、地域経済の活性化に貢献され、ますます発展されることを祈念いたしまして、私からの挨拶とさせて頂きます。ご清聴ありがとうございました。