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【挨拶】金融システムの現状と証券業界への期待

平成27年全国証券大会における挨拶

日本銀行総裁 黒田 東彦
2015年9月17日

目次

はじめに

本日は、平成27年全国証券大会にお招き頂き、誠にありがとうございます。日本証券業協会、全国証券取引所協議会、投資信託協会に加盟の皆様におかれましては、常日頃より証券市場の発展に尽力され、これを通じて日本経済の安定的な成長の実現に貢献されています。皆様のご努力に対し、日本銀行を代表して、心より敬意を表します。

本日は、最初に、最近の金融経済情勢と日本銀行の金融政策運営についてご説明し、次に、金融システムの現状と証券業界への期待についてお話しします。

最近の金融経済情勢と日本銀行の金融政策運営

最近の金融経済情勢をみますと、金融市場では、中国における株価の下落などを背景として、グローバルに振れの大きい状況となりました。また、海外経済については、このところ、新興国経済が減速しています。もっとも、米国をはじめとする先進国経済は堅調であり、世界全体としてみると、緩やかな成長が続いています。こうした中、わが国経済は、輸出と生産の面では、新興国経済の減速の影響がみられるものの、企業・家計の両部門で所得から支出への前向きな循環メカニズムがしっかりと作用しており、緩やかな回復を続けています。企業部門では、収益が過去最高水準で推移するもとで、積極的な設備投資スタンスが維持されています。家計部門でも、労働需給のタイト化を受けた雇用・所得環境の着実な改善を背景に、個人消費は底堅く推移しているほか、住宅投資も持ち直しています。

先行きについては、輸出は、当面横ばい圏内の動きを続けるとみられますが、その後は、新興国経済が減速した状態から脱していくにつれて、緩やかに増加していくと考えられます。また、国内の企業部門や家計部門については、今申し上げましたように、前向きな循環メカニズムがしっかりと作用しています。このため、わが国経済は、緩やかな回復を続けていくとみられます。

物価情勢をみますと、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、0%程度となっています。昨年末以降、上昇率が低下している背景には、エネルギー価格の大幅な下落があります。エネルギー価格の直接的な影響を除いたベースでみますと、物価の基調は着実に改善しています。先行きは、エネルギー価格下落の影響が剥落するに伴い、「物価安定の目標」である2%に向けて上昇率を高めていくと考えられます。

この間、金融政策運営につきましては、「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており、日本銀行は、今後とも、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続していきます。その際、これまで申し上げている通り、経済・物価情勢については上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行っていく方針です。

金融システムの現状と証券業界への期待

次に、金融システムの現状と、証券業界に期待する役割について、お話ししたいと思います。

わが国の経済・物価情勢が改善を続けるもとで、金融機関や機関投資家、家計の資産運用面でリスク・テイクの動きが拡がるなど、金融システムは機能度を高めてきています。金融資本市場でも、株価は、このところ世界的に不安定な状況となりましたが、やや長い目でみると、企業収益や実体経済の改善を反映して上昇しています。また、株式の売買高は高水準を維持しているほか、ラップ商品を含む投資信託への資金流入も続いています。この間、幅広い業種で株式の新規公開の動きがみられるなど、エクイティ・ファイナンスも引き続き高水準で推移しています。こうした中、証券会社の収益も、高めの水準が維持されています。

今後、わが国経済が持続的な成長を実現していくためには、金融システムが安定性を保ちつつ、企業や家計の経済活動を支援する機能を一層高めていくことが重要です。この点、リスクマネーの仲介機能を果たしている証券業界への期待は、益々大きなものになってくると考えています。

こうした認識を踏まえつつ、証券業界に期待される役割を、2点ほど挙げたいと思います。

第一は、投資家ニーズの変化に対し、的確に対応していくことです。

わが国家計の金融運用資産は、預金中心の構図に大きな変化はみられていませんが、このところリスク性資産の比重は着実に高まっています。こうした安全資産からリスク資産への流れは、運用環境の改善に加え、証券業界における顧客基盤や預り資産の拡大に向けた様々な取り組みが奏功している面も大きいと考えています。証券各社では、投資信託の商品性の充実やラップ口座等のサービスの拡充を図るとともに、若年層顧客の拡大に向けてオンライン取引の拡充などに積極的に取り組んでおられます。また、2年目に入ったNISAに関しても、積立商品の提案など口座稼働率の向上を企図した取り組みを強化しておられます。来年にはジュニアNISAが導入されることとなっており、家計の長期の資産形成ニーズを取り込みつつ、NISAの一層の利用拡大に繋がることが期待されています。

証券業界の皆様におかれては、人口動態や顧客のライフサイクルに応じた商品やサービスを一層充実させることを通じて、家計の資産形成の多様化をさらに後押ししていくことを期待しています。

第二は、国内外の投資家にとって魅力的な金融資本市場の形成や、市場の機能度向上に貢献していくことです。

この点、現在は、官民一体となって、わが国の金融市場が国際金融センターとしての地位を確立するために必要となる課題や施策が幅広く検討され、実施に移されています。

また、昨年2月にスチュワードシップ・コードが公表され、多くの機関投資家が受入れを表明したのに続き、本年6月には、企業側でも、コーポレートガバナンス・コードの適用が開始されました。企業価値の持続的な成長と中長期的なリターンの確保に向けて、企業と投資家の対話を促進する仕組みが強化されており、今後の普及・定着が期待されています。

この間、証券決済の分野では、決済リスクの削減や利便性の向上に向けて、証券業界が中心となって、国債や株式の決済期間短縮化に向けた検討が進められています。

いずれの検討や取り組みも、市場の魅力や機能度を高めていくうえで大変重要なものと考えています。

日本銀行としては、皆様方と協力しながら、来月に迫っている新日銀ネットの安定的な稼動開始や決済サービスの高度化、市場慣行整備への取り組みなどを通じて、わが国金融資本市場の安定性と機能度の向上に貢献していきたいと考えています。

おわりに

最後になりましたが、今後とも、皆様方のビジネスの発展、そしてわが国金融資本市場のさらなる発展を祈念いたしまして、私からのご挨拶とさせて頂きます。ご清聴ありがとうございました。