【挨拶】第92回信託大会における挨拶
日本銀行総裁 黒田 東彦
2017年4月17日
目次
はじめに
本日は、第92回信託大会にお招き頂き、誠にありがとうございます。皆様におかれましては、常日頃より、信託の機能を活かした金融商品やサービスを提供されることで、日本経済の発展に貢献されています。こうしたご努力に対し、日本銀行を代表して改めて敬意を表したいと思います。また、皆様には、平素から、日本銀行の政策や業務運営に多大なご協力を頂いております。この場をお借りしてお礼申し上げます。
経済・物価情勢と金融政策運営
私からは、まず、経済・物価情勢と日本銀行の金融政策運営についてお話しします。
振り返りますと、わが国の経済は、昨年前半にかけて、新興国経済の減速や国際金融市場の不安定化といった海外の動向に大きく影響されました。もっとも、昨年後半以降、世界経済の潮目は変わりつつあります。すなわち、先進国・新興国双方において、製造業や貿易面の改善が明確になっており、グローバルに成長モメンタムの高まりがみられています。
そうしたもとで、わが国の経済は、緩やかな回復基調を続けています。企業部門では、IT関連需要の堅調さや新興国経済の回復を背景に、輸出・生産が持ち直しています。設備投資は、企業収益が高水準で推移するなかで、緩やかな増加基調にあります。また、家計部門でも、今春の賃金改定交渉において4年連続となるベースアップが多くの企業で実現する見通しにあるなど、雇用・所得環境が着実な改善を続けています。そうした動きに支えられ、ひと頃は一部に弱めの動きがみられていた個人消費も持ち直しています。
物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、このところ0%程度となっています。先行きについては、エネルギー価格の動きを反映して0%程度から小幅のプラスに転じたあと、マクロ的な需給バランスが改善し、中長期的な予想物価上昇率も高まるにつれて、2%に向けて上昇率を高めていくとみています。2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムは維持されていますが、なお力強さに欠けていますので、引き続き注意深く点検していく必要があると考えています。
金融政策運営面では、日本銀行は、昨年9月に、「量的・質的金融緩和」導入以降の経済・物価動向と政策効果について総括的な検証を行い、その結果を踏まえ、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するため、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入しました。この枠組みのもとで、日本銀行は、経済・物価・金融情勢を踏まえ、2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するために最も適切と考えられるイールドカーブの形成を促しています。新たな枠組みの導入後、7か月ほど経過しましたが、この間、わが国のイールドカーブは、日本銀行の「金融市場調節方針」と整合的な形で円滑に形成されています。
現在、世界経済が好転するもとで、わが国の景気回復の足取りもよりしっかりとしたものになってきています。しかしながら、2%の「物価安定の目標」までにはなお距離があり、これをできるだけ早期に実現するためには、現在の「金融市場調節方針」のもとで、強力な金融緩和を推進していくことが適切であると考えています。
信託業界への期待
次に、信託業界の皆様方に期待する役割について申し上げます。
信託業界では、これまで、専門機関による高度な資産管理機能やリスク遮断機能といった信託ならではの特長を活かし、幅広い商品やサービスを提供してこられました。特に、最近では、少子高齢化の進行を踏まえ、教育資金贈与信託や、結婚・子育て支援信託など、世代間の財産移転に資するサービスの普及を進めてきておられます。また、後見制度支援信託など、財産保全にサポートを必要とする方々向けのサービスにも積極的に取り組んでこられています。さらに、企業経営者に対する業績連動型株式報酬制度における信託スキームの活用など、コーポレート・ガバナンス強化の流れの中で、信託の機能が発揮される場面も増えてきています。今後も、変化する経済・社会のニーズを的確にとらえ、より良いサービス提供に向けた創意工夫を進めていただくことを期待しています。
わが国家計の金融資産は、引き続き預金が中心ですが、長い目で見れば、リスク性資産の比重が高まる傾向にあります。こうした家計による資産ポートフォリオの多様化は、企業に対するリスクマネーの供給を通じてわが国経済の成長力を高めていくうえでも極めて重要です。この点、2014年に導入された「日本版スチュワードシップ・コード」をきっかけに、企業価値の向上と顧客の投資リターン拡大を図る観点から、機関投資家と投資先企業との対話が深められてきたことを心強く感じております。また、最近では、各金融機関において、従来以上に顧客の利益を重視した業務運営が進められていると承知しています。こうした動きを通じて、信託が、家計による資産運用の多様化に向けても、一段と大きな役割を果たしていかれることを期待しています。
おわりに
最後に、皆様方のますますのご発展を祈念し、私のご挨拶とさせて頂きます。ご清聴ありがとうございました。