このページの本文へ移動

【講演】 最近の金融経済情勢と金融政策運営 きさらぎ会における講演

English

日本銀行総裁 黒田 東彦
2017年12月7日

1.はじめに

日本銀行の黒田でございます。本日は、きさらぎ会でお話しする機会を頂き、ありがとうございます。

私が、前回この会合でお話しさせて頂いたのは昨年の9月初になります。その2週間後、日本銀行は、「量的・質的金融緩和」のもとでの経済・物価動向や政策効果に関する「総括的な検証」を行うとともに、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」という、金融緩和強化のための新しい枠組みを導入することを決定しました。それから1年余りが経過しましたが、この枠組みのもとで、わが国の金融環境はきわめて緩和的な状態を維持し、景気は改善を続けています。本日は、こうした最近の経済・物価動向に対する日本銀行の見方を説明した後、金融政策運営の考え方についてお話ししたいと思います。

2.経済の現状と先行き

海外経済

それでは、経済情勢から話を始めます。まず、海外経済の動きに触れておきたいと思います。

海外経済は、昨年半ば以降、着実な改善を続けています。地域別にみますと、米国は、雇用・所得環境の改善を背景に、家計支出を中心にしっかりとした回復を続けています。最近では、4月以降、2四半期連続で年率3%という高めの経済成長を実現しており、夏場に南部に上陸した大型ハリケーンの影響も、短期的なものにとどまったとみられます。欧州では、英国のEU離脱交渉の展開や金融セクターを含む債務問題などには引き続き注意が必要ですが、その不透明感は一頃に比べて低下してきました。こうしたもとで、欧州経済は着実な回復を続けており、最近では、ユーロ加盟国間の成長率格差もはっきりと縮小してきています。新興国・資源国経済も回復基調を辿っています。中国経済は、当局による景気下支え策の効果もあって、総じて安定した成長を続けているほか、足踏み状態が続いていたブラジルやロシアなどの資源国経済も、資源価格の底入れや金融緩和の効果などから持ち直してきました。私も参加した10月のIMF(国際通貨基金)年次総会において、ラガルド専務理事は、こうした最近の世界経済を、「過去10年間で、もっともグローバルな拡がりを伴った回復である(broadest-based recovery)」と評価しています。

先行きについても、世界経済は、先進国、新興国ともにバランスよく成長を続けると考えています。IMFによる最新の経済見通しによれば、世界全体の実質GDPの前年比は、2016年から2018年まで、順に+3.2%、+3.6%、+3.7%と、この先、しっかりとした成長を維持することが見込まれています(図表1)。

わが国経済の現状と先行き

次に、日本経済についてお話しします。日本経済も今お話しした世界経済と同様、バランスのよい成長を続けています。わが国の景気は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、緩やかに拡大しています。7~9月の実質GDP成長率は、年率で+1.4%と7四半期連続のプラスとなりました。これは、2001年以来、実に16年振りのことです。資本や労働の稼働率を示す需給ギャップも、昨年後半に長期的な平均であるゼロ%を超えた後、足もとにかけてプラス幅が拡大してきています(図表2)。

過去20年を振り返ると、わが国の需給ギャップがプラスになったのは、今回で3回目です。過去の2回は、2000年代初頭のいわゆるITバブルの時期と、2006年から2008年にかけてのグローバルな金融バブルの時期にあたります。これらはいずれも、外需に依存した景気回復でした。これに対して、今回の局面では、外需と内需の両方が、わが国の景気を引っ張るエンジンとしてともに力強く稼働しています。海外経済の成長を背景に、わが国の輸出は、アジア向けの情報関連財などを中心に増加しています。加えて、国内需要も増加基調にあります。企業収益が過去最高水準を更新するレベルまで改善する中、設備投資は緩やかな増加基調にあります(図表3)。個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善に加え、耐久財の買い替え需要による下支えもあって、底堅さを増しています。公共投資も、昨年度の経済対策の執行に伴い、増加しています。このように、現在のわが国経済は、外需と内需、民需と公需といった複数の柱によってバランスよく支えられており、それだけに、外的なショックに対して頑健であると評価できると考えています。

景気拡大の裾野が幅広い経済主体に拡がっていることも、最近のわが国経済の顕著な特徴です。短観の業況判断DIをみますと、大企業や製造業だけでなく、中小企業や非製造業でもプラスの判断が続いています。これは、外需主導であった2000年代初頭や2000年代半ばの景気回復局面とは明確に異なります(図表4)。地域別にみても、2013年12月の調査以降、全ての地域で業況判断がプラスとなっています。多くの地域の有効求人倍率が大都市圏と遜色ないほど上昇するなど、労働需給の引き締まりも全国に及んでいます(図表5)。

以上が経済の現状ですが、先行きについても、わが国の景気は緩やかな拡大を続けるとみています。日本銀行では、四半期ごとに、先行きの経済見通しをとりまとめた「展望レポート」を公表しています。10月末の最新のレポートでは、政策委員の見通しの中央値でみて、2017年度、2018年度の実質GDP成長率は、それぞれ+1.9%、+1.4%と予想しています。これは、「0%台後半」とみられるわが国の潜在成長率を上回る伸び率です。2019年度についても、成長ペースは鈍化するものの、海外経済の成長を背景とした輸出の増加に支えられ、GDPの成長率は+0.7%と、景気の拡大はなお続くとみています。

もちろん、先行きの経済がこうした見通しから上振れたり下振れたりする可能性はあります。最大のリスク要因は、海外経済の動向です。先ほど述べたように、先行き、海外経済は緩やかな成長を続けるというのがメインシナリオですし、リスクの方向も、一頃のように下振れを強く警戒する状況ではなくなってきました。それでも、米国の経済政策運営やそれが国際金融市場に及ぼす影響については留意が必要であるほか、地政学的リスクなども、わが国経済の下押し要因となる可能性があります。日本銀行としては、引き続き、上下双方向のリスクをしっかりと点検していきたいと考えています。

3.物価の現状と先行き

物価の現状

続いて、物価の動向についてお話しします。わが国の物価は、エネルギー価格の上昇などを背景に、徐々に上昇してきています。生鮮食品を除く消費者物価の前年比をみますと、昨年の10月は-0.4%でしたが、この10月には+0.8%となり、1年間で1%ポイント以上、上昇率を高めています(図表6)。もっとも、エネルギー価格の影響を除いてみると、消費者物価の前年比は、なお小幅のプラスにとどまっています。景気拡大が続き、労働需給が引き締まっていることに比べれば、物価は弱めの動きが続いています。

こうした「強めの景気と弱めの物価」という一見相反する関係は、最近では、わが国のみならず、先進各国に共通する現象であると言われています。冒頭でご説明したように、世界経済はしっかりと改善しているにも関わらず、米国やユーロ圏の物価上昇率は、中央銀行のインフレ目標を下回った状態が続いています。

FRBのイエレン議長は、米国における最近の物価の伸び悩みを「ミステリー」と表現しています。そのうえで、議長は、携帯電話通信料などの一時的な要因が物価の弱さの主因である可能性が高いとしつつも、先々の物価を見通すにあたり、様々な不確実性があると指摘しています。具体的には、労働市場の供給余力や中長期的なインフレ予想に関する不確実性に加えて、経済のグローバル化に伴う新興国との競争激化や、技術革新を背景としたオンラインショッピングの急速な普及などが、物価に影響を与えている可能性に言及しています。こうした議論は、わが国の物価動向を分析するうえでも大いに参考となります。もっとも、米欧の物価上昇率は、弱めとはいえ1%台半ばで推移しており、わが国の状況とはやや異なることも認識しておく必要があります。わが国の物価上昇率の低さには、わが国固有の要因も影響していると考えることが自然です。

弱めの物価の背景と先行き

そこで、わが国の景気と物価の関係についてお話ししたいと思います。企業の賃金・価格設定スタンスが物価に大きな影響を及ぼすことを意識すると、わが国の物価の弱さについては、次のように2段階に分けて考えることができます。

第1段階は、労働需給の引き締まりに比べ、賃金の改善が緩やかであることです。特に、パート雇用者に対して、正規雇用者の賃金上昇が鈍い点が目立ちます(図表7)。正規雇用者の所定内給与は、雇用者所得全体の7割近いウエイトを占めるだけに、その影響は小さくありません。この点について、わが国では、労使ともに長期的な雇用・賃金の安定を優先する傾向が強いため、景気後退期における正社員の雇用調整や賃金カットが小幅にとどまった一方、景気が拡大し、労働需給が引き締まっても賃金が上昇しにくいといった指摘があります。過去の賃金の下方硬直性が現在の上方硬直性につながっている、との見方もできるように思います。

第2段階は、緩やかとはいえ賃金が上昇しているにも関わらず、企業の製品やサービスの価格にあまり波及していないことです。この背景には、ITを活用した省力化投資などを通じて、賃金コストの上昇を吸収しようとする企業の取り組みがあります。このことは、人手不足が特に深刻な飲食や小売、建設といった業種で、最近、ソフトウェア投資が目立って増加していることからもわかります(図表8)。こうした取り組みは、個々の企業にとっては生産性を高める合理的な経営判断ですが、経済全体でみると、物価上昇圧力を弱める方向で作用することになります。

しかしながら、こうした状況は、少しずつ変わってきていると考えています。

まず、賃金についてです。さすがにここまで労働需給がタイト化してくると、その影響が正規雇用者に波及してきてもおかしくありません。デフレ期には途絶えていたベースアップが、2014年以降、4年連続で実現していることも重要なポイントです。健全な経済のもとでは、賃金は継続的に上昇していくものとの認識が社会で広く共有されることは、企業収益や所得の増加を伴いながら、物価が緩やかに上昇していくという好循環を作り出していくうえで、欠かせないと考えています。日本銀行としては、現在の良好な経済環境を追い風に、労使双方において、好循環の実現に向けた取り組みが拡がっていくことを期待しています。

次に、企業における価格設定スタンスも、次第に積極化していくとみています。パート雇用者の時給が上昇基調を続ける中、既往の為替円安による仕入価格の上昇も加わり、企業のコスト面からみた価格上昇圧力は高まっています。雇用・所得環境が改善してきていることを背景に、消費者サイドの値上げに対する許容度も少しずつ増してきているように思われます。

当面は、値上げにチャレンジする動きと、躊躇する動きが混在すると思われますが、いずれ、価格設定スタンスを積極化させる動きが優勢となると考えられます。ただし、「それはいつか」という問いに対し、明確にお答えすることは簡単ではありません。個々の企業において、価格設定スタンスが変化する具体的なタイミングは、それぞれの企業や業種が直面する需要動向やコスト構造によって異なるからです。それでも、こうした動きの集積である消費者物価指数についても、先行き、緩やかに上昇していくとみています。

4.量的・質的金融緩和とその効果

金融緩和の基本的なメカニズム

ここまで、わが国の経済・物価動向についてご説明してきました。ここからは、日本銀行の金融政策運営についてお話しします。

やや教科書的な説明になりますが、金融政策の基本的なメカニズムは、この後すぐにご説明する「自然利子率」と呼ばれる金利水準よりも、現実の実質金利の水準を高くしたり、低くしたりすることにより、経済活動を刺激したり抑えたりするということです。実質金利とは、将来の物価変動を調整した金利という意味であり、我々が日ごろ目にする名目金利から、予想物価上昇率を差し引いた値となります。また、自然利子率とは、景気を加速も減速もさせない中立的な状態を実現する実質金利であり、通常は、潜在成長率に近い値になると考えられます。これらを前提として、現実の実質金利が自然利子率よりも低ければ低いほど、金融緩和の度合いは大きくなります。低い金利が設備投資などの経済活動を刺激することで景気は加速し、需給ギャップは改善します。需給ギャップの改善は、最終的には物価上昇率を引き上げることにつながります。

日本銀行が2013年4月に導入した「量的・質的金融緩和」も、過去15年間にわたって続いたデフレを克服するため、わが国の実質金利を大きく引き下げることを目指しています。昨年9月には、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」という新たな枠組みを導入し、金融緩和の力をさらに強化しました。この枠組みは、実質金利を引き下げるための2つの要素から成り立っています(図表9)。

第1に、「オーバーシュート型コミットメント」です。これは、「消費者物価上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続する」という強力なコミットメントであり、予想物価上昇率の上昇に向けた人々の期待形成を強めることを目的としています。

第2に、「長短金利操作」、いわゆる「イールドカーブ・コントロール」です。日本銀行は、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するために最も適切と考えられるイールドカーブの形成を促すよう、大規模な国債買入れを実施しています。具体的には、短期政策金利を「-0.1%」、10年物国債金利の操作目標を「ゼロ%程度」とする金融市場調節方針を設定しており、現実のイールドカーブは、この方針と整合的な形で、円滑に形成されています。イールドカーブ・コントロールによって名目金利を十分低い水準に維持したうえで、オーバーシュート型コミットメントにより、人々の予想物価上昇率を高めることができれば、名目金利から予想物価上昇率を差し引いた実質金利は、大きく低下することになります。

イールドカーブ・コントロール

ここで、第2の要素であるイールドカーブ・コントロールについて、若干補足したいと思います。

日本銀行では、昨年9月にこの枠組みを導入する前は、国債保有残高の年間増加額を「約80兆円」とするなど、「量」に関する目標を設定して国債の買入れを行っていました。こうしたかつての方式と現在のイールドカーブ・コントロールには、共通点もあれば、異なる点もあります。まず、大規模な国債買入れによって名目金利を低下させ、これをベースに実質金利を引き下げるという金融緩和の基本的な波及経路は、かつても今も変わりません。しかしながら、かつてのような国債買入れ額を固定する方式では、経済・物価動向や国債市場の状況等に応じて金利の押し下げ度合いに過不足が生じ、結果的に、日本銀行が望ましいと考えるイールドカーブを実現することができない可能性がありました。この点、現在のイールドカーブ・コントロールのもとでは、長短金利そのものを操作目標としているため、こうした問題は原理的に発生しません。実際、先ほど述べたように、わが国のイールドカーブは、この1年間、金融市場調節方針と整合的な形で、円滑に形成されています。

こうしたイールドカーブ・コントロールの運営には、いくつかポイントがあります。

第1に、2%の「物価安定の目標」に向けて、最も適切と考えられるイールドカーブの姿をどのように判断するのか、という点です。伝統的な金融政策の世界では、ひとつの短期政策金利、例えば無担保コールレート・オーバーナイト物の水準を検討すれば足りたのですが、現在の枠組みのもとでは、当然のことながら、検討の対象はイールドカーブ全体に拡張されます。それぞれの年限に対応する予想物価上昇率や自然利子率の状況を分析したうえで、全体として、金融緩和の度合いが最適となるイールドカーブの形状を探し出していくことが必要となります。実務的には難しい分析を伴いますが、基本的なコンセプトは、はっきりしています。すなわち、「総括的な検証」で示したとおり、適切なイールドカーブの形成にあたっては、貸出・社債金利への波及、経済への影響、金融仲介機能への影響などを踏まえて判断するということです。こうした姿勢は、昨年9月にイールドカーブ・コントロールを導入した時から一貫して変わっていません。

第2のポイントは、イールドカーブ・コントロールという枠組みの持続性です。市場には、「これだけ大規模な国債買入れを続ければ、早晩、市場に流通する国債が底をつき、長期金利のコントロールができなくなるのではないか」といった指摘が一部にあると認識しています。

この点については、これまでのところ国債の買入れは円滑に行われており、先行きについても、当面、買入れの継続に支障が生じるリスクは小さいと考えています。

もちろん、長期金利のコントロールそのものが、世界でも例をみないチャレンジングな取り組みであり、これを可能としていくためには、様々な年限の金利がどのような要因で決定されるのかについて、きちんと理解することが必要となります。これについては、日本銀行だけでなく、大規模な資産買入れを実施してきたFRBやECBなどでも分析が進められてきました。様々なアプローチがありますが、長い目でみて長期金利に強い影響を与えるのは、中央銀行による日々のフローの国債買入れ額ではなく、こうしたフローの累積値であるストックの買入れ残高、ないし発行残高全体に占める中央銀行の国債保有残高であるとの見方が多いように思われます。わが国においても、イールドカーブ・コントロールの導入以降、10年物金利を「ゼロ%程度」にしっかりと誘導できている背景には、それ以前から続いていた国債買入れの累積的な効果、つまりストック効果がしっかりと働いていることがあると評価しています。

ストック効果がしっかりと働くもとで、先行き、国債の需給がタイト化していった場合、他の条件が一定であれば、一単位の国債買入れによる長期金利の押し下げ効果は、より大きなものになるはずです。すなわち、より少ない金額の国債買入れによって同じ程度の金利低下効果を実現できることになります。こうした点からみましても、イールドカーブ・コントロールは、持続性の高い枠組みであることを改めて強調したいと思います。

金融環境の緩和

最後に、日本銀行の金融緩和政策が、実際にわが国の経済に及ぼした効果についてお話ししたいと思います。日本銀行は、「量的・質的金融緩和」の導入により、大規模な国債買入れと予想物価上昇率の上昇を通じて、わが国の実質金利を、潜在成長率をはっきりと下回る水準まで引き下げることに成功しました(図表10)。これは、1990年代末からの長年にわたるデフレとの闘いの中で初めてのことです。

その結果、企業や家計の経済活動は活発化し、需給ギャップは着実に改善しています。政府の発表によりますと、2012年12月に始まった今回の景気回復局面は、この9月で、1960年代後半のいざなぎ景気を超えて、連続58か月に達した可能性が高いとされています。これと「量的・質的金融緩和」の時期がほぼ重なることから考えても、この政策は、戦後2番目となる息の長い景気回復に貢献してきたと思います。物価面でも、エネルギーと生鮮食品を除いた消費者物価の前年比は、約4年にわたってプラス基調を続けています。「量的・質的金融緩和」のもとで、既にわが国は、「物価が持続的に下落する」という意味でのデフレではなくなっています。

個々の企業にとっても、金融緩和は、資金調達環境の改善という形で好影響を与えているように思われます。金利体系のベースとなる国債金利が低下したことに伴い、企業の資金調達コスト、すなわち銀行貸出金利やCP、社債の発行金利はしっかりと低下しています。例えば、銀行の新規貸出金利は、このところゼロ%台後半と、既往ボトム圏で推移しています。これを実質ベース、すなわち名目の貸出金利から物価上昇率を差し引いた値でみると、ゼロ%近傍まで低下しています(図表11)。つまり、物価上昇率を考慮すると、平均的な企業は、殆ど金利を負担することなく新規の資金を借り入れることが可能になっています。資金のアベイラビリティという点でも、多くの企業は、金融環境がきわめて緩和的になっているとの実感を強めています。大企業、中小企業のいずれからみても、金融機関の貸出態度は非常に積極的であり、私どもの短観のDIでみますと、特に中小企業については、1980年代末以来の高水準となっています(図表12)。日本銀行としては、引き続き、こうした緩和的な金融環境を維持することにより、わが国の企業活動を最大限サポートしていく方針です。

5.おわりに

本日は、最近の経済・物価情勢とそれを踏まえた金融政策運営の考え方について、ご説明してきました。

2%の「物価安定の目標」の実現までにはなお距離があることは事実ですが、一方で、これまでの実績から、「量的・質的金融緩和」に、わが国経済を大きく改善させる効果があることも、はっきりしています。先行きについても、景気の着実な改善に伴い、企業の賃金・価格設定スタンスは次第に積極化していくとみられるほか、実際に価格引き上げの動きが拡がるにつれて、人々の中長期的な予想物価上昇率も着実に上昇すると考えています。日本銀行としては、今後とも、こうした前向きの動きが息長く続き、景気の改善と物価の安定が両立するバランスのとれた経済が実現するよう、現在の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の枠組みのもと、2%の「物価安定の目標」の実現に向けて、強力な金融緩和を粘り強く進めていく方針です。

ご清聴ありがとうございました。