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【挨拶】全国信用組合大会における挨拶

日本銀行総裁 黒田 東彦
2018年10月19日

1.はじめに

本日は、全国信用組合大会にお招き頂き、誠にありがとうございます。信用組合業界は、平素より、相互扶助の理念に基づく協同組合組織の金融機関として、地域・業域・職域で活動する中小企業や個人に対して金融サービスを提供し、わが国経済の発展に貢献されています。こうしたご努力に対して、日本銀行を代表し、心より敬意を表したいと思います。

本日は、最初に、最近の金融経済情勢と日本銀行の金融政策運営についてご説明し、次に、金融システムを巡る話題についてお話しします。

2.最近の金融経済情勢と日本銀行の金融政策運営

まず、わが国の経済情勢についてお話しします。わが国の景気は、緩やかに拡大しています。輸出は、海外経済の成長が続く中で、増加基調にあります。内需についても、企業収益が過去最高水準で推移する中で、設備投資は増加傾向を続けています。先日公表した短観における今年度の設備投資計画は、企業の投資スタンスが積極的であることを改めて示すものでした。個人消費も、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、緩やかに増加しています。先行きについても、最近の保護主義的な動きや国際金融市場の動向などには注意が必要ですが、わが国の景気は緩やかな拡大を続ける可能性が高いとみています。

一方、消費者物価の前年比は、プラス基調を続けつつも、景気の拡大や労働需給の引き締まりに比べ、なお弱めの動きとなっています。これについては、長期にわたる低成長やデフレの経験などから、企業の慎重な賃金・価格設定スタンスや家計の値上げに対する慎重な見方が根強く残っていることが、大きく影響しています。加えて、企業の生産性向上余地が大きいことや近年の技術進歩が、コストの高まりにもかかわらず、企業が値上げに対して慎重なスタンスを維持することを可能にしている面もあります。もっとも、こうした物価上昇を抑制してきた要因の多くは、景気の拡大に伴い、次第に解消していくものです。実際、最近では、労働需給の着実な引き締まりを背景に、パート賃金の上昇が続いているほか、夏の賞与も大きく増加しています。こうしたもとで、幅広い企業で販売価格を引き上げる動きが見られており、短観における全規模・全産業の販売価格判断DIは、約30年振りに、プラス圏での動きが定着してきています。先行き、需給ギャップがプラスの状態を続けることにより、実際に価格引き上げの動きが拡がっていけば、人々の予想物価上昇率も高まっていくとみられます。この結果、消費者物価の前年比は、2%に向けて徐々に上昇率を高めていくと考えています。

金融政策運営面では、現在の強力な金融緩和を粘り強く続け、需給ギャップの改善を起点とした物価上昇メカニズムを維持していくことが重要です。こうした認識のもと、7月の金融政策決定会合において、次のとおり、現在の政策の枠組みを強化することを決定しました。

第1に、当分の間、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持するという、政策金利のフォワードガイダンスを導入しました。こうした強力なコミットメントは、日本銀行の金融政策運営に対する信認の確保に繋がると考えています。第2に、今後とも強力な金融緩和を継続していくことを可能とするため、金融市場調節や資産の買入れをより弾力的に運営することとしました。例えば、長期金利については、「ゼロ%程度」という操作目標を維持したうえで、実際の金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうることを示しました。金利形成の柔軟性を高め、市場機能への負の影響を和らげることは、政策の持続性強化に繋がります。

日本銀行としては、今回の政策対応は、経済や金融情勢の安定を確保しつつ、2%をできるだけ早期に実現することに繋がると考えています。今後とも、金融政策運営の観点から重視すべきリスクの点検を行うとともに、経済・物価・金融情勢を踏まえながら、適切な政策運営に努めてまいります。

3.金融システムを巡る話題

次に、金融システム面の話題について、お話しします。

わが国の金融システムの現状をみると、金融仲介活動は金融機関貸出を中心に引き続き積極的な状況にあり、景気の緩やかな拡大を支えています。特に、中小企業向けの設備関連貸出が幅広い業種で増加しており、信用組合の貸出残高は前年比4%程度で増加しています。こうしたもとで、企業や家計の資金調達環境はきわめて緩和した状態にありますが、金融循環の面で目立った過熱感は窺われません。

もっとも、地域金融機関の収益をみると、人口や企業数の継続的な減少や低金利環境の長期化を背景に、預貸収益などの基礎的収益力は趨勢的に低下しています。2017年度のコア業務純益をみると、全体では、経費削減により増益となった一方で、赤字となった信用組合数は増加しており、業界内の収益力のバラツキが大きくなっています。先行きも、地域の人口減少や営業基盤の縮小が続き、構造的に収益へ下押し圧力がかかり続けることが予想されることから、信用組合の経営環境は厳しさを増していくと考えられます。

そうした環境下でも、地域経済の活力を高めるにあたっては、それぞれの地域・業域・職域に根付いた身近な金融機関である信用組合の役割は大変大きいと期待されています。また、地域経済の活力向上は、信用組合自身の経営基盤の強化にもつながっていくものです。

こうした期待に応えるため、各信用組合は、地域密着の強みを活かした渉外活動を通じて、雇用や成長が期待される分野への貸出のほか、創業・事業承継支援やビジネスマッチングによる取引先の課題解決支援などに積極的に取り組んでおられます。

業界全体では、「しんくみアドバイザリー制度」を活用した事業性評価や事業承継などの専門家の育成、取引先の販路開拓、新商品開発、商品PR等のためのビジネスマッチングの機会提供など、コンサルティング機能の充実・強化の取り組みを後押しされています。また、信用組合が運営する地域活性化ファンドへの出資、他業態と連携した相続信託のための商品開発など、新たな金融商品や金融サービスの提供も支援されています。こうした皆様の取り組みが、今後、さらなる成果を上げ、地域経済の活性化につながっていくことを強く期待しています。

4.おわりに

最後になりますが、今後、信用組合業界が、ますます発展していかれることを祈念いたしまして、私からのご挨拶とさせて頂きます。ご清聴ありがとうございました。