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【挨拶】 デジタル時代の未来 G20技術革新にかかるハイレベルセミナーにおける閉会挨拶の邦訳

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日本銀行総裁 黒田 東彦
2019年6月8日

G20技術革新ハイレベルセミナーの閉会に際して、一言ご挨拶させて頂きます。

本日のハイレベルセミナーでは、「デジタル時代の未来」をテーマに、次の2つのトピックが議論されました。まず、最初のセッションでは、金融技術革新の潜在力とリスクを取り上げました。そこでは、新しいデジタル技術を如何に金融サービスに活用し、社会をよりよいものに変革していくか、という点を巡って活発な議論が行われた一方で、新たなリスクが金融経済システムに内包されてしまう危険性も指摘されました。2番目のセッションでは、ブロックチェーン技術に焦点をあて、分散型の金融エコシステムが健全に発展していくうえで鍵を握る要因を巡って議論が行なわれました。

現在進行している金融技術革新が金融経済にもたらすインパクトは、今後一段と大きなものになっていくと予想されます。その帰結を予測するのは難しいですが、これまで金融技術革新がもたらしてきた進歩と課題から学ぶことはできます。例えば、信用リスク・市場リスクの管理手法やリスク移転技術は、金融システムの仲介機能を高めました。他方で、金融危機をもたらす一因にもなったことは皆さまの記憶に新しいと思います。どうすれば、技術革新の成果を享受しつつ、リスクの芽を摘んでいけるのでしょうか。

一つの手掛かりは、金融経済活動をシステムの相互作用として理解することにあると思われます。古くはブラックマンデーにおけるポートフォリオ・インシュランスが一例ですが、その時は市場参加者間の相互作用が想定外の株価急落をもたらしました。近年のグローバル金融危機では、証券化商品の市場流動性と金融機関の資金流動性がスパイラル的に悪化するという負の相乗作用が発生しました。金融システムの中に、システム全体を危機に晒すようなショックの増幅メカニズムが見えにくいかたちで埋め込まれ、想定外の深刻な危機が生じてはじめてそのことに気が付く──現代の金融システムは、そうした経験を繰り返してきました。

新しい金融サービスやその担い手の登場によって、金融システムには構造変化が起こりつつあります。技術革新の果実をしっかり得るとともに、意図せざるリスクが忍び込んでいないか、しっかり検証していく必要があります。

現在の技術革新は、こうした問題に対応する手段も同時に与えてくれています。例えば、ビッグデータを活用することで、市場取引や決済の流れがどのような金融ネットワークを形成しているかを明らかにすることができます。また、計算能力や計算技法が向上したことで、従来型の様々な要素を捨象したモデルに基づく分析を超え、ミクロの世界をありのままに観察、モデル化し、企業や個人、市場参加者間の相互作用を検証することが可能となってきています。テキストデータや画像・音声データといった非構造型データを扱う技術も猛烈なスピードで進化を遂げており、市場センチメントや期待形成の研究など、幅広い応用分野が期待されています。

ただ、逆説的ですが、ハードのテクノロジーが進化すればするほど、人間や組織の行動の背景にある、人間的な側面により光が当たるように思えます。ミクロ的な行動の理解が進むにつれて、それが金融経済システムにおいてどのようなマクロ的な帰結をもたらすのか、という点への理解も深まることが期待されます。

皆さまにとって、本日のG20 技術革新ハイレベルセミナーが、デジタル時代の未来を描いていくうえで有益な知見を得られる機会となったことをお祈り申し上げまして、私からのご挨拶とさせていただきます。

ご清聴ありがとうございました。