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【挨拶】第98回信託大会における挨拶

日本銀行総裁 植田 和男 
(代読 日本銀行副総裁 内田 眞一)
2023年4月12日

はじめに

本日は、第98回信託大会にお招き頂き、誠にありがとうございます。信託業界の皆様は、日頃より、信託の枠組みを活かし、資産形成、相続、事業承継など人々の生活を支える重要な基盤を提供され、これを通じて、わが国の経済・社会の発展に貢献されておられます。こうしたご尽力に対し、日本銀行を代表し、深く敬意を表します。

経済・物価情勢と金融政策運営

まず、経済・物価情勢からお話しします。

わが国経済は、コロナ禍によって落ち込みましたが、現在は持ち直しています。このところ、海外経済の回復ペースの鈍化の影響を受けつつも、わが国の輸出や生産は横ばい圏内の動きとなっています。一方、企業収益は、引き続き高水準で推移しており、設備投資は緩やかに増加しています。個人消費は、物価上昇の影響を受けつつも、感染症の影響が和らぐもとで、緩やかな伸びが続いています。今後についても、緩和的な金融環境や政府による経済対策の効果にも支えられて、わが国経済は回復を続けるとみています。

物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響から、3%程度となっています。今後、政府の経済対策によるエネルギー価格の押し下げ効果に加え、価格転嫁の影響も減衰していくため、物価上昇率のプラス幅は、今年度の半ばにかけて、縮小していくとみています。

こうした中で、日本銀行としては、わが国の経済をしっかりとサポートし、賃金の上昇を伴うかたちで、「物価安定の目標」を持続的・安定的に実現できるよう、金融緩和を継続していく考えです。

金融面の話題

続いて、金融面の話題です。

まず、わが国の金融システムは、全体として安定性を維持しています。世界的な金融環境の引き締まりとそれに起因する様々なストレスのもとでも、わが国の金融機関は、適切な金融仲介機能を発揮しうる充実した資本基盤と、安定的な資金調達基盤を有しています。今年3月の米欧の金融機関の経営不安の動きを受けた海外金融システムを巡る不確実性の高まりに関しましては、わが国金融システムに及ぼす影響は限定的とみています。

次に、信託に期待される役割についてです。人生100年時代において、個人が生涯を通じて安心して暮らしていくためには、安定的な資産形成が大変重要です。一方で、一般的な家計にとって、金融資産の選択等に割ける時間は限られており、金融商品を組成・販売する金融機関との間には情報の非対称性が存在します。そのため、個々人の金融リテラシーを高めると同時に、金融機関には顧客のニーズに寄り添った適切な情報提供・サポートが求められます。まさに、信頼に基づいて受託・委託するという信託の理念や機能の発揮が期待されるところです。信託業界でも、こうした課題に積極的に取り組まれており、先般、公表された信託経済研究会による「家計の資産形成促進と信託」に関する報告書では、「貯蓄から資産形成へ」の流れを更に加速させるには何が必要なのかといった観点から、幅広く有意義な議論が取りまとめられています。

このほか、事業承継、結婚・子育て・教育など、受益者のライフステージやニーズに応じたきめ細かな信託サービスも広く活用されています。また、気候変動問題など社会の持続的な成長に向けた課題への関心が高まるもとで、そうしたニーズに応じて、適切な金融商品・サービスを提供かつ運営していくことも期待されているところです。

こうした様々な役割を担っておられる信託業界の皆様の今後のご健勝とご発展を祈念いたしまして、私からのご挨拶とさせて頂きます。ご清聴ありがとうございました。