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【挨拶】全国信用金庫大会における挨拶

日本銀行総裁 植田 和男
2023年6月21日

はじめに

本日は、全国信用金庫大会にお招き頂き、誠にありがとうございます。

わが国経済の成長・発展には、活力にあふれた地域経済や地域社会が必要不可欠です。信用金庫は、協同組織金融機関として、日頃から地域の中小企業や住民の方々を支える重要な役割を担っておられます。皆様のご尽力に対し、日本銀行を代表して深い敬意を表します。

経済・物価情勢と日本銀行の金融政策運営

はじめに経済情勢についてお話しします。

わが国の景気は、既往の資源高の影響などを受けつつも、持ち直しています。海外経済は回復ペースが鈍化していますが、輸出や鉱工業生産は、供給制約の影響の緩和に支えられて、横ばい圏内の動きとなっています。企業収益は全体として高水準で推移しており、設備投資は緩やかに増加しています。雇用・所得環境も緩やかに改善しています。今年の春季労使交渉では、労働需給の引き締まりや物価上昇を賃金に反映させる動きが広がっていることなどを受けて、昨年を大きく上回る賃金上昇率が実現する見込みです。こうしたもと、個人消費は、物価上昇の影響を受けつつも、緩やかに増加しています。先行きのわが国経済は、今年度半ば頃にかけて、既往の資源高や海外経済の回復ペース鈍化による下押し圧力を受けるものの、ペントアップ需要の顕在化などに支えられて、緩やかに回復していくとみています。

物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、政府の経済対策によるエネルギー価格の押し下げ効果などによって、ひと頃に比べればプラス幅を縮小していますが、輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響から、足もとは3%台半ばとなっています。先行きは、こうした価格転嫁の影響が減衰していくもとで、今年度半ばにかけて、プラス幅を縮小していくとみています。その後は、マクロ的な需給ギャップが改善し、中長期的な予想物価上昇率や賃金上昇率も高まっていくもとで、振れを伴いながらも、再びプラス幅を緩やかに拡大していくと予想しています。

リスク要因については、海外の経済・物価動向、今後のウクライナ情勢の展開や資源価格の動向など、わが国経済を巡る不確実性はきわめて高いと考えています。そのもとで、金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響を、十分注視する必要があります。

このように、内外の経済や金融市場を巡る不確実性がきわめて高い中、日本銀行としては、経済・物価・金融情勢に応じて機動的に対応しつつ、粘り強く金融緩和を継続していくことで、賃金の上昇を伴う形で、2%の「物価安定の目標」を持続的・安定的に実現することを目指していく方針です。

金融システム面の話題

次に、金融システム面の話題です。

わが国金融システムは、全体として安定性を維持しています。この数年間は、感染症の影響に加えて、地政学的リスクの高まり、世界的な金融環境の引き締まりなど、ストレスが高い局面が続いています。そうしたもとでも、わが国金融機関は、充実した資本基盤と安定的な資金調達基盤を有しています。3月以降、米国の銀行破綻をきっかけに米欧の金融部門を巡る不確実性が高まる局面がみられましたが、わが国への影響は限定的であったとみています。また、この間を通じて、金融機関の皆様のご尽力もあり、金融仲介機能は円滑に発揮されてきたと考えています。

今後も、信用金庫が地域経済をしっかりと支えていくためには、地域の実情を熟知する強みを活かして、地域の課題解決に取り組んでいくことが重要です。足もとは、コロナ関連融資の返済が本格化しており、取引先企業に対するきめ細かな与信管理と資金繰り支援が求められます。一方、感染症の影響が和らぎ、経済活動の再開が本格化していく中では、製品・サービスの高付加価値化、海外需要やインバウンド需要の取り込み、事業構造の変換など、企業が「稼ぐ力」を向上させるための支援がますます重要になります。また、中長期的にみると、中小企業においても、デジタル化による生産性向上や脱炭素化への対応、構造的人手不足が進むもとでの人手確保や賃金引上げ、事業承継や第二創業などの課題に取り組んでいく必要があります。こうしたもとで、顧客企業にface-to-faceで寄り添う信用金庫が、金融機関としての専門性と全国に広がる信用金庫のネットワークを活かして、課題解決支援に取り組むことに対するニーズと期待は、一段と高まっています。

おわりに

最後に、信用金庫業界の皆様の今後のますますのご健勝とご発展を祈念いたしまして、私からのご挨拶といたします。ご清聴ありがとうございました。