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【挨拶】最近の金融経済情勢と金融政策運営函館市金融経済懇談会における挨拶

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日本銀行副総裁 内田 眞一
2024年8月7日

1.はじめに

日本銀行の内田でございます。本日は、道南地域の各界を代表する皆様とお話しする機会を賜り、誠にありがとうございます。皆様には、日頃から、函館支店の業務運営に多大なご協力を頂いております。この場をお借りしまして、改めて厚く御礼を申し上げます。意見交換に先立ちまして、まず私から、わが国の経済・物価情勢と、日本銀行の金融政策運営について、ご説明したいと思います。

2.経済情勢

図表1をご覧ください。はじめに、経済情勢です。わが国経済は、一部に弱めの動きもみられますが、緩やかに回復しています。振り返りますと、昨年前半にかけて、コロナ禍からの経済活動の正常化を受けて、高めの成長を続けました。その後、一部自動車メーカーの生産停止等もあって、いったん成長率はマイナスとなりましたが、景気の改善基調は続いています。先行きも、潜在成長率を上回る成長が続くと予想しています。

図表2をご覧ください。企業部門では、業況感は良好な水準を維持し、企業収益も既往ピーク水準にあります。そのもとで、短観の設備投資計画をみますと、昨年度は前年比+9.9%で着地し、今年度も+10%台の増加が計画されています。人手不足への対応などでソフトウェア投資が増加しているほか、研究開発投資を一段と積み増す動きが目立ちます。こうした将来を見据えた案件が引き続き投資を押し上げるほか、工事の人手不足などで先送りせざるを得なかった案件も積み上がっていますので、高水準の設備投資が続く可能性が高いと思います。

図表3をご覧ください。個人消費は、底堅く推移しています。左のグラフ赤い線の旅行や外食など「サービス」消費は緩やかに増加し、コロナ禍以前の水準に近づきつつあります。一方で、物価上昇の影響は、特に値上がり幅が大きかった食料品や日用品などに出ており、これらを含む緑の線の「非耐久財」は減少しています。低価格商品へのシフトなど生活防衛的な動きもみられ、右側の消費者のマインドも慎重化しています。

先行きの個人消費については、引き続き物価上昇の影響を注視していく必要があります。一方で、今年の春季労使交渉においては幅広い企業で約30年ぶりの賃上げが実現し、その影響が、実際の賃金にも徐々に反映されてきています。夏季賞与も各種の調査では昨年を上回る見通しです。中心的な見通しとしては、個人消費は底堅く推移する、と考えています。

図表4をご覧ください。こうした見通しに対するリスク要因としては、海外の経済・物価情勢と国際金融資本市場の動向が挙げられます。海外経済は総じてみれば緩やかに成長しており、中心的な見通しとしては、先行きも緩やかな成長を続けると考えています。左のグラフのIMFの見通しでは、今年3.2%、来年3.3%と、概ね過去の平均的な成長率と同じ程度の成長が予測されています。もっとも、中国では労働市場や不動産市場で調整圧力が残っているほか、ウクライナ・中東情勢等、地政学的なリスクがあります。

この間、欧米の物価上昇率は振れを伴いつつも低下傾向をたどっており、一部の中央銀行は利下げに転じています。ただ、依然としてインフレ圧力が残っている一方で、既往の利上げが大幅であったことから、実体経済面・金融面にどのような影響が及ぶか、不確実性があります。このうち米国については、右上のグラフの通り、5%を超える高い金利のもとでも、高めの成長を続けてきました。右下のグラフの通り、労働市場もタイトな状況が続いてきましたが、このところ、タイト感が減衰してきており、概ねコロナ禍前の水準に戻ってきていました。こうした中で先週公表された雇用関係の統計では、失業率の上昇などがみられ、一部には景気減速懸念も出ています。

私自身は、米国はソフトランディングする可能性が高いと思っています。コロナ禍を経て生じた労働移動などによって、生産性が上昇しているように窺えますし、労働市場などの実体経済の変化は緩やかに進むので、情勢変化に応じて、利下げなど政策対応が可能だからです。米国の実体経済がソフトランディングに向かえば、株価などの金融資本市場もそれを反映していくと思いますが、市場の変化は当然実体経済よりも急速ですので、そのフィードバックのリスクには留意する必要があると思っています。金融資本市場の動向につきましては、後ほど、金融政策運営との関係でお話ししたいと思います。

3.物価情勢と労働市場の構造変化

物価の現状と見通し

次に、物価情勢についてお話しします。図表5をご覧ください。赤い線の生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、振れを伴いつつもプラス幅が緩やかに縮小しており、直近の6月で2.6%となっています。内訳をみますと、水色の「食料品」や、青色の「その他の財」では、既往の輸入物価上昇に伴うコスト転嫁の影響が残っていますが、これが和らいでいく中で、緩やかにプラス寄与を縮小しています。

一方、ピンクの「サービス」も、プラス幅がやや縮小しているようにみえますが、内容面では、賃金上昇がサービス価格を緩やかに押し上げる構図が徐々に明確になってきています。図表6をご覧ください。こちらは、消費者物価の「サービス」を構成する個別の品目について、前年比でどれだけ価格が上昇したか、それぞれの上昇率ごとに集計したものです。左のグラフ、昨年4月時点では、大きな山はゼロ%付近にありました。+10%のあたりにもう一つ山がありますが、これは外食など、原材料コスト上昇の影響を受けた品目であり、コストプッシュの一環でした。サービスのうちでも人件費の割合が高い品目の価格(濃い青色)は、ゼロ%付近に集中していました。一方で、右のグラフの通り、最近(本年4月)では、この濃い青色を含めて、価格分布の山は、+2%を中心とする形になっています。

図表7をご覧ください。このように、輸入物価上昇を起点とした物価上昇が減衰していく一方で、賃金上昇が物価に反映される形になってきています。先行きの消費者物価(除く生鮮食品)は、今年度が2.5%となったあと、25年度と26年度は、2%程度の上昇が続くと予想しています。

図表8をご覧ください。もちろん、左のグラフにあります通り、物価上昇はそれだけを捉えれば「困ったことだ」という答えが大半を占めます。ただ、右のグラフの通り、物価と賃金(あるいは家計の収入)が「どちらも上がらない」デフレ期の状態と、「ともに緩やかに上がる」状態(80年代までの日本や高インフレになる前の欧米経済のイメージ)を比べた場合には、企業の7割、家計でもより多くの家計が、後者が望ましいと答えています。日本銀行は、「物価安定の目標」として、消費者物価上昇率で2%を掲げていますが、目指しているのは、このように「賃金と物価がともに緩やかに上がる」経済です。

図表9をご覧ください。企業の販売価格戦略においても、このことは意識されています。青い線の「1年後」の価格見通しがやや落ち着いてきている一方で、赤い線の「5年後」は緩やかな上昇を続けています。原材料コストの大幅な上昇が5年間ずっと続く、と企業がみているとは考えられませんので、賃金上昇が続くことを前提に価格設定を考えている、ということかと思います。

労働市場の構造変化

図表10をご覧ください。人口動態の変化などを踏まえますと、今後も人手不足は続き、賃金は上昇すると考えられます。青い線の生産年齢人口は、30年前、1990年代半ばから減少に転じました。もっとも、シャドーのデフレ期には、緑の線の就業者数の方も、横ばいか若干減少しましたので、生産年齢人口との差(水色の棒グラフ)は、概ね2000万人程度でそれほど変わりませんでした。この時期は、需要が低迷し、企業はむしろ雇用の過剰感を感じながら、社会的な要請と政府からの各種の補助のもとで、何とか既存の雇用を保持し続けている、という状況でした。これは新規に労働市場に入ろうとする人には大変厳しい状況で、いわゆる就職氷河期でした。

その後、2013年からの大規模な金融緩和のもとで、政府の各種の施策などと相まって、景気が改善し、500万人を超える雇用が生まれました。トレンドとしての生産年齢人口の減少が続く中で、就業者数とのギャップ(水色の棒グラフ)は急速に縮まり、現在では650万人程度になっています。ここから先、追加の労働供給の余地はさらに限られてきます。この労働市場の変化は、構造的で、不可逆的なものです。

私自身は、この10年ほど、「日本経済に変革をもたらすドライビング・フォース(原動力)は、人手不足しかない」と言い続けてきました。変革時には摩擦は不可避ですが、社会において失業に対する抵抗感が強い以上、一時的な倒産と失業増を経て次のステージの回復を期す、という米国流の変革プロセスは現実的ではないからです。「成長力強化が本筋である」ということには100%同意しますが、問題はそれをどうやって実現するかです。10年超に及ぶ大規模な金融緩和が各種の副作用をもたらしたことは事実であり、真摯に受け止めたいと思いますが、この労働市場の状況をもたらす原動力ではあったと思います。このグラフからも明らかな通り、人口動態の変化だけで説明するのは無理です。

そして、人手不足の状況になってはじめて、企業も社会も変わらざるを得なくなりました。日本社会が受け入れ可能な形で、すなわち、多くの失業を生まない形で、新陳代謝が進む素地ができたということです。その意味で、ここからは、成長力の強化が、企業の具体的なアクションとして進むと期待しています。働く人から選ばれる企業になるためには、収益を上げるしかなく、その個々の企業行動の集積が、経済全体の成長をもたらします。資本主義経済の主役はもちろん民間部門であり、成長の方向を決めるのは市場メカニズムです。成長戦略の重要性は、そうした民間部門の活動を支え、環境を整える役割にあります。

もちろん、失業を生みにくいとはいえ、変革に摩擦はつきものです。また、個々の企業や個人、さらには、地域によって、受ける恩恵や影響は異なります。言葉を選ばずに言えば、これまで人手に余裕があったから可能であったサービスは、市場メカニズムの中では供給されなくなります。昔は、都市部以外の地域でも駅を降りるとタクシーが待っていたが、今は呼んでもなかなか来ない、といった声がありますが、都市部の需給環境が変わり、お客さんが容易につかまるのであれば、当然の帰結です。この先も人手は足りないことを前提に、地域の機能をどう維持していくのか、都市部と周辺部との関係をどう構築していくのか、市場メカニズムでは満たされないニーズをどう補完していくか、考えていく必要があると思います。皆さんの周りで起きている各種の変化は、この図表の水色の棒の帰結なのかもしれません。少なくとも、何もしなければ、元に戻ることはありません。

4.日本銀行の金融政策運営

次に、金融政策運営についてお話しします。日本銀行は、先週の金融政策決定会合において、短期の政策金利を0.15%引き上げ、「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0.25%程度で推移するよう促す」こととしました。また、長期国債の買入れについて、今後1年半程度、来年度末までの減額計画を決定しました。

長期国債の買入れの減額

まず、長期国債買入れの減額についてご説明します。図表11をご覧ください。日本銀行は、長期国債の約半分を保有しており、7月までは、保有する国債の償還額にほぼ見合う月間6兆円程度の買入れを行っていました。今回決定した計画では、買入れ額を段階的に減額し、来年度末に3兆円程度に半減することにしました。

図表12をご覧ください。2013年からの大規模緩和において、長期国債買入れは、中期から長期の金利を押し下げることによって、景気を刺激する役割を担っていました。その効果は、左のグラフにあります通り、主として残高効果、すなわち、日本銀行が保有する国債の残高に応じたものと考えられ、10年金利に対して約1%、その他の金利については、その年限の長さに応じて、押し下げていると計測されています。買入れを減額していく場合、この残高効果は減じていくことになりますが、今回決めたペースであれば、残高の減少は、1年半後に7から8%程度と大きくありません。残高を増やす過程と減らす過程とでは、効果の出方が異なる可能性もありますので、比例的になるとは限りませんが、減額によって金融緩和の効果が大きく変化することはないと思います。右のグラフをご覧ください。景気を刺激する効果は、期間の長い金利よりも短い金利の方が大きくなっています。

これらを踏まえますと、国債買入れの減額は、全体としての金融緩和効果に多少は影響しますが、その程度は短期金利の影響に比べて小さいと考えられます。そこで、国債買入れは決まったペースで削減していくことで、長期金利は市場のより自由な形成に委ねることとしたうえで、景気や物価の変動に応じた政策スタンスの調整は、市場で形成された長期金利の効果も勘案したうえで、主として短期金利の操作によって行うこととした、ということです。

短期政策金利の引き上げ

次に、短期の政策金利の引き上げについて、ご説明します。図表13をご覧ください。景気は、緩やかに回復しており、先行きも潜在成長率を上回る成長を続けると考えています。もとより、個人消費には、物価上昇の影響が表れていますし、1から3月の成長率は自動車生産の影響もあってマイナスになるなど、弱い動きもみられています。そうしたこともあって、3月にマイナス金利政策を終了したのちも、短期の政策金利(赤い線)は、0から0.1%という低い水準に設定していました。これは、現実の物価や物価の予想が上がっていることも考えますと、実質ベース(青い線)では、かなり低い水準で、極めて緩和的な状況です。経済や物価が見通しに沿って展開していくのであれば、それに応じて、この金融緩和の度合いを調整していくことが適切になります。先週の金融政策決定会合では、今春の労使交渉の結果が賃金に反映されてきていることなど、前半でご説明したような経済・物価の状況は、見通しに沿って推移している、と判断しました。

また、図表14をご覧ください。左のグラフの通り、2年以上にわたって物価が2%を上回っており、今年度の見通しでも上回ると予想されます。このことは、わが国経済やここにおられる皆様の生活に直接影響を及ぼしており、政策判断において、重要な要素だと考えています。そうしたもとで、右のグラフにあります通り、一度は落ち着いていた輸入物価が、円安の影響などから再び上昇しています。その消費者段階への影響については、企業の行動がデフレ期とは異なってきていることも踏まえて点検していく必要があります。デフレ期には、企業はコストが上がってもできるだけ価格に転嫁しないように行動したため、輸入コストの上昇が消費者段階に伝わる程度は緩やかでした。ここ数年は、輸入コストの上昇幅が大きかったこともあって、消費者段階の価格に転嫁されました。また、それが人手不足の中で賃金上昇につながり、基調的な物価上昇率を押し上げました。このように企業の賃金・価格設定行動が積極化していることを踏まえますと、為替の変動が物価に影響を及ぼす程度やスピードは高まっていると考えられます。2年前のように輸入物価が50%上昇しているわけではありませんが、円安とそのもとでの輸入物価の上昇は、消費者物価を上振れさせるリスク要因です。

以上のように経済・物価見通しがオントラックであることを確認したうえで、リスクの観点からも、消費者物価が2年以上にわたって2%を上回って推移する中で、円安を受けて輸入物価が再び上昇に転じていることを踏まえて、0から0.1%よりも0.25%程度の金利水準の方が、よりリスクに中立的で、適切であると判断したということです。もちろん、0.25%という水準は、名目金利としても、また特に実質ベースでみれば、極めて低い水準ですので、引き続き、極めて緩和的な金融環境によって、経済を支えていきます。

先行きにつきましては、結論から申し上げますと、内外の金融資本市場の急激な変動がみられるもとで、当面、現在の水準で金融緩和をしっかりと続けていく必要があると考えています。

この点、展望レポートの中で、「金融政策運営については、先行きの経済・物価・金融情勢次第であるが、以上のような経済・物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく」という考え方を示しました。この考え方は、その前提として、「経済・物価の見通しが実現していくとすれば」という条件が付いています。そして、この点で、ここ1週間弱の株価・為替相場の大幅な変動が影響します。

金融資本市場では、最初にお話しした米国の景気減速懸念を契機に、世界的に急速なドル安の動きと株価の下落が生じています。特に円ドル相場は、これまで円安方向で大きなポジションが積み上がっていたことの巻き戻しがあり、変動幅が大きくなっています。また、わが国の株価は、円安の修正もあって、他国に比べても下落幅が大きくなっています。

株価は、基本的には企業収益や経済の先行きの見通しを反映して形成されるものであり、この点、わが国企業の収益は歴史的な高水準にあります。これは単なる円安の恩恵といったものではなく、より本質的な収益力の強化によるものです。もちろん、株価の変動は、企業の投資行動や、資産効果などを通じた個人消費、ひいては経済・物価の見通しに影響するものであり、政策運営上重要な要素です。

また、為替相場の面では、円安が修正された結果、輸入物価を通じた物価上振れのリスクは、その分だけ小さくなりました。図表14の緑の線にあります通り、輸入物価の上昇は、契約通貨ベースではほぼゼロ%ですので、円ベースでの上昇は、ほぼこれまでの円安によるものです。この点で円安の修正は、政策運営に影響します。

こうした市場の変動の結果として、見通しやその上下のリスク、見通しの確度が変われば、当然金利のパスは変わってきます。もともと、欧米の利上げプロセスとは異なり、わが国の場合、一定のペースで利上げをしないとビハインド・ザ・カーブに陥ってしまうような状況ではありません。したがって、金融資本市場が不安定な状況で、利上げをすることはありません。

先ほど申し上げた通り、私自身は、米国経済はソフトランディングする可能性が高いと考えていますし、わが国の株価が上昇してきた背景には企業の収益力の強化があると思っています。両国の経済のファンダメンタルズが大きく変わったとは思えませんので、米国の単月の指標に対する反応としては、大きすぎると思っています。

もっとも、最近の内外の金融資本市場の動きは極めて急激ですので、その動向や経済・物価に与える影響について、極めて高い緊張感をもって注視し、政策運営において適切に対応してまいります。繰り返しになりますが、当面、現在の水準で金融緩和をしっかりと続ける必要があると考えています。

5.道南経済の現状と展望

最後になりましたが、函館を中心とする道南経済についてお話しさせていただきます。函館支店は、現存する中では3番目に古い国内拠点として、明治26年に設けられ、それ以来、歴史あるこの地で、130年以上にわたって業務を続けてきました。今後も、地域における中央銀行サービスの提供や地元経済に資する情報発信などを通じて、貢献していきたいと考えておりますので、引き続きのご支援、ご協力を、どうかよろしくお願い申し上げます。

道南地域の景気は、持ち直しています。主力の観光では、人手不足が制約となっている面もみられますが、当地が舞台の人気アニメ映画の封切りに始まり、クルーズ船の来航、函館マラソン、大型コンベンションの開催等によって多数の観光客が来訪し、当地経済を盛り立てています。一方で構造的には深刻な課題を抱えています。観光と並び当地経済を牽引してきた水産関連産業は、スルメイカを中心とした漁獲量の長引く低迷により、非常に厳しい状況が続いています。また、産業の活性化や新たな経済の担い手については、全国の他の地方都市と比べても速いスピードで減少が続き、特に若手の域外流出が課題として重くのしかかっています。

ただ、こうした苦境の中でも、道南地域には豊富な観光資源のほかに、その風土を活かした新しい、明るい動きが着実に生まれています。農業分野では、じゃがいも、ニラ、かぼちゃ等、もともとの特産品に加え、ワインや日本酒の生産が拡大し、水産分野では、ほたてやナマコ、ウニ、昆布に加え、養殖サーモンが新たなブランドを築こうとしています。さらに、エネルギー分野でも、日本海側で大規模な洋上風力発電の計画が進捗しています。こうした風土を生かした資源をさらに大きな地場産業として育んでいくことが期待されます。

図表15をご覧ください。函館は、「訪れたい街」で、常に上位にランクされています。全国の各地域が、人口動態などの構造的な課題に直面していますが、私は、その答えはそれぞれの地域で異なるのではないかと思っています。地域の経済が、大都市部と同じ尺度で競争しても、規模と集約の利益の面で不利は避けられません。各個人が何を大切と思うかは、様々なのですから、それぞれの地域に魅力を感じる度合いも違うはずです。それを生かし、不利な要素を補う工夫をしていけば、十分な数の人に、住んでみたいと思ってもらうことは可能です。これからは、人が集まることが、地域にとって最大の処方箋になります。函館が「住みたい街」としても、大きく前進されることを期待しまして、私のご挨拶とさせていただきます。ご清聴ありがとうございました。