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【挨拶】全国信用組合大会における挨拶

日本銀行総裁 植田 和男
(代読 日本銀行副総裁 内田 眞一)
2024年10月18日

1.はじめに

本日は、全国信用組合大会にお招き頂き、誠にありがとうございます。

信用組合は、「相互扶助」の理念に基づく協同組織金融機関として、中小企業・小規模事業者、および地域の勤労者や住民に対して金融サービスを提供し、わが国経済の発展に大きく貢献してこられました。皆さまのご尽力に対し、日本銀行を代表し、深く敬意を表します。また、日頃より、日本銀行の政策・業務運営にご理解・ご協力を賜り、厚く御礼を申し上げます。

本日は、はじめに、経済・物価情勢についてご説明し、次に、金融システム面の話題についてお話しします。

2.経済・物価情勢

はじめに経済・物価情勢についてです。

わが国の景気は、一部に弱めの動きもみられますが、緩やかに回復しています。先行きは、海外経済が緩やかな成長を続けるもとで、緩和的な金融環境などを背景に、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まることから、潜在成長率を上回る成長を続けるとみています。

物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響は減衰してきているものの、賃金上昇などを受けたサービス価格の緩やかな上昇が続くもとで、足もとは2%台半ばとなっています。先行きは、既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響が減衰する一方、来年度にかけては、政府による施策の反動などが前年比を押し上げる方向に作用すると考えられます。この間、消費者物価の基調的な上昇率は、マクロ的な需給ギャップの改善に加え、賃金と物価の好循環が引き続き強まり中長期的な予想物価上昇率が上昇していくことから、徐々に高まっていくと想定しており、「展望レポート」の見通し期間後半には2%の「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移するとみています。

リスク要因としては、海外の経済・物価動向、資源価格の動向、企業の賃金・価格設定行動など、わが国経済・物価を巡る不確実性は引き続き高いと考えています。そのもとで、金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響を、十分注視する必要があります。特に、このところ、企業の賃金・価格設定行動が積極化するもとで、過去と比べると、為替の変動が物価に影響を及ぼしやすくなっている面があると考えています。米国をはじめとする海外経済の先行きは引き続き不透明であり、金融資本市場も、引き続き不安定な状況にあります。当面は、これらの動向を極めて高い緊張感をもって注視し、わが国の経済・物価の見通しやリスク、見通しが実現する確度に及ぼす影響を、しっかりと見極めていく考えです。

今後とも、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」のもとで、その持続的・安定的な実現という観点から、経済・物価・金融情勢に応じて適切に金融政策を運営していく方針です。

3.金融システム面の話題

次に、金融システム面の話題です。

わが国の金融機関は、引き続き充実した資本基盤と安定的な資金調達基盤を有しており、金融システムは、全体として安定性を維持しています。他方で、内外の金融・経済情勢や地政学リスクに伴う不確実性に目配りが必要な状況は続いています。こうしたもとで、信用組合を取り巻く環境や課題について、3点お話ししたいと思います。

1点目は、取引先支援の多様化・高度化についてです。中小企業・小規模事業者が直面する経営上の課題は、地域の人口減少や高齢化の進展のほか、既往の仕入価格の上昇や人手不足の拡がりなどを受け、ますます複雑化しています。これに伴い、取引先が信用組合に求めるニーズも、資金繰りなどの支援にとどまらず、事業再生やスタートアップ支援、事業再編や事業承継など、多様化・高度化し続けています。

これまで信用組合では、「相互扶助」の理念のもとで、そうしたニーズにこたえるべく、創業・新事業支援やビジネスマッチング、取引先の事業価値を見極めた資金供給など、様々な形で取引先の課題解決に向けた支援を進めてこられました。中小企業や小規模事業者の実情をよく理解し、きめ細かな支援を行う信用組合の役割は、今後、ますます大きなものになると考えています。これまで培ってこられた「目利き」の力も生かし、取引先の生産性や持続可能性の向上に資する金融サービスを提供することで、しっかりと地域経済・社会を支えて頂きたいと思います。

2点目は、信用組合の経営管理態勢・経営基盤の強化についてです。取引先が直面する様々な課題にこたえていくためには、信用組合においても、適切なガバナンスとリスク管理などの経営管理態勢を強化するとともに、充実した経営基盤の確保に努めていく必要があります。金融・経済情勢の変化に耐えるための自己資本強化、信用リスクや金利リスクといった金融面での管理態勢強化に加え、地域や取引先のニーズが多様化するもとでは、人材育成やエンゲージメント強化などを通じ、組織力を高めることも重要だと考えています。

3点目は、デジタル化とサイバーリスクです。

デジタル技術が急速に進展し、社会全体の利便性が高まるもとで、信用組合においても、そうした技術を活用して金融サービスの向上や業務の効率化に着実に取り組んでいく必要があります。既に、業界全体では「IT・DX戦略委員会」を設置されるなど、注力分野として進められていますが、引き続き、積極的に取り組まれることを期待しています。一方で、デジタル技術の活用に伴って生じるオペリスクやシステム障害等のリスクに対する目配りも必要不可欠です。また、近年、高度化・頻繁化するサイバー攻撃を防ぐためのITガバナンスの強化も、重要なテーマです。

信用組合が、社会・経済の変化に柔軟に対応する強い経営基盤と適切なガバナンス・リスク管理のもとで、引き続き、地域経済の活力向上に向けて取り組まれることを期待しています。

4.おわりに

最後に、信用組合業界の皆様の今後のますますのご健勝とご発展を祈念いたしまして、私からのご挨拶といたします。ご清聴ありがとうございました。