【挨拶】第100回信託大会における挨拶
日本銀行総裁 植田 和男
2025年4月9日
はじめに
本日は、第100回信託大会にお招き頂き、誠にありがとうございます。日頃より、信託の機能を活かした多様な金融サービスの提供を通じて、わが国の経済・社会の発展に貢献されておられます信託業界の皆様に、日本銀行を代表し、深く敬意を表します。
私からは、経済・物価情勢と金融政策運営と、信託の果たす役割への期待について、お話ししたいと思います。
経済・物価情勢と金融政策運営
まず、経済・物価情勢と金融政策運営です。
わが国の景気は、一部に弱めの動きもみられますが、緩やかに回復しています。物価については、コストプッシュの直接的な影響を除いてみた基調的な物価上昇率は、現時点では2%を下回っているものの、賃金の上昇が続くもとで徐々に高まってきています。このように、これまでのところ、経済・物価は「展望レポート」で示してきた見通しに概ね沿って推移していますが、先行きのリスク、特に、ここにきて各国の通商政策等の今後の展開を巡る不確実性が高まっている点には、十分に注意していく必要があります。
金融政策運営については、景気の改善が続き、これまで示してきた見通しが実現していくとすれば、それに応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになると考えています。そのうえで、こうした見通しが実現していくかについては、毎回の金融政策決定会合で、予断を持たずに点検していく必要があると考えています。米国の関税政策の影響を含め内外の経済・物価情勢、金融市場の動向を丁寧に確認し、経済・物価の見通しやリスク、見通しが実現する確度を点検しながら、適切に政策を判断してまいります。
信託の果たす役割への期待
次に、今後のわが国経済・社会の成長・発展に向けて、信託業界の皆様に期待することを申し上げます。
わが国において少子高齢化・長寿化が進むもと、信託の果たす役割への期待は、一段と広がりをみせています。家計においては、ライフイベントを見据えた若年期からの安定的な資産形成、そして次世代へ資産を円滑に移転させる相続・資産承継へのニーズはもとより、最近では、自らの認知機能の低下に備える新たな資産管理サービスへの関心もみられています。企業においても、高齢化が進展するもとでの地域経済活性化の観点から、信託を活用した円滑な事業承継の重要性が一層高まっていると考えられます。このほか、昨年改正された公益信託法では、価値観の多様化も相まって、教育や福祉事業など様々な公益目的に、信託を通じて民間の活力が発揮されることが期待されています。
このように経済・社会活動の変化に応じて、信託に期待される領域が広がっているもとで、信託協会は、来年創立100周年の節目を迎えるにあたり、2050年に向けて「信託業界のありたい姿」を公表しています。これまでの100年と同様、環境変化や社会の様々なニーズを捉えつつ、受託者精神に則り、柔軟かつ安心できる信託の枠組みを提供することで、国民から広く認識され、社会課題の解決や社会的価値の創出を実現していくことを期待します。
おわりに
最後になりましたが、信託業界の皆様の今後のご健勝とご発展を祈念いたしまして、私からのご挨拶とさせて頂きます。ご清聴ありがとうございました。