【挨拶】全国信用金庫大会における挨拶
日本銀行総裁 植田 和男
2025年6月20日
はじめに
本日は、全国信用金庫大会にお招き頂き、誠にありがとうございます。
信用金庫は、中小企業や地域住民の方々のための協同組織金融機関として、様々な金融サービスを提供し、地域経済や地域社会の発展に大きく貢献されておられます。あらためて、皆様の日頃のご尽力に対して、日本銀行を代表して深く敬意を表します。
経済・物価情勢と日本銀行の金融政策運営
はじめに、経済・物価情勢について、申し上げます。
わが国の景気は、一部に弱めの動きもみられますが、緩やかに回復しています。先行きは、各国の通商政策等の影響を受けて、海外経済が減速し、わが国企業の収益なども下押しされるもとで、緩和的な金融環境などが下支え要因として作用するものの、成長ペースは鈍化すると考えられます。その後については、海外経済が緩やかな成長経路に復していくもとで、成長率を高めていくと見込まれます。
物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、足もと3%台後半となっていますが、先行きについては、これまで物価上昇率を押し上げてきた既往の輸入物価上昇やこのところの米などの食料品価格上昇の影響は減衰していくと考えられます。一方、消費者物価の基調的な上昇率は、成長ペース鈍化などの影響を受けて伸び悩むものの、その後は、成長率が高まるもとで人手不足感が強まり、中長期的な予想物価上昇率が上昇していくことから、徐々に高まっていくと予想され、「展望レポート」の見通し期間後半には、2%の「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移すると考えています。
続いて、金融政策運営です。今週の金融政策決定会合では、昨年7月に決定した長期国債買入れの減額計画の中間評価を行いました。市場参加者のご意見も参考にしつつ、国債市場の動向と機能度を点検した結果、2026年3月までは従来の計画を維持することとしたほか、2026年4月以降は、国債市場の安定に配慮した形で市場機能の改善を進めていけるよう、月間の買入れ予定額を原則として毎四半期2,000億円程度ずつ減額し、2027年1~3月に2兆円程度とすることとしました。
先行きの金融政策運営については、現在の実質金利がきわめて低い水準にあることを踏まえますと、先ほど申し上げた経済・物価の見通しが実現していくとすれば、経済・物価情勢の改善に応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになると考えています。そのうえで、こうした見通しが実現していくかについては、各国の通商政策等の今後の展開やその影響を巡る不確実性がきわめて高い状況にあることを踏まえ、内外の経済・物価情勢や金融市場の動向等を丁寧に確認し、予断を持たずに判断していくことが重要と考えています。
今後とも、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」のもとで、その持続的・安定的な実現という観点から、経済・物価・金融情勢に応じて適切に金融政策を運営していく方針です。
金融システム面の話題
次に、金融システム面の話題です。
わが国の金融機関は、充実した資本基盤と安定的な調達基盤を有しており、金融システムは、全体として安定性を維持しています。
他方で、既に述べましたように、各国の通商政策や国際金融市場の動向などを巡る不確実性が高い状態が続いています。金融機関においては、様々な環境下で安定的な金融仲介機能を発揮できるよう、内外の動向を丁寧に確認したうえで、預貸運営や有価証券投資などの適切なリスク管理を実践していくことが、一段と重要になっています。
地域経済を取り巻く環境という点では、人口減少・少子高齢化や成長期待の低下といった長年の構造的な要因に、ここ数年では原材料高という新たな下押し要因も加わっています。こうしたもとで、中小企業が持続的に成長していくためには、従来的な生産性向上の取り組みや海外・インバウンド需要の取り込みに加えて、引き続き事業承継・M&Aなどによる事業構造の転換なども意識していくことが重要です。
この点、多くの信用金庫では、事業承継・M&Aや創業支援のほか、デジタル化など、多岐にわたる分野において、取引先の課題解決に向けたコンサルティング活動がみられています。また、そうした取引先への支援を強化すべく、信用金庫自らの業務にかかるデジタル化や人的資本経営の推進、産官学との連携強化などに関しても、業界を挙げて取り組んでおられます。
今後も信用金庫が、適切なガバナンス・リスク管理体制のもと、多様化する取引先のニーズにしっかりと応えることで、地域経済の活力向上と地域の社会課題の解決に繋げていくことを期待しています。
おわりに
最後に、信用金庫業界の皆様の今後のますますのご健勝とご発展を祈念いたしまして、私からのご挨拶といたします。ご清聴ありがとうございました。