【挨拶】わが国の経済・物価情勢と金融政策福島県金融経済懇談会における挨拶要旨
日本銀行政策委員会審議委員 田村 直樹
2025年6月25日
1.はじめに
日本銀行の田村でございます。本日は、福島県の行政および金融・経済界を代表する皆様との懇談の機会を賜り、誠にありがとうございます。また、日頃より、日本銀行福島支店の業務運営にご協力頂いておりますことに、厚く御礼を申し上げます。
本日は、まず私から、わが国の経済・物価情勢や日本銀行の金融政策運営などについて説明させて頂き、その後、皆様から福島県の実情に即したお話や日本銀行に対するご意見などを承りたく存じます。
2.経済・物価情勢
(1)経済・物価の現状と先行き
先ず、わが国の経済・物価情勢についてお話しします。最初に、現時点での私の認識を端的に申し上げれば、次の3点にまとめられます。
第1に、本年3月まで、わが国の消費者物価の基調的な上昇率は、2%の「物価安定の目標」に向かって、オントラック、やや強めで進んでおり、目標が実現する確度が一段と高まってきた、更には、上振れリスクも一段と高まってきたと判断できる状況にありました。
第2に、その後打ち出された米国の関税政策等は、わが国の経済・物価を下押しする公算が大きいとみていますが、それでも2027年度まで、前年比2%近傍の物価上昇が続くと予想しています。
第3に、そうした下押し要因があるもとでも、企業の賃金・価格設定行動が、賃金・物価が上がりにくかった以前の状況に戻っていくリスクは小さく、これまで高まってきた消費者物価の基調的な上昇率が下方に屈折してしまう可能性は小さいと考えています。
それでは、こうした点について、日本銀行の経済・物価見通しにも触れつつ、もう少し具体的に、説明してまいります。
まず、現状のわが国の景気は、一部に弱めの動きもみられますが、全体としてみれば、緩やかに回復していると判断しています。4月の展望レポートで示している実質GDP成長率は、政策委員の中央値で、2025年度が+0.5%、2026年度が+0.7%、2027年度が+1.0%となっています(図表1)。米国の関税政策等がもたらす海外経済の減速等によって、わが国経済の成長ペースが鈍化すると考えられるため、1月時点と比べて見通しを引き下げています。その後、海外経済が緩やかな成長に戻っていくのに伴い、わが国経済も成長率を高めていくと見込んでいます。
次に、わが国の消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、足もとは3%台後半となっており、4月の展望レポートで示した見通しは、2025年度が+2.2%、2026年度が+1.7%、2027年度が+1.9%となっています(図表2)。原油価格の下落や今後の成長ペース下振れの影響などから、1月時点と比べて見通しを引き下げていますが、それでも2%近傍の物価上昇が続くことを見込んでいます。
(2)賃金・物価の動向
冒頭に申し上げたとおり、こうした見通しを作成する以前、3月までは、わが国の消費者物価の基調的な上昇率は、2%の「物価安定の目標」に向かって、オントラック、やや強めで進んでいたと捉えています。わが国の賃金や物価の状況などを踏まえた判断ですが、これらの状況は足もとまで引き付けてみても大きくは変わらず、消費者物価指数の4月、5月のデータは想定よりも上振れてきています。
まず、賃金について、今年の春季労使交渉の状況をみますと、確りとした賃上げが行われた昨年を上回る推移となっており、特に中小企業のベアは、昨年からの上振れ幅が大企業よりも大きくなっています(図表3)。最終着地がどうなるか、労働組合のない中小企業への広がりはどうか、引き続き確認していく必要はありますが、賃上げモメンタムは十分に高まっている状況にあると考えられます。
次に、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、人件費の販売価格への転嫁が続くもとで、既往の輸入物価上昇や米などの食料品価格上昇の影響もあって、足もとは3%台後半、振れの大きいエネルギーを除いてみても、3%台前半となっています(図表4)。
関連して私が最近、注目している点を4点、申し上げます。第一に、前年同月の状況に左右されない瞬間風速とも言える、季節調整済みの前月比年率でみた消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)の動きです。長らく低空飛行が続いた後、2022年から2023年にかけて輸入物価の上昇を背景に急上昇しました。その後、昨年前半にかけていったん落ち着いてきましたが、第2ラウンドとも言える人件費などの価格転嫁の動きによって、昨年6月以降再加速し、足もとまで年率で3%程度のインフレが継続しています(図表5)。
第二に、賃金の販売価格への転嫁の状況を確認するうえで重要なサービス価格の動きです。サービス価格の上昇率は、表面的には、前年比で2%をやや下回っています(図表6)。ただし、サービスには、構造的に一般物価の動きから大幅なタイムラグを有するとみられる家賃1や公共サービス2が含まれており3、これらがサービス価格の上昇を下押ししていることに注意が必要です。これらを除いたサービス価格、私は「市場ベースのサービス価格」と呼んでいますが、この推移をみると、近年2%を超える伸びが続いており、更に、足もとでは、家賃や公共サービスの価格も徐々に上昇を始めています。
第三に、生鮮食品の価格動向です。生鮮食品の価格は一時的な要因で大きく上下に振れ、一過性のものであると考えられることから、物価の基調をみる際に除かれることが多くなっています。実際、2021年頃までの生鮮食品の価格推移をみると、上下に振れ幅が大きいものの、均してみれば物価全体とおおむね同程度の動きとなっていました(図表7)。しかし、2022年初頃以降は、振れ幅が大きいのは相変わらずですが、均してみても物価全体を大きく上回って上昇しています。この背景として、(1)人手不足等による供給力の低下、(2)各種コストや光熱費、運送費の上昇、(3)作り手の人件費上昇、などが挙げられており、一過性のものとは言えません。更に、気候変動に伴う天候不順の影響も大きく、この押し上げ要因は今後も継続するとの指摘もあります。生鮮食品以外の食料についても、同様のことが言えます。生鮮食品やその他の食料の価格上昇は家計に大きなネガティブ・インパクトを与えるうえ、家計の予想インフレ率に大きな影響を与え、持続的な物価押し上げ要因となり得ます。したがって、生鮮食品の価格の動きについても、十分に目配りしていく必要があると考えています。
第四に、このような中、中長期的な予想物価上昇率がじわりと上昇してきていることです(図表8)。短観における企業の物価全般の見通しは、緩やかに上昇しており、5年後の予想は2%を超える姿が続いています。家計について、日本銀行の「生活意識に関するアンケート調査」の結果では、バイアスがあるため水準自体は割り引いてみる必要がありますが、中央値でみた5年後の予想は2%を大きく超え、平均値でみた予想は足もとも上昇を続けている状況です。専門家の見通しは低めにとどまっていますが、私としては、実際の経済活動の主体である企業や家計の予想物価上昇率を重視すべきと考えており、これは既に2%程度に達していると捉えています。予想物価上昇率が2%程度で安定している欧米と異なり、低い水準から上昇してきたわが国において、これが更に上振れしていってしまわないか、注意が必要だと考えています。
- わが国の消費者物価指数の家賃の上昇率が低い背景として、家賃の引上げにかかる制度的なハードルが高いこと、継続家賃を含めた調査であるため居住者入れ替え時に行われた新規家賃の上昇の影響は一部に限られることなどが指摘されている。また、賃貸住宅の経年による品質劣化の調整を行っていないことも下方バイアスを生じさせている。こうした影響は、民営家賃の価格だけでなく、ウエイトの大きい持家の帰属家賃の価格にも反映されることにも留意しておく必要がある。
- 消費者物価指数の公共サービスには、国や地方自治体が法律などで価格を規定する法定料金・条例料金の品目に加え、価格改定に国の認可を要する認可料金や価格改定を国に届け出る届出料金の品目も含まれる。わが国の公共料金が上昇しにくい原因の一つとして、公営企業の収益に対する補助金の投入が常態化し、営業費用や設備の減価償却費用が料金に反映されにくいことが指摘されている(2016年7月展望レポートのBOX4)。なお、足もとは、火災・地震保険料や自動車保険料(任意)の価格上昇が公共サービスの価格の上押し要因となっているが、これらを除くと、上昇率は低い伸びにとどまっている。
- サービス物価に占めるウエイトは、民営家賃(帰属家賃を含む)36%、公共サービス25%となっている。
(3)米国の関税政策等の影響
こうした情勢から「物価安定の目標」の実現が目の前まで来ていると考えていましたが、その後打ち出された米国の関税政策等によって、状況は大きく変わりました(図表9)。各国間の関税交渉がある程度進展するほか、グローバルサプライチェーンが大きく毀損されるような状況は回避されることなどを前提に5月1日に取り纏めた日本銀行の経済・物価見通しは、1月時点の見通しから下方修正しています。とはいえ、例えばリーマンショックであるとか、コロナ禍であるとか、そういったレベルでの大きなショックに繋がるとは見込んでいません。もちろん個々の企業をみればその影響は区々ですが、日本全体としてみた場合、予断を持つことはできませんが、私としては、景気の「減速」という範疇で持ちこたえられるというのがベースシナリオと考えています。こう考えるのは、米国の関税政策等の直接的な影響を受けるのが輸出型の製造業やそのサプライチェーン関係企業等に限られるということが大きな理由です。間接的な影響についてももちろん注意が必要ですが、わが国における製造業の比率は、GDPで20%程度、就業者数で15%程度にとどまります。物価についても、2027年度まで、前年比2%近傍の上昇率が続くと見込んでいますが、グローバルな生産体制が変調をきたし、サプライチェーンに混乱が生じる場合には、輸入物価の上昇などを通じて、わが国の物価を押し上げるリスクがあると考えられます。
ただし、米国の関税政策等がどうなっていくのか、そうした政策に対して企業がどのように対応するのか、二重の意味で流動的です。したがって、現時点での見通しは仮置きのようなもので、今後の推移次第では、上方向・下方向両面で、大きな修正があり得ます。今後、わが国経済・物価等の状況を丹念に点検していく必要がありますが、特に注視が必要と私が考えているのは、企業の賃金・価格設定行動が、以前の賃金・物価が上がりにくい状態に戻ってしまわないかという点です。
(4)わが国企業の賃金・価格設定行動
ここで、近年みられてきたわが国の企業行動の変化について、いくつか振り返ってみます。
まず、企業の価格設定行動は、従来よりも積極化し、それが定着してきています。短観で「販売価格は上昇する」と回答した企業の割合を、「仕入価格は上昇する」と回答した企業の割合で割った値――正確ではありませんが、仕入れ価格が上昇した企業のうちどれぐらいの企業が販売価格を上昇させるかをイメージしたもの、言い換えれば、価格引上げに関する企業の積極性を示すもの――を計算してみますと、バブル崩壊後、この値は低下し、その状態が長く続きました(図表10)。しかし、2022年以降の局面では、この値が以前の水準まで戻り、足もとまで高めの水準が維持されています。これは、今回局面では、仕入価格の上昇幅があまりに大きく、やむにやまれず販売価格を引き上げたところ、多くの企業が同じような行動を余儀なくされる中で販売価格の引上げが定着し、企業の意識・行動が変容していったということだと考えられます。
次に、企業の賃金設定行動も、従来よりも積極化してきています。マクロでみたベースアップ率を被説明変数、物価上昇率・名目労働生産性・中長期インフレ予想を説明変数とする関数を1992 年度から2022 年度までのデータを用いて推計し、2023年度以降のベースアップ率をこの関数で推計すると、ここ3年間のベースアップ率の実績値は、関数の推計値をはっきりと上回っています(図表11)。このことは、企業の賃金設定行動が、近年、大きく積極化してきていることを示していると考えられます。
以上のような変化、従来よりも積極化した企業の賃金・価格設定行動が元に戻ってしまわない限り、2%の「物価安定の目標」に向けて上昇してきた消費者物価の基調的な上昇率が下方に屈折してしまう可能性は小さいと考えられます。では、企業の賃金・価格設定行動が元に戻ってしまうリスクはどの程度あるのか。米国の関税政策等の影響は不確実性が高く、十分見通すことはできませんが、私としては、現時点では、そのリスクは小さいと考えています。
第一に、人手不足が今後も続く中、実態的な供給力が需要を下回り、賃金や物価には上昇圧力がかかると考えられることです。日本銀行の需給ギャップの推計値は、足もとゼロ近傍にありますが、人手不足によって十分に設備を稼働させられないという側面が推計値を押し下げていると考えられます(図表12)。建設工事や機械受注の受注残高が大きく積みあがった状況にあることをみても、旺盛な設備投資需要に対し、供給側が十分に対応できていないことを示しています(図表13)。
第二に、企業に価格引上げの経験が蓄積されるとともに、プライシング戦略の重要性が再認識されてきたことです。日本銀行が2023年11月から2024年2月頃にかけて企業を対象に行ったアンケート調査では、「物価と賃金がともに緩やかに上昇する方が望ましい」という回答が72%を占めています。今後についても、政府の各種支援策も後押しとなり、「コストカット型経営」から「高付加価値創出の成長型経営」への転換が持続していく公算が大きいと考えています。
3.金融政策運営
(1)先行きの金融政策運営
ここからは、日本銀行の金融政策運営についてお話しします。日本銀行は、2%の「物価安定の目標」を持続的・安定的に実現することを目指して、政策運営を行っており、2024年3月の金融政策の枠組みの見直し以降、短期金利の操作を主たる政策手段と位置付ける、普通の金融政策に戻っています。
先行きの消費者物価の基調的な上昇率は、成長ペース鈍化などの影響を受けて、当面、伸び悩むものの、その後は、成長率が高まるもとで人手不足感が強まり、中長期的な予想物価上昇率が上昇していくことから、徐々に高まっていくと予想され、2027年度までの展望レポートの見通し期間後半には「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移する、というのが日本銀行としての見方です。一方で、私としては、経済・物価の見通しが仮置きとも言える状況であるほか、物価の上振れリスクにも留意する必要がある状況下、「物価安定の目標」の実現時期が前倒しとなる可能性も十分にあると考えています。
そういう中、現在の実質金利(名目金利-予想物価上昇率)がきわめて低い水準にあることを踏まえると、データや各種情報を予断なく分析し、経済・物価情勢の改善に応じて早すぎず遅すぎず、適時適切に政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくというのが、私の基本的な考え方です。今後、不確実性が完全に晴れることはないと思いますが、日本銀行は、金融政策決定会合ごとに次の会合までの政策金利を決定しなければなりません。「物価安定の目標」実現の確度が高まる、あるいは、物価上振れリスクが高まる場合には、たとえ不確実性が高い状況にあっても、果断に対応すべき場面もあり得ると考えているところです。
一方、「わが国の政策金利は過去30年にわたって0.5%を超えておらず、そこに大きな壁がある」といった声もあります。しかし、以下の理由から、私は0.5%に壁があるとは感じておりません。
第一に、物価上昇率の違いです。前回、短期金利が0.5%であった期間を含む2007年、2008年の消費者物価(除く生鮮食品)の上昇率はそれぞれ0.0%、1.5%であったのに対し、現在は3%台後半となっています。
第二に、市中銀行の貸出金利水準の違いです(図表14)。2007年、2008年当時の短期貸出金利は1.5から1.7%でしたが、現在は0.7%にとどまっています4。信用コストが当時より低下しているという側面はありますが、それ以上に、貸出金利のスプレッドは縮小していると考えられます。住宅ローンについても同様のことが言え、借入金利は依然当時を下回っている状況です。
- 4 政策金利の引上げが貸出金利に波及するまでにはタイムラグを伴うが、そうした影響を捨象してみるため、政策金利を0.5%に引き上げる前のボトムの水準で貸出金利を比べても、当時は1.3%、現在の局面では0.4%となっている。
(2)長期国債買入れの減額計画
金融政策運営の話に加え、先週の金融政策決定会合で決定した長期国債買入れの減額計画についても触れておきたいと思います(図表15)。まず、昨年7月に決定した2026年3月までの減額計画についての中間評価を行い、月間の長期国債の買入れ予定額を、2026年1から3月までは原則として毎四半期4,000億円程度ずつ、2026年4から6月以降は原則として毎四半期2,000億円程度ずつ減額し、2027年1から3月に2兆円程度とすることを決定しました。また、2026年6月の金融政策決定会合では、長期国債買入れの減額計画の中間評価を行うこととし、今回の減額計画を維持することを基本としつつ、国債市場の動向や機能度を点検したうえで、必要と判断すれば、適宜計画に修正を加えること、また、2027年4月以降の長期国債の買入れ方針についても検討し、その結果を示すこととしました。これらは、国債市場の安定に配慮するための柔軟性を確保しつつ、予見可能な形で減額していくことが適切であるとの判断に基づくものです。
これを決めた金融政策決定会合において、私は、4,000億円の減額ペースを変える必要はないと考え、本案の議決に反対票を投じました。これは、長期金利の形成は市場と市場参加者に委ねるべきであり、可能な範囲でできるだけ早く日本銀行の国債保有残高の水準を正常化していくべきだと考えたからです。決定した減額計画のペースでは、日本銀行のバランスシートの正常化、すなわち、これ以上の削減を行わなくてよいという水準まで国債保有残高を減少させるまでに、より長い期間が必要となってしまいます。現在、国債市場の機能度は、一時より改善したとはいえ依然低い状態にありますが、こういった大規模緩和の後遺症は、しばらく残り続けてしまうことになります。市場の状況を十分に注視しつつ、時間はかかりますが、着実に正常化を進めていく必要があると考えています。
4.おわりに ―― 福島県経済について ――
最後に、福島県の経済についてお話ししたいと思います。
福島県は、広大な県土と首都圏からのアクセスの良さなどを活かして幅広い業種の製造拠点が集積しており、東北6県の中で最大の工業出荷額を誇ります。また、豊かな自然の恵みを受け、米や果物などの農産物、「常磐もの」と呼ばれる水産物が高い評価を受けているほか、温泉地やスキー場などの観光資源も豊富です。
ただ、最近の福島県の景気をみますと、全国と比べると勢いが弱く、足踏み状態を続けています。企業の設備投資は増加していますが、復興需要の反動で住宅投資や公共投資は長らく減少傾向が続いています。当地でも賃上げの動きは着実に広がっていますが、これまでのところ個人消費は横ばい圏内にとどまっています。今後、今年の賃上げが個人消費に波及してくることが期待される一方で、海外経済や米国の関税政策等の展開とその影響に注意が必要な状況です。
今後、福島県経済が回復経路に復していくうえでは、地域のポテンシャルを活かした形で成長力を高めていくことが鍵を握ると考えています。そうした観点から2点お話ししたいと思います。
1点目は、農業や観光分野における海外需要の取り込みです。Fukushimaは今や世界の誰もが知る名前です。復興に向けて前進している状況を正確に情報発信することで、この高い知名度を、元々付加価値の高い農産物や日本酒などの県産品の輸出促進、インバウンド需要の呼び込みに繋げていかれることを期待しています。この点で複合災害の教訓を伝承する「ホープツーリズム」は、福島の「今」を海外の人に知ってもらううえでも大変有益な取り組みだと考えています。
2点目は、先端技術を活かした新規事業への取り組みです。県内には様々な研究機関が集積しており、それらが当地の製造業の発展に寄与しています。例えば、当県は長年にわたって医療用機械器具出荷額の全国首位を維持していますが、その背景には、医療機器の開発・事業化の支援を行う「ふくしま医療機器開発支援センター」も一役買っています。会津地域ではスマートシティ構想の下、デジタル技術とデータを用いて社会課題の解決を図る取り組みが進められています。また、浜通り地域では、世界最先端技術の研究・開発拠点を標榜する「福島国際研究教育機構(通称:F-REI〈エフレイ〉)」の活動が今後本格化していきます。当地製造業が持つ高い技術力が発揮され、福島発の技術やアイデアの実用化が進んでいくことを期待しています。
東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故から14年が経過し、被災地域の避難指示の解除が進んでいるほか、燃料デブリの試験的取り出しなど廃炉に向けた取り組みも進展しています。いまだに多くの方々が避難生活を続けておられるほか、被災地域における大幅な人口減少、根強く残る風評など、当県固有の課題が山積していることも事実ですが、皆さまの粘り強い取り組みが実を結び、福島県経済が未曽有の複合災害という困難からの復興・再生を果たしていかれることを期待しています。
日本銀行福島支店は、東北地方で最初に設置された支店として、昨年には開設125周年を迎えることができました。これからも地域の第一線で中央銀行業務を遂行するとともに、関係する皆様との意見交換などを通じて、福島県経済の発展に貢献できるよう努めてまいります。
ご清聴ありがとうございました。