金利指標改革フォーラム「市中協議のポイントと金利指標改革を巡る国内外の検討状況」の模様
2019年8月16日
「日本円金利指標に関する検討委員会」(事務局:日本銀行金融市場局市場企画課)は、8月1日、金利指標改革フォーラム「市中協議のポイントと金利指標改革を巡る国内外の検討状況」を開催しました。
2021年末以降、LIBORの公表が恒久的に停止される可能性が高まっていますが、LIBORは、貸出・債券・デリバティブなど様々な金融取引において参照されている金利指標であることから、金融機関、事業法人、機関投資家といった幅広い主体の業務にも多大な影響が及ぶと考えられ、LIBORの公表停止に備えた対応が求められています。
こうした中、「日本円金利指標に関する検討委員会」は、7月2日、金利指標改革に関するこれまでの議論の結果を整理したうえで、円金利指標の今後のあり方に関する意見を、幅広い主体から募集することを企図して、「日本円金利指標の適切な選択と利用等に関する市中協議」を公表しました。
本フォーラムでは、市中協議のポイントやデリバティブ取引に関する取り組み、海外の検討状況などを中心に、金利指標改革を巡る国内外の検討状況についての説明が行われました。
開会挨拶・プレゼンテーション資料等
開会挨拶(日本銀行金融市場局長 清水 誠一)
金利指標改革の加速の必要性
各国では、金利指標改革について、これまで段階を踏みながら対応が進められてきた。わが国でも、海外と歩調を合わせながら、改革に向けた検討が進められているが、約2年半後に迫るLIBORの公表停止を前提とした移行対応にかかる課題は、膨大かつ多岐に亘るため、事業法人や業界団体をはじめとする各社において、実務的な準備と論点整理を進め、改革の動きを加速して頂きたい。その際、今回の市中協議の機会を捉え、実務的課題や論点について幅広く意見を提出して頂くことにより、金利指標改革に向けた議論がより有益なものになると思われる。
リスク・フリー・レートの市場創設に向けた市場全体の取り組み
7月30日に、ターム物金利の算出・公表主体に対して実務的なサポートを行う新たな検討組織として、「ターム物RFR金利タスクフォース」を設立することを公表した。頑健なターム物金利の算出・公表が実現し、また、それが実際に契約で利用されるための信頼性のある指標となるためには、全市場参加者・金利指標ユーザーによる協力・支援が不可欠である。このため、ターム物金利の市場創設に向けた取り組みを、関係者が一丸となって進めていくことが重要である。
開会挨拶(金融庁総合政策局長 森田 宗男 氏)
LIBORの公表停止に向けた対応の必要性
LIBORという金融の重要なインフラストラクチャーがなくなる可能性があるということ、しかも2021年末という時限を意識して必要な対応をしていかなければいけないという点を、まず強調したい。
LIBORからの移行に向けた対応
LIBORの公表停止の影響を緩和させるために、(1)新しい契約には、できる限りLIBOR以外の金利指標を利用すること、また、(2)満期が2021年末を超える既存契約には、『フォールバック』条項を追加することが考えられる。
(3)止むを得ず、今後、満期が2021年末を超える新規契約にLIBORを参照する必要がある場合には、最低限、フォールバック条項を定めた上で、新規契約を行うことも考えられるが、LIBORを継続利用するリスクは、金融取引の種類によっては自社だけでなく、顧客や幅広い市場関係者に拡散させてしまう可能性があることに、留意して頂きたい。
金融庁の役割
LIBORからの円滑な移行を図るため、市中協議で示されている移行計画の実現に向けて、市場全体の取り組みを支援していきたい。
TIBORについても、全銀協TIBOR運営機関による指標算出業務の適切性や指標の頑健性の向上に向けた取り組みを、引き続きサポートしていきたい。
また、金融機関側の移行計画のレビューなど、必要なモニタリングを実施し、金融機関が顧客に対して、適時に適切な金融サービスを提供できるよう、促していきたい。
全文[PDF] <金融庁ウェブサイトにリンク>
プログラムの内容および参加者
検討委員会における取り組みと市中協議のポイントについて、日本円金利指標の適切な選択と利用等に関する市中協議のポイント [PDF 832KB]を用いて説明が行われました。[プレゼンター:株式会社三菱UFJ銀行 経営企画部 部長 松浦 太郎 氏(日本円金利指標に関する検討委員会議長)]
また、ターム物RFR金利の公表等に向けた取り組みについて、事務局より、「ターム物RFR金利タスクフォースの設立等」について[PDF 93KB]を用いて説明が行われました。
ISDAにおける取り組みについて、昨年実施されたフォールバックに関する市中協議結果(対象通貨:日本円、英ポンド、スイスフラン、豪ドル)や、本年5月に追加で実施された米ドル等のフォールバックや公表停止前トリガーに関する市中協議の概要について説明が行われました。また、本年7月に、調整スプレッド等を公表するベンダーが選定されたことが紹介されました。最後に、以下のとおり、ISDAにおける今後のスケジュールが共有されました。[プレゼンター:国際スワップ・デリバティブズ協会(ISDA) 東京事務所長 森田 智子 氏]
本年8月:調整スプレッドの算出にかかるパラメータ等に関する市中協議
本年12月:修正版ISDA定義集の公表
来年3月:フォールバック条項の効力発効日
海外の動向・国際的な取り組みについて、債券市場では、米国および英国においてSOFRやSONIAを参照する債券が新規発行された事例が紹介され、これらRFR(後決め)の日次複利計算の方法については現時点で必ずしも標準化されていないことが説明されました。また、社債権者集会を開催し、既発債の変動金利をLIBORからSONIAへと変更した英国企業の事例が紹介されました。次に、貸出市場の動向について、米国検討体におけるシンジケート・ローンや相対貸出のフォールバック条項の市中協議結果を用いて、米国で検討されているフォールバック条項の概要について説明が行われました。最後に、通貨スワップに係る議論について、米国検討体が公表したコンベンション案を用いて、RFR-RFR通貨スワップやRFR-IBOR通貨スワップのコンベンション案の概要について説明が行われました。[プレゼンター:シティグループ証券株式会社 市場部門 市場企画管理部 ディレクター 渡辺 敦也 氏]
質疑応答
事前に寄せられた参加者からの質問について、検討委員会から説明が行われました。
会計上の論点に関して、例えば、借入レートとデリバティブのインデックスが異なるケースでは、時価による会計上の損益の影響が大きいと思われる。企業会計基準委員会(ASBJ)での早期のルール決めが重要だと思うが、どのようなスケジュールで策定されていくのか。
会計上の論点についてはASBJで検討しているが、現時点では不確定の要素も多く、明確な検討スケジュールは策定されていないと認識している。
なお、国際的な課題でもある本論点については、通貨横断的に国際会計基準審議会(IASB)でも検討が行われている。同会では、代替金利指標への移行前(フェーズ1)と移行時(フェーズ2)の対応に区別のうえ、フェーズ1における救済措置に関して市中協議が実施され、年内には結論が出される見込み。フェーズ2の検討スケジュールは明らかにされていないが、上記フェーズ1の市中協議で寄せられた各社のコメントでは、移行後にヘッジ会計上生じ得る事象を早期に明確化するよう求める意見が多いと伺っている。
ASBJでは、こうした海外の検討状況との平仄も意識しながら検討が行われていると認識している。
代替金利指標の決定プロセス、決定者、公表の方法については特に触れられていないと思うが、今後決まっていくものなのか。もしくは、明確な決定はなされず、マーケット参加者の中で徐々に決まっていくものなのか。
代替金利指標の決定を検討委員会が行うことは困難と考えている。これは、それぞれの代替金利指標は異なる特徴を有しており、商品・取引の目的に応じて契約当事者間で選択していくことが想定されるためである。
他方で、市中協議のプロセスにおいて商品別により多くの支持を集めた代替金利指標が示され、市場参加者における当該金利指標への理解やその利用に向けた対応が進む中で、代替金利指標が収斂することは期待される。また、それによって、当該金利指標の取引の流動性が高まり、価格発見機能もより優れたものとなっていくのではないかと考えている。
情報収集に関して、LIBORの恒久的な公表停止に備えた対応を金融機関と事業会社の区別なく速やかに周知徹底するとともに、各社で取るべき対応(契約変更、会計上の整理等)の期限を明確に示して頂きたい。また、米国や欧州などの金利指標改革に関する議論の進捗について、情報提供して頂けないか。
LIBORの利用状況は、各社の業種や規模等によって区々であるため、LIBORの恒久的な公表停止に向けた対応策やタイムラインを一律にお示しすることは難しい。このため、まずは、各社の取り組みについて方向性を例示している市中協議文書の第4章を参考に、各社で取り組むべき対応の洗出しを行って頂く必要があると考えている。
そのうえで、各社がこうした取り組みを進めるなかで直面した課題等については、その内容に応じて、法律家等の専門家や業界団体のサポートも得つつ解決策を見出していく必要があると思われる。また、市場全体で解決すべき論点については、市中協議の意見募集の機会を活用し、市場参加者等に幅広く共有して頂きたいと考えている。
金利指標をめぐる各国および国際的な動向について、検討委員会では、会合毎に事務局作成の資料をホームページに掲載してきている。具体的には、英国・欧州・スイス・米国の各国ワーキング・グループにおける議論の状況や、FSBやIOSCO、ISDA等の国際的な取り組み等について、2017年以降の動きを中心に、取り纏めている。
今後も、同様の情報提供に努めて参りたい。その際には、頂いたご意見等を踏まえ、必要な情報や更新頻度、情報の深度について、工夫して参りたい。
会場の様子
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日本銀行金融市場局長 清水 誠一
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金融庁総合政策局長 森田 宗男 氏
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金利指標改革フォーラムの様子
(撮影:野瀬 勝一)