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気候変動に関する日本銀行の取り組み方針について

2021年7月16日
日本銀行

気候変動問題は、将来にわたって社会・経済に広範な影響を及ぼしうるグローバルな課題となっている。この問題への対応を進めるためには、国会・政府の政策対応と同時に、社会・経済を構成している各主体による積極的な取り組みが求められる。日本銀行は、これまでも、中央銀行の立場から、金融機関との対話や国際的な議論への参画を積極的に進めてきたほか、行内組織である「気候連携ハブ」の立ち上げなど気候変動に関する体制の強化を図ってきた。

最近では、政府や企業をはじめ、内外の関係者による気候変動に関する取り組みが更に積極化している。日本銀行としても、物価の安定と金融システムの安定という日本銀行の使命に沿って気候変動に関する取り組みを進めるため、既存の措置も含めて、以下のような各種の施策を実施することを内容とする、包括的な取り組み方針を決定した。

  1. (1)金融政策

    気候変動問題は、中長期的に、経済・物価・金融情勢にきわめて大きな影響を及ぼしうる。日本銀行としては、中央銀行の立場から民間における気候変動への対応を支援していくことは、長い目でみたマクロ経済の安定に資するものと考えている。その際、金融政策面での対応に当たっては、市場中立性に配慮し、中央銀行がミクロ的な資源配分に具体的に関与することは、できるかぎり避けることが適当である。

    こうした観点から、日本銀行は、気候変動対応に資するための取り組みについて一定の開示を行っている金融機関を対象に、そうした取り組みの一環として実施する投融資をバックファイナンスする新たな資金供給制度を導入することとし、年内を目途に実施する。

  2. (2)金融システム

    気候変動問題は、「物理的リスク」と「移行リスク」を通じて、金融機関経営、ひいては金融システムの安定にも大きな影響を及ぼしうる。また、社会・経済の脱炭素化を進めていくうえでは、金融仲介機能が適切に発揮されることが重要である。日本銀行としては、こうした状況を適切に把握するとともに、気候関連金融リスクの把握や管理に関する金融機関の取り組みを積極的に後押ししていくことなどを通じて、わが国の金融システムの安定確保と金融仲介機能の円滑な発揮を目指す。具体的には、以下の取り組みを進めていく。

    考査・モニタリングでは、金融機関との間で、気候関連金融リスクへの対応状況や、取引先企業の脱炭素化に向けた取り組み支援等について、深度のある対話を行う。

    その際、気候関連金融リスクの定量的な把握が重要である。この点、各国当局や金融機関の間では、気候変動の程度や経済に与える影響について一定の仮定に基づいてシミュレーションを行うシナリオ分析が有益との認識が高まっている。現在、気候変動リスク等に係る金融当局間ネットワーク(NGFS)や各国当局の動きも踏まえつつ、金融庁と連携しながら、大手金融機関等を対象とする共通シナリオを用いた分析の試行的な実施に向けて、検討を進めているところである。

    加えて、コーポレートガバナンス・コードの改訂を踏まえた気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)等に基づく開示の質と量の充実を、金融機関に対して促していく。

  3. (3)調査研究

    気候変動問題が、経済・物価などのマクロ経済や金融市場、金融システムにもたらす影響について分析を深めるとともに、情勢判断やリスク把握のためのデータの収集や分析手法の高度化などを行う。また、金融市場および金融市場インフラの機能度を調査し、決済システム・市場基盤整備に関わる課題について検討する。これらの成果について、内外の関係者との情報共有・意見交換を行っていく。

  4. (4)国際金融

    G7、G20、東アジア・オセアニア中央銀行役員会議(EMEAP)等の国際会議や各国中央銀行との会合においては、各国の取り組みについての情報収集や日本銀行の施策の説明、多国間の議論への参画を通じ、気候変動に関する取り組みの進展に貢献する。また、金融システムに関しては、金融庁と緊密に連携を取りつつ、バーゼル銀行監督委員会、金融安定理事会(FSB)、NGFSなどにおいて進められている気候関連金融リスクに関する国際的な枠組みの構築に積極的に関与していく。また、気候関連金融リスクの評価に必要なデータの整備に関する国際的な取り組みについて、金融機関や関係省庁等と協力しつつ対応していく。

    国際金融協力については、市場育成の観点から、各国中央銀行との協力を通じて、グリーンボンド等への投資拡充に取り組む。日本銀行は、従来から、アジアの債券市場育成を目的とした地域協力のためにEMEAPの設立したアジア・ボンド・ファンドに投資を行ってきた。今後、加盟中央銀行と協議のうえ、同ファンドによる域内グリーンボンド市場の育成を念頭においた投資拡充を進めていく。

    日本銀行が保有する外貨資産については、これまで、安全性と流動性を重視する方針のもとで管理を行ってきた。近年、グローバルに、グリーンボンドの発行残高が増加しており、今後もそうした動きが続くことが予想される。こうした動きを踏まえて、従来からの保有外貨資産に関する方針の下で、外貨建てのグリーン国債等の購入を行っていく。

  5. (5)業務運営、情報発信

    日本銀行自身の業務運営に当たっては、これを適正かつ効率的に行う観点から、気候変動への対応を意識した取り組みを行う。すなわち、日本銀行は、これまでも、政府・自治体の定める目標も踏まえながら、温室効果ガスの排出削減および省エネルギーに配慮した業務運営を行ってきているほか、水害リスクの高まりに対する業務継続体制の整備を進めてきており、そうした取り組みを今後も行っていく。

    情報発信の面では、TCFDによる推奨内容を踏まえた開示を行うほか、気候変動に関する日本銀行の取り組み全般について、対外説明を充実させていく。また、その際には、日本銀行ホームページに新たに設置した専用のサイト(「気候変動」)を活用していく。

気候変動が、経済・物価・金融システムにもたらす影響は、不確実性が高く、時間の経過に伴って大きく変化する可能性がある。これらを踏まえ、日本銀行は、今後も、気候変動に関する情勢変化を適切に把握するとともに、国際的な議論への積極的な参画も含め、内外関係者と密接に情報交換を行ったうえで、各種の施策について、不断に検討を重ね、対応していく方針である。