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日本銀行金融機構局「金融高度化センター」の仕事 日本の金融仲介機能の向上を支える(2014年9月25日掲載)

私たちの日常生活にとって「金融システムの安定」は重要です。お金の貸し借りや受け払いを安心して行うことができないと、社会全体が混乱しかねません。日本銀行は、金融システムの安定を確保し、その強化を図るために、個別金融機関を対象に立入調査する考査や、各種経営資料の分析などを行うオフサイトモニタリングに加え、「金融高度化センター」で各種セミナーの開催や論文の公表などの活動を行っています。
今回は、金融高度化センターの具体的な仕事を紹介しましょう。同センターは日銀金融機構局内に設置されており、考査とは一線を画したアプローチで、金融機関の多様な取り組みを支援しています。同センターの方々に詳しく聞きました。

金融機関にとって親しみやすい金融機構局の「第三のチャネル」

大規模セミナーの参加者は数百人に上る

「金融高度化センター」は、日銀の金融機構局内に設けられた比較的新しい組織です。設立は2005年7月。同年4月には、普通預金に関してもペイオフ(払い戻しの保証額を元本1000万円と利子までとする制度)が解禁されるなど、日本の金融界が金融危機から「平常に戻った」時期でした。

金融高度化センターの副センター長兼企画グループ長の山口省藏さんは「金融界が平常化してきたことも踏まえ、日銀が『危機管理重視』から『公正な競争を通じた金融仲介機能の高度化を支援する』方向へ政策運営の舵を切り替えたことが、センター設立の背景にありました」と言います。

「日銀が各金融機関の取り組みを支援する部門として、従来の考査とオフサイトモニタリングに次ぐ『第三のチャネル』にセンターは位置づけられました」

時代とともに、金融技術やリスク管理の手法が高度化していく中で、金融機関の金融仲介機能を向上させる。それが金融高度化センターの最大の役割です。

従来から日銀は、各金融機関への考査とオフサイトモニタリングを通じて経営実態やリスクを把握し、必要に応じて改善を促すことで、金融機関がより有効に金融仲介機能を発揮できるように支援してきました。そうした考査やオフサイトモニタリングの取り組みと、「第三のチャネル」に位置づけられる同センターでの取り組みに何か違いがあるのでしょうか。

山口さんは「考査もオフサイトモニタリングも、また金融高度化センターも目指すところは一緒だと思っています。金融機関の金融仲介機能の向上は、日本の金融にプラスになり、ひいては金融システムの安定にもつながります」と前置きしたうえで、こう説明します。

「金融高度化センターが金融機構局の他のチャネルと違うのは、金融機関へのアプローチの仕方です。考査とオフサイトモニタリングへの協力は、日銀と取引する金融機関の契約上の義務です。金融機関にとっては『検査される』『監視される』という印象が拭えないかもしれません。一方、センターの場合は、金融機関にセミナー参加を呼び掛け、そこでの議論やコミュニケーションを通じて金融仲介機能の強化を図ります。センターは金融機関には『親しみやすいチャネル』に映るのではないでしょうか。私たちスタッフも、金融機関が悩んでいる課題等について『一緒に考える』という姿勢で業務に当たっています」

日銀の取引先金融機関を対象に数百人規模で開催する高度化セミナー

大規模セミナーにおけるパネルディスカッション

金融高度化センターのスタッフは、2014年7月末現在で11人。センター長(1人)のほか、企画グループ(6人)と研修グループ(4人)に分かれています。

このうち、企画グループは、金融機関の金融仲介機能の強化・支援に携わっています。具体的には、先進的な金融技術やリスク管理手法について調査・研究し、論文として公表するほか、金融機関からの個別相談に対応したり、全国の金融機関を対象に無料セミナーを実施したりしています。

「主催セミナーを続ける中央銀行の取り組みは世界でも稀でしょう。金融高度化センターの企画・運営で日銀のセミナーを実施し、取り上げるテーマの中に日銀として伝えたい意図も含めるようにしています」(山口さん)

セミナーには、(1)日銀の取引先金融機関を対象に首都圏で開催する大規模セミナー、(2)全国各地に出向いて開催する地域セミナー、(3)金融の専門家や実務家を集め、日銀本店で議論を深めるワークショップ――の3種類があります。それぞれでテーマなどがすみ分けされており、金融高度化センターの役割である「金融機関の金融仲介機能強化支援」を総合的に展開する工夫がされています。

500以上ある日銀の取引先に参加を募る大規模セミナーには、毎回、全国の金融機関から300から600人が集まります。2005年9月9日の第1回からはじまり、すでに16回のセミナー開催を数えますが、山口さんによると、「テーマは柔軟に変えている」のだそうです。

「当初はリスク管理の高度化に関するテーマが中心でした。しかし、最近では、金融機関の融資手法や顧客支援などに関するテーマも数多く取り上げています。情報セキュリティーや災害時の業務継続といったリスク管理の高度化の動きもフォローしながら、その時々で金融機関が関心を寄せたり悩んだりしている課題等もテーマに選んできました。柔軟な企画・運営が大規模セミナーの特徴です」

たとえば、2011年12月2日に開催した大規模セミナーでは、ABL(動産・債権担保融資)の活用を取り上げました。ABLは、融資先の在庫・機械や売掛債権等を担保に融資する仕組みです。不動産担保や個人保証に過度に依存しない融資手法としてABLが注目されはじめた時期に、タイミングよくセミナーで取り上げると、会場は大盛況。終了後のアンケートでは、「イメージが湧いた」「当行でもABLをやっていきたい」といった回答が多く寄せられ、3000億円程度だったABLの市場はこのセミナーの効果もあってその後拡大し、現在では約1兆円に達したと言います。

また、山口さんは「セミナー参加者へのアプローチも工夫している」と言います。

「当初のセミナーでは、講師は全員、日銀の職員が務めました。しかし、私たちは金融の実務に日々従事しているわけではなく、現場の体験を通じて話すことができないので、参加者が共感を持って受け止めてくれないこともあります。そこで、現在では金融機関の実務担当者にも講師をお願いし、成功や失敗の事例をいろいろ話していただいています」

数々の苦労や失敗もしたけれど、最後は皆で力を合わせて乗り越えられた――金融という仕事への情熱に満ちた実務担当者の体験談も多く、セミナーの参加者たちからは「大変感動し、参考になった」との声が寄せられるそうです。「私たちの仕事で感動したという声に私は感動しました」と山口さんは言います。

全国主要都市で開催する地域セミナーと専門家・実務家で議論するワークショップ

全国主要都市で開催している地域セミナー
(東京・日銀本店での開催の様子)

地域セミナーも、大規模セミナーと同様に、日銀の取引先金融機関を対象に参加を募っています。大きな目的は、リスク管理の基本的な知識を各地の金融機関に広めることです。金融高度化センターのスタッフらが札幌から福岡まで全国主要都市に出向き、2005年9月を皮切りに、現在まで延べ70回以上を開催しました。東京の日銀本店で開催するときは申し込みが殺到し、約150人の定員が受付開始から20分で埋まることもあります(なお、セミナーへの参加受付は、主に日銀の考査オンラインを通じて行っています)。

同センター企画役の碓井茂樹さんは2007年2月から主に地域セミナーで講師を務め、これまで延べ約1万人のセミナー参加者の前で話をしてきました。その内容について、こう振り返ります。

「リスク管理の基本から、応用、最新知識まで含まれる、実践的・実務的な内容に、年々進化していると思います。セミナー後のアンケート結果の反映や、金融機関がリスク管理や内部監査で何に悩んでいるか、長期間のニーズ調査を行うなどして、絶えずブラッシュアップしてきました。また、考査やオフサイトモニタリングの担当ともすり合わせを行い、『これは金融機関の役に立つ』という内容を盛り込んでいます」

地域セミナーの講師は碓井さんのほか、地域金融機関の実務担当者が務めることもあります。碓井さんによると、「大規模セミナーをきっかけに、内部監査の取り組みを強化した地方銀行のご担当者に講師をお願いしたこともある」と言います。

「大規模セミナーに参加したある地方銀行の部長は『目からウロコが落ちました』との感想を述べていました。数年後、私がその地方銀行を訪ねると、高度化への取り組みが着実に進んでいました。そこで、どのように実践していったのかということについて、地域セミナーで事例紹介をしていただいたところ、大きな反響がありました」

実務家、学識経験者と議論を行うワークショップ

ワークショップでは、金融機関の実務家や大学の研究者が東京の日銀本店に集まり、リスク管理の先端的な領域について議論を深めています。オペレーショナルリスクを主なテーマにした2006年7月のワークショップ以来、開催は現在まで20回以上。企画・運営を担当する同センター企画役の磯貝孝さんは「リスク管理の高度化に関する我々の調査・研究を基にワークショップを企画し、議論の参加メンバーは幅広い分野から人選します」と言います。

「競合関係にある専門家・実務家が一堂に会し、最先端の研究や取り組みなどを公開し合う場面もあります。『日本の金融機能の向上のために』という目的意識がメンバー間に共有されているからできる貴重な議論です。そのリード役を金融高度化センターが担っている、ということです」

ワークショップの議論を踏まえてリスク管理に関する論文も金融高度化センターで作成します。その内容を金融界に広く還元するため、日銀のホームページ上で公開するほか、学術論文に投稿したり国際会議で発表したりしています。

「おもてなし」の向上に力を合わせ日本銀行職員の機能向上も支える

金融機構局への転入者を対象とした基礎研修

大規模セミナー、地域セミナー、ワークショップを合わせると、金融高度化センターは、昨年20回程度のセミナーを開催しました。延べ2000人を集客している計算になります。これだけの規模のセミナーを毎年開催し続けることは、大変な仕事です。それにもかかわらず、セミナーの集客から当日の会場運営まで、すべて同センターのスタッフが担い、イベント業者などの手は借りていません。そしてセミナー運営の評判は、上々とのことです。

各セミナーの案内業務をはじめ、手配全般を担当する同センターの古川真佐子さんはこう話します。

「セミナー終了の翌日の午前中は、運営に携わった全員が顔をそろえて反省会をします。それぞれが意見を述べ合い、大事な内容を反映しながら独自のチェックリストも改訂していきます。私たちはホテルマンのようなプロのおもてなしはできないけれど、参加者に心地良いセミナーをつくるためにはどうしたらいいかということをいつも考えています」

金融高度化センターでは、こうしたスタッフに支えられた外部向けのセミナーのほか、金融機構局の職員に対する研修も企画・実施しています。日銀の職員全体の研修は総務人事局が実施し、また各局においてもそれぞれの業務に即した研修が行われています。その中で、現在のところ唯一、金融機構局だけが同局の職員(および支店担当者)向けの独立した研修組織を有しています。

同センターの研修グループで職員研修の企画・実施を担う新本俊一さんによると、「対象も開催頻度もさまざまですが、年間で延べ50回程度の研修を実施している」とのことです。

「最も多いのが、コンプライアンス・情報セキュリティー研修です。これは金融機構局に転入者がある都度、必ず行っています。当局の職員は金融機関との間で、機密性の高い情報交換やヒアリングなどの業務を担います。もちろん、日銀のどの部署で仕事をする場合も情報セキュリティーの意識は重要ですが、金融機構局では、より一層、厳格かつ慎重に業務上の情報等を取り扱う必要があると言えます。そこで、それを徹底させる研修を繰り返しているのです。ちなみに理解度テストも実施し、それに合格しない職員は研修を再受講してもらいます」

また、金融機構局で考査やオフサイトモニタリングを担当する場合、若手職員であっても金融機関を調べる立場に立ったり、課題を見つけたりしなければなりません。そのための研修も、同センターで提供しています。

金融高度化センターは、セミナー、ワークショップで金融機関の金融仲介機能の向上を支えるとともに、研修を通じて金融機構局職員の高度化も進めるセンターであることが分かりました。