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日本銀行決済機構局の仕事 決済サービスの高度化・決済システムの安全性確保に向けて(2014年12月25日掲載)

決済機構局は、決済システムの整備、業務継続体制の充実等を図るために設置された部署です。職員数は、約40名。日本銀行には、金融機関のお金の決済が安全かつ円滑に行われるようにする使命が与えられています。この使命の下、国民経済を支える決済システムおよび決済サービスの高度化などについて、決済機構局が具体的にどのような取り組みを行っているのか、その業務内容をご紹介します。

私たちの生活に不可欠な「決済システム」

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決済システムの安全性と効率性に関する国際基準(引用元:国際決済銀行・証券監督者国際機構)

そもそも「決済」とは何でしょうか。日本銀行は「決済」にどう取り組んでいるのでしょうか。決済システム課総務グループ長の伊藤真さんが話してくれました。

「『決済』とは、例えばお金の支払いとモノの受け渡しを行い、取引を完了させることです。決済は、経済取引に伴いさまざまな主体の間で生じますが、日銀は、金融機関が日銀に開設した当座預金口座や国債の口座の間で、金融機関のお金や国債の決済を行っています。こうした日銀が行う決済には、『日本銀行金融ネットワークシステム』─ 通称『日銀ネット』─ というオンライン・システムが利用されています。例えば、モノを買って銀行振込で支払いをしようとすると、モノを買った人と売った人が利用する銀行が異なる場合、銀行間でのお金の決済が必要となります。銀行間の決済は、『全国銀行データ通信システム(全銀システム)』等を経由した後、最終的には日銀ネットを通じて、それぞれの銀行が日銀に持っている当座預金口座間のお金を振り替えることによって行われます。その意味で、日銀ネットは、我が国の決済システムにおける基幹システムと言えます」

このように、日銀は、国民経済に深く関わる重要な社会インフラを運営しているのです。

では、日銀ネットを運営する日銀において、決済機構局とは何をする組織なのでしょうか。伊藤さんの話が続きます。

「決済機構局は、決済システム全体を眺めながら、決済に関して二つのことを目指して業務を行っています。一つは、『決済サービスの高度化』です。これは、金融機関、企業や個人による円や国債に関わる決済を、国内外を問わず、もっと便利でスムーズに行えるようにすることです。もう一つは、『決済システムの安全性確保』、すなわち、決済が確実に行われ、より安心してサービスを利用できるようにすることです。いずれも、決済の仕組み作りや提供するサービスのあり方を見つめ直すことで実現されていくものだと思います」

決済サービスの高度化(1)大規模プロジェクト「新日銀ネット」の構築

日本における決済の基幹システムである日銀ネットは、1988年の稼動開始以来、大きなシステム障害を起こさず安定的に稼動しています。この間、金融取引のグローバル化や情報処理技術が進展し、国境をまたいだ決済システムの結び付きも強まっています。そこで、日銀では、こうした状況変化に対応した新しい日銀ネット(新日銀ネット)を構築するプロジェクトを進めています。

このプロジェクトを通じた決済サービスの高度化について、決済システム課日銀ネット企画グループ長の引馬誠也さんは、次のように語ってくれました。

「新日銀ネットは、最新の情報処理技術を採用すると同時に、金融サービスの変化に柔軟に対応できるシステムになります。また、稼動時間の大幅な拡大が可能となるなど、アクセス利便性が向上します。2015年に全面稼動する新日銀ネットの稼動時間については、開始時刻を8時半に早めると同時に、決済を19時まで行えるようにします。そして、2016年2月からは、稼動終了時刻を21時まで延長します。

稼動時間の拡大で、欧州市場もカバーできるので、国境を越えた円や日本国債の決済がより速く行えるようになります。金融機関にとっては、取引した円や日本国債をより速く効率的に使えるメリットがあります。これにより、決済全体の安全性や効率性の向上にも大きく貢献し、また、円や日本国債にかかる国内外の取引を活性化させることが期待されます」

また、プロジェクトの推進には「総合力」が必要だと引馬さんは語ります。

「大型プロジェクトなので、日銀内のさまざまな部署はもちろん、新日銀ネットに合わせてシステムや事務フローを変更することになる金融機関との綿密な連携が必要です。まさにさまざまな関係者と力を合わせていく『総合力』が必要な仕事で、とてもやりがいがあります」

日銀ネットは、この構築プロジェクトを通じて、より便利かつ安全なものに進化し続けていくのです。

決済サービスの高度化(2)決済の分野でのアジア諸国との連携を目指して

日本企業がアジア各国に進出し、現地通貨を調達する必要性が高まる中、決済機構局では、決済の分野でこうした国々との連携にも力を入れています。

日本の金融機関は、現状、日本円と現地通貨を交換しようとすると、米ドル等への交換を挟むこととなり、費用がかさみます。このため、日本の金融機関が持っている日本国債を担保に、直接、現地通貨を調達するといったニーズが高まっています。

また、アジア各国でも他国債券への取引ニーズが高まっている中、アジア域内で各国の証券や資金の取引を迅速かつ安全に行うために、アジア各国の決済システムを相互に接続し、お金と証券の受け渡しを同時に行うことを可能とする仕組みの構築が、ASEAN10カ国および日本・中国・韓国の間で議論されています。その議論に参加しているのが、決済システム課証券決済グループ企画役の横谷彰さんです。

「アジア域内では、金融市場の開放度合い・慣行、決済システムにおけるサービスの水準等が国ごとに異なります。そうした中で、決済システムの相互接続を実現するには非常に難しい面があります。しかし、多くの日本企業の海外進出に伴い、域内での円滑で安全な決済を求める声は確実に高まっています。多様な文化・社会を背景に持つ人々と真摯かつ粘り強く話し合いながら、アジア各国の決済システムの相互接続を通じて、この地域の経済発展を決済の側面からサポートしていきたいと思います」

決済サービスの高度化(3)リテール決済の利便性向上に向けて

「日銀は、『銀行の銀行』として、金融機関に決済サービスを提供しています。金融機関は、個人や企業、他の金融機関に対して決済サービスを提供し、その最終的な決済を日銀ネットで行っていますので、金融機関が国民にどのような決済サービスを提供しているかを知ることは、日銀にとっても決済システム全体の利便性や効率性、安全性を考える上で重要です。金融機関が提供する決済サービスには、金融機関同士の大口の取引だけでなく、個人などの比較的金額が小さな決済─リテール決済─も含まれます」と語るのは、決済システム課リテール決済システムグループ企画役の櫻井亮介さん。

リテール決済の中には、私たちの生活に身近な銀行振込があります。この銀行振込については、これを提供する金融機関や、全国銀行協会(全銀協)、全国銀行資金決済ネットワーク(全銀ネット)が、利便性向上に向けた検討を行っています。具体的には、国内の銀行振込等の決済を集中的に処理する「全銀システム」の稼動時間(現状は平日の朝8時半から午後3時半)を、平日の夕方以降や土日祝日も含め、拡大することについて議論が進められています。また、銀行振込を行う際により多くの商取引情報を添付できるようにすることも検討されています。入金を受けた企業等は、添付された情報を見れば、その入金がどの商取引によるものなのかが容易に分かるので、経理事務をシステム処理化するなど、生産性の向上につなげることができます。

諸外国に目を向けると、英国やシンガポールでは、個人の振込を24時間365日、ほぼ即時に無料で相手口座に入金するサービスが提供されています。また、ユーロ圏や英国、シンガポールでは銀行振込に140字の付記情報を書き込めるようになっています。

「国際的な議論の場では、『中央銀行には変化の触媒としての役割がある』と言われます。金融機関にとって、新しいサービスの提供にはシステムの見直しなど、さまざまな課題が伴いますが、日銀としても海外の事例や利用者のニーズ等に関する調査を行うことなどを通じ、金融機関等の取り組みを支援できればと考えています」と、櫻井さんは語ります。

決済システムの安全性確保(1)決済リスクの削減等に向けた市場参加者の取り組みの支援

日銀は、金融機関の間のお金の決済がより円滑に行われるよう、他の決済システム運営者や金融機関と日常的に意見交換を行っています。

決済システム課証券決済システムグループ長の清水茂さんは次のように語ります。

「私が関わっている国債市場には、銀行、証券会社、投資信託会社、生命保険会社などさまざまな参加者がいます。こうした参加者は、国債を大量かつ頻繁に売買し、その代金の決済は、金融機関を通じて行われます。このため、日銀でも、国債市場の参加者のニーズを踏まえつつ、決済システムがより効率的かつ安全になる方策を共に考え、その実現を関係者に働きかけています」

そうした取り組みとして、約定の成立から2営業日後としている日本国債の決済慣行を1営業日後に短縮する計画があります。

これは、約定から決済までの期間が長くなれば長くなるほど、その間に取引相手が破綻して、受け取れるはずだったお金や国債を受け取れないリスクが大きくなるからです。金融機関は、国債やお金が約束通りに受け取れることを前提に、次の取引を行いますが、その連鎖がどこかで途切れると、その影響は決済全体に瞬く間に広まっていく可能性があります。

そこで、日本国債の取引の約定から決済までの期間を短くして、お金やモノを受け取れないリスクを小さくすることが有効です。こうした取り組みは、国債市場の効率性向上にもつながるので、海外の市場との競争にも有利に働きます。

「市場全体の仕組みや慣行を変えるには、市場参加者のさまざまな取引動機や対応コストの違いに耳を傾け、意識のギャップを埋めなくてはうまく進みません。また、推進する側に市場取引の実務に関する幅広い知見が求められます。日銀は、中立的な立場で市場全体を見渡し、参加者が課題克服に向けて積極的に取り組んでいけるように努めています。市場参加者の経験と知恵を借りながら、より安全かつ効率的なものを構築していきたいです」と清水さんは抱負を語ります。

決済システムの安全性確保(2)安全性と効率性向上に向けた決済システム運営者との対話

お金やモノの決済システムには、「清算機関」と呼ばれる決済システムがあります。

清算機関は、その利用者同士がある金融商品の取引を行う場合に、買い手側のすべての利用者にとっての売り手となり、また、売り手側のすべての利用者の買い手となるサービスを提供します。再び伊藤さんが語ってくれました。

「2008年のリーマンショックでは、一部のお金や金融商品の流れが滞り、世界的な金融危機が発生しました。この経験を踏まえ、金融取引の一部に清算機関の利用を求める国際合意が行われました。清算機関を利用すれば、取引相手が破綻しても、当初の予定通りにお金やモノを受け取ることができ、決済の安全性が高まるからです。しかし、取引相手の破綻に伴うリスクは、清算機関に集中します。このため、清算機関をはじめ、決済システム全般の安全性の確保に関心が集まり、2012年、決済システムに関する意見交換を行う国際的な組織であるBIS決済・市場インフラ委員会は、証券監督者国際機構代表理事会と共に、決済システムの安全性と効率性に関する国際基準を公表しました。

日銀が運営する日銀ネットや他の主体が運営する株式・社債等の決済システムもこの基準を満たすことが求められます。

私たちの仕事は、決済システムの運営者と対話を重ね、さまざまな知恵を出し合うことです。そうした中で、利便性・効率性を損なわず、国際基準を満たした決済システムを実現していくことが大切です」

万が一、日本の決済システムにほころびがあれば、国内だけでなく他国にも影響します。その点について伊藤さんは、「緊張感のある仕事ですが、やりがいを感じます」と語ります。

決済システムの安全性確保(3)災害など非常時であっても決済サービスを提供し続けるために

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災害対策本部運営訓練の様子

災害等により、決済サービスの利用に支障が生じたり、決済に必要な現金の供給や金融市場への資金供給等が滞ったりした場合には、金融・経済に重大な影響が及びかねません。このため、日銀では、災害時でも重要な金融・決済に関する業務を継続できるよう体制を整備しています。また、政府の被災想定等と照らし合わせたり、行内の各部署、政府や金融機関等との意見交換や各種訓練等を通じ、日頃から業務継続体制を点検し必要な手当て等を行っています。これらの取り組みの牽引役である業務継続企画課の企画役の内海和正さんが日銀の業務継続体制について話してくれました。

「災害には地震のほか台風や豪雨、感染症の発生等いろいろな種類があります。平日の日中だけでなく夜間・休日に起こることもあり得ます。いろいろなケースが想定されますが、日銀ネットのバックアップを用意したり、一般にはあまり知られていませんが、交通機関が運休しても業務遂行に必要な役職員を確保できるよう一定数の役職員を営業所近隣に居住・所在させる等、柔軟に事態に対応できる体制を整備しています。また、こうした体制が絵に描いた餅にならないよう体制の整備・充実化も進めています。いろいろな災害等が想定される中、着実に必要な検討や対応を進めるため、何をどういう方法や順番で点検・検討していくのかを方針設定し、行内各部署で目線をそろえながら取り組んでいます。実際に業務継続を担うのは『人』ですので、訓練や研修もしっかり行っています」

有事に際して日銀では、総裁を本部長、業務継続企画課を事務局とする災害対策本部を設置して対応します。

「災害はいつ、どのような形で現れるか分かりません。そのため、デスクワークの検討等だけでなく、常日頃から、『万が一』に備えていなくてはならず、その意味では24時間365日、気の休まらない仕事です。けれども、世の中に役立つという気概で私も含め役職員皆、日々頑張っています」と内海さんは力強く話してくれました。

決済機構局は、決済を巡る時代の変化や有事に対して柔軟に対応し、私たちの暮らしをしっかりと支えてくれる存在なのです。