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日本銀行の気候変動に関する取り組み 総力戦で世界が直面する課題に挑む日本銀行の気候連携ハブ(2022年3月25日掲載)

多発する自然災害や気温上昇など、国内外で気候変動によるとみられる影響が取り沙汰されています。日本銀行では、気候変動問題に関し、これまでも海外の中央銀行との意見交換や国際的な議論への参画を進めてきました。また、国内では金融機関などの幅広い関係者と対話を重ねるなど、対応に力を注いできました。こうした中、体制を強化し、この対応をさらに多面化するため、2021年初めに立ち上げられたのが行内組織「気候連携ハブ」です。同年7月には気候変動に関する日本銀行の包括的な取り組み方針を公表しました。日本の物価と金融システムの安定を維持し、さらには海外の中央銀行などと協調しながら気候変動問題に取り組むために、どのような業務が行われているかをご紹介します。


気候連携ハブを立ち上げ取り組み方針を公表、多面的に課題に取り組む

「社会・経済に広範な影響を及ぼし得る気候変動問題は、グローバルに重要な課題です。物価と金融システムの安定という日本銀行の使命にも大きく関わるため、われわれはこれまでも積極的に対応を進めてきましたが、政府や、金融機関を含めた民間企業などの取り組みが活発化する状況も踏まえ、2021年初めに8つの局室が連携を図る『気候連携ハブ』を立ち上げ、さらなる一歩を踏み出しました。その上で、同年7月には気候変動に関する日本銀行の包括的な取り組み方針を公表しました」

そう話すのは、国際局兼企画局審議役で、気候連携ハブ総括の中村康治さんです。気候連携ハブは政策委員会室、企画局、金融機構局、決済機構局、金融市場局、調査統計局、国際局、金融研究所からなる行内組織。金融政策から金融システム、調査研究、国際金融、業務運営・情報発信まで、その取り組みは包括的かつ多岐にわたっています。そのため、具体的な施策や役割分担の調整、そして関係者による情報共有が重要だと中村さんは語ります。

「気候変動は、まだ不確定な要素が多い問題です。世界的に見てもこの問題への対応について何が望ましいのか、どこまで進めればいいのかなど見方が定まっていない部分もありますが、取り返しがつかなくなる前に行動を起こさなくてはなりません。さらには、気候変動は経済、物価、金融に広く影響しますので、多面的にアプローチする必要があります」

  • 今後10年間に世界規模で最大の被害をもたらしうるリスクのランキングを示した図表。1位「気候変動への対応の失敗」、2位「異常気象」など、環境関連のリスクが上位にランキングされ、10位までの順位のうち5つを占めている。
  • 世界規模で最大の被害をもたらしうるリスクをまとめたランキングにおいて、気候変動問題を含めた環境関連リスクが上位を占めている。
  • 気候変動に関する日本銀行の取り組み方針の概要。物価の安定と金融システムの安定という日本銀行の使命に沿って気候変動への取り組みを進めるため、5項目(金融政策、金融システム、調査研究、国際金融、業務運営・情報発信)に亘って各種施策を実施することを内容とする、包括的な取り組み方針を図示している。
  • 2021年7月、気候変動に関する包括的な取り組み方針を公表した。「気候連携ハブ」を通じて連携を図りながら、この方針に沿って、各部署が取り組みを進めている。方針の概要は上図のとおり。
    全文は日本銀行ホームページをご覧ください(https://www.boj.or.jp/announcements/release_2021/rel210716b.htm/)。

気候変動対応オペにより金融機関の取り組みを後押しする

多面的なアプローチの一つ、金融政策手段の企画・立案を担う企画局企画調整課企画役の武田憲久さんは、金融機関に対して投融資のバックファイナンスを行う「気候変動対応オペ(気候変動対応を支援するための資金供給オペレーション)」の立ち上げに力を尽くしました。

「中央銀行である日本銀行による民間の気候変動対応支援は、中長期的に見てマクロ経済の安定に資するものと考えています。日本の状況に合わせてどのような仕組みにするべきか、さまざまな金融機関にヒアリングを重ねながら検討を進めました。金融機関の皆さまから非常に高い関心を持っていただき、金融機関が取り組みを進める追い風となってありがたい、という声を聞けたのがうれしかったですね」

資金供給の対象先は、気候変動対応に資する取り組みに関し、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)が提言するガバナンス、戦略など4項目と投融資の目標、実績を開示している金融機関。初回となる2021年12月には、43先を対象に、約2兆円の資金供給が実施されました。貸付期間は原則1年としつつ更新も可能で、最長2030年度まで実施される制度です。

「2回目以降、準備ができたところからの参入も可能とするなど制度自体に柔軟性を持たせ、日本銀行として息長く支援できる仕組みとしました。先行する金融機関の情報開示が充実することで、今後取り組みを進める方々の参考にもなると考えています」

金融システム安定のためのヒアリングやシナリオ分析

気候変動は金融機関の経営や、ひいては金融システムの安定にも大きな影響を及ぼすと話すのは、金融機構局総務課企画役の田上亮輔さんです。

「金融システムの安定に関しては、自然災害により建物などが壊れるといった物理的リスクとともに、規制や消費者の嗜好の変化が金融機関の経営に影響を及ぼす移行リスクが想定されます。金融機構局では、こうしたリスクを適切に把握し、金融機関におけるリスク管理などの取り組みを後押しすることで、金融システムの安定性確保と金融仲介機能が円滑に発揮されることを目指しています」

2021年からは、金融庁と連携したシナリオ分析も手掛けられるようになりました。

「気候変動に関するリスクは不確実性が高く、データ制約もあって定量的に測り難いものですが、現在、こうしたリスクを把握するために、シナリオ分析の試行的取り組み(パイロットエクササイズ)にチャレンジしています。具体的には、金融庁や大手金融機関と連携の上、NGFS(国際的な金融当局間のネットワーク)が提供する気候変動シナリオを活用して、将来に向けた分析を進めています。また、金融機関との間では、脱炭素に向けた取引先への支援状況や金融機関自身の情報開示の充実などについて、ヒアリングも行っています。気候変動問題は、不確実性の高さとともに、時間軸の長さも特徴だと思います。今後も、内外の関係者と連携して、状況把握やリスク管理の高度化を進めていきたいと考えています」

気候変動問題の影響を調査分析しその手法の高度化を進める

レポート「気候変動の経済学」の表紙の写真

経済や金融に与える影響について調査研究を深めるとともに、データ収集や分析手法の高度化などを進めている。この「気候変動の経済学」というレポートもその一例だ。

気候変動問題が経済・物価などのマクロ経済や金融市場、金融システムにもたらす影響について調査研究を深めている部署の一つが、金融研究所経済ファイナンス研究課です。同課企画役の米山俊一さんは、研究所が発行する「金研ニュースレター」での連載「気候変動の経済学」を紹介してくれました。

「気候変動は人間の経済活動に伴って排出される温室効果ガスが関わっているとされますが、一方で気候変動による自然災害が経済活動に影響を及ぼすという面もあります。経済学では、こうした両者の相互作用をモデル化し、政策効果を定量評価する試みがなされてきました。『気候変動の経済学』は金融研究所のウェブサイトでも公表しています。この分野で蓄積された学術的知見をより広く、分かりやすく世間の皆さまにお伝えするのは大きな意義があることだと思っています」

研究所は新たなデータの収集や分析手法の高度化も進めており、最新のマシンラーニング(注1)の手法を用いたより精緻な分析などに取り組んできました。

「とはいえこの分野ではまだ明らかではないことが多い上、問題は多岐に及びます。例えば、CO2排出による将来の大規模な社会的損失とこれを抑制するために必要な大規模な社会的対応コストのバランスをどう取るかなど、評価が難しい点が多々あります。

ですが、経済に大きな影響を及ぼす気候変動問題は、中央銀行にとっても重要な課題であり、経済学やさまざまなサイエンス分野がどのような解決法や指針を示してくれるかについて、研究を続けていかなければならないと考えています」

  • (注1)プログラム(機械)が、与えられたデータから自動でデータやそれを生み出す背景に関するパターン性を見つけ出す(学習する)分析手法。

多くの人が関わる金融市場の包括的調査が期待できるサーベイ

気候変動に関わる金融市場の動向や機能度を調査し、市場基盤整備に関する課題の検討を進めているのは、金融市場局総務課市場分析グループ企画役の長谷川達也さんです。

「金融機関、格付け会社、アセットマネージャー、アセットオーナーなど、幅広い市場関係者と意見交換を行いながら、気候変動に関する金融市場の動向の把握に努めています。市場は着実に拡大していますが、さらなる発展にはまだ課題が多いのが現状です」

ESG投資(注2)の発展に向けた課題とその克服への取り組みを、「日銀レビュー」というレポートにして紹介するなど、情報発信も行われています。加えて、2022年度からは、気候変動に関する金融市場の機能度や課題を調査するための新たなサーベイの実施が予定されているとのこと。

「気候変動対応においては、リスクだけでなく、例えば再生可能エネルギーへの需要が高まるといった新たな機会も生まれます。金融市場を通じて必要な資金が効率的に供給されるためには、リスクと機会の双方がきちんと金融商品価格に反映されることが重要です。こうした市場の機能度や今後の課題について、幅広い市場関係者を対象に継続的にサーベイを実施し、公表していくことが大切だと考えています。サーベイの結果を市場関係者で共有することで、市場の整備・発展に向けたさまざまな取り組みを推進していく機運の高まりにつながることも期待しています」

  • (注2)従来の財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance)の要素も考慮した投資。

各国の中央銀行と連携しながら気候変動問題の解決に貢献する

国際会議(WEB会議)に臨んでいる写真

G7やG20などの国際会議や各国中央銀行との会合を通じ、国際的な気候変動に関する取り組みの進展に貢献している。

気候変動問題は国内だけにとどまるわけではないため、海外との連携が必要です。国際局国際連携課企画役の平井崇志さんは、国際会議の場で日本銀行の取り組みを発信し、気候連携ハブでは関係部署へ海外の情報を還元する橋渡し役を務めています。

「最近の国際会議における最重要課題は新型コロナウイルス感染症拡大の下での経済金融情勢ですが、それに並ぶのが気候変動問題です。この問題への取り組みは欧州が先行しているイメージがあるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。例えば、日本銀行は気候変動対応オペという新たな仕組みをいち早く導入しました。このオペに対する海外の中央銀行からの注目度は非常に高いです。国際会議の場では、オペに限らず日本銀行の各種施策をしっかりと説明し、気候変動問題解決のための国際的な議論に貢献するよう努めています。また、他国の中央銀行の取り組みも参考にすることで、互いに連携しながら、問題解決に寄与していきます」

国際会議に臨むにあたっては、日本がアジアの一員であることも意識しているそうです。

「アジアは成長過程にある国々が集中しており、CO2を排出せざるを得ないという状況も鑑みながら、アジア各国の中央銀行と連携を図ってきました。また、アジアにおいて気候変動問題に取り組む企業に十分な資金が行き渡るよう、各国の中央銀行との協力を通じてグリーンボンド(注3)などへの投資拡充を図り、市場育成も進めています。また、日本銀行保有の外貨資産を活用し、従来の方針の下で外貨建てのグリーン国債などの購入も行っています。国際会議においては、日本がアジアの現状を他地域の方々に説明する役割を担うことも多いです。アジアを代表して国際会議に臨むことは、大変重責ではありますが、そこにやりがいを感じています」

  • (注3)企業や国などが、グリーンプロジェクトに充てる資金調達のために発行する債券。

気候変動に関する取り組みを講演や専用ページなどを通じて広く発信

黒田総裁の講演の様子の写真

気候変動に関する取り組み全般について、講演などを通じて、役職員が積極的に対外説明を実施している。 (撮影:野瀬勝一)

国際局の平井さんは、気候変動に関する日本銀行の取り組みについて、情報発信も担っています。

「日本銀行の取り組みについては、総裁による講演などを通じて、積極的に情報発信しています。また、広く皆さまにご理解いただくために、ホームページに新設した気候変動対応の専用ページにおいて、講演内容や調査研究結果などを包括的に掲載しています」

さらに、対外説明充実の一環として、日本銀行としてもTCFDによる推奨内容を踏まえた開示を今後予定しています。その役割を担っているのが、政策委員会室経営企画課企画役の沓脱誠さんです。

「情報開示に向けて、現在、検討を進めています。気候変動関連の開示を巡る最新の動向をフォローしながら、必要な対応を図っていきたいと考えています」

  • 日本銀行ホームページのトップページの写真。気候変動のページにリンクするバナーの場所を案内している。
  • 日本銀行ホームページに、気候変動に関する取り組みについて包括的にまとめた専用ページを設置。ぜひご覧ください。

長年にわたり重ねられてきた省エネルギーや自然災害への対策

日本銀行の業務運営においては、気候変動への対応を意識した取り組みが継続的に行われてきたと話すのは、文書局総務課総務企画グループ長で企画役の三富俊行さんです。

「気候変動問題が活発に議論される以前から、設備の管理に関しては省エネルギーへの配慮に努めてきました。業務継続という点では、例えばこれまで水害が想定されていなかったエリアでもリスクの見直しが必要になる中、変化するハザードマップのチェックに努めながら、万が一の対応を検討しています。先人から脈々と受け継いできた取り組みを、われわれも引き継いでいかなくてはなりません」

同グループ主査の美濃田真さんによれば、温室効果ガスの排出削減にも地道な努力が積み重ねられてきたのだとか。

「設備を省エネルギー型に変えるなど細かい対応を進めてきた結果、エネルギー使用量やCO2排出量は減少傾向にあり、国や地方自治体が条例で定めた目標をクリアしています。水害をはじめ自然災害のリスクに関しては、実際に何か起きてからでは手遅れです。とりわけ中央銀行である日本銀行には重い業務継続の責務がありますから、現状に適切に対応し、対策をよりバージョンアップしていくことが大事だと思っています」


「気候変動問題への対応は、日本だけの課題ではなく、世界が同方向へ進む地球規模の総力戦です。その中で、中央銀行である日本銀行は何ができるのか。今後も、気候変動に関する情勢変化を適切に把握するとともに、国内外の関係者と密接に情報交換を行い、各種施策について検討を重ねていく方針です」

気候連携ハブ総括の中村さんが語った「総力戦」では、われわれもまた日々の暮らしの中で何かしらできることがあるはずです。今回ご紹介した日本銀行の新たな取り組みに触れていただくことで、気候変動問題に関して改めて考える機会になれば幸いです。

(肩書などは2021年12月末時点の情報をもとに記載)