このページの本文へ移動

「日銀探訪」第3回:業務局総務課長 杉浦俊彦

オペの実行部隊、仕組みづくりに知恵絞る=業務局総務課(1)〔日銀探訪〕(2012年9月3日掲載)

業務局総務課長の写真

今回の「日銀探訪」は、業務局総務課を取り上げる。同局はマスコミなどであまり取り上げられることはないが、日銀の金融政策や金融システムの安定性、健全性を維持するための諸施策などの実務を担う、裏方の実行部隊だ。同局の杉浦俊彦総務課長は「一言で言うと、日銀のバンキング機能の中核を担っている部署」と説明。「業務局の仕事が滞ると、日銀の政策が実現しないことになり、大きな問題になりかねない」とその重要性を強調する。

同局は、金融機関同士の資金決済の事務処理や日銀オペの実行に携わる部署、国庫金(政府の歳入・歳出)の管理を行う部署、国債の発行などの事務を行う部署など、5課18グループで構成される。職員数は約370人で、総合職や一般職に加え、業務系の仕事のスペシャリストである特定職や、法律の専門職もいるのが特徴だ。

このうち総務課は、総勢約110人。営業系と国債系の事務の企画を担う営業・国債業務企画グループ、国庫関連の企画を担う国庫業務企画グループ、複数の業務分野にまたがった企画や、総務、研修などの仕事を担う総合企画グループ、新日銀ネット(日銀と金融機関との間の資金や国債の決済に使われる次世代システム)の開発作業に携わる新日銀ネット企画グループ、および庶務グループの5グループに分かれる。

総務課の主要業務の一つは、事務処理の仕組みの構築。例えば、日銀が金融政策を実行する上で、新しいオペ手段が必要になったとする。業務局総務課の出番だ。金融機関や日銀内の他局などと調整しながら、どうすればオペを実行できるか、具体的な仕組みをつくっていく。法令面や税制面で問題がないかどうか、チェックも必要となる。オペ実行までの日数に余裕がなければ、簡易システムなどの応急的な対応も講じなければならない。経験や知識に加え、創造力も必要とされる仕事だ。

「総務課の大きな仕事の一つは、それぞれの事務をどんな手順、どんな段取りで処理していくか考えることだ。どんな帳簿が必要になるのか、事務手順や帳簿の作成を手作業でやるのか、システムでやるのか、システムでやる場合はどういう機能を作り込んだらいいのかなどを、まず検討する。局内の現場部署や日銀内の他局、金融機関、官庁と調整しながら進めていく。法令面、税制面で問題はないかとか、実現可能なシステムや事務なのかも検討する。事務処理の仕組みができたら、それを約定や規定に反映させる。システムの開発作業に加わることもあるし、必要に応じ他局と連携して日銀の支店や金融機関向けに事務説明会も実施する」

「日常的にいろいろな事務が処理されているが、ときどき異例な事務が発生することがある。これに対して、法令や約定、規定に照らしてどう解釈すべきか、実務的、システム的にどう処理すればいいのかといったことを検証し、解決策を提示するのも仕事の一つだ。特に、国庫金の管理では、全国で4万店を超える金融機関店舗に代理店をお願いしているので、いろいろなところで通常と異なる異例な事務が発生する。そういった場合に、金融機関から照会を受け、解決策を考案・提示する」

研修を工夫、システム開発能力鍛える=業務局総務課(2)〔日銀探訪〕(2012年9月4日掲載)

支店業務課の職員も加えると、業務局は日銀内の大部隊の一つだ。仕事の内容が多岐にわたる上、それぞれが専門的でもあるため、職員の技能向上をどう図るかが大きな課題となっている。人材育成も、総務課の主要業務の一つだ。業務局の杉浦俊彦総務課長によると、過去にあった事務ミスの事例や業務遂行上の注意点をまとめた資料などを日銀のイントラネットに掲載し、各職員が閲覧し、事務に生かせるようにしているという。また研修は、本店だけでなく支店でも実施。他店での業務の仕方を見ることが、自分たちの仕事のやり方を客観的に見直す契機になると期待しているためだ。業務局の仕事は「システム抜きではできない状況」となっており、人材育成ではシステムの開発・管理能力の強化に重点を置いているという。

「業務局や支店業務課はいろいろな事務をやる部署なので、各職場での自主的な勉強会や、本店での集合研修がもともと盛んに行われている。これを支援するツールとして、局内の各課で、事務の手引きを充実させているほか、過去の事務ミスの事例を分析したり、主要な事務について、どういうところにどのくらいのリスクがあるのかを整理し、どういう処理体制で臨んだらいいのかなどのアドバイスをまとめた資料を、行内のイントラネットに掲載。各職員が自分で勉強できるようにしている」

「集合研修も工夫していて、本店での実施に加え、東北・北海道、中国・四国など全国を五つのエリアに分けて、持ち回りでやっている。大型店と小型店に分けて研修を行うこともある。これには二つの意味がある。一つは、各店舗で業務のやり方などが違うので、他の支店の違うところを見て、こんなところが違うのかとか、なぜ違うのかといったことについて、問題意識を高めてもらう狙い。そこで、研修の前には必ず、その店の職場を見学してもらう。また、研修の参加者や研修の場所を提供する支店の職員にも研修の運営の一部を任せることで、関係者の主体性、自主性を引き出すことも狙っている」

「人材育成では、システム開発・管理能力の一層の強化に力を入れている。業務局では、システム情報局が開発・管理している日銀ネットに加え、国庫系のいろいろなシステムや国庫・国債事務の手数料システムなどを使って仕事をしている。また、自前でつくった簡単なシステムも、当局で組織的に活用しているものだけで150ある。もはやシステム抜きでは仕事ができない状況だ。簡単なシステムは自分で開発できたり、システム情報局の開発作業にも入っていけたりする力がないと、業務局員としてはなかなか厳しい。外部講習の活用に加え、システム情報局と連携して研修を行ったり、同局から移ってきた技術の高い職員に講師になってもらったりしている」

「ノウハウの共有や継承は悩ましい問題だ。標準化された事務はシステムでどんどん処理されてしまい、結果的に発生頻度が少ない少量多品種の事務が残る傾向にある。システム化が進んで、事務のプロセスが見えにくくなってもいる。職員の数が減っているし、ベテランも退職して、教える能力がある人が少なくなっている。先輩から後輩に、あるいは上司から部下にノウハウを継承していくという方法が今でもベースだが、それだけに頼るのは難しくなってきている。そこで、本店の人材を講師としてテレビ会議システムを使って本支店の職員の研修をしたり、業務系の特定職は若いうちに幅広い仕事を経験させるようにローテーションを工夫したりしている。また、例えば本店では、若手の特定職を30~40人くらい、月に1回業務時間後に集めて、2チームぐらいに分け、こんな事務ミスがあったらどう対応するかといったケーススタディーを与え、議論させている。現場の課長を経験したベテランを2、3人付けて、経験に基づいたアドバイスをしてもらっている」

日銀オペ多様化で、舞台裏は苦労絶えず=業務局総務課(3)〔日銀探訪〕(2012年9月5日掲載)

日銀が金融政策決定会合で決めた金融調節方針が、実際にどのような形で実施に移されているかは、よほど金融実務に通じている人でないかぎり知らないはずだ。今回の「日銀探訪」は、この点を取り上げる。日銀は金融政策決定の際に「基本要領」を発表するが、実施に伴っては、この要領を踏まえた上で、実務上のさまざまな工夫が必要となる。ここからが業務局の腕の見せ所だ。同局の杉浦俊彦総務課長は「政策手段が多種多様化していることに伴い、私どもも多種多様にいろいろな工夫をしなければいけない」と説明。短期間で事務内容を詰めなければならない上、法律面でのチェックも怠ることができず、苦労は絶えないようだが、杉浦課長は「そこが仕事の面白みでもある」と話す。

「リーマン・ショックによる金融危機の後、CPや社債の買い入れなど異例の政策対応が行われることとなった。そうした中で実務を支える業務局としては、短期間で政策が実現できるよう、簡易なシステムをつくったり、手作業を組み合わせるなど工夫しながら対応を行った。例えば、CPや社債を買い取る際は、そのつど時価はいくらなのか、あるいは買い入れてよい銘柄かどうかなどを調べなければならなかったし、入札の際に決まったものと銘柄や金額が合っているかを、一つ一つ書面でチェックしなければならなかった。また社債を買うとなると、利息の受領や期日管理もする必要があるとか、期末の決算処理をどうするのかといった課題もあった。こうしたさまざまな事務を、簡易なシステムや手作業でいかに効率的かつ正確に行っていくか、いろいろと知恵を絞った」

「本格的に長くやるものなら、日銀ネットにつくり込もうということになるが、半年や1年の時限措置だとそこまではしない。しかも、検討指示から決定まで数週間から1カ月程度といった短期間で対応する必要がある場合もあり、いろいろ知恵を出す必要がある」

「準備預金制度の所要準備額を超える日銀当座預金に利息を付ける補完当座預金という制度が導入されたが、日銀当預に利息を付けるのは初めてのことだった。そもそも利息を付ける機能が日銀ネットになかったため、残高を打ち出して簡易システムで利息を計算した。また、いつ、いくらの利息を支払うという通知を金融機関にしなければいけなかったが、これも簡易システムで計算・作成した書面を郵送するなどで対応した」

「リーマン・ショック後の企業金融の円滑化に資する施策の一つとして、担保に使用できる社債の基準がA格相当以上からトリプルB格相当以上に拡大された。トリプルB格の社債は、担保を評価する際の掛け目(比率)が従来のものと異なることになったため、既存システムではなく、別管理とすることとした。そこで、企業の格付けが変わったらどうするのかという問題が生じた。トリプルB格から格付けが上がってA格になったら日銀ネットで管理するとか、逆にA格のものがトリプルB格に落ちたら日銀ネットから外して別管理にするとか、そういったことを確認しつつ対応した」

「タイ中銀との間では、タイ中銀がタイバーツを供給する際に日本国債を担保に取るという、クロスボーダー担保制度を実施している。タイバーツを供給するのはタイ中銀だが、国債の担保を管理するのは日銀なので、タイ中銀の資金供給スキームがいったいどうなっているのか、逆に日銀の担保管理スキームはどうなっているのかを、お互いに理解しないといけない。事務処理のタイミングも合わせないといけないので、時差を勘案した上で、何時にどういう通知をお互いに行うかも調整する。そういった事務の流れを組んだ上で約定にしていくが、その約定もお互いの国の法令に違反していないかチェックする。政策手段が多種多様化していることに伴い、業務局も多種多様にいろいろ工夫しなければいけない。そこが仕事の面白みと言えば面白みだ」

被災地支店に自衛隊向けの口座を急きょ開設=業務局総務課(4)〔日銀探訪〕(2012年9月6日掲載)

業務局総務課の最終回は、国庫金(政府の歳入・歳出)の電子化の進捗(しんちょく)状況や、東日本大震災発生時の対応について話を聞いた。同局の杉浦俊彦総務課長によると、公共事業資金や年金の支払いといった歳出面では、既に9割以上が電子化されているという。一方、税金や社会保険料の納付などの歳入面は、多数の国民や企業の協力が不可欠なこともあって、電子化されているのは5割程度となっており、一層の取り組みが必要な状況だ。震災対応では、官庁の出先機関などが国庫金を支払うのに必要な書面を失うなどの混乱状況にある中、中央省庁と連絡を取りつつ、臨機応変の対応に努めた。被災地にある日銀支店の業務課では、被災地入りした自衛隊が必要物資を買うための資金を受け取る応援部隊専用の口座を開設するなどの緊急対応も実施した。

「国庫金の電子化は2000年から本格化した。国からの支払いについては、官庁や金融機関が対応すればよく、関係者が限られているので、集中的なシステム化が可能だった。昔は書面でやっていた事務の9割以上が既に電子化されている。課題は税金などの受け入れの方で、電子化されているのは今のところ5割程度となっている。全国津々浦々にいる何千万という国民の方々を対象に事務のやり方を変えていただくということなので、地道に取り組まないといけない。まだまだ認知度が不足しているので、広報活動が必要だ」

「震災対応としては、官庁の出先機関などが国庫金を支払うのに必要な書面を津波で失ったりしたので、本省と連絡を取って、支払っていいのかを確認したりするなどの柔軟な対応を取った。また、災害対応で派遣された自衛隊が、現地で活動していくためのいろいろな買い物用に資金が必要だったため、急きょ被災地の日銀支店に口座を開いてサポートさせていただいた」

「課の運営で心がけているのは、一つは金融機関や官庁、日銀内の他部署など制度の利用者のニーズを意識するということだ。業務局総務課がつくるのは事務処理の仕組みだったり、仕掛けだったりするわけで、いかに金融機関や官庁の方々が使いやすく、確実な事務処理ができるか、あるいは日銀の現場の人も動きやすく使いやすいかを最終目標としなければいけない。二つ目は、想像力を働かせていきたいということ。今あるものを是としてスタートするのは間違いではないが、現状の是認から始めると思考停止に陥る可能性がある。現場の事務の先に何があるのか。仮に事務ミスのためにトラブルが起きたら、どういう範囲に影響が及ぶのか。昔からこういう事務の仕方をやっているが、時代環境が変わって、昔だったらリスクでなかったものが今はリスクになっていないか。そういったことに、想像力を働かせていきたいと思う」

次回は9月下旬をめどに、業務局営業業務課を取り上げる。

(出所)時事通信社「MAIN」および「金融財政ビジネス」
Copyright (C) Jiji Press, Ltd. All rights reserved.
本情報の知的財産権その他一切の権利は、時事通信社に帰属します。
本情報の無断複製、転載等を禁止します。