このページの本文へ移動

「日銀探訪」第7回:業務局統括課長 福地慶太

決済システムの「運行指令」、トラブルに迅速対応=業務局統括課(1)〔日銀探訪〕(2012年12月3日掲載)

業務局統括課長の写真

業務局は、旧営業局など3局の現場部門を統合して発足した。この現場部門と、現在の金融市場局や金融機構局など政策に携わるフロント部門をつなぐミドルオフィス部門として設けられたのが、今回の取材対象である統括課だ。例えば、日銀と金融機関を結ぶ決済システムである日銀ネット、そこにつながる各種決済システムや金融機関のどこかでトラブルが発生すると、その情報はすべて統括課に伝えられ、同課が関係各部門と連絡を取り合いながら迅速にトラブルの解決に当たる。福地慶太課長は「鉄道会社の運行指令のような仕事」と解説する。

統括課の課員数は73人で、5グループで構成される。ネット統括グループは、日銀ネットの運行管理と、障害発生時の行内・対外の連絡調整を担当。事務リスク管理グループは、業務局と各支店の業務課で起きた事務トラブルを踏まえ、業務内容の改善を図る。国庫統括グループは、主に国庫関連システムの運行管理と障害発生時の調整。財政収支グループは国のお金の出入りを予測しており、代理店検査グループは日銀が国庫・国債業務を委嘱している金融機関の店舗の検査が主業務だ。

ミドルオフィス部門として多岐にわたる仕事を手掛けている統括課の福地課長のインタビューを、3回にわたって配信する。

「日銀ネットは1日平均で約100兆円の資金の移動を担っているシステムで、金融機関同士の決済に利用される全銀システムや各地の手形交換制度、株式、一般債、投資信託の決済を担うシステムなど、日銀の外のいろいろなシステムとつながっている。もし、日銀ネットが何かトラブルを起こせば、世の中の決済システム全体に影響を及ぼしかねない。一方、外のシステムがトラブルを起こすとその影響が日銀ネットに及んでくるし、それが再び外に反射されるというように、1カ所のトラブルが全体に波及し得る関係にある」

「統括課では、業務の安定遂行を確保するため、日銀ネットをはじめとする各種システムを使った業務の運行状況を監視しており、トラブル発生時にはその対処に当たっている。その役割は、鉄道会社の運行指令をイメージしてもらうと近いのではないか。運行指令は、列車の運行状況を監視していて、遅れやトラブルがあると、情報を利用客に提供するし、必要に応じて保守員を派遣したり、ダイヤを変更したりする。また、相互乗り入れをしている先に影響が出るようなら、乗り入れを一部規制したりする。われわれも同様に、大きなシステム障害から金融機関の個々の端末のトラブルまでさまざまな情報を集め、得た情報を関係部署に還元し、対応を相談しながら日々の業務の運行を守っている。システムの障害は、大なり小なり、毎日何かしらある」「日銀ネットは、タイムテーブル(時間割)に沿って運行している。例えば、午後1時、3時、5時には、いろいろな決済を同時に実施する同時処理というものがある。仮に、午後3時間際に、同時処理に必要な資金が足りない金融機関が1行でもあると、同時処理を進めることができず、その間、金融機関同士の資金決済ができなくなってしまう。そこで、資金をどのように確保するか、関係部署や当該金融機関と連携しながら対応を考えていくのがわれわれの仕事だ」

計画停電の危機、決済時間変更でぎりぎりの判断=業務局統括課(2)〔日銀探訪〕(2012年12月4日掲載)

災害・障害発生時の対応は業務局統括課の主業務の一つだが、2011年3月の東日本大震災ではその真価が問われることになった。東京電力 9501.T は、震災発生後の最初の営業日となった3月14日から計画停電を実施すると発表。停電の影響で1社でもシステムが動かなくなれば、その影響が決済のネットワーク全体に広がる可能性があったため、決済などを通常の時間帯で処理すべきか、それとも万一に備えて時間を延長すべきか、日銀はぎりぎりの判断を迫られた。

災害・障害時にも業務が滞らないようにするため、日銀内では定期的に訓練を実施している。統括課の福地慶太課長は「東日本大震災ではこの訓練が役に立った」と強調する。

「大震災では、大津波警報が出たので、ある支店では職員が避難しなければならなかった。そのときは、その支店の機能の一部を本店で肩代わりした。また、東北地方の国庫代理店の一部で業務の継続ができなくなったため、本店でその業務を引き継いで実施した」

「大震災後の計画停電により、(金融機関同士の決済に使用される)全銀システムを通じた振り込みや送金などを相手方の金融機関に通知する電文が大量に未処理となって、決済が滞る恐れが生じた。そこで、計画停電初日には万が一に備え、日銀ネットの決済処理に関わるタイムテーブル(時間割)を1時間延長した。こうしたタイムテーブルの変更は、自然災害などを原因として多くの金融機関が影響を受けている場合はともかく、個別の金融機関や決済機構で発生した問題を解決する方法として選択する場合には、日銀ネットで仕事をしているすべての金融機関を巻き込む形となるため、採用すべきかどうかは慎重に判断している」

「日銀ネットをはじめ、各種の決済システムは、社会インフラの一つだ。障害、災害のときにも動かし続ける必要があり、そのためには日ごろからの訓練が大事だと考えている。今年は70回の訓練を予定しており、平均すれば週に1回程度のペースで訓練を実施している。具体的には、東京にある基幹システムが動かなくなったときに大阪のバックアップに切り替えて業務を継続する訓練や、障害が発生したり被災した店舗で業務ができなくなった場合に、本店で肩代わりする訓練を毎年実施している。また、システム障害に備えて、手作業で業務を継続する訓練もそれぞれのシステムで行っている」「こういった訓練の一部は、事前にはどんな事態を想定しているかを伏せておき、訓練の際にシナリオを与えて対応を考えてもらう『シナリオブラインド』という方法も取り入れながら、本支店を交えて行っている。この方法で行うと、訓練を受ける側の取る行動が、訓練を企画する側が想定していたものと異なることがあるので、それを踏まえて従来の対応策を見直す必要が生じる場合もある」

財政資金の出入り予測で国の資金繰り支援も=業務局統括課(3)〔日銀探訪〕(2012年12月5日掲載)

日銀は、日銀当座預金の日々の増減を踏まえ、金融市場で資金を供給したり吸収したりすることによって、短期金利の無担保コール翌日物レートをコントロールしている。金融調節の前提となる日銀当預の増減に影響を与えるのは、主に個人や企業と金融機関の間での資金の受け渡し(銀行券要因)と、個人や企業と国との間での資金の受け渡し(財政要因)の二つの要因だ。いずれも日々の振れは大きいが、日銀はそれぞれの毎日の動きをほぼ正確に予測している。このうち財政要因の予測は業務局統括課が担当している。同課の福地慶太課長は「税収など財政資金の受け入れは、時々の経済情勢や個々の国民がどのように行動するかによって変わるため、予測が難しい」と話す。

一方、政府による財政資金の支払いは、事前に情報を入手できる点は受け入れとは異なるが、予算の枠組みが変わったり、執行抑制やその解除が行われたりといった変化に対応するため、情報収集は念入りに行っているという。

「日銀は、国のお金の出入り(財政収支)全体を見ることができる立場にある。そこで、得られた情報を基に国の先々のお金の出入りの日々の動きを予測し、その結果を金融市場局に提供して金融調節に生かしたり、財務省に提供して国庫の資金繰り計画に役立ててもらったりしている。財政収支の予測は、1カ月単位、1週間単位、1日単位という三つの期間で行っており、徐々に精度を上げていく。1日単位までくると、ほぼ正確に予測できる。主に、関係官庁に対するヒアリングと過去データの分析という二つの方法で行っている」

「特に予測が難しいのは、税金など財政資金の受け入れだ。これは、時々の経済情勢や国民それぞれがどのように行動するかがポイントで、過去のデータ分析に基づいて予測している。従って、従来の流れと断絶するような出来事が起きると分析が非常に難しくなってくる。例えば、東日本大震災以降の税収は過去の流れとは大きく異なる足取りとなった。また、震災時に国の政策として年金保険料や労働保険料などの納付が猶予されたこともあったが、この際もどのように資金が入ってくるかの評価や分析が難しくなった」

「財政資金の支払いの方は、いつ行われるか基本的には把握できる。ただ、予算の枠組みが変わったり、最近だと執行抑制やその解除があったりするので、いろいろな情報を探りながら、金融市場にどういう影響があるのかを丹念に調べていかないといけない」

「問題が発生したときに、事実をまず正確に把握することがとても大事だ。それと同時に、目の前で起きていることの表面だけではなく、裏側まで想像できる力が求められる。障害など急ぎの話が多いので、日ごろから関係部署とはコミュニケーションを密にして、いざというときにはすぐ話ができるようにしておくことも大切。一度障害が発生すると瞬発力が必要な仕事で、瞬時に関係者を巻き込んで解決していく力も求められる。日々、こうした点を心掛けている」次回は12月中旬をめどに、調査統計局経済調査課を取り上げる。

(出所)時事通信社「MAIN」および「金融財政ビジネス」
Copyright (C) Jiji Press, Ltd. All rights reserved.
本情報の知的財産権その他一切の権利は、時事通信社に帰属します。
本情報の無断複製、転載等を禁止します。