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「日銀探訪」第9回:調査統計局地域経済調査課長 佐藤聡一

最新の課、地域経済重視の方針反映=調統局地域経済調査課(1)〔日銀探訪〕(2013年1月23日掲載)

調査統計局地域経済調査課長の写真

日銀には58の課・センターがあるが、その中で最も新しいものの一つが昨年7月に設置された調査統計局地域経済調査課だ。地域経済のよりきめ細かな把握や、地方経済界との関係強化を目的として、もともとは同局経済調査課の中にあった部門を独立させて、創設した。

日銀は、四半期ごとに開催する支店長会議に合わせて、各地域の景気情勢を集約した報告書を公表している。表紙が薄いピンク色であることから、米国の地区連銀景況報告「ベージュブック」になぞらえて「さくらリポート」と呼ばれるこの報告書をまとめるのが、地域経済調査課の主要業務の一つだ。佐藤聡一課長は「地域経済に関する調査機能をより重視し、政策運営に活用していくという日銀の方針が、当課の設置につながった」と説明する。

同課は現在13人。さくらリポート作成以外に、本店管下の東京、千葉、埼玉、栃木の1都3県を対象に企業面談や意見交換会を通じて景況調査や日銀の政策の説明・広聴を実施しているほか、全国に展開する日銀の32の支店、12の事務所の調査を支援している。佐藤課長のインタビューを3回にわたって配信する、

「さくらリポートは2005年の発刊。それまでは国内を11地区に分けて経済概況をまとめ、支店長会議の際に発表していたが、そこに含まれていなかった本店管下の1都3県を加えて9地域に再編し、さくらリポートという形にした。各地域の景気の方向性の変化を矢印で分かりやすく表現して一覧表の形で公表しているが、この表が毎回注目を集め、新聞などで報道されている。また、景況調査に加え、1回ごとに地域経済に関わるテーマを定め、全国の支店ネットワークを通じて調査した『地域の視点』も公表している」

「支店における経済調査は、小さな支店だと、支店長以下4人程度の体制で行っている。面談によるヒアリング調査は、例えば当課では四半期ごとに80程度の企業などに対して実施している。この中には定期的に訪問する先もあれば、テーマに応じて伺う先や新規にお願いする先もある。ヒアリングは、基本的なパターンと、テーマを絞ったものに大別され、質問事項をあらかじめお送りした上で先方に伺う。基本パターンでは、まず景況感から始まり、需要の動向、製造業なら生産の動向などを詳しく伺い、売り上げ、収益などについてもお聞きする。ここからは相手先によって多少バリエーションがあるが、設備投資や雇用の動向、事業戦略、資金調達や資金繰りの話などを伺うことが多い。最後に、金融政策に関するご意見・ご要望を伺い、1時間程度のヒアリングを終える。個別テーマの場合は、もう少し絞り込んだ質問項目を先方にお伝えし、それに沿って伺う方法が中心となる」

「各地域の経済調査は、多くの地元企業のご協力により成り立っている。支店では、日銀短観の調査を通じたネットワークや各支店長が持っているさまざまな交流関係を通じて、地元企業の方々からいただいた情報などを経済調査に活用している。長い時間をかけて培われてきたこうしたお互いの信頼関係は、大切にしなければならない。調査のテーマによっては、普段は付き合いのない会社を訪問することもあるが、調査の趣旨や、情報を慎重に取り扱うことなどを丁寧に説明し、納得いただいた上で話を伺うようにしている」

機動的にテーマ決定、支店網で一斉調査=調査統計局地域経済調査課(2)〔日銀探訪〕(2013年1月24日掲載)

日銀が四半期ごとに発表している地域経済報告「さくらリポート」で力を入れているのが「地域の視点」だ。これは毎回、一つのテーマを選んで全国の支店で一斉に調査を行い、各地域の具体的な動きや事例などを取りまとめたもので、「個人消費」や「設備投資」など定期的に調査しているものに加え、「東日本大震災後の地域経済」「観光」など、そのときどきの経済情勢に応じたテーマを選ぶこともある。

さくらリポートをまとめている地域経済調査課の佐藤聡一課長は「地域の視点」について「全国の支店網で行った調査で得られたものを世の中にも還元したいという思いもあって、公表している」と説明。「もっとPRしていきたい」と意気込む。

さくらリポート作成に絡み、地域に密着したヒアリングや関係構築を続けてきたことが、大震災発生後の地域経済動向のきめ細かな把握に役立った面もあるという。

「それぞれの経済主体が、どういう見通しや戦略、方針の下に何を考え、どう行動しているかは、実際にヒアリングしてみないと分からない部分がある。したがって、統計やデータのマクロ的な分析だけでなく、ミクロ的な分析や情報収集も重要になってくる。ミクロの調査は、調査統計局経済調査課の企業調査グループも行っているが、そちらは大企業が中心。地域経済調査課は、地域の中堅・中小企業の動きを中心に調べている」

「『地域の視点』の構成は、まず全体の概要があり、次に各地でどのような動きがあったり、関係者の声が聞かれたりしたか、具体例をもって示す。最後に先行きの展望や課題を書く、というのが通常のパターン。なるべく分かりやすくまとめるように努めている」

「昨年10月の『地域の視点』では各地域の観光の動向を取り上げた。全体として堅調に推移しているということだったが、今回の震災や豪雨などの被災地では回復が遅れるなど地域により違いがあることや、海外からの観光客が多い地域では中国からの観光客が減少しているといった声も聞かれた。また、独自の観光資源をうまく活用して地域活性化に効果を上げているところもあるし、格安航空(LCC)就航の恩恵を受けている地域などもある。最近ではITの活用が進み、消費者の側がSNS(交流サイト)やブログにより情報を発信し、消費者の間でその共感が広がる形で新しい需要が生まれ、企業側もそれに対応した動きを進めている例もある。そういった個々の動きをみると、全体の状況だけでなく、地域ごとの違いを把握・分析する手掛かりも得られる。観光関連の調査は、個人消費のサービス部門の一角の現状や、地域経済の活性化について理解する上で、意義があった。1月の『地域の視点』では各地域の雇用・賃金の動向を取り上げた」「地域経済調査課をつくることになった背景の一つとして、日本経済を取り巻く環境が大きく変化するもとで、各地域の経済構造の違いをよく踏まえて経済実態を把握しなければならない、という考えが行内で強まったことがある。例えば、日本が直面している問題に少子高齢化があるが、その実態は地域によって異なるので、その違いを踏まえてきめ細かく見ていく必要がある。あるいは今回の震災においても、各地域がどのような影響を受け、そこからどう立ち直りつつあるのかは、地域ごとの違いをしっかり踏まえながらモニタリングしていなければ把握できなかった。データだけに頼っていたら、リアルタイムで現状を知ることはできなかっただろうし、サプライチェーンの状況などを具体的かつ詳細に捉えることも難しかっただろう」

各地で懇談会、正副総裁も積極参加=調査統計局地域経済調査課(3)〔日銀探訪〕(2013年1月25日掲載)

日銀では金融政策の対外説明の強化や関係者との対話の充実の一環として、正副総裁や審議委員が各地域を2、3年に1度の頻度で訪れ、金融経済懇談会を開いて地元の経済人たちと直接言葉を交わしている。また、各地域の支店長や事務所長も講演や懇談などを通じて、そうした役割を果たしている。地域経済調査課自身も、本店管下の東京、千葉、埼玉、栃木の1都3県ごとに調査主幹・経済総括という役職を置くとともに、各地の商工会議所などとの意見交換会を開催するなど、広報・広聴活動に努めている。佐藤聡一課長は「各地に実際に赴いて、地域の方々との関係を構築し、維持していくことは極めて重要。情報収集力の向上にもつながる大切な仕事だ」と強調する。

また、支店に配属され経済調査に従事する若手職員を対象に、各種の調査スキルの向上を図るための研修を行うなど、同課では支店サポートの強化・充実にも取り組んでいる。

「広報・広聴活動は非常に重要な業務だと認識している。例えば、商工会議所をはじめとする各種経済団体単位で開く意見交換会では、日銀側からは金融経済情勢や政策に関する説明をする一方、地元の中堅、中小、零細企業の方々には、それぞれが直面する事業の状況や問題点を話していただき、意見交換を行っている。本店管下については、それぞれの地域を担当する調査主幹・経済総括が、地元の経済界との関係強化を図っている。顔を合わせて生の声を伺うことが何よりも大切で、ありがたいと思っている」

「東日本大震災後のことだが、本店管下も震災の被害を受けた企業が多かったので、1週間程度たったころからお見舞いのために少しずつ現地の企業に接触し、話していただけるところから現状を伺った。当時の担当者に聞くと、以前に意見交換会の席で顔を合わせ言葉を交わしたということで、大変な状況の中でもヒアリングに応じていただけたケースもあったという。地道に対話を続けていくことがいかに重要かを改めて認識した。本店管下の関東地域の調査や広報活動をより充実させていくことも地域経済調査課をつくった背景の一つであり、現在、各地域を一定の頻度でくまなく訪問する取り組みを進めている」

「意見交換会など経済界とコミュニケーションを図る仕事は、経験を積んだベテランが中心となるが、調査活動では若手の活躍に期待するところが大きい。地域経済調査課の役割の一つに、支店サポート機能がある。現場で実際に調査する若手スタッフの技能向上を図るため、当課で研修を年に3回ほど行っている。これまでは座学が中心だったが、最近はヒアリングの仕方や調査メモの取りまとめ方などのケーススタディーも試行的に実施するなど、さらなる充実を図っている。また、支店の関係者とのコミュニケーションを深めていくことにも取り組んでいる」

「課の運営に当たり、課員によく言っているのは、企業などから話を伺ったりする際、先入観を持たず虚心に耳を傾けるようにということ。また、自主性も大事な要素。調査のやり方には一定のマニュアルがあるわけではなく、それぞれ自分なりのアプローチで行うものなので、自主性を発揮し、問題意識に基づいて付加価値のあるアウトプットを出してほしいと言っている。加えて、課内ではベテランと若手が一緒に働いているので、ベテランの知恵や経験と若手の活力がうまくかみ合い、生き生きとした活動ができればいいと考えている」次回は、2月上旬をめどに物価統計課を取り上げる。

(出所)時事通信社「MAIN」および「金融財政ビジネス」
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