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「日銀探訪」第23回:金融機構局金融モニタリング課長 金沢敏郎

「最後の貸し手」の最前線部署=金融機構局金融モニタリング課(1)〔日銀探訪〕(2014年7月9日掲載)

金融機構局金融モニタリング課長の写真

金融機関に対する「最後の貸し手」である日銀にとって、その適切な実施に備えるために取引先金融機関の経営状況をチェックすることは必須の業務といえる。そのための手段としては、立ち入り調査である考査と、日常的な面談や電話などによるオフサイト・モニタリングの二つがある。今回取り上げる金融モニタリング課は、この後者の業務に携わっており、実際に資金の貸し付けが必要となった場合には、その事務も担当する。金沢敏郎課長(5月27日のインタビュー当時)は「考査が大きな病院で行う定期的な人間ドックのようなものとすれば、モニタリングは次の考査までの間、かかりつけ医で行う日常的な健康状態の把握や病気の治療・予防のようなもの」と説明する。

同課は約70人が在籍する大所帯で、大手銀行や証券会社などを担当する大手金融グループ、地域金融機関を担当する地域金融グループ、外国銀行・証券を担当する外国金融グループの3グループで構成されている(6月16日付の組織改編で、金融モニタリング課は、大手銀行などを担当する金融第1課、地域金融機関などを担当する金融第2課、証券会社や外国金融機関、大手銀行の海外部門などを担当する金融第3課の3課に再編された。金沢課長は金融第1課長に就任)。金沢課長のインタビューを3回にわたって配信する。

「金融モニタリング課は、金融機関に対する信用供与の適切な実施に備えるため、取引先金融機関の経営や業務の状況を幅広く調査している。約70人が在籍する大所帯で、若いスタッフが多く、女性も20人程度おり、総合職・特定職の女性比率も行内では高い方だ。課は、大手金融グループ、地域金融グループ、外国金融グループの3グループで構成されている。また、支店管内の地域金融機関については、支店の金融担当がモニタリングを行っている。地域金融グループは、そうした支店による調査結果も踏まえ、地域金融機関全体の動向把握の取りまとめを行っている。そうした意味で、当課と支店とが一体となって、全国の金融機関のモニタリングを行っていると言える」

「業務内容は、大きく三つに分かれる。1)金融機関に対する資金の貸し付けに関する事務 2)金融機関の業務や財産の状況の把握とその結果に基づく助言 3)モニタリングで得られたミクロ情報のプルーデンス(信用秩序維持)施策や金融政策面への活用—だ。金融機関の経営状況の調査では、考査が定期的かつ集中的な人間ドックだとすれば、われわれはかかりつけ医のような存在。約500の取引先に対し、考査実施は年間100先程度で、平均すれば5年に1回程度の頻度ということになる。モニタリングは、考査から次の考査までの間をしっかりと情報収集・分析していく業務。オンサイトの考査で集中的に調査して問題が見つかれば、われわれがフォローアップするし、逆にモニタリングで気になる点があれば、考査でよく見てきてもらうというように、モニタリングと考査が車の両輪のように連携して運営されるよう心掛けている」

「当課は、最後の貸し手の最前線部署として、貸し付け事務を遂行する役割を担っており、いつでも発動できるように備えている。リーマン・ショックや欧州債務危機の際には、警戒度を高めて臨んだ。また、金融機関のシステム障害時にも、支払い不能の連鎖につながったり、資金の貸し付けが必要になったりしないか、金融機関から機動的に情報収集して確認に努めている。また、そうして得られた情報は、決済システムである日本銀行金融ネットワークシステム(日銀ネット)の稼働時間延長が必要かどうかを的確に判断するために、業務局や決済機構局などの関係局とも共有している」 「貸し付けには、信用秩序維持の目的で実施するもののほかに、金融政策の一環として行っているものもある。具体的には、補完貸付の実行のほか、貸出支援基金の枠組みで行う成長基盤強化支援や貸出増加支援の貸し付けについて、個別先ごとの貸付限度額を決定する事務も担っている。3月に貸出支援基金の延長・拡充が決まった際は、事務の効率化を図るため、それまでは支店でも行っていた金融機関からの借り入れ申し込みの受け付け・確認事務を本店に集約した」

大幅緩和でも資金繰り監視は必要=金融機構局金融モニタリング課(2)〔日銀探訪〕(2014年7月10日掲載)

日銀は、日々のモニタリングで金融機関の業務や財産の状況を幅広く調査しているが、その中で資金繰りや決済の状況のチェックに最も重点を置いている。しかし現在は、大幅な金融緩和の下、金融機関が資金繰りに行き詰まるリスクは小さくなっており、日々のモニタリングの必要性が薄れてきているようにも見える。金融モニタリング課の金沢敏郎課長(5月27日のインタビュー当時。6月16日付の組織改編で、金融モニタリング課は金融第1~3課に再編された。金沢課長は金融第1課長に就任)は「大手金融機関などは海外でも貸し出しを増やそうとしており、外貨も含めた資金繰りをしっかり見ていく必要が高まっている」と強調。「グローバル金融危機の教訓を踏まえ、新たな流動性規制が国際的に導入予定となっているなど、金融機関の経営上、流動性や担保管理は重要性を増していく方向にある。日銀が過去の金融危機などへの対応を通じて培ってきたノウハウを活用し、資金繰りチェックは続けていく」と話す。

「日銀は、資金の貸し手として、取引先金融機関の業務や財産の状況のモニタリングと、その結果に基づいた助言などを行っている。具体的には、面談や電話などを通じた日常的な対話や、定期的に報告を受けている財務データ・資料の分析に基づき、金融機関の経営方針、収益計画、さまざまな業務運営、リスクプロファイル(リスクの特徴・属性)とその管理状況などを、継続的に、さらには金融情勢に変化がある場合には機動的に把握している。特に、流動性の状況とその管理体制、決済リスクやそれに関連するシステムの管理体制は、円滑な資金決済の確保に直結する部分なので、最もきめ細かく見ている。これは、最後の貸し手機能の発動に際しての直接の判断材料ともなる」

「モニタリングでは、一つの金融機関に対し、担当者と管理職がペアになってヒアリングの内容などを決めていく。経営状況や業務運営の特徴などに応じて、何を重点的に調査するかは金融機関ごとに変えている。考査は毎回チームを編成し直しているが、モニタリングでは相手方と顔見知りになり、いろいろ話を伺い、意見交換ができる関係になるのが重要と考えており、担当者は他部署に異動にならない限り、できるだけ変更しないようにしている」

「日銀の取引先は銀行や証券会社などだが、資本政策といった重要事項は持ち株会社が決めている金融グループも増えてきた。把握したい内容に応じて、ヒアリング相手が持ち株会社であったり、取引先の銀行や証券会社などであったりするが、どのような場合でも、日銀としての問題意識や考え方を明確に伝えるなど、金融機関側の協力や理解を得るため丁寧なコミュニケーションに努めることが大切と考えている」 「最近は、大幅な金融緩和の下で、市場には資金が潤沢に供給されている。いざというときの貸し付け実施に備えた資金繰りや経営動向の把握といっても、ピンとこない方も少なくないかもしれない。しかし、大手金融機関などの中には海外で貸し出しを増やそうとしているところもあり、外貨も含めた資金繰りをしっかり見ていく必要が高まっている。また、流動性規制は新たな国際金融規制の中で重要な位置付けとなっている。当課や支店では毎日、われわれが過去の金融危機などへの対応を通じて培ってきたノウハウを活用して、取引先の金融機関に対して資金繰り状況をヒアリングしているが、これは継続していかなければならない」

マクロ分析支えるミクロの情報=金融機構局金融モニタリング課(3)〔日銀探訪〕(2014年7月11日掲載)

リーマン・ショック後、金融システム全体のリスクの状況をチェックして制度設計・政策対応を図る「マクロプルーデンス」重視の流れが世界的に強まったことを受け、考査やオフサイト・モニタリングで得られる金融機関のミクロ情報も、マクロ分析に活用されるケースが増えている。金融モニタリング課の金沢敏郎課長(5月27日のインタビュー当時。6月16日付の組織改編で、金融モニタリング課は金融第1~3課に再編された。金沢課長は金融第1課長に就任)は「ミクロ情報で個々の金融機関の健全性をチェックしているだけでは不十分ということでマクロプルーデンスの重要性が指摘されるようになったが、ミクロ情報によってマクロ面の基調判断の正確性が増す面もあり、両者は相互補完関係にある」と説明。ミクロ情報の価値が低下したわけではなく、その有効な活用方法を考えていくことがポイントとの考えを示す。

「モニタリングで得られた金融機関のミクロ情報を、金融システムの安定や金融政策面に活用していこうという流れが強まっている。金融システム安定の面では、日銀が毎年取りまとめている『金融システムレポート』で現状やリスク評価の基調判断を行う際にも、モニタリングを通じて得られた金融機関の生の声などを活用している。また、規制・監督関連のルールを策定する国際会議に参加する金融機構局国際課の担当者には、そのルールが導入されると金融機関の経営や業務にどのような影響が出るかなどのヒアリング結果をインプットしている。一方、金融政策との関係では、金融機関の貸し出し・預金の動向や有価証券投資の動向などについて、量的・質的金融緩和下でのポートフォリオ・リバランスの観点も意識しながら、ほぼ毎月、政策委員会に報告している」

「当面、力を入れて取り組みたいと考えている課題は四つある。一つ目は、量的・質的緩和の下での金融機関行動の把握。与信スタンスの積極化などの前向きな動きがどのように広がり、それに伴ってリスクプロファイル(リスクの特徴・属性)がどのように変化するか、注視していく。二つ目は、システム上重要な金融機関に対する国際的な監視強化への対応。バーゼル3をはじめとする国際金融規制や各国の独自規制が順次実施に移されつつあり、金融機関のビジネスモデルやリスクプロファイル、さらにはグローバルな金融システムの機能や構造に大きな影響を及ぼしていくと考えられる。そうした中で、日本の大手金融機関について、単体のほか、グループ全体の経営・業務の実態把握に努めるとともに、国際的な規制環境の変化にどう対応しているのか、資本基盤や資金流動性が十分なのか、多面的に確認していきたい。外国の大手金融機関についても、日本のマーケットでの取引やリスクの状況に関する把握力を高めるほか、グループ全体の経営状況に関する情報収集強化に向けて海外当局との連携を強めていきたい」

「三つ目は、地域金融機関の収益力や金融仲介機能の強化に向けた取り組みの支援。金融機関の収益力の現状と先行き見通しに関する分析力を向上させて、収益力強化に向けた経営・業務戦略や課題について、各金融機関の経営者や幹部の方々と地に足が着いた意見交換を進めていきたい。四つ目は、邦銀の国際業務拡大への対応。アジア地域を中心に、海外における邦銀の業務戦略や資産内容、損益・リスクの状況、流動性管理と安定調達への取り組みなどの実態把握を強化していく。また、アジア地域の中央銀行などと連携を強め、特に外貨流動性の面で、域内の金融システムが不安定化した場合の対応に役立てたい」 「課の運営で最も大切と考えているのは、取引先金融機関との信頼関係の構築・維持。契約に基づき行う考査と異なり、モニタリングは金融機関の任意の協力が前提で、十分な情報をタイムリーに得るには信頼関係の構築が欠かせない。当課は、日銀の政策・業務で分からない点があれば、金融機関の方々から最初に照会を受ける窓口でなければならない。また、マクロの金融経済環境や国際的な規制環境が大きく変化していく中でも、最後の貸し手機能など変わらない役割をしっかり果たしていく。そのために、金融機関の経営者や幹部の方々との接点を増やし、そうして得られたミクロ情報を日銀としての施策や取り組みに有効に活用していきたい」

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