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「日銀探訪」第26回:システム情報局業務システム開発課長 福田英司

工程厳密管理で円滑な開発確保=システム情報局業務システム開発課(1)〔日銀探訪〕(2014年11月25日掲載)

システム情報局業務システム開発課長の写真

日銀で、システムのアプリケーションプログラムを専門に開発している課は二つある。このうち、基幹的な決済システムである日本銀行金融ネットワークシステム(日銀ネット)をはじめとする業務関連のアプリケーションを手掛けているのが、今回取り上げるシステム情報局業務システム開発課だ。

日銀ネットでは、金融機関間の資金や国債取引の最終的な決済を行っているが、2013年における1日当たりの処理量は、当座預金決済が約6万6000件、金額にして約116兆円、国債決済が約1万8000件、金額にして約90兆円に上る。また、金融をめぐる激しい情勢変化に対応するため、日銀は常にさまざまな政策を検討しており、ときには世界的にも例のない政策手段を導入することがある。金融機関が、差し入れた担保の範囲内で、日銀からオペなど複数の形態で与信を受けることができる「共通担保スキーム」はその一例だ。業務システム開発課は、こういった難しい要望にも応えてシステム構築を行ってきた。同課の福田英司課長は、システム開発を円滑に進めるためには「開発の過程で、一つ一つの工程の管理をしっかり行い、丁寧に作製していくことに尽きる」と強調する。また、開発の経験を積んでいくことで、問題点がないかを最終的にチェックするテストの勘所が見えてくるようになると話す。福田課長のインタビューを3回にわたって配信する。

「業務システム開発課は、日銀の各種業務のうち、日銀ネットとその関連システムおよび国庫や発券関連業務を処理する各種システムを主に扱っている。課全体の人員数は約90人で、うち総合職が約20人、特定職のシステムエンジニアが約70人という構成だ」

「日銀ネットは、金融機関が日銀に有する当座預金の決済を対象業務として、1988年に稼働を開始した。その後、国債決済、国債の入札・発行、金融市場調節(オペ)、オペなどの見合いとなる担保の管理と、対象業務を拡大してきた。また、さまざまな制度変更にも対応してきた。具体的には、証券とお金の受け渡しを同時に行うDVP(デリバリー・バーサス・ペイメント)、システムが指図を受け付けるごとに決済処理するRTGS(即時グロス決済)、共通担保スキームなどの導入が挙げられる」

「このように、日銀ネットはさまざまなアプリケーションプログラムの追加や改修を行ってきたが、約20年が経過し、環境変化に柔軟に対応していくことが徐々に困難となってきた。そこで09年に、抜本的な見直しを行って新たなシステムを構築することを決定した。新日銀ネット開発に際しては 1)最新の情報処理技術を採用 2)変化に対する高い柔軟性確保 3)アクセス利便性の向上—を基本コンセプトとしている」

「新日銀ネットの開発は、質・量ともに、日銀ネット稼働開始以降で最大規模のチャレンジングな案件だ。88年の稼働当時に必要だった機能の中には、その後の外部環境やシステム技術の進展などに伴い、あまり使われなくなったものもある。逆に、新たに加えた方がいい機能もある。そういったものを一つ一つ丹念に確認し、必要十分なシステムをつくっていく。業務要件を確定し、字にもしたが、後になってシステムのユーザーとわれわれの意識が微妙にずれていたと分かることや、設計書に落とし込んだと思っていたのに、あいまいな部分が見つかることもゼロではなく、早期発見、早期修正を心掛けている。そのためには、ユーザーとコミュニケーションを密にしたり、課内でも目を変えて確認をしたりするなどの地道な努力が重要だ」 「トラブル防止は、一つ一つの開発工程をしっかり管理し、システムを丁寧に作製することに尽きる。システムのバックアップをきちっと行っておくことも必要だ。また、開発担当者の経験がものをいう面もある。システムに問題点がないかどうかを最終的にチェックするテストは、平常時だけではなく異例時も想定して行うが、経験を積むことで勘所が見えてくるようになる」

新日銀ネット、全面稼働前に入念チェック=業務システム開発課(2)〔日銀探訪〕(2014年11月26日掲載)

極めて大規模なシステム開発案件である新日銀ネット(日本銀行金融ネットワークシステム)の構築は、現在はシステム全体が整合的に作動するかどうかを最終的にチェックする段階に入っている。その後、利用者である金融機関などのシステムとのオンライン接続確認テスト、システムを試験的に使用してもらうランニングテストを経た上で、2015年10月13日を全面稼働の候補日としている。システム情報局業務システム開発課の福田英司課長は「最後の段階で利用者側の想定していたものと食い違いがあったなどということにならないよう、細心の注意を払ってきている」と、全面稼働に向けた取り組み状況について語る。

ランニングテストは、日銀内の各局や、500超の取引先金融機関のほとんどが参加する過去最大規模のものとなる予定。期間は来年3月から8月までの半年間で、関係者は稼働直前まで念には念を入れたチェックを続ける。

「アプリケーションプログラムの開発は、システムで実現しようとする業務内容を、利用者であるユーザーと調整して確定させるところから始まる。次に、その内容を設計書に落とし込む。その後、細かい単位ごとのプログラム作製や、プログラムが全体として整合的になっているかどうかの確認テストを実施。ユーザーに試験的に使用してもらって運用習熟を図るランニングテストを経て、本番の稼働開始に至る」

「開発作業は10年4月に開始した。開発対象が極めて大規模であるため、第1期と第2期の2段階に分けて開発している。第1期は、コンピューターなどの基盤部分と、アプリケーションプログラムのうち、オペや国債の入札関連、国債買い入れなどの国債系オペの受け渡しを対象とした。基盤部分の構築は、新日銀ネット構築運行課が担当した。今年1月6日に予定通り第1期分が稼働を開始し、現在も順調に稼働している」

「現在は、全面稼働まで約1年となる中、第2期分について、アプリケーションプログラムが全体として整合的に動作するかどうかを最終的にチェックする段階に入っている。2期開発は、日銀当座預金や国債の決済、与信担保の管理を行うシステムに加え、日銀ネットに連動する多数の関連システムも対象となっている。平常時から異例時までのさまざまなケースを想定し、膨大な量のテストを実施しているところだ」

「11月からは、システムの利用先金融機関などのコンピューターと日銀ネットの接続が適切に行われるかどうかを確認するオンライン接続確認テストを実施する。8月末に実施手順書を公表したが、2期開発の規模の大きさを反映して、厚さは約15センチに達した」

「15年3月から8月までの半年間、最終チェックを終えたアプリケーションプログラムを使用してランニングテストを行う。このフェーズでは、アプリケーションが想定通りのものかどうかをユーザーに確認してもらうほか、金融機関の方々に実際に模擬取引などをしてもらい、運用に慣れてもらう。テストは、即時グロス決済(RTGS)導入時に匹敵するくらいの大規模なもので、取引先金融機関や決済システム運営主体、各業界団体の方々には休日も含めて対応をお願いすることになる。ご協力にお礼を申し上げたい」「さらに第2期稼働開始後の16年2月15日に、新日銀ネットの稼働時間を現行の9時~19時から、8時30分~21時に拡大することも予定している。決済機構局を中心に実施した市場参加者との意見交換で明確となったニーズを踏まえ、わが国の決済全体の安全性・効率性の一層の向上、金融市場の活性化や金融サービス高度化などに寄与していく観点から実施するものだ」

ユーザーと二人三脚で業務にも精通=業務システム開発課(3)〔日銀探訪〕(2014年11月27日掲載)

世界的な金融取引の増加や金融政策の多様化などを受け、日銀の業務システムに求められる役割も拡大の一途をたどっている。システム情報局業務システム開発課の福田英司課長は「複雑化した日銀の業務の遂行は、システムの利用なしには考えられなくなっている」と指摘した上で、「各種の業務システムを環境変化に応じて開発し、活用してもらうことで、日銀の使命に貢献していきたい」と抱負を語る。使用する側のニーズにぴったり合ったシステムを開発するには、技術力に加え、対象となる業務やその制度的な背景に対する十分な理解も必要だ。中央銀行独特のものも多い業務に通じるための方法について、福田課長は「分からないことがなくなるまで、ユーザー側に尋ねるのが一番の近道」と強調する。ユーザーとのミーティングなどを通じ、業務に関する知識を蓄積していくという。

「業務システム開発課は、国の歳入金や歳出金を取り扱う国庫関連業務や発券関連業務などを処理する約30のシステムも所管している。これらは国民生活に直結しており、処理システムは日本銀行金融ネットワークシステム(日銀ネット)と同様、継続的な正常稼働が求められる基幹システムとしての性格が濃く、日々緊張感を持って対応している。具体例としては、税金などの歳入金の受け入れに関わる国庫金電子収納システムがある。これは、歳入金の納付を現金自動預払機(ATM)やインターネットを通じて行えるようにするもので、場所や時間を選ばずに納付することが可能になる。年金などの歳出金の支払いでも、支払金を迅速に受け取るために不可欠なオンライン処理システムを取り扱っている。こうしたシステムは、従来の紙ベースでの事務処理を減らすことができ、国民の利便性向上に加え、関係官庁や金融機関、日銀の事務効率化にも寄与している」

「国庫・発券関連システムは、現在はサーバーの更新や維持管理に重点を置いている。すべてのシステムに共通することだが、家屋と同様で、建てたらそれで終わりではなく、利用を続ける中で、継続的な保守やアップデートが必要。例えばバージョンアップの際には、項目をしっかり詰めた上で試験を入念に行い、切り替え後にシステムが止まるような事態にならないよう気を付けている」

「システム開発を適切に行うには、技術力が土台となる。担当者は、日々の開発作業において、時には悪戦苦闘する中で、腕を磨いている。これに加えて、システムで実現する業務や制度的な背景に関する理解も重要だ。日銀の業務は、中央銀行に独特のものや、市場への参加を通じて遂行するものが多いことを踏まえ、内外のユーザーとコミュニケーションを取りながら、必要な知識を習得している。分からないことがなくなるまでユーザーに尋ねるのが、業務に通じる一番の近道と思う。業務の現場の手触り感を得るため、その場に見学に行くこともある」

「別の観点として、システム開発にはコストを伴う点にも留意している。ユーザーのニーズを踏まえつつ、システム面で工夫できないか検討し、できるだけ効率的なシステム構築を提案するよう努めている。スクラップ・アンド・ビルドの視点も重要だ」 「システム開発は、最初も最後も人だと思う。新日銀ネットという大プロジェクトで得られた知見、経験、技術力は非常に貴重で、これを今後に生かしていきたい。また今後も、他のシステムも含め、先々の環境変化に適切に対応していけるように、人材育成には継続的に力を入れていこうと考えている」

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