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「日銀探訪」第25回:システム情報局システム企画課長 谷口文一

設計段階で精査、「想定外」排除=システム情報局システム企画課(1)〔日銀探訪〕(2014年10月27日掲載)

システム情報局システム企画課長の写真

日銀は、金融政策運営、金融システムの安定確保、現金供給、決済サービス提供など、多岐にわたる複雑な業務を手掛けているが、その実施に当たって欠かすことができないのがシステムだ。今回取り上げるシステム情報局は、基幹的な決済システムである日本銀行金融ネットワークシステム(日銀ネット)や金融データベースシステムなど、日銀が使用しているシステムの大部分の企画、開発、運行、維持管理を一手に引き受けている部署。所管するシステムは100を大きく超えているという。

日銀は現在、日銀ネットの基盤や機能を抜本的に見直した新しいシステムにつくり替える作業を進めている。同局の谷口文一システム企画課長は「設計段階を非常に重視しており、システムを使用する側とも綿密に打ち合わせて必要な機能を明確にした上で、プログラムを行うシステムベンダー側との間で誤解が生じないように設計書を丁寧に書き込んでいる」と説明する。特定職のシステムエンジニア(SE)を中心に、考えられるあらゆる可能性を検討し、設計段階で「想定外」を極力排除することが重要という。谷口課長のインタビューを3回にわたって配信する。

「システム情報局には五つの課がある。システム企画課が総務課的な役割を果たしているほか、業務システム開発課と情報システム開発課がシステム開発を行っている。一方、新日銀ネット構築運行課とシステム基盤構築課は、ネットワークやコンピューターなどわれわれが基盤と呼んでいる部分の企画・開発、導入、維持に携わっている。総人員数は400人超、女性も比較的多い。また、特定職のSEが多く在籍しているのが、他局と大きく異なるところだ。もっとも、人事ローテーションの一環でシステムにまったく携わったことのない人材が配置されるケースも少なくない」

「システム企画課の人員数は100人超で、7グループで構成されている。主な業務は、日銀の毎年度のIT投資計画の策定、新技術の動向調査、システムの全体最適化、機材の調達方法の検討、システムに関する予算・決算の取りまとめ、システムの品質管理、情報セキュリティー確保に関わる施策の企画・立案、局内の組織運営などだ」 「システムは、どういう機能が必要で、そのためにはどういうものを構築する必要があるかといったことを事前に十分詰めないと、後になって設計変更を迫られることになりかねない。また、システム開発は長期間にわたり多数の人間が関わるものだから、要件定義や設計書にあいまいな部分があると、誤解が生じてプログラムに不具合が発生し、システム障害が起こりやすくなる。われわれは設計段階を非常に重視しており、システムの行内ユーザー部署、ベンダー、基盤構築部署などとの間で綿密に打ち合わせを行い、要件をしっかり詰めている。またSEを中心に、要件書や設計書は誤解が生じないように丁寧に書き込む。行内ユーザー部署も、われわれとともにシステム開発を進めていく意識が浸透しており、プロジェクトの途中で内容を大幅に変更すると開発リスクが高まるということも理解してくれている。これにより、途中で当初計画が大きくぶれたり、予算を大幅に上回る出費となったりするような事態を防ぐことができている」

日銀ネット、業務アプリを自主開発=システム情報局システム企画課(2)〔日銀探訪〕(2014年10月28日掲載)

システム情報局は100を大きく超えるシステムを所管しているが、システムの重要性に応じて異なった開発方式を採用している。基幹的な決済システムである日本銀行金融ネットワークシステム(日銀ネット)のように高品質・信頼性が求められるものは、アプリケーションソフトを自ら開発するという。これに対して、そこまでの品質が求められないものは、新技術の採用をより広く検討するなど開発の自由度を広げているほか、人事や経費などの一般的な業務では外部から購入したパッケージソフトも活用して、メリハリを付けている。

一方で、業務内容の変化に迅速かつ効率的に対応するため、開発プロセスを統一する「標準化」にも取り組む。システム企画課の谷口文一課長は「各部署は開発プロジェクトを個別に実施しているが、システム企画課が横串を刺すような形で標準化を行い、局全体の目線をそろえるようにしている」と説明する。標準化によって開発作業の効率化が図れるほか、コスト削減にもつながるという。

「システム開発を進める上では、制度改正やニーズなどを踏まえた業務内容の変化に、迅速かつ効率的に対応していくことが求められる。そのためには、システム全体の最適化や新技術の採用を適切に進めていくことが必要だ。システム企画課では、開発プロセスの標準化を推し進めている。標準化によって、複数のシステムで開発・運用のスキルや手順を共用できるため、作業の効率化やコスト削減につながる」

「ただ、システム技術の進歩は早いため、標準化を進めてもどんどん陳腐化していく。そこで、大きな技術的潮流を見極めつつ、新技術を適時に採用することで、システムが時代遅れになる『レガシー化』の回避にも努めている。もっとも新技術はさまざまな不確実性を伴うことから、良いタイミングでの乗り換えが重要だ」

「業務用のアプリケーションソフトの開発では、目指す品質や信頼性に応じて、大きく異なる方式を採用している。例えば日銀ネットは、基本ソフトウエア(OS)などのプラットホームを目的に合わせて選定した上で、全てのアプリケーションソフトを日銀が開発する。また、大半の局が関係するシステムであることから、企画段階では局を横断するタスクフォースを立ち上げ、どういうシステムにしていくか十分なすり合わせを行った。これに対し、そこまでの品質や信頼性が求められないシステムは、開発の自由度を広げて新技術を採用しやすくするなど、メリハリを付けている。人事、経費、電子メールなどの一般的な業務については、市販のパッケージソフトを活用することが多い」 「システムを構成する機械やソフトウエアには使用期限がある。システム企画課では、各ソフトの使用期限や技術動向などを踏まえ、システム開発の中長期的な基本方針の検討を行っている。これによって、複数のシステムの更新時期をそろえたり、類似機能をまとめたり、システムを連携させたりすることができるようになり、全体の最適化につながっていく。毎年度のIT投資計画は、この基本方針をベースにして作成する」

情報漏えい防止で職員向けに啓発月間=システム企画課(3)〔日銀探訪〕(2014年10月29日掲載)

インターネットの発達で、官庁や企業などの情報システムを標的とした外部からの攻撃が急増している。日銀は、社会のインフラと位置付けられるシステムを多く保有するだけに、情報セキュリティーには特に敏感だ。システム情報局システム企画課の谷口文一課長は「幸いにして、今のところ日銀のシステムに外部からの不正侵入があって情報が漏れたということはないが、油断はできないので、引き続きしっかりした対応が必要と考えている」と話す。

同課は、日銀内の情報セキュリティー確保に関する政策を統括しており、さまざまな対策に知恵を絞っている。特に、情報漏えいなどの事態を防ぐためには「役職員一人ひとりの意識のありようが重要」(谷口課長)として、「情報セキュリティー月間」を設けて本支店で研修を行うなど、啓発活動には力を入れているという。

「情報セキュリティーの確保は、ITガバナンス上の重要課題だ。具体的な対応としては、セキュリティーに関する基本方針を定め、システム技術面で取るべき対応や職員向けの施策などに関し、枠組みや対策の基準を示している。さらにこの方針の下、内部規程や利用マニュアルなどで個別対策に関する実施手順を明らかにしている。システムの開発案件でも、要件定義や設計書作成などに当たってセキュリティー上問題がないかを当課がチェック。またシステムの運用段階では、システム使用に関して強い権限を持つIDを集中的かつ厳格に管理したり、システムに攻撃を受けそうな弱い部分はないか調べるテストを実施したりしている」

「職員のIT知識の向上にも積極的に取り組んでいる。役職員に対してパソコンや電子メールが標準配備されている中、システム的な対応だけではなく、一人ひとりの意識のありようが重要と言える。そこで、情報セキュリティー月間を設け、本支店で研修を行うほか、職員一人ひとりにクイズを解いてもらうなど、正しい行動が自然に身に付くよう知恵を絞っている。最近は、情報を盗むウイルスなどを添付した標的型メールを実際に体験する訓練も導入した」

「世間でセキュリティー侵害の事例が発生した際には、日銀で類似の問題が生じていないか点検した上で、注意喚起したり、予防策を講じたりする。中央省庁や海外中銀とも情報交換し、セキュリティーをめぐる最新動向に目を光らせている」

「システム情報局では多くのシステム開発案件を手掛けているが、プロジェクトの管理はそれぞれの担当課が実施している。風通しが悪くならないように、システム企画課が定期的に各案件の進捗(しんちょく)状況を取りまとめ、関係者間での情報共有を図っている。特に、課をまたいだ対応が求められる新日銀ネットの構築プロジェクトでは、一歩踏み込んで、当課が全体の進捗状況や品質の管理を行う」

「このほか当課では、局員の研修に力を入れている。新人のシステムエンジニア(SE)が入ってくると、数カ月間の新人研修の後、OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)に移行し、しばらくは先輩SEが仕事の指示や、対応状況のフォローを行う。また、他局から来たITにあまり詳しくない職員には、研修で基本的な知識や最近の動向を学んでもらう。国際会議への参加や、国際的なIT動向の調査・分析も大事な仕事だ。海外中銀などのIT部署との交流や情報交換を通じて、IT技術の最新動向などの有益な情報を収集し、日銀内に還元する」 「システム情報局は、中央銀行の使命をいわば『ものづくり』を通じて実現しており、他の部署とは異なる魅力がある。システム企画課の任務は、一言で言えば、効率的かつ効果的なシステム開発を通じて日銀の業務遂行を支えることだ。課員は、システム技術に対する理解だけではなく、経営的な視点も持って職務を行うことが重要と考えており、そうした認識を共有できるよう努めている。専門性を磨くとともに、コミュニケーションやチームワークを大切にして、前向きな挑戦をしていきたい」

(出所)時事通信社「MAIN」および「金融財政ビジネス」
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