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「日銀探訪」第36回:国際局国際業務課長 河合真児

1.23兆ドルの外貨準備の決済・経理を担当=国際局国際業務課(1)〔日銀探訪〕(2016年2月1日掲載)

国際局国際業務課長の写真

わが国が保有する外貨準備は2015年12月末で1.23兆ドルに達する。この膨大な外貨資金の運用に関する決済や経理などのバックオフィス事務を手掛けているのが、今回取り上げる国際局国際業務課だ。担当の範囲には、為替介入の決済や外国中銀との間で行う通貨スワップの実務といった、外貨による政策関連の事務も含まれる。

同課の河合真児課長は「グローバル化で外貨による政策実行ニーズが高まり、それを支える業務のさらなる国際化や高度化への対応が重要になる中、当課は実力が試される局面を迎えている」と話す。正確な事務処理に加え、諸環境の変化に素早く対応していく柔軟性も必要とされる職場だ。河合課長のインタビューを3回にわたって配信する。

「当課は、バックオフィスグループとシステムグループで構成されるが、現在は大型の新規システム開発案件がないため、専任のシステムグループ員は配置していない。人員数は約25人。担当しているのは、当行と外国為替資金特別会計(外為特会)が保有する外貨資産の取引に関する決済、経理などの、いわゆるバックオフィス事務だ。行内では、国際局総務課や国際連携課、金融市場局為替課がフロント部署として行った外貨取引の決済を当課が行う。また、外為特会保有の外貨資産については、法律に基づいた政府からの委託により事務処理を行っている」

「日本の外貨準備は15年12月末で1.23兆ドル。この中には、預金、証券のほか、金、国際通貨基金(IMF)リザーブ・ポジション、SDR(IMFの特別引き出し権)なども含まれる。外貨準備の大半は外為特会の資産だが、マンパワーの観点からは外為特会関連と日銀関連の事務の割合は3対1程度」

「財務省は毎月の第5営業日に、前月末の『外貨準備等の状況』を公表しているが、この統計の計数作成と財務省への報告も、政府委託事務の一つとして当課が行っている。月末までのすべての取引と残高を突き合わせながら、短期間で正確に行わなければならず、プレッシャーのかかる仕事と言える。統計作成を行うときは、担当者を完全に実務から離して作業に特化してもらい、ミス防止に努めている」

「外貨資産の運用における典型的な債券取引では、決済から経理までの一連の事務フローは次のようなものだ。まず、フロント部署が金融商品取引業者との間で行った約定の内容と、その業者が当課に送ってきた取引の内容を照らし合わせる。内容が一致すれば、海外のカストディアン(有価証券の保護預かりを行う金融機関)に決済の指図を送付する。カストディアンは、証券とお金の受け渡しを同時に行うDVP(デリバリー・バーサス・ペイメント)で決済した上で、結果を送ってくるので、それを確認した上で、資金や債券の残高移動の記帳などを行う。これらの事務は、民間金融機関などのバックオフィスが行っていることとほぼ同じ。当行業務局が行っている円や日本国債の決済とも事務的には似ているが、当課が扱う外貨取引では日銀が決済システムの運営主体ではないのが大きな違いだ」

「決済や資金繰りを的確に行うには、海外市場と日本の休日が異なることを意識しながら仕事をしなければならない。また、海外の取引相手のバックオフィスやカストディアンと英語でコミュニケーションすることも頻繁にある。取引の締め切り時刻など、海外市場・決済機関のルールや慣行にも精通している必要がある」「カウンターパートである外国中銀はもとより、カストディアンや他の金融機関などとも折に触れて情報交換し、事務のレベルアップに努めている」

為替介入、外貨関連取引の実務を担う=国際局国際業務課(2)〔日銀探訪〕(2016年2月2日掲載)

国際局国際業務課の担務には、政府や日銀が保有している外貨資産の運用事務にとどまらず、為替介入や通貨危機対応といった政策関連取引の決済事務なども含まれる。河合真児課長は「担当事務には、外貨資産の預金や債券などでの運用に関わるものだけでなく、政策関連のものも含まれる。外国為替資金特別会計関係では為替介入の決済関連事務などが、日銀関係では米ドル資金供給オペや成長基盤強化支援資金供給(米ドル特則)などの事務がそうだ。国際金融危機対応のスキームに絡む外貨資金のやりとりも手掛ける」と話す。

外貨準備高の増加などに伴い事務負担が増しているが、システム化などの合理化により、人員数を拡大せずに対応しているという。

「金融機関にドルを供給する米ドル資金供給オペの手順は、金融市場局から通知を受けたオペの落札結果を踏まえ、米ニューヨーク連邦準備銀行(FRBNY)にある日銀のドル口座から、落札した金融機関の指定する米国の金融機関にドル資金を振り込むというもの。ドルは、同連銀との通貨スワップ取り決めに基づき、日銀が調達する」

「日銀やFRBNY、欧州中央銀行(ECB)など6中銀間のスワップ取り決めによる流動性供給対応や、国際金融危機時におけるアジアの多国間の通貨スワップ取り決め『チェンマイ・イニシアチブ』が発動されれば、当課が事務を担当することになる。国際局総務課や国際連携課とともに実務スキームを立案し、訓練も行っている」

「為替介入に関しては、時期や額などの決定権限は財務相にある。取引の実行は財務省と金融市場局為替課が連携しながら行い、約定結果に従って決済をするのが当課の役割だ。直近では2011年10~11月に行われたのが最後で、事務の頻度は低い。しかし、いざ実施された場合には、限られた時間内で大量かつ正確に事務を行わなければならず、非常にプレッシャーがかかる仕事だ。定期的な研修や訓練を行い、いつ実施されてもよいように備えている」

「外貨準備高がこの10年の間に1.5倍程度に増加した中で、われわれの事務処理件数もかなり増えた。しかし、システム化や事務の流れの見直しなどの合理化で負担を極力抑え、10年前とあまり変わらない課員数で対応している」

「当課の事務は、民間金融機関に比べて日々の取引件数は少ないと思われるが、取引1件ごとのボリュームは大きく、重要性も高いだけに、慎重かつ確実な事務処理が求められる。事務を確実に処理し、オペレーショナルリスクを管理するには、事務の流れをシステム化し、極力人手を介さずに完結できるようにする『STP化』の実現が重要だ。STP化率を引き上げる必要があるというのは、中銀間では共通認識となっている」「最近は、政策関連取引の増加に加え、外貨資産の運用手段も多様化しており、いわば事務の少量多品種傾向が強まっている。時間的制約がある中、システム対応が間に合わないケースや、システム化の費用対効果が見合わないケースなど、取引の実情にシステム化が追い付かないことが増えているが、システム更改の機会などをとらえ、できるだけシステム化を進めたいと思う」

外貨関連業務、実行可能性を実務面から確認=国際局国際業務課(3)〔日銀探訪〕(2016年2月3日)

中央銀行を含む各国金融機関は、国際的な金融取引に関する電文の受発信の手段として、国際資金移動の決済情報を交換するネットワークシステム「SWIFT」を利用している。国際局国際業務課は、日銀内でSWIFTを主管する部署でもある。同課はこのシステムを国際的な金融取引に関する指図などの受発信に使っているほか、セキュリティーが厳重という利点を生かし、外国中銀や金融機関に対する照会や連絡にも使用しているという。河合真児課長は「SWIFTは多重なバックアップ体制も整えており、災害時など非常時の連絡手段にも使えると期待されている」と話す。

「SWIFTは、外国中銀を含む金融機関の金融取引に関する電文を受発信するための国際的なネットワークシステムを提供する組織で、システム自体もSWIFTと呼ぶ。約200カ国の1万以上のユーザーを結び、国際的な支払いメッセージを伝送している。当課は、日銀内で同システムを主管する部署だ」

「SWIFTで伝送する取引に関するメッセージのかなりの部分は、システムに自動的に取り込まれる。金融取引に関わる情報を取り扱う性質上、セキュリティーが非常に厳格で、データの改ざんが行われていないことを保証するメッセージ認証や暗号化に加え、権限を有するユーザーのみがアクセスできる仕組みも備えている。このため、取引に関わる情報に限らず、中銀間で授受を確実に行いたい機密性の高い情報の連絡手段としても活用される。また、アクセスコントロールによりサインと同等の効果が得られることから、取引の契約内容のやりとりなど、文書であればサインが必要なケースでもよく使われる」

「当課の担務は主に実務だが、政策ニーズの高まりや取引の高度化・複雑化が進む中で、業務企画について実務面から検討する仕事の割合が大きくなってきた。新規取引や取引変更などの新たな企画では、国際局総務課、国際連携課、財務省為替市場課などと連携し、民間金融機関や外国中銀などとも調整しながら、実行可能性を実務面から細かく確認していく必要がある。業務企画の上で必要な準備・検討の対象は、マニュアルの制定・改正、勘定経理の仕方、決済経路の確立、システムメンテナンスなど、多岐にわたる」

「政府は、法令や政省令などに基づき許認可権を行使したり、財政資金を投入したりすることで政策を実行していくが、中銀はバンキングの実務を通じて資金供給することにより政策を行う。日銀では『政策と業務は車の両輪』と言うが、日本企業や邦銀の活動のグローバル化に伴い、日銀の政策実行を支えるクロスボーダーの業務の重要度が高まっており、業務の国際化のさらなる進展は避けられない。そういう中で、平時だけでなく、災害時にも事務をしっかり遂行できる体制を取る必要がある。外国中銀との情報共有や連携も重要だ。業務の国際化をにらみ、人材育成も確実に進めていかなければならない」「当課への信頼の基礎となるのは、やはり事務を決められた日時までに確実に処理すること。業務の国際化や取引の高度化・複雑化が進み、当課の仕事がよりチャレンジングになる中で、引き続き信頼に応え当課の役割を果たすには、コミュニケーションがしっかり取れる風通しのよい職場環境を維持することが大事であり、課長としての課題と考えている。仕事の意義や意味を課員にしっかり伝え、納得して取り組んでもらうのも重要だ」

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