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総裁談話・山一證券について

平成 9年11月24日
日本銀行

1.山一證券は、バブル崩壊後の収益悪化が続くなかで、今春以降、格付機関による格下げの動きや総会屋事件等不祥事の表面化などから、内外市場における信認低下が一段と顕著となっていた。また、最近、同社に巨額の簿外債務が存在する疑いが濃厚であることが関係当局への報告により、明らかになった。

 こうしたなかで、本日、山一證券から、廃業および解散に向け、臨時取締役会において営業休止を決議したとの報告を受けた。

 わが国を代表する大手証券会社の一つである同社が、かかる事態に至ったことは、日本銀行として、極めて遺憾である。

2.今般の山一證券の経営行き詰まりの直接の原因は、巨額の簿外債務の判明という極めて特殊な事情にあるとは言え、同社が内外市場において広範な業務展開を行い、多数の顧客を擁していること等を勘案すると、今後、同社の自主廃業の過程を円滑に進めていくことが、わが国および海外金融市場の安定を確保するうえで極めて重要であると考えている。

3.こうした状況に鑑み、日本銀行としては、わが国の中央銀行として、「信用秩序の維持」という自らに課された使命を適切に果たしていくため、臨時異例の措置として同社の主力取引先金融機関とも協力しつつ、日本銀行法第25条に基づき、同社の顧客財産の返還、内外の既約定取引の決済、海外業務からの撤退等に必要な資金を供給することとした。

 なお、同社は債務超過の状況にはなく、また、政府においても、本件の最終処理を含め、寄託証券補償基金制度の法制化、および同基金の財務基盤の充実や機能の強化等を図り、十全の処理体制を整備すべく適切に対処したいとしているので、日本銀行資金の回収に懸念が生じるような事態はないと考えている。

4.以上の措置により、同社と取引関係のある内外の投資家および一般債権者との間の取引は円滑な履行が確保されることとなるので、投資家、取引先ならびに金融・資本市場参加者は冷静な行動をとられるよう、強く希望したい。

5.日本銀行では、最近の株価やアジア通貨の不安定な動き、相次ぐ金融機関の経営破綻を背景にわが国金融システムを巡る環境が急激に厳しくなっていること、さらには、景気の減速局面が続き、企業の景況感も慎重なものとなっているわが国経済の現状などを踏まえ、仮にも金融システム全体の安定が損なわれることのないよう、中央銀行の立場から最大限の努力を行うことが極めて重要な状況にあると認識している。

6.かかる観点から、上記の臨時異例の措置に加え、市場流動性の低下等不測の事態が生じる惧れがある場合には、市場に対して潤沢に流動性供給を行うなど必要な措置を躊躇なく講じていく所存である。

 日本銀行としては、こうした対応が政府による諸措置と相俟ち、わが国金融システムに対する内外からの信認の確保・向上に資することを強く期待するものである。

以上