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総裁記者会見要旨 2020年9月17日(木)
午後3時半から約70分

2020年9月18日
日本銀行

(問)本日の金融政策決定会合の決定内容について、ご説明をお願い致します。

(答)本日の決定会合では、長短金利操作、いわゆるイールドカーブ・コントロールのもとでの金融市場調節方針について、現状維持とすることを賛成多数で決定しました。すなわち、短期金利について、日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用するとともに、長期金利については、10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行います。また、長期国債以外の資産の買入れ方針に関しても、現状維持とすることを全員一致で決定しました。ETFおよびJ-REITは、当面、年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する保有残高の増加ペースを上限に、積極的な買入れを行います。CP等、社債等については、2021年3月末までの間、合わせて約20兆円の残高を上限として、買入れを行います。

次に、経済・物価動向について説明します。わが国の景気の現状については、「内外における新型コロナウイルス感染症の影響から引き続き厳しい状態にあるが、経済活動が徐々に再開するもとで、持ち直しつつある」と判断しました。やや詳しく申し上げますと、海外経済は、大きく落ち込んだ状態から、持ち直しつつあります。そうしたもとで、輸出や鉱工業生産は持ち直しに転じています。一方、企業収益や業況感は悪化しており、設備投資は減少傾向にあります。雇用・所得環境をみると、感染症の影響が続く中で、弱い動きがみられています。個人消費は、飲食・宿泊等のサービス消費は依然として低水準となっていますが、全体として徐々に持ち直しています。住宅投資は緩やかに減少しています。この間、公共投資は緩やかな増加を続けています。金融環境については、全体として緩和した状態にありますが、企業の資金繰りに厳しさがみられるなど、企業金融面で緩和度合いが低下した状態となっています。先行きのわが国経済は、経済活動が再開していくもとで、ペントアップ需要の顕在化に加え、緩和的な金融環境や政府の経済対策の効果にも支えられて、改善基調を辿るとみられます。もっとも、世界的に新型コロナウイルス感染症の影響が残る中で、そのペースは緩やかなものにとどまると考えられます。その後、世界的に感染症の影響が収束すれば、海外経済が着実な成長経路に復していくもとで、わが国経済は更に改善を続けると予想されます。物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、既往の原油価格下落の影響などにより、0%程度となっています。予想物価上昇率は、弱含んでいます。先行きについては、消費者物価の前年比は、当面、感染症や既往の原油価格下落などの影響を受けて、マイナスで推移するとみられます。その後、経済の改善に伴い物価への下押し圧力は次第に減衰していくことや、原油価格下落の影響が剥落していくことから、消費者物価の前年比は、プラスに転じていき、徐々に上昇率を高めていくと考えられます。

リスク要因としては、新型コロナウイルス感染症の帰趨や、それが内外経済に与える影響の大きさといった点について、きわめて不確実性が大きいと考えています。更に、感染症の影響が収束するまでの間、企業や家計の中長期的な成長期待が大きく低下せず、また、金融システムの安定性が維持されるもとで金融仲介機能が円滑に発揮されるかについても注意が必要です。

日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続します。マネタリーベースについては、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続します。また、引き続き、「新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム(特別プログラム)」や、国債買入れやドルオペなどによる円貨および外貨の上限を設けない潤沢な供給、ETFおよびJ-REITの積極的な買入れにより、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めていきます。そのうえで、当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じます。政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定しています。

(問)新型コロナ感染拡大に伴う日銀の措置の効果について、ご見解をお聞かせください。

次に、昨日、自民党の菅義偉氏が首相に指名され、新政権が発足しました。黒田総裁は2013年3月の就任当初から、大胆な金融緩和を経済政策の第一の柱に掲げる安倍政権と歩調を合わせて政策運営に当たってきました。この7年8か月を振り返り、政府と日銀の連携や金融緩和の歩みをどうご覧になっていますか。また、菅政権に代わりましたが、今後の金融政策運営についての姿勢をお聞かせください。

(答)日本銀行は、感染症への対応として、「特別プログラム」、国債買入れやドルオペなどによる円貨・外貨の潤沢な供給、ETF等の積極的買入れ、の3つの柱で、強力な金融緩和を実施しています。こうした対応は、政府の施策や金融機関の積極的な取り組みとも相俟って、効果を発揮していると考えます。内外の金融市場は、なお神経質な状況にありますが、ひと頃の緊張は緩和しています。企業等の資金繰りには厳しさがみられていますが、外部資金の調達環境は緩和的な状態が維持されています。また、金融機関の貸出態度は緩和的であり、CP・社債の発行環境も、一時的に拡大していた発行スプレッドが縮小するなど、きわめて良好です。こうしたもとで、銀行貸出残高の前年比伸び率は、3か月連続で6%台となっており、CP・社債の発行残高も前年比10%を超える高い伸びが続いています。日本銀行としては、引き続き、効果を発揮している現在の措置をしっかりと実施していくことで、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めてまいる所存です。

次に、安倍前総理が、様々な分野で大変に大きな功績をあげられたということに敬意を表するとともに、今後は、健康に留意して、引き続きご活躍されることを祈念します。安倍政権の経済政策、いわゆるアベノミクスにおける「3本の矢」である「大胆な金融政策」、「機動的な財政政策」、「民間投資を喚起する成長戦略」、これは日本経済が物価安定のもとで持続的な成長を実現していくうえで、大きな成果をもたらしたと考えています。この間、政府と日本銀行は、それぞれの役割のもとで、連携しながら取り組んできました。2013年1月には、政府と日本銀行は「共同声明」を公表しました。そのもとで、日本銀行は、「量的・質的金融緩和」を導入して以降、一貫して強力な金融緩和を推進し、緩和的な金融環境を実現しました。また、政府による機動的な財政政策は、累次にわたる経済対策などを通じて、効果的に需要を創出してきたと考えています。また、成長戦略についても、労働参加の高まりなど、成果をあげてまいりました。今年に入ってからは、新型コロナウイルス感染症という大きなショックが加わっていますが、こうした経済政策は、わが国の経済・金融を支える役割を果たしてきていると考えています。昨日、菅新総理がご就任されました。日本銀行としては、引き続き、現在の金融政策運営のもとで、日本経済をしっかりと支えてまいりたいと考えています。

もとより、当面の最も重要な課題は、新型コロナウイルス感染症の影響への対応であり、日本銀行としては、強力な金融緩和措置により、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めていきます。また、そうしたことを通じて経済を下支えし、日本銀行の使命である2%の「物価安定の目標」の実現を目指していく方針です。そうしたマクロ経済政策運営に当たっては、日本銀行法にも明確に定められている通り、政府と中央銀行が十分な意思疎通を図る必要があります。日本銀行としては、引き続き、政府としっかりと連携しながら、政策運営を行っていきたいと考えています。

(問)菅総理は自民党総裁選の出馬の会見で、今の状況で雇用を守り企業を存続させるためには、必要であればしっかり金融政策を更に進めるという発言をされています。基本的には日銀は物価2%を目指して強力な金融緩和を行っていると思うのですが、雇用・企業を守るために追加の緩和をするということは考えられるのでしょうか。

また、コロナからの景気回復がなかなか進まない、ペースが遅い中で、政府が第3次補正を組む可能性が取り沙汰されていますけれども、その際日銀は、やはり呼応して何かしら一緒に対策をするということは考えていらっしゃるのでしょうか。

(答)もちろん日本銀行は、2%の「物価安定の目標」を実現すべく、これまでも金融緩和を続けてきましたし、新型コロナウイルス感染症の影響のもとでも、企業の資金繰り等の支援や金融資本市場の安定を図りつつ、2%の「物価安定の目標」の実現に向けて、引き続き努力しています。もとより、この2%の「物価安定の目標」というものも、日本銀行法において、具体的には「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資する」と定められています。第一義的な目標はもちろん「物価の安定」ですが、雇用の状況を含めて国民経済が健全に発展するような状況を目指すことは、当然です。従って、日本銀行として、2%の「物価安定の目標」を定めたうえで、企業収益あるいは雇用・賃金の増加とともに物価上昇率が緩やかに高まっていくという好循環を作り出して、経済の持続的な成長を実現していくことが重要だと考えていますので、当然、そういった観点から必要に応じて、追加的な緩和措置も十分検討し得ると思っています。

第3次補正云々、財政政策については、政府・国会の所管であって、私は具体的なコメントをする立場にはありません。いずれにしても、日本銀行は、金融政策を行ううえで、当然政府の経済政策全体との関係を十分考慮しつつ、意思の疎通を図って協調して経済政策を進めてきています。そうした観点から、引き続き政府と連携しつつ、適切な金融政策を遂行してまいりたいと思います。「共同声明」にも謳われていますように、まさに政府と日本銀行のそれぞれの役割分担と言いますか、役割を認識しつつ、協調して政策を進めていくという考え方に変わりはありません。

(問)これまで長い間、二人三脚でアベノミクスを進めてきた安倍総理が急遽退任することになりました。率直に、今の黒田総裁の心境について教えて頂けますでしょうか。また、新たな二人三脚のパートナーである菅新総理との関係性をお伺いしたいのですが、これまでというのは、どのようなコミュニケーションを取ってこられたのか、また、これから先、菅総理に望むことと、期待することというのは何でしょうか。

また、アメリカはFRBが金融緩和の長期化方針を示していますし、ECBはラガルド総裁が為替相場を注視するという考えを示しています。円高に振れそうな要因が増えているような気もするのですが、黒田総裁もこの為替相場の動向には注視していくというお考えでしょうか。

(答)日本銀行としては、政府と意思の疎通を図りつつ、連携して金融政策を進めてきました。この点は、安倍前総理のもとでも、また菅新総理のもとでも変わりありません。安倍前総理とは、年2回ほど官邸にお邪魔して、日本経済あるいは金融状況等についてお話をしてきましたし、今後も菅新総理と同様のことができればと思っています。いずれにしても、当面の経済政策として、新総理が、新型コロナウイルスの感染拡大防止と社会経済活動の両立を図って、わが国経済を回復させていく方針を示しておられますし、ポストコロナを見据えた改革を着実に進めていく必要性にも言及しておられます。日本銀行としても、引き続き、新型コロナウイルス感染症への対応としての資金繰り支援あるいは金融市場の安定確保に努め、また、それらを通じて日本銀行の使命である2%の「物価安定の目標」を実現するために、適切な金融政策に努めていく所存です。

米国のFRBの政策ですが、先月、金融政策の枠組みレビューを行い、インフレ目標について、「時間を通じて平均して2%」を目指すとしました。そのうえで、昨日、政策金利のフォワードガイダンスを変更して、労働市場の状況が最大雇用と判断できる水準まで回復し、インフレ率が2%に達したうえで当面の間2%を適度に上回る軌道に乗るまで、現在の金利を据え置くことが適当と見込んでいると述べています。こうした対応は、米国経済ひいては世界経済の持続的な成長に資するものと期待しています。この点、日本銀行では、インフレ率が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続することを約束した、いわゆる「オーバーシュート型コミットメント」を採用しており、従来から、インフレ率が景気の変動等を均してみて、平均的に2%になることを目指しています。今回のFRBの考え方は、日本銀行のこれまでの政策運営の考え方と軌を一にしたものと考えています。更に、日本銀行の政策金利のフォワードガイダンスは、「現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している」というものです。これは、緩和方向を意識しながら金融緩和を継続するという政策運営スタンスを明確にしたもので、日本銀行では、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる方針です。また、ECBのラガルド総裁の発言について、私は何かコメントする立場にありませんが、常に申し上げている通り、為替レートは、ファンダメンタルズを反映して安定的に推移することが望ましく、そういう目で為替レートを注視していることに変わりはありません。

(問)先ほども触れておられましたが、アベノミクスについてですが、総括といいますか、成果もありましたし、一方で課題というものもあったかと思います。そちらについて、黒田総裁が成果と課題についてどのように今振り返ってお考えになっているかということを教えてください。そのうえで、課題なども踏まえて、新政権にどういったことを期待しているかということもお聞かせください。

また、政府との協調関係を続けていくということをおっしゃっていたかと思うのですが、「共同声明」について、これも7年半ほど前に作られたというもので、これが色あせていないのか、これを引き続き堅持されていくのか、見直すべき点がないのかというところについても、総裁のお考えをお聞かせください。

(答)いわゆるアベノミクスというのは、「3本の矢」といいますか、3つの要素から成り立っており、「大胆な金融政策」、「機動的な財政政策」、「民間投資を喚起する成長戦略」というものです。こうした「3本の矢」を通じて、具体的には雇用が大幅に改善しました。失業が減っただけでなく、就業者数が非常に大きく増加しています。また、1998年から2013年まで、基本的にデフレといいますか、持続的な物価下落が続いていたわけですが、そうしたデフレという状況ではなくなったということもあります。また、企業収益が改善するもとで、様々な新しい投資が民間企業によって――これはもちろん民間企業の実質的な努力によるものでもありますが――行われました。それをまた、いわゆる成長戦略という形で政府がサポートしていったということであり、全体として大きな成果をあげたと考えています。ただ、私どもの物価の安定、具体的には2%の「物価安定の目標」の達成という面では、残念ながら実現していないので、引き続き、この点については努力していく必要があると私どもは考えています。

「共同声明」につきましては、デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のために、政府と日本銀行がそれぞれの役割をしっかり果たしながら、連携してマクロ政策の運営に当たるということを示したものです。この間、政府と日本銀行は「共同声明」に沿って必要な政策を実施してきており、これがわが国の経済を支えるうえで大きな役割を果たしてきたと考えています。いずれにしても、日本銀行としては、引き続きこうした考え方に沿って適切な金融政策運営を行っていきたいと考えており、日本銀行が2%の「物価安定の目標」の実現を目指しているということは、一切変わりありません。

(問)まず、先ほどの「共同声明」に関連することですが、この「共同声明」は、政府と日銀双方で公表されたということは承知しています。一方で、2%の物価目標を依然達成されていない状況、あと、新政権が発足したタイミング、更には新型コロナのある種の想定外の事態によって、物価の下押し圧力がかかっています。そういった現状を踏まえて、今こそ例えば「共同声明」のあり方について、双方で議論、点検、あるいは確認をするといった必要性について、どのようにお考えなのかをお伺いできればと思います。

また、金融政策からは少し離れてしまうのですが、昨今、電子決済サービスを通じた預貯金の不正流出の問題が、利用者の不安を拡げている状況になっています。これについては、利便性と顧客の保護・預金者の保護の両立の難しさというのを改めて突き付けている形になっているかと思うのですが、黒田総裁のご所感をお伺いできればと思います。

(答)まず、もちろん2%の「物価安定の目標」は、日本銀行の金融政策決定会合で決定して、そのうえで政府との「共同声明」で、こういう形で行われているわけです。私どもとして、この2%の「物価安定の目標」を変更する必要があるとは全く考えていません。引き続き、その実現を目指して努力していきます。それも、景気循環を均して、平均的に2%ということで、現在の「オーバーシュート型コミットメント」においても、一定期間2%を上回ることも認めるということまで含めた、2%の「物価安定の目標」ということであります。現状、これは日本だけでなく、欧米もそうですが、新型コロナウイルス感染症の影響によって、物価上昇率はかなり大きく低下していまして、一部の国ではマイナスになっています。わが国でも、今後若干マイナスになる可能性もあります。ただ、日本を含めて欧米各国でも、2%の「物価安定の目標」を変えようという話には全くなっていません。私どももそういう考えは全くありません。いずれにしても、引き続き2%の「物価安定の目標」の実現を目指して、日本銀行としては、金融緩和を粘り強く続けてまいりますし、経済政策全体の運営につきましては、「共同声明」に謳われてきたことを引き続き踏まえてまいりたいと考えています。

電子決済云々の話で、最近、預金が不正に引き出された問題などが生じていることは存じていますが、詳細は調査中ということですので、コメントは差し控えたいと思います。もっとも、一般論として、足許で様々な形でキャッシュレス決済への取り組みが加速しています。例えば、金融機関によるオープンAPIや、AIやクラウドサービスの活用など、色々な形が拡がっていますので、従来とは異なるシステムリスク、あるいは個人情報管理、サイバーセキュリティなどの新たな問題にさらされる可能性があります。このため、提携先や外部委託先の管理も含めて、適切なリスク管理体制を構築していくことが求められるのではないかと思いますし、今後とも、金融機関に対して、各種リスクへの対応、それからサイバーセキュリティの確保ということは促していきたいと思っています。

(問)振り返ってみると、安倍政権下では、現在のコロナ禍でもそうですが、株高が続いていまして、その株高について、日銀の金融緩和策やETFの買入れによるバブル相場に過ぎないのではないか、という指摘もありますが、その点について総裁のご見解をお聞かせください。

また、新政権では菅総理が地銀の再編について必要性を言及していますが、この点についてもご見解をお聞かせください。

(答)私どもの「量的・質的金融緩和」、あるいは「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」、またそのもとでのETFその他の資産買入れ、これらは全て、経済を刺激して、また金融資本市場の正常な機能を強化して、経済が持続的な成長経路に乗るとともに、2%の「物価安定の目標」を実現するために行われているものです。具体的には、ETFの買入れについても、特定の株価を念頭に置いているということではなく、あくまでも株式市場におけるリスク・プレミアムの動向をみて、それが拡大し過ぎないように、弾力的に適時適切にETFの買入れを行っているわけです。その結果として、現在の株価につきましても、株価収益率その他の色々な指標でみても、異常な株高になっているということはないと思いますので、ご指摘のような心配はないと思います。いずれにせよ、ETFの買入れにつきましては、市場の状況をみながら弾力的にやっていくつもりです。

地域金融機関の統合の問題、これは従来から言われていることであり、特に菅総理の発言について、私からコメントするのは適当ではないと思いますが、一般論として、地域の人口や企業数が減少している中で、地域金融機関の競争が激化して、収益性を低下させるという構造がずっと続いてきています。また、新型コロナウイルス感染症の拡大が、先行きの収益の不確実性を高める要因となっており、地域金融機関にとっては、収益性と経営効率性を向上させていくことがより重要な課題になっていることは確かだと思います。そうした課題を克服するためには、それぞれの金融機関の経営努力が重要ですが、金融機関の統合や連携といったことも、当然選択肢の一つになると思います。その場合、統合や連携が自らの収益力の向上につながるかということとともに、顧客や地域経済にプラスの影響をもたらすかという観点からも、その意義を見極めていく必要があると思います。いずれにせよ、この課題は前から指摘されてきていますが、現時点で更に重要性を増しているということは事実だと思います。

(問)先行きのリスクについてお聞きしたいのですけれども、今回のステートメントでも、新型コロナウイルス感染症の帰趨について記載があります。前回は、大規模な感染症の第2波が生じないこと、という文言があったのですけれども、ちょっと表現ぶりが変わったのですけれども、この辺、新型コロナのリスクに対する認識というのは何かお変わりがあるのでしょうか。引き続き、ここはやっぱり一番のリスクなのでしょうか。その辺りをお願い致します。

(答)特別に意図的に、何か変えたつもりはありません。ただ、第2波なのか、第1波が続いているのかについては、欧州や日本の場合は、一旦ほとんど収束した後に再び感染者が増加したので、第2波的にみえます。他方で、米国などの場合は、完全に収束しないうちにまた増えたものが、今、減少しつつあり、第2波なのかどうかはなかなか言い難いほか、ブラジルやインドといった新興国の相当部分では、感染拡大が続いています。新型コロナウイルス感染症の影響のリスクは、なかなか収まらないとか、第2波、第3波など様々なことがありますが、第2波かどうかということよりも、収束せずに経済活動に大きな影響を及ぼすことにならないかが引き続き大きなリスクということは、間違いないと思います。他方で、ワクチンや治療薬が供給されるようになれば、この状況も変わってくるのかもしれませんが、その辺りもまだ不確実性が残っています。従って、新型コロナウイルス感染症の帰趨、その内外経済に対する影響は、現時点では最も重大なリスク要因ということで、引き続き十分注視・注意していく必要があると考えています。

(問)先ほど総裁は、日銀のマンデートとして、健全な経済の発展に資するということを挙げていらっしゃいましたけれども、コロナの対応は特別だとして、今後、物価に、特に何か変調というか、直接的なリスクがみえない中でも、もし経済が弱まっている、雇用が弱まっている、そこがいずれ物価に影響があるというふうに判断すれば、それはもちろん緩和も厭わないということなのでしょうか。

菅総理は、以前からそうですが、携帯料金の引き下げとか、Go To キャンペーンのことにも言及されて、一時的にではあるものの、短期的に物価を下げることになると思います。その点について、期待物価とか、物価の基調にどういった影響があるのか、その点についてどういうふうに懸念されているのか、懸念があれば教えてください。

(答)前段については当然だと思います。足許の物価も予想物価上昇率もみていますが、当然そうしたものに影響を与える雇用や賃金などの様々な経済指標をよくみていますので、足許の物価が動いていないからといって、他の要素が大きく変わったときに金融政策を発動しない理由はないわけです。雇用の急激な悪化や、その他の事情が生じた場合に、それが物価に大きな影響を与えるとみれば、当然追加的な金融緩和を検討することになると思います。ただ、具体的にどのような状況でどのようにするかは、まさにそのときの雇用や経済状況によることになると思います。

携帯料金の引き下げやGo To トラベルの影響などは、それぞれ政策をとった場合に一時的に物価が下がる、価格が下がることはあり得ると思いますが、それは趨勢的な物価に対する影響とは少し違います。更には、Go To トラベルのような政策による影響は、それぞれでかなり違いますので、物価への影響を懸念して、そういうことをしてもらわない方が良いとは全く考えません。それはそれで、経済の潜在的な成長率を上げる、あるいは当面の対面サービスに対する需要を高めるといった効果がありますので、それ自体として好ましいものであれば、一時的な価格への影響をそれほど懸念するといいますか、重大視する必要はないと考えております。

(問)新型コロナの政策に関してなんですけれども、日銀が政策対応に動いて半年が経ちます。コロナオペの残高も積み上がっていますけれども、「特別プログラム」ですとか、これまでの政策対応を振り返っての感想を改めて伺いたいです。

将来的な話かもしれないですけれども、アフターコロナですとか、ウィズコロナを見据えて、場合によってはこれから創業ですとか設備投資も増えてくる局面が出てくるかと思います。その辺りは中銀として、前向きな資金需要に対する支援姿勢、既存のオペも一部有用なのかもしれませんけれども、その辺りの認識を伺えればと思います。

(答)「特別プログラム」、国債買入れやドルオペなどによる円貨・外貨の潤沢な供給、ETF等の積極的な買入れ、という「3つの柱」で強力な金融緩和を実施した効果として、金融市場はなお神経質な状況にはありますが、ひと頃の緊張は緩和していますし、企業の資金繰りも厳しさはまだみられていますが、外部資金の調達環境は大変緩和的な状況が維持されています。金融機関の貸出態度も緩和的ですし、銀行貸出の増加も3か月連続で6%台、CP・社債の発行残高も前年比10%を超える高い伸びが続いています。政府の政策とも相俟ってということだと思いますが、企業が資金繰りに困って倒産するようなことは避けられていますし、倒産件数をみても殆ど増加していません。また、雇用についても、確かに一時的な休業等が増えたことがありましたが、現時点でみても、失業者の増加はきわめて限られていますし、雇用も比較的しっかりと守られています。資金繰り支援と金融市場の安定化のためのこの3つの措置は、効果をあげたと考えていますし、今後ともしっかり続けていく必要があると思っています。

ウィズコロナといいますか、コロナ後といいますか、どういった産業構造になるのか、どういった投資が必要になるのかについては、おそらく今ちょうど政府においても民間企業においても、考えられているといいますか、検討されていると思います。具体的な方向性は、各国あるいは各地域の産業によって違うかもしれませんが、デジタル化の推進が官民で必要なことは間違いないと思います。それに向けて、様々な投資あるいは無形の教育投資や研究投資も非常に必要になってくると思います。デジタル化だけでなく、新しい産業に対する資本の移動、労働力の移動といった面も重要だと思います。こうしたことは、基本的には政府と民間企業が行われることですが、日本銀行としても側面からこうした動きを支えていく必要があると考えています。現在の様々な措置、それから以前から行っていた貸出支援あるいは成長力支援も含めて、必要に応じて様々な対応策をとっていく必要があると考えています。

(問)前総理の安倍さんが退任を表明したときに、市場の一部で、黒田総裁も一緒に身を引くのではないかという観測も一部で出たかと思うのですが、大変失礼な質問なのですが、残り任期がかなりありますが、全うされるお考えでしょうか。今後の政策運営の意気込みも含めてよろしくお願いします。

(答)確か私の任期は後2年半ぐらい残っていると思いますが、何か途中で辞めるというようなつもりはありません。将来のことについてあまり色々なことを言うのもどうかと思いますが、任期を全うするつもりだということは申し上げられると思います。

(問)設備投資の先行きについて、今回、判断が前回よりは少し慎重になっていて、実際の指標をみても、少し設備投資に企業収益の落ち込みの影響が出ているように思います。この弱さについて、先行きの経済をみるうえでどうお考えなのか、中長期的な成長期待が低下してマインドが萎縮するということが、日銀が考えているリスクの大きな要因の一つだと思うので、そういう観点からお願いします。

また、これは菅総理が言っているというよりはかねてより必要と言われている規制改革について、今回、菅総理はそこを頑張ってやると強調されています。ただ、そうした痛みを伴う改革は、やはり景気が良いときでないとなかなか進めにくいというのが多くの人の見方だと思います。そうした改革を、今後コロナで景気が厳しい状況が場合によっては数年続く中、遂行することの蓋然性というか経済の成長への影響、やはり長期的には必要ということで今やるべきなのか、その辺りについてご見解をお願い致します。

(答)設備投資は、足許、若干減少していることは事実です。今年度あるいは来年度の設備投資がどうなるかというのは今後の短観を注意深くみていく必要があると思っています。ただ、現時点では、GDPや企業収益の大幅な落ち込みに比して、数%ぐらいということでそれほど大きくはないと考えています。それから、多くの企業は研究開発投資や物流施設の投資といった様々な投資は引き続き行うという意図を示しています。また、ウィズコロナといいますかポストコロナといった新しい投資のニーズも出てくると思います。他方で、企業収益が一旦非常に大きく落ち込んでいますので、これが今後、生産の回復とともに徐々に回復してくると期待していますが、企業収益の回復の程度がどの程度になるかは、長い目でみると、設備投資にも影響し得ると思いますので、その辺りはみていく必要があると思います。現時点では中長期的な成長見通しが大きく下がったとか、将来のための投資も少し棚上げにしようという動きにはまだなっていないと思います。

それから、規制改革、構造改革は、様々な痛みを伴うことはその通りですが、他方で、それに対するセーフティネットも、既にあるものも含めて政府はお考えだと思いますので、今のような状況だと規制改革はできないということではないと思います。むしろある意味、経済が非常に大きなショックを受けて、どのような方向にいくのかが議論になっていて、難しい状況にあるわけですが、他方で、そうだからこそ、構造改革といいますか規制改革が必要だということも、ある程度広く認識されていると思います。私自身は規制改革が実行される可能性は十分にあると思っていますが、いずれにせよ、これはあくまでも政府の役割です。日本銀行としては、金融緩和を通じて、一種のセーフティネットといいますか、そういうものを引き続き供給していくという用意はありますが、あくまでも中身につきましては政府がお考えになってやられることだと思っています。

(問)第二次安倍政権では株価が歴代政権の中でも上がりまして、ETFについては、日銀の買入れが長期化し、今はETF市場の大体8割くらいを占めるようになっています。その結果、日銀がETFを通じて間接的に保有する日本企業の株も増えています。長期化に伴う市場の歪みとか企業のガバナンスへの影響を指摘する声もありますが、この辺り総裁はどうお考えでしょうか。特に最近、ESG投資というのがコロナを受けて、相当民間の機関投資家の間で活発になっています。日銀はETF保有者ですが、企業の株式の議決権行使には関与されないということで、日銀が保有しなければESGに関心がある機関投資家が企業の社会課題の解決などの取り組みを後押しするという効果を、日銀が買うことによってそういう効果を少し弱めているのではないかという指摘もあります。このETF買入れの長期化に伴う副作用について総裁はどうお考えでしょうか。

また、欧州中央銀行などは、グリーンな量的緩和、グリーンQEということで、グリーンボンドの買入れなどを検討しているという報道があります。日銀はETF買入れについて、設備や人材投資に積極的な企業や、女性活躍に積極的な企業を対象にするインデックスは設けられていますが、環境に関しては、特に基準というのは現時点ではありません。ETFの買入れに際して、環境配慮やESG配慮のようなものを、今後、設けられるようなお考えは総裁にはおありでしょうか。

(答)市場にあるETFの相当部分を日本銀行が保有しているというのは事実ですが、東京証券取引所の株式時価総額からみれば6%ぐらいかと思います。正確な数字は手許にないのですが、いずれにせよそれほど大きなものではありません。従って、日本の株式市場を歪めるということにはなっていないと思います。それから、ETFについては、こういった形での投資は各国でもありますが、その各国と同様に、ETFを組成している資産運用会社が、コーポレートガバナンスコードその他も踏まえて、適切に株主権を行使しています。ですから日本銀行が買っているかどうかではなくて、そもそも、ETF投資が企業のガバナンスを弱体化させているかと言えば、それこそ欧米では日本どころではなくもっとたくさんETFがマーケットにありますが、ガバナンスを低下させているという議論はないと思います。従って、わが国においても、ETFがこのぐらいあることによって、ガバナンスが低下するなどの問題になっているとは全く思いません。

また、二点目については、様々な考え方があると思います。中央銀行としてどこまで資源配分に関与するかというところでは、貸出支援でも様々な形でそうした資源配分への一定の配慮をするということはやっていますし、ETFについても一定の配慮はやっています。もっとも、グリーンボンド買入れは、気候変動リスクにどう対応するかではなく、気候変動に対抗する政策を推進しようという話になってきます。現時点で、ECBなどは前向きに検討しておられるようですが、私どもが今検討しているかと言われると、そこまではいっておりません。ただ、一定の配慮といいますか、資源配分に対する影響力を考慮するということは、貸出支援についてもETFについても一定程度行っていますので、全く考えられないという話ではありません。今のところ、金融機関の気候変動リスクを考慮しなくてはならないという話は、BISなどでやっているのですが、グリーンボンドを買うといった話は、そういう話よりも一歩超えて気候変動対策をサポートしようという話になります。そこまで中央銀行として踏み込むべきかという議論は、まだあると思います。

(問)先ほど、FRBが決めた新しい政策と、日銀が4年前から手掛けている「オーバーシュート型コミットメント」等の金融緩和政策は、軌を一にしたものという主旨のご発言をされました。ということは、今後日本で物価上昇率が2%を上回った場合も、単にマネタリーベースの拡大方針を継続するのみならず、金利の引き上げも暫くは控えるという理解でよろしいでしょうか。更に、その後、日銀が金利を上げるとしても、その際の判断材料として、FRBと同様に単に物価動向だけでなく、雇用市場の動向にも配慮するということなのか、その辺りのご認識もお聞かせください。

(答)FRBも金融政策のフレームワークの見直しを行い、平均インフレターゲットのような、「平均して2%」、2%をかなり下回っていた局面があれば、その後2%を少し上回る時期が続いても差し支えないという考え方ですが、私どもも2016年から、そのような考え方でやっています。そういう意味では、2%の「物価安定の目標」は、2%が天井になっているという話ではなく、平均的に2%を達成するということです。2%を下回る時期があった場合に、その後2%を上回っても差し支えないという考え方自体は、FRBと全く変わらないと思います。そういう考え方のもとで、どのような金利、あるいは量的な資産買入れプログラムを動かしていくかは、それぞれの経済、あるいは金融情勢によって判断されることと考えています。従って、私どもの「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のもとで、いわゆるイールドカーブ・コントロールでは、政策金利を-0.1%、10年物国債金利の操作目標をゼロ%程度としていますが、それは、場合によってはそれ以下になる、それを下げるということはあり得るということまで申し上げているわけです。いずれにせよ、具体的な金融政策措置というものは、今申し上げたような平均的な2%目標、つまり下回っている時期があれば上回っても差し支えないという基本的な考え方のもとに、その時々の経済・物価情勢、金融市場の状況を踏まえて、それぞれ適切に対応するということではないかと思います。

(問)国債のイールドカーブについて、4月あるいは6月の会合後の会見では、超長期の金利については、イールドカーブがあまり寝てしまうのは好ましくないというような主旨の発言をされていました。足許のイールドカーブをみると、やや寝てきているようにもみえますが、今の超長期の水準をどのようにみていらっしゃるのか、ご認識をお願いしたいと思います。

(答)この点は、2016年9月の「総括的な検証」のときの考え方と基本的に変わっていません。その時々の経済・物価、更には金融情勢に応じて、適切なイールドカーブが形成されるように、国債等の資産買入れを行っています。現状は、適切なイールドカーブになっていると考えています。

(問)先ほど総裁が、株式市場で日銀の政策がバブル相場を作っているのではないかという質問に対して、そうは思わない、特に異常な株高になっているとは思わないというお話がありましたが、このご説明には非常に違和感があります。今、リーマンショックを上回る経済の打撃を受けて、年率でいうと20数%のマイナス成長になっているわけです。にもかかわらず、日経平均株価はここ十年でいっても相当高い水準にある、これは明らかに異常な株価の状態ではないかと思うのですが、そのご認識でよろしいのでしょうか。

また、日銀のETF買いなのですが、現実には今株式市場で最近もよくあるのですが、下落しても日銀が最終的にはETFを買い支えてくれるので、という理由で反発するケースが度々みられます。これは、株価下落を防ぐ、株式市場を安定させる効果が、ある意味あるというようにもみえるわけですが、これは日銀の金融政策にとって、成功なのでしょうか。それとも副作用なのでしょうか。

(答)まず、株価は、あくまでも足許から将来にかけての企業収益というものを基本的に反映して決まってくるということだと思います。世界経済についてのIMFの見通しにしても、わが国経済についての政府あるいは日本銀行の見通しについても、足許持ち直して、今後緩やかではあるけれども回復していくというものであり、それを踏まえて株価形成がなされていると思います。この点は、日本だけが何か異常というわけではなくて、欧米でも、多くの新興国でも同様です。

それから、ETF買入れはあくまでも特定の株価を目指したものではなく、株式市場におけるリスク・プレミアムが異常に拡大したりすることを防ぐために行っています。結果的に、ご指摘のような株価の変動を小さくしているという効果はあるかもしれませんが、何か特定の株価にもっていこうとか、あるいはそのためにやっているということは全くありません。

(問)財政健全化についてお伺いします。コロナ禍の対応ということで、日銀はイールドカーブ・コントロールに当たっての国債の購入上限を撤廃しました。昨日、菅新政権の発足に伴って再任された麻生財務相は会見で、今の低金利を活用して、財政や財政投融資をしっかりして成長をまずやっていきたい、成長を取り戻していきたい、とお話をされました。コロナ禍の対応としては理解できるのですが、いわゆる国債の購入上限の撤廃が長期化しますと、財政健全化にとっては、日銀は暗に財政健全化の先送りを容認しているのではないかという見方も出てくるのではないかと思います。この点についてのお考えをお聞かせください。

(答)この点はいつも申し上げていますが、財政運営そのものは政府・国会の責任において行われるものと認識しています。他方、日本銀行による国債の買入れは、金融政策運営上の必要に基づいて実施しています。足許では、感染症の影響を踏まえて、債券市場の安定を維持してイールドカーブ全体を低位で安定させるために、またそのことを通じて経済を下支えして、物価の安定という日本銀行の使命を果たすために行っており、何か政府の財政ファイナンスをしようという話ではありません。あくまでも日本銀行として、物価の安定という使命を果たすために必要な限りにおいて行っているということです。

以上