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【挨拶】わが国経済のデフレ脱却に向けて

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岡山県金融経済懇談会における挨拶

日本銀行副総裁 西村 清彦
2012年4月18日

目次

1.はじめに

日本銀行の西村でございます。本日は、岡山県の行政および金融・経済界を代表する方々との意見交換の機会を賜りまして、誠にありがとうございます。皆様には、日頃より、岡山支店を通じたヒアリングや各種のアンケート調査にご協力頂いておりますが、皆様から直接お伺いする定量的・定性的な情報は、私ども日本銀行が適切な判断を行っていくうえで、極めて重要であると考えています。特に、リーマン・ショックや東日本大震災のように、金融経済情勢を大きく変化させる事象が発生した直後には、過去の統計データは有用性を失ってしまいますし、新たな統計データが出てくるのを待って政策対応を行う訳にはいきません。そのような状況においても皆様から様々なかたちで情報をご提供頂けるということは、海外の中央銀行からも大変羨ましがられます。この場をお借りしまして、日頃のご協力に厚くお礼申し上げますとともに、今後ともご協力のほどを宜しくお願い申し上げます。

本日は、まず、当面の景気見通しとリスク要因についてお話ししたうえで、わが国経済のデフレ脱却に向けて必要な措置について、基本的な考え方をご説明します。さらに、そうした観点から日本銀行が2月と3月に行いました政策対応について、このところ良く耳にします疑問点にお答えするかたちでご説明したいと思います。また、最後に、当地の経済を巡る話題にも触れさせて頂こうと考えています。

2.当面の景気見通しとリスク要因について

当面の景気見通し

最初に、内外経済の現状と当面の見通しからお話ししたいと思います。

まず、海外に目を向けますと、国際金融資本市場では、このところ為替相場や株価が神経質な動きをみせていますが、欧州中央銀行による大量の資金供給やギリシャ支援に一定の進捗がみられたことなどを背景に、金融機関の資金調達環境は落ち着いています。しかし、海外経済は全体としてなお減速した状態から脱していません。米国では、このところ消費や雇用の面で改善の動きがみられていましたが、直近の雇用統計が事前の予想を下回るなど、改善の動きがどんどん強まっていくということにはなっていません。そうしたもとで、わが国の輸出や生産も、これまでのところ横ばい圏内を脱していません。このため、景気全体としてみても、なお横ばい圏内にとどまっています。しかし、国内需要では、このところ持ち直しに向かう動きがみられています。設備投資を中心に、東日本大震災からの復旧・復興に向けた動きが出てきているほか、エコカー補助金の再導入や人気新型車の発売など、自動車に対する需要刺激策の効果もあって、個人消費の底堅さが増しています。生産面でも持ち直しに向かう動きがみられています。先行きは、新興国・資源国に牽引されるかたちで海外経済の成長率が再び高まり、国内でも震災復興関連の需要が徐々に強まっていくにつれて、緩やかな回復経路に復していくと考えられます。

リスク要因

このような見通しが実現されていくかどうか、点検していく際のチェック・ポイントとなるのが、見通しにおけるリスク要因です。現時点でリスク要因として最も強く意識していることを一言で言えば、世界経済を巡る不確実性です。欧州債務問題の今後の展開や国際商品市況の動向、新興国・資源国で物価安定のもとで成長が続くかなど、様々な不確実性がありますが、私は、現在回復が注目を浴びている米国経済について、経済指標の改善の動きが続くのかどうか、注視していく必要があると考えています。

その背景として、ここでは2点指摘したいと思います。第一に、現在の米国では、「雇用に安心があるグループ」と「雇用に不安があるグループ」との二極化が進んでおり、このところの底堅い指標は、前者が住宅ローン金利低下や株価上昇の恩恵を受けて消費を回復させた面があるという点です。これに対し今回の景気循環における特徴は、後者の「雇用に不安があるグループ」が大きく増加したことであり、回復局面でもそれが目立って減少していません。このことが今後の米国経済の回復の足取りを重くさせる可能性があります。

第二に、リーマン・ショックの影響で米国の主要な統計の季節調整方法に歪みが生じていて、冬場から初春にかけての計数が過大評価される一方、夏場にかけての計数が過小評価される可能性があります。これが当てはまる場合、これまでは実態以上に良い指標が出ていたのが、今後は、実態以上に悪い指標が出てくることになり、これが企業・家計そして市場の回復期待を冷やす可能性には注意が必要です。

視野を他の国にも広げ、より長い目でみますと、高齢化の進展の下で不況が長引くと、業種間・地域間の人の移動が不活発になるなど、経済の柔軟性が低下することが考えられます。そのため、需要構造の変化に対する供給サイドの円滑な対応が困難になり、結果として成長力が低下してしまう懸念もあります。日本以外でも米国や欧州の先進国で、高齢化に伴って、こうした経済の柔軟性低下が深刻な問題となりつつあります。アジアなどの新興国においても、今後十年以内に高齢化がかなり進むことから、こうした問題にいずれ直面することになりますが、その影響の兆しが足許に現れる可能性も否定できません。

このように、わが国経済の先行きには、様々なリスク要因があることを念頭に、経済・物価見通しについて改めて入念な点検を行い、そのうえで、半年に一度公表しています展望レポートとして、今月末にお示ししたいと考えています。

3.デフレからの脱却に向けて

次に、デフレからの脱却について、お話したいと思います。わが国経済がデフレからの脱却に向けてしっかりと歩を進めていくためには、以下の両面での対応が必要であると考えています。

第一に、足もとの景気回復に向けての動きを着実に後押しし、経済の活動レベルを引き上げていくことです。国内外に端を発する前向きな動きをしっかりと後押しすることを通じて、需給ギャップの着実な改善を図っていくことが重要です。

第二に、わが国経済が直面する長期的・構造的な問題である趨勢的な成長力の低下に関して、取り組みを進めていくことが必要です。高齢化に伴って働き手の数が減少傾向をたどる中で成長力を高めることは、並大抵のことではありません。新たな需要を取り込んでわが国経済の成長力を高めていくために、民間企業、金融機関、政府、日本銀行がそれぞれの役割に即して、思い切った取り組みを進めていかなければなりません。

新興国を中心としたグローバル需要の取り込みに努めるために、日本企業が相対的な優位性を持つ素材開発、すり合わせ技術、生産効率、きめ細かな対顧客サービスなどを改めて見直し、市場に適合した組み合わせを探るのが、一つの方向性であると考えられます。この点、製造業は、グローバルな生産・販売網の再構築を行う中で、引き続き海外展開を積極的に進めていますし、最近では内需型の産業にも、海外需要の取り込みを図る動きが拡がってきています。大事なことは、こうしたグローバル需要の取り込みに向けた企業の積極的な動きが、国内の空洞化を招くのではなく、わが国経済の成長力強化へと繋がっていくよう、国内における事業環境の整備をしっかりと行っていくことです。併せて、国内の需要を喚起するための取り組みも重要です。産業の成長を視野に入れた規制改革やリスク・マネーの供給といった面での取り組みを着実に進め、それによって生まれた成長の芽を国内で大きな需要に育てていくことは、わが国経済の成長力強化という観点から、極めて重要な課題であると考えています。

4.日本銀行による政策対応

次に、日本銀行による政策対応について、お話します。以上申し上げましたとおり、(1)デフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的な成長を実現するためには、足もとみられている景気回復に向けた動きをしっかりと後押しすることと、(2)成長力強化に向けた取り組みを進めることの、両面の努力が必要です。こうした認識のもと、日本銀行では、2月と3月の金融政策決定会合において、デフレ脱却に向けた政策のパッケージを打ち出しました。以下、その内容を簡単にご説明します。

2月の政策対応:「目途」の導入、時間軸の明確化、基金の増額

2月の金融政策決定会合では、3つの措置を決定しました。

第一に、「中長期的な物価安定の目途」を導入しました。これは、日本銀行が目指すべき「物価の安定」を、消費者物価の前年比上昇率を用いて数値で表すものです。今回、この「目途」について、日本銀行は、消費者物価の前年比上昇率で2%以下のプラスの領域にあると判断しており、当面は1%を目途とすることとしました。具体的な数値を決めるに当たっては、わが国経済は長い停滞期を経た後で正常状態へ向かう移行過程にあり、先行きに大きな不確実性が存在すること、そのため、1990年以前のバブル期ですらそうであった日本の低い物価上昇率に慣れた国民の物価観にも十分配慮する必要があると考えました。その結果、当面の「目途」は「1%」とピンポイントで示しつつ、より長い目でみた場合には、内外の経済構造の変化などにより目指すべき物価上昇率が高まる可能性を考慮して、「2%以下」とすることとしました。

第二に、強力な金融緩和を継続する「時間軸」(コミットメント)を明確化しました。これは、経済環境に関する条件と紐付けて、先行きに向けて緩和的な政策運営を予め約束しておくことで、将来の政策の効果を前倒しで現在得ることを目的としています。今回、「目途」の導入に合わせて、「消費者物価の前年比上昇率1%を目指して、それが見通せるようになるまで、実質的なゼロ金利政策と金融資産の買入れ等の措置により、強力に金融緩和を推進していく」ことにしました。「1%」をピンポイントで明示しつつ、「目指す」という表現を用いて能動的に政策対応を進めていく姿勢を明確にしています。また、条件が充たされるまで継続を約束する政策として、「実質的なゼロ金利政策」に加えて「金融資産の買入れ等」を明記しています。

第三に、資産買入等の基金について、10兆円と思い切った規模の増額を行いました。この結果、日本銀行による長期国債の買入れペースは、成長通貨を供給するための買入れと合わせ、本年末までの間、年率換算で約40兆円という大規模なものとなっています。

以上の3つの措置は、デフレ脱却に向けた日本銀行としての政策姿勢を明確化するとともに、金融緩和を一段と強化し、このところみられている前向きの動きを、金融面から強力に後押しすることを狙いとしたものです。

3月の政策対応:成長支援資金供給の拡充

続く3月の金融政策決定会合では、成長支援資金供給の拡充を決定しました。この制度は、わが国経済の成長基盤強化に繋がるような融資・投資を行う金融機関に対し、日本銀行が長期かつ低利の資金を供給するものです。この制度を用いてこれまでに金融機関が行った投融資の分野別内訳をみますと、環境・エネルギー関連や医療・介護関連のウェイトが高くなっています。投融資の実例について、金融機関が公表している資料を見ますと、例えば、高齢者向け施設の運営者が、空調設備を排熱回収型で環境負荷の低い設備へと更新する投資ですとか、食料品メーカーがアジア新興国における旺盛な需要に対応するため、現地の生産拠点を拡充する投資などに対して、本制度を活用した融資が実行されているようです。

こうした実績を踏まえつつ、今回は、小口の投融資を対象とした特別枠と、外貨建て投融資を対象に米ドルを供給する特別枠をそれぞれ新たに設けることとしました。それにより、既存の貸付枠の増額分と合わせ、資金供給枠は合計で2兆円増額されます。また、制度の新規受付期間を全体として2年間延長することも決めました。

これらの措置は、デフレ脱却に向けて必要なもう1つの柱である成長力の強化について、日本銀行としての取り組みをさらに強力に推進することを企図したものです。

5.日本銀行は変わったのか?

こうした日本銀行による一連の政策対応、とりわけ、2月に行った、政策姿勢の明確化と金融緩和の一段の強化に向けた決定は、事前に予想する向きがみられなかったこともあって、市場参加者に強いインパクトをもって受け止められました。その後の株価の上昇や為替相場の円安方向への動きについては、もちろん、欧州債務問題を巡るリスクの低下や米国経済の改善の動きなど、世界的にやや明るい材料がみられ始めたことが大きく影響していますが、そのことに加えて、日本銀行による政策姿勢の明確化がポジティブ・サプライズとして捉えられたことも、相応に影響していると考えています。

こうした2月の決定を受け、「日本銀行の政策目標、政策運営ロジック、政策スタンスは変わったのか?」と問われる機会が増えています。以下では、幾つかの切り口から、我々の政策運営に関して変わった点と変わっていない点を、私なりに整理してみたいと思います。

金融政策運営において目指すものは変わったのか?

まず、2月に導入した「中長期的な物価安定の目途」については、日本銀行は、いわゆるインフレーション・ターゲティングの枠組みを遂に導入した、と解説する向きも数多くみられます。この点に関連して、日本銀行が金融政策運営において目指すものは変わったのか、という切り口から整理を試みることとします。

中央銀行として目指すべき「物価の安定」についての日本銀行の基本的な考え方は、以下の三点です。第一に、家計や企業等が物価水準の変動に煩わされることなく、経済活動にかかる意思決定を行うことができる状況が「物価が安定している状態」である。第二に、「物価の安定」は足許の短期の動きで判断されるものではなく、中長期的にみて実現されるよう努めるべきものである。そして第三に、国民の実感に即し、家計が消費する財やサービスを対象とした指標を用いて、具体的な数値で「物価の安定」は表現されるべきである。こうした基本的考え方は、「中長期的な物価安定の目途」の導入以前から対外的にも明らかにしていたものであり、「目途」の導入によって変わった訳ではありません。

こうした「物価の安定」についての基本的な考え方に基づき、具体的に日本銀行の目指す方向性を示す上で、「目途」の導入以前にお示ししていた「中長期的な物価安定の理解」に替えて今回「目途」を導入した意義は大きいと考えています。各政策委員がそれぞれ金融政策を考える際には、拠り所とする日本銀行が目指すべき「物価の安定」についてのそれぞれの考え方があります。従来の「理解」では、各政策委員が中長期的にみて物価が安定していると理解する物価上昇率を数値で示し、それらを束ねたものを範囲として示していました。物価上昇率が、その範囲から外れていれば、どの政策委員からみても「物価の安定」が実現していないということが明らかになる、というので紛れはないのですが、これでは日本銀行が組織として何を拠り所にしているか分かり難いとの声がありました。また、「理解」という言葉の語感について、日本銀行が「物価の安定」の実現を目指して能動的に行動している感じが伝わり難いといった問題もありました。そうした点を踏まえて、今回、日本銀行が目指すべき「物価の安定」とは何かを組織として決定することにした訳です。名称についても、日本銀行の政策姿勢を明確に伝えるものとして「目途」、英語では「Goal」を選びました。

また、「目途」への移行に合わせて、当面の「目途」とより長い目でみた「目途」とを切り分けたことは、重要なポイントであると考えています。このもとで、経済構造の変化など先行きの不確実性が大きい中でも、日本銀行が現時点で目指している物価上昇率を、当面の「目途」としてピンポイントで示しました。他方で、より長い目でみた場合に、成長力強化への取り組みの成果が挙がり、持続的な実質成長率が十分高まっていくなら、持続可能な物価上昇率、ひいては名目成長率も次第に高まっていくと考えられます。そうした長い目でみた可能性を念頭に置き、「中長期的な物価安定の目途」は「2%以下」と幅を持たせ、原則としてほぼ1年ごとにこれを点検していくこととしています。

以上のような「中長期的な物価安定の目途」の背後にある考え方が正しく共有されていれば、もはや名称を巡る議論は本質的ではなく、また、これを弾力的なインフレ目標と呼んでも、私には違和感はありません。

2つの「柱」に基づいた政策変更だったのか?

次に、2月の金融緩和強化を事前に予想することが難しかったという点についてです。日本銀行では、2006年3月から、金融政策の運営方針を決定するに際し、2つの「柱」により経済物価情勢を点検してきています。これは、(1)先行きの経済・物価に関するメイン・シナリオが、物価安定のもとでの持続的な成長の経路をたどっているか、新たな枠組みに基づいて言い換えれば、「目途」の達成に向かっているか、という第1の「柱」と、(2)そうしたメイン・シナリオに対して、どのようなリスク要因があるか、という第2の「柱」の両面からの点検を踏まえて政策運営を行うという枠組みです。2月の政策変更について、この2つの「柱」に基づく政策運営の枠組みから逸脱しているため予想が難しかった、という解説も見受けられますので、この点をご説明したいと思います。

2月の決定会合の時点を振り返りますと、国際金融資本市場の緊張の和らぎ、米国経済に関する改善の動き、復興関連需要等による内需の底堅さなど、国内外で前向きの動きがみられていたものの、経済活動の水準から見れば海外経済の減速や円高等もあって日本経済はリーマン・ショックの後の大きな落ち込みからなかなか回復できない厳しい局面が続いていました。同時に、1月会合の議事要旨で明らかにされているように、長引くデフレを巡る議論を進める中で、日本銀行の金融政策運営に関する情報発信が不十分で、その意図が十分に企業・消費者・市場に伝わっていないのではないか、そのために強力な金融緩和の効果が大きく減殺されているのではないか、という認識が政策委員会内で次第に広がっていました。更に1月25日に米国FRBが物価上昇率2%を「longer-run goal(長期的な目標)」としたことで、市場、メディア等の間で中央銀行の物価の安定を目指す姿勢について、改めて関心が高まっていました。

つまり「目途」の達成という観点からみて、先行きの経済・物価に関するメイン・シナリオの実現に必要な緩和効果が減殺されているリスクを考えざるを得ない状況になったのです。そうした状況も踏まえ、「目途」の達成に向けて、経済・物価に関するメイン・シナリオの実現をより確かなものとする観点から、日本銀行の政策意図を一層はっきりと伝える必要性が意識され、また、そのような対応を取らない場合に「目途」の達成の遅れにもつながりかねないことが懸念され、それが2月会合の政策決定につながりました。そして意図を明確にするために、資産買入等の基金の思い切った増額も行いました。これは、この時期見られた前向きの動きを金融面から強力に後押しする形になると考えられ、目に見える金融緩和の効果が期待できると考えたわけです。

従って、「理解」から「目途」に替わったことで、2つの「柱」による政策運営まで変更された訳ではありません。今まで日本銀行の政策意図に関する情報発信が不十分であったため、日本銀行の政策意図が十分に伝わっていなかったことが、結果的にサプライズに繋がった一因であるように思われます。「目途」の導入は、まさにこの情報発信の問題を是正しようとすることが目的であった訳です。この点、十分な情報発信を目指して、今後とも工夫を続けていきたいと考えています。

当面の政策運営において、追加緩和の可能性は高まったのか?

次に、結局のところ、日本銀行の緩和姿勢は強まったのか、今後の追加緩和の可能性は高まったのか、という難しい問いに対して、なるべく分かりやすくお答えしたいと思います。

既に述べましたように、「目途」と2つの「柱」に基づく我々の政策運営に変化はありません。繰り返しをお許し頂いてもう一度申し上げれば、現在の金融政策の運営方針は、「消費者物価の前年比上昇率1%を目指して、それが見通せるようになるまで、実質的なゼロ金利政策と金融資産の買入れ等の措置により、強力に金融緩和を推進していく」というものです。この表現は、2月の金融政策決定会合の議事要旨にも記述されているとおり、「日本銀行として、今後も必要に応じて追加的な手段を講じていく姿勢にあること」を表しています。こうした我々自身のデフレ脱却に向けた断固たる姿勢の明確化が、これまでよりもしっかりと金融市場に浸透してきており、それが一部では日本銀行は変わったとの印象を持たれているのではないかと考えています。

実際の政策判断は、あくまでも「目途」に照らして経済物価見通しやリスク要因を点検した結果に依存し、政策効果についての判断も重要です。金融政策の効果がいつ出るかには不確実性が大きく、しばしば(時には長い)可変なラグがあると言われますが、この性質は最近のような非伝統的な金融政策でも変わりません。

この点、先ほども申し上げたとおり日本経済の現状は、前向きの動きがみえてきたとは言え、世界経済を中心に不確実性は依然として大きいと考えています。また、2月と3月の政策変更が、経済・物価に関する人々の中長期的な期待にどのような影響が及ぶのかについても、無視できない不確実性があります。今後、こうしたリスク要因を十分に考慮に入れながら、しっかりと先行きの経済物価動向を点検し、適切な政策運営に努めて参りたいと思います。

6.おわりに

最後に、岡山県経済を巡る話題に、手短に触れさせて頂きます。

先ほど、デフレからの脱却のためには、成長力強化に向けた取り組みが欠かせないこと、また、そうした取り組みは、民間企業、金融機関、政府、日本銀行がそれぞれの役割に即して進めていかなければならない、ということを申し上げました。そうした観点から、岡山県における取り組みを拝見しますと、例えば、航空機関連や医療・介護関連といった成長が期待される分野において、官民連携のもとで、基幹産業として育てていくプロジェクトが積極的に進められています。また、従来から当地の主力産業であります化学や鉄鋼の分野では、これまでに培った技術力を活かして、新たに環境・エネルギー関連向けの製品開発や事業化に取り組んでおられます。この間、金融機関でも、日本銀行の成長支援資金供給の枠組みもご活用頂きながら、企業の成長力強化に向けた取り組みを金融面からしっかりと下支えする体制整備に努められています。加えて、当地では学界からも、大学や大学病院に集積されている技術力を活かした街づくりに向けて、独自性のある提言がなされていると伺っています。このように、各方面で既に成長力強化に向けた具体的な取り組みが行われているというお話しを伺いますと、私も非常に元気づけられます。今後、こうした各種の取り組みがさらに有機的に結び付き、当地経済、ひいては日本経済の力強い成長へと繋がることを心より祈念いたしております。

本日は、ご清聴ありがとうございました。