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【挨拶】デフレ脱却への道と金融緩和の思い切った前進

長崎県金融経済懇談会における挨拶

日本銀行副総裁 山口 廣秀
2013年1月31日

目次

1.はじめに

日本銀行の山口でございます。本日は当地の行政および金融・経済界を代表する皆様との懇談の機会を賜りまして、誠にありがとうございます。また、皆様には、日頃より日本銀行長崎支店の様々な業務運営にご協力をいただいております。この場をお借りして、改めて厚くお礼申し上げます。

日本銀行は、先週開催した金融政策決定会合において、デフレからの早期脱却と物価安定のもとでの持続的な経済成長の実現に向け、金融緩和を思い切って前進させることとし、3つのことを決定しました。1つめは、2%の「物価安定の目標」を導入することとしました。2つめは、資産買入等の基金について「期限を定めない資産買入れ方式」を導入することを決めました。3つめは、政府とともに、「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のための政府・日本銀行の政策連携について」という共同声明を公表しました。

本日は、皆様との懇談に先立ちまして、私から、内外経済の現状と先行きの見通しについて述べたうえで、今回の日本銀行の政策決定の内容とその考え方などについて、ご説明したいと考えています。

2.海外経済の動向:先行き明るさを増していく海外景気

はじめに、わが国経済の見方について結論を簡単にお話しておきます。わが国経済は、現在弱めに推移しています。当面こうした状態が続くとみていますが、その後は、国内需要が底堅く推移し、海外経済が減速した状態から脱し、明るさを増していくにつれて、年央頃にかけて緩やかな回復経路に復していくと予想しています。以下、その背景をご説明します。

まず、海外経済の動きからみていくこととします。昨年の動きを振り返りますと、夏場にかけて欧州の債務問題が深刻化しました。その悪影響は、貿易取引の減少や企業マインドの悪化を通じて世界的に拡がり、夏場以降、多くの国で景気減速の度合いが強まりました。海外経済は、現在もなお減速した状態にありますが、このところ、米国や中国を中心に明るい動きもみられ始めています。

欧州経済の動向

地域別にみますと、欧州経済は、債務問題を背景に、財政の緊縮と金融の引き締まりが続き、緩やかに後退しています。企業や家計のマインドの悪化は、債務問題を抱える南欧諸国だけでなく、ドイツ、フランスなどの欧州コア国へと拡がっています。その結果、企業の設備投資は減少し、個人消費も自動車などの耐久財を中心に弱さが目立っています。

この間、債務問題を巡る政策当局の対応は、夏場以降進展しました。大きく言えば4つの動きがあったと言えます。まず、欧州中央銀行は、一定の条件のもとで、無制限にユーロエリア内の国債を買入れるスキームを作りました。2つめは、ギリシャ支援の枠組みが一応維持され、スペインの銀行部門への支援も実行されました。3つめは、欧州域内の恒久的な支援基金である欧州安定メカニズムが稼働を開始したことです。4つめは、欧州域内における統一的な銀行監督メカニズムの構築について合意したことです。これらの政策対応の結果、欧州発のパニックが国際金融資本市場の動揺などを通じて、世界に波及するリスクはかなり低下したとみられます。

欧州景気の先行きについては、緊縮的な財政運営が続くこともあって、当面は、緩やかな後退が続くと考えていますが、いずれは輸出の持ち直しを起点として、ドイツなどコア国を中心に後退局面を脱していくとみています。

米国経済の動向

米国経済は、緩やかな回復を続けています。昨年末にかけては、減税措置の終了や歳出削減が集中する、いわゆる「財政の崖」を巡っての不透明感から、企業マインドは慎重化し、設備投資は弱めとなりました。ただ、そうした中にあっても、雇用・所得環境の改善や低金利環境に支えられて、住宅投資の持ち直しの動きが継続していますし、個人消費も自動車販売などを中心に回復を続けています。

今後については、「財政の崖」がぎりぎりのところで一応回避されたことで、企業マインドは改善し、設備投資も回復が見込まれます。また、個人消費や住宅投資も、緩和的な金融環境にも支えられて、持ち直しを続けていく可能性が高いとみています。こうした結果、米国経済は先行きも緩やかな回復経路を辿り、世界経済の牽引役となっていくことが期待されるところです。

中国経済の動向

中国経済についても、明るい兆しが増えてきています。素材産業を中心とする在庫調整圧力は根強く、生産はなおはっきりと増勢を回復するには至っていませんが、一方で、個人消費は良好な雇用・所得環境のもとで、堅調に推移しています。輸出は振れを伴いながらも回復の兆しがみられます。インフラ投資は政策当局の梃入れもあって、このところ増加しており、固定資産投資全体としても増勢の鈍化に歯止めがかかっています。企業マインドも、製造業を中心に改善がみられています。長い目でみますと、中国経済は、高度成長から安定成長への移行期にあり、円滑な移行が行われるかどうか、懸念がない訳ではありません。ただ、ここ暫くということで言えば、財政・金融両面からの政策効果に加え、堅調な内需に支えられた在庫調整の進捗、輸出の持ち直しも予想されるため、徐々に回復傾向がはっきりしてくるものとみています。

NIEs、ASEAN経済の動向

NIEs、ASEAN経済は、現状、欧州向けなどの輸出が停滞していることもあって、持ち直しの動きが緩やかとなっています。しかしながら、先行きについては、米国や中国にリードされるかたちで世界経済が明るさを増していけば、輸出が次第に持ち直し、回復テンポを速めていく可能性が高いとみられます。

国際金融資本市場の動向

この間、国際金融資本市場は、一頃に比べ大分落ち着きを取り戻してきました。グローバルな投資家はリスクを取ることに少しずつ前向きになってきています。これは、(1)米国において、緩やかな景気回復が続く中で、「財政の崖」がとりあえず回避されたこと、(2)欧州でも、債務問題を巡っての政策対応に進展がみられていること、また、(3)中国経済に明るさがみられつつあること、などが背景です。こうしたもとで、米欧の株価は、昨年夏場を大底として、上昇しています。投資家のリスクテイクが前向きに変化するもとで、南欧諸国の国債利回りは、かなり低下しています。為替市場では、ユーロが買い戻され、円相場は、円安方向の動きとなっています。

海外経済の先行き

以上をまとめますと、先行きの海外経済は、米国と中国を牽引役としながら次第に減速した状態から脱し、緩やかな回復に転じていくとみられます。もちろん、欧州債務問題の帰趨については、なお目が離せません。米国経済も、財政問題を乗り越えながらその回復を継続できるかどうか予断を許しません。中国経済にしても、様々な問題を抱えているだけに、回復経路に円滑に移行していくことができるかどうか、懸念がない訳ではありません。こういった不確実性の存在には引き続き十分な注意が必要だと思っています。

3.日本経済の現状と先行き見通し:緩やかな回復への道

日本経済の現状

それでは次に、日本経済の動向に話を進めたいと思います。現在日本経済は、弱めに推移しています。昨年前半には、復興関連需要の高まりもあって、年率3%程度の高めの成長を実現しましたが、昨年後半に入りますと、海外経済の減速から、輸出や鉱工業生産が大きく減少しました。わが国では、輸出や鉱工業生産に占める資本財や部品のウエイトが高いだけに、世界的に製造業の活動が弱まり、こうした財への需要が落ち込むと、その影響がより大きく出がちです。また、日中関係の影響により、自動車関連を中心に中国向けの輸出が大幅に減少したことも、輸出などの落ち込みを大きなものとしました。日中関係の影響としては、このほか、来日観光客数の大幅な減少といった動きもみられました。当地でも影響がみられたと伺っております。こうしたもとで、企業収益については見通しを下方修正する動きが拡がり、企業の業況感も慎重化しました。設備投資は、非製造業では底堅さがみられますが、製造業を中心に投資を手控える動きが拡がり、全体として弱めになっています。雇用・所得環境面でも、製造業を中心に、新規求人が大きめの減少となり、所定外労働時間、すなわち残業も減少しています。このように、海外経済の減速の影響は、輸出や生産だけでなく、内需や雇用面などにも波及してきています。

一方、個人消費は、エコカー補助金終了に伴う反動減の影響が依然みられていますが、全体としては、サービス消費などを中心に底堅さを維持しています。このように個人消費が底堅さを維持している背景の1つには、高齢者需要による下支えがあると思います。世帯主が60歳以上の世帯が個人消費に占める比率は4割を超えています。この間、公共投資は震災関連を中心に増加を続けており、住宅投資も被災住宅の再建もあって、持ち直し傾向にあります。こうした内需の底堅さは、海外経済の減速の影響すべてを打ち消すほどではありませんが、わが国経済をしっかりと下支えする要素になっています。

日本経済の先行き

先行きのわが国経済については、冒頭述べましたように、当面弱めの推移を続けたあと、国内需要が底堅く推移し、海外経済が次第に明るさを増していくにつれ、年央頃にかけて緩やかな回復経路に復していくと予想しています。弱めの動きが続いたあとの回復であり、しかもそのペースもゆっくりしたものであるため、企業の皆様にとってはなかなか景気回復を実感できないかもしれません。しかし、「あとで振り返ってみれば、本年前半が転換点だった」となっている可能性は十分あるとみています。先ほど申し上げたとおり、海外経済に明るい兆しがみられており、とりわけ米国経済が回復基調を辿っていることは心強い材料です。加えて、最近の円相場の動きも、次第に輸出の下支えに作用していくと思います。内需面においては、公共投資が引き続き増加傾向を辿り、住宅投資も持ち直し傾向を続けるとみられます。設備投資は、防災・エネルギー関連の投資もあって、遠からず緩やかな増加基調に復すると見込まれます。個人消費は、エコカー補助金終了後の反動減の影響も和らいできており、基調的には底堅く推移していくものと考えています。

物価情勢

一方、物価面ですが、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、概ねゼロ%となっています。当面については、前年のエネルギー関連や耐久消費財の動きの反動から一旦マイナス圏まで低下したあと、再びゼロ%近傍で推移し、その後は景気の回復につれて次第に上昇率を高めていくと予想しています。

こうした景気・物価の動きを踏まえて、先週の金融政策決定会合では、先行き2年間の経済・物価見通しの点検を行いました。政策委員の見通しの中央値をみますと、実質GDPの成長率については、2012年度+1.0%のあと、2013年度は、消費税引き上げ前の駆け込みもあり、+2.3%と高めの成長となる見通しです。2014年度は、その反動が出ますが、潜在成長率を上回る+0.8%の成長となると見込んでいます。消費者物価(除く生鮮食品)の上昇率については、2012年度は−0.2%となったあと、2013年度は+0.4%、2014年度は消費税の引き上げの影響を除いたベースでみて+0.9%と、徐々に上昇率が高まっていくと予想しています。私どもが、今回「物価安定の目標」として2%を掲げたのは、2014年度には、当面の目途としてきた1%達成がこのように視野に入ってくる中で、日本銀行として次の目標を明らかにしていく必要があると判断したからです。この辺りの考え方は、後ほど改めてお話させて頂きます。

4.今回の政策決定の内容とその考え方:金融緩和の思い切った前進

それでは、日本銀行の金融政策運営についてご説明したいと思います。

冒頭申し上げた通り、日本銀行は、先週の金融政策決定会合において、デフレからの早期脱却と物価安定のもとでの持続的な経済成長の実現に向け、金融緩和を思い切って前進させることとしました。具体的には、第1に、「物価安定の目標」を消費者物価の前年比上昇率で2%とし、第2に、これをできるだけ早期に実現することを目指して、資産買入等の基金について「期限を定めない資産買入れ方式」を導入することを決定しました。第3に、政府との政策連携を強化し、一体となって取り組む姿勢を明らかにしました。

「物価安定の目標」の導入

最初に「物価安定の目標」として、消費者物価の前年比上昇率で2%としたことについて、お話したいと思います。

日本経済は長い期間にわたってデフレの状態を続けてきました。その背景には、景気循環的な要因だけでなく、構造的な要因が働いています。急速な高齢化やグローバル化など、日本経済を取り巻く環境が大きく変化する中にあって、その変化への適応が遅れ、このため、趨勢的に成長率が低下し、企業や家計の中長期的な成長期待も低下してきました。成長期待が低い中で、企業はコスト削減や価格競争によって生き残りを図ってきました。その際、主として賃金や労働時間による調整が行われ、日本経済に継続的な物価下落圧力をもたらすことになりました。逆に言えば、こうした構造を転換していくことができれば、デフレから脱却することも可能になるということです。要は、日本経済の柔軟性や適応力を回復させ、その潜在力を引き出し、そのことによって、企業や家計の成長期待を高めることが必要だということです。

私は、今がデフレからの脱却に向けての「好機」だと思っています。日本経済に大きな影響を与える、米国経済や中国経済が回復経路に復する見通しが出てきました。こうした中で、昨年来低迷を続けてきたわが国経済も先ほど述べたように、本年半ばにかけて緩やかな回復経路に復帰していく可能性が高まってきています。また、私どもの経済・物価見通しでも、2014年度には消費者物価(除く生鮮食品)の前年比上昇率が1%に達する可能性が拓けつつあります。このような変化のもとで、実際に物価上昇率が高まっていけば、人々の予想物価上昇率も上昇していくと考えられます。この「好機」を逃すべきではないと思います。

以上のように考えまして、これまで「当面1%を目指す」としてきた私どもの方針を一段と推し進め、「物価安定の目標」として2%とすることとしました。日本銀行は、そのもとで金融緩和を強力に推進し、これをできるだけ早期に実現することを目指します。

こうした日本銀行の金融政策運営方針について、いわゆる「インフレ・ターゲット」を採用したということか、といったご質問を頂くこともあります。この点、実際に「インフレ・ターゲット」を採用している英国などの金融政策運営をみると、物価だけでなく、実体経済や資産価格などにも目配りした柔軟な金融政策運営が行われています。今般の日本銀行の「物価安定の目標」も、現在、多くの中央銀行が導入しているものと同様であり、一般的には「柔軟なインフレーション・ターゲティング」と呼ばれています。日本銀行は、こうした金融政策の枠組みのもとで、今後とも経済・物価の情勢をしっかり点検しながら、従来にも増して、果断な政策対応を講じていく考えです。

「期限を定めない資産買入れ方式」の導入

次に、具体的にどのように強力な金融緩和を行っていくか、ということです。特に今回新たに導入した「期限を定めない資産買入れ方式」についてご説明します。

日本銀行は、「物価安定の目標」の実現を目指し、実質的なゼロ金利政策と金融資産の買入れ等の措置を、それぞれ必要と判断される時点まで継続することを通じて、強力に金融緩和を推進します。金融資産買入れ等の措置というのは、「資産買入等の基金」を通じて、国債や社債、CP、ETF(指数連動型上場投資信託受益権)、REIT(不動産投資信託)など幅広い金融資産を市場から買入れるプログラムです。買入れによって長めの金利の低下やリスク・プレミアムの縮小を促し、企業や家計が低いコストで資金調達を行いやすくなるようにすることを狙いとしています。

実際に金融資産の買入れを行っていくに当たって、日本銀行は、これまで、「2013年末までに101兆円程度」といったように、将来の特定時点における買入残高を目途として示してきました。今回、期限を定めず毎月一定額の金融資産の買入額を決めて買入れを行うことにしたのは、その方が、新たに導入した「物価安定の目標」の実現を目指して資産買入れを継続的に行っていく、という政策の構えを明確に示すことができると判断したためです。具体的には、本年末に現行方式での買入れが完了した後、来年初から当分の間、毎月、長期国債2兆円程度を含む13兆円程度の金融資産の買入れを行うこととしました。これにより、基金の残高は2014年中に10兆円程度増加し、111兆円程度となり、それ以降残高は少なくとも維持されることになります。

こうした新しい資産買入れ方式について、「せっかく導入するなら来年初からではなく、なぜ今すぐ始めないのか」といったご質問を頂くことがあります。この点端的な答えとしては、今年は既に50兆円を上回る規模の大量の資金供給を行うこととしているからです。少し詳しくご説明しますと、「資産買入等の基金」の残高は、現在約65兆円ですが、既に決定している買入れを行うことによって、本年末までに40兆円弱増加します。また、日本銀行は、昨年の10月に、金融機関が貸出を増やせば、その純増額全額をバックファイナンスする枠組みとして、「貸出増加を支援するための資金供給」を導入しました。この制度の趣旨については、後ほど改めてお話させて頂きますが、資金供給額は、最近の貸出実績を前提にしますと、概ね1年間で15兆円を上回る規模となることが見込まれます。これらを合わせますと、日本銀行は、この1年余りの間に50兆円超という巨額の資金供給を新たに行うこととなります。来年初からは、これに加えて、さらに毎月13兆円程度の金融資産の買入れを行うことにしたということです。このように日本銀行は切れ目なく強力に金融緩和を推し進めていくこととしており、こうした大規模な資金供給を来年以降も継続していくことを今の段階から約束することで、緩和的な金融環境を一段と緩和的なものにしていきたいと判断した訳です。

「金融緩和の思い切った前進」としては、10兆円程度の基金の増額では不十分ではないか、というご指摘もあります。この点は、今ほど述べたように今年から来年以降も切れ目なく金融緩和を続けていくという日本銀行の強い姿勢との関係で評価して頂きたいと思っています。「物価安定の目標」の早期実現に向けて、来年初以降も、期限を定めることなく資産買入れを行い、2014年中には残高として10兆円程度の増加を見込み、その後も少なくともその高水準の残高は維持していくという日本銀行の約束は、相当に踏み込んだ政策姿勢であると考えています。もちろん、先行きの基金の運営については、経済・物価情勢を点検しながら、必要に応じてさらなる緩和を図っていくこともあり得ると考えています。

政府と日本銀行の政策連携の強化

今回、政府と日本銀行は、「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のための政府・日本銀行の政策連携について」という共同声明を決定し、公表しました。その中で日本銀行は、「物価安定の目標」を2%とし、そのもとで、金融緩和を推進し、これをできるだけ早期に実現することを目指すとしています。政府は、日本経済の競争力と成長力強化に向けた取り組みを具体化し、これを強力に推進するとともに、持続可能な財政構造を確立するための取り組みを着実に推進すると表明しています。

先ほどもご説明したように、日本経済が遠からず緩やかな回復経路に復するとともに、2014年度中には消費者物価(除く生鮮食品)の前年比上昇率が1%に達する可能性がみえてきただけに、こうした「好機」を捉えて、政府と日本銀行が連携して、デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のために気合を揃えて取り組んでいくことの意義はきわめて大きいと考えました。

先ほどご説明した通り、日本銀行は、「物価安定の目標」の実現を目指して、強力に金融緩和を推進していきます。その際には、財政運営に対する市場の信認をしっかり確保していくことが重要です。日本銀行は、現在も多額の国債を保有していますが、今後も大規模な国債買入れを進めていくことになります。わが国の財政状況は、諸外国と比較しても厳しい状況にありますが、国債利回りは歴史的な低水準で推移しています。こうした状況は、財政運営に対する市場の信認が確保されていることを示しているものと受け止めています。ただ、欧州の経験などを踏まえると、市場の見方は時として急速に変化することもあるとみておく必要があります。財政運営に対する信認がひとたび揺らげば、金利の上昇によって金融政策の効果が失われることにもなりかねません。また、国債を保有する金融機関の経営、ひいては金融システムへの悪影響を通じて、金融や経済の安定を損なう惧れもあります。今回の共同声明において、政府は、財政運営に関して、「日本銀行との連携強化にあたり、財政運営に対する信認を確保する観点から、持続可能な財政構造を確立するための取組を着実に推進する」と明確に述べています。このことは、日本銀行が、強力な金融緩和を進めていくうえで、重要なポイントであると考えています。

5.緩和的な金融環境の活用に向けた取り組み

金融政策に関するご説明の最後として、金融緩和と企業の関係についてお話したいと思います。日本銀行の金融緩和により、現在、銀行の貸出金利は、短期、長期ともに1%程度と歴史的にみても、もっとも低い水準まで低下しています。金融機関も積極的な貸出姿勢を維持しており、企業や家計にとっては、金融機関からお金を非常に借りやすい状況になっています。

この緩和的な金融環境を企業や家計にもっと活用して頂ければ、日本銀行の金融政策の効果はさらに大きくなり、デフレ脱却と物価安定のもとでの持続的な成長は、より早く、そしてより確実に実現することになります。

緩和的な金融環境を企業や家計に十分に活用して頂くというのはどのような状況を指しているでしょうか。おそらく、企業にとっては、資金を借り入れ、これを投資することなどによって、収益が得られる見通しが立つこと、そして家計であれば、将来の所得環境などに不安を感じることなく、住宅資金の借り入れなどを行えるといった状況を創り出していくということではないでしょうか。

何度も申し上げて恐縮ですが、現在、内外の景気展開や政府の施策、さらにはそれらを受けた為替や株式市場の動向など、前向きの動きが生まれており、そうした機運が高まる「好機」です。金融環境はきわめて緩和的であり、この先も日本銀行は強力に金融緩和を推進します。ぜひ企業が積極的な行動を起こされることを期待しております。

また、企業と直接の接点を有する金融機関には、企業の前向きの行動を促し、資金需要を掘り起こす努力を——これまでも積極的に取り組んでこられていることは十分承知しておりますが——さらなるご努力をお願いしたいと思います。そして日本銀行自身も、この面で、中央銀行としてできる限りの支援をしていきたいと思っています。現在、企業や金融機関が成長力強化に向けた取り組みを進めるきっかけとなることを期待して、「成長基盤強化を支援するための資金供給」という枠組みを設けています。これは、医療・介護、環境・エネルギー、農林水産、観光など幅広い分野にわたって、わが国経済の成長に資する投融資を行う金融機関に対し、日本銀行が低利かつ長期の資金を供給する枠組みです。現在5.5兆円の枠を用意し、既に4兆円近くを利用して頂いています。また、先ほども少し触れましたが、昨年10月には、金融機関の一段の積極的な行動と企業や家計の前向きな資金需要の増加を促していくことなどを狙いとして、「貸出増加を支援するための資金供給」という新たな枠組みも導入しました。この枠組みでは、2014年3月末までの15か月間、金融機関が貸出を増やせば、そのネット増加分の全額について、日本銀行が青天井で低利かつ長期の資金供給を行うこととしています。日本銀行としては、緩和的な金融環境を十分に活かすうえで、日本銀行としてさらにできることはないかといった視点から、これからも知恵を絞って参りたいと考えています。

6.おわりに

そろそろ時間がなくなってきましたので、長崎県経済について触れつつ、本日の話を締め括りたいと思います。

長崎県は、古来より世界に開かれた地域として、わが国の文化の形成や近代化に大きな役割を果たすとともに、特色のある地域文化を育みながら発展を遂げてこられました。また、美しい海岸線などの自然や温泉、新鮮な農水産物など豊かな観光資源に恵まれ、毎年多くの観光客を内外から迎えておられます。こうした長崎の魅力をさらに高める動きとして、昨年8月には、九州新幹線の長崎ルートのうち、長崎−諫早間が9年後の2022年の完成を目指し、着工されました。10月には、「夜景サミット2012 in 長崎」において、長崎市がモナコ、香港とともに世界新三大夜景に選ばれたといった明るい話題も伺っています。

一方、長崎県は、離島地域を中心に人口減少が続いており、とりわけ、若年層の県外への流出が続くという大きな課題にも直面しておられます。言うまでもなく、この問題は、わが国全体が抱えている問題の縮図と言えます。これに対して、長崎県では、離島地域の多様性や海外との友好交流関係といった地の利を活かすとともに、韓国や中国などのアジアの活力を取り込むための取り組みなどを積極的に展開しておられます。こうしたプロジェクトを進められるうえで、産・学・官の連携の場である、「長崎サミット」も重要な役割を果たされていると伺っています。

金融面に目を転じると、当地の金融機関では、行政や大学と連携することなどを通じて、地元企業の新規事業の立ち上げや育成、そして困難に立ち至った企業の事業再生なども支援しています。日本銀行の「成長基盤強化を支援するための資金供給」にも、複数の金融機関が参加されています。今後は、「貸出増加を支援するための資金供給」も始まりますので、是非、こうした制度を有効に活用して頂ければと思います。

このように長崎県においては、外需の取り込みと内需の掘り起こしに向けた努力の成果が着実に蓄積されてきており、このことは、長崎県の将来の発展の礎となるだけでなく、わが国全体、さらには、今後遠からず同様の課題に直面することになるアジアの国々にとっても貴重な財産になると思います。

日本銀行としても、皆様の様々な挑戦に期待し、今後とも、中央銀行としてできる限りの応援をして参りたいと思います。

本日は、ご清聴ありがとうございました。