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【挨拶】わが国の経済・物価情勢と金融政策

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岡山県金融経済懇談会における挨拶要旨

日本銀行政策委員会審議委員 宮尾 龍蔵
2014年4月10日

目次

  1. 1.はじめに
  2. 2.わが国の経済・物価情勢
    1. (1)緩やかな回復を続けるわが国経済
    2. (2)景気回復の持続性
      1. (イ)消費・非製造業主導による景気回復の現状
      2. (ロ)需要を喚起する新しい取組みの進展
      3. (ハ)変容する労働・雇用環境
      4. (ニ)消費主導の景気回復の持続性
    3. (3)高まる物価上昇圧力
  3. 3.金融政策
    1. (1)金融政策運営の枠組み
    2. (2)「量的・質的金融緩和」の特徴等
    3. (3)波及効果を強める施策:「貸出支援基金」の拡充
  4. 4.終わりに 〜岡山県経済について〜 

1.はじめに

日本銀行の宮尾でございます。本日はお忙しい中、岡山県を代表する皆様にお集まり頂き、懇談の機会を賜りまして、誠にありがとうございます。また、皆様には、日頃から本行岡山支店の業務運営にご協力頂いておりまして、この場をお借りして、改めて厚くお礼申し上げます。

本日は、「わが国の経済・物価情勢と金融政策」と題しまして、緩やかな景気回復を続ける日本の経済・物価情勢を概観した後、金融政策についてご説明し、最後に岡山県経済について若干触れさせて頂きたいと思います。その後、皆様方から、当地経済の実情に関するお話や、忌憚のないご意見などお聞かせ頂ければと存じます。

2.わが国の経済・物価情勢

(1)緩やかな回復を続けるわが国経済

わが国経済は、昨年半ばに緩やかな回復経路に復した後、国内需要が堅調に推移するなかで、緩やかな回復を続けています(図表1、2)。

足もとの動きをやや敷衍すると、まず海外経済については、新興国の一部になお緩慢さが残っておりますが、先進国を中心に回復しつつあります。地域毎にみますと、米国経済は、寒波の影響がなお残っていますが、緩やかな回復を続けています。財政面の下押し圧力も和らぎ、回復基調には裾野の拡がりがみられています。欧州経済は、内需の改善が続き、輸出にも持ち直しに向けた動きがみられるなど、持ち直しが明確になっています。中国経済は、堅調な内需を背景に、安定した成長が続いています。中国政府が今年の成長率目標を昨年と同じ7.5%前後とするなど、当局が構造調整を進めつつも同時に景気への配慮を続けていく姿勢も確認されました。NIEs・ASEAN経済については、NIEsが持ち直している一方で、ASEANの一部の国では成長モメンタムが鈍化した状態が続いています。

こうしたなか、わが国経済は、内需中心に前向きの循環メカニズムが働くなかで、緩やかな回復を続けています。外需については、米国の寒波や一部新興国の弱めの動きなどから、輸出は横ばい圏内の動きとなっています。内需については、公共投資は増加を続けており、設備投資も、企業収益が改善するなかで、持ち直しが明確になっています。雇用・所得環境については、求人倍率の上昇が続き、失業率が3%台半ばまで低下するなど、労働需給が着実な改善を続けており、雇用者所得も緩やかに持ち直しています。個人消費や住宅投資は、消費税率引き上げの影響による振れを伴いつつも、雇用・所得環境が改善するなかで、引き続き底堅く推移しています。鉱工業生産については、こうした内外需を反映して、緩やかな増加基調をたどっています。この間、企業マインドは先日公表した短観にも示されているように、改善を続けています。

先行きについては、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要とその反動の影響を受けつつも、基調的には緩やかな回復を続けていくとみています(図表3)。海外経済については、先進国経済の成長テンポが徐々に増していくと見込まれるなかで、NIEs・ASEAN経済も安定に向かい、全体として回復ペースが徐々に強まると予想しています。そうしたもとで、輸出は緩やかに持ち直していくとみています。また、国内需要については、公共投資が高水準で推移するとみているほか、設備投資も、企業収益が改善傾向を続けるなかで、緩やかな増加基調を辿ると予想しています。個人消費や住宅投資は、振れを伴いつつも、基調的には底堅く推移するとみています。こうしたもとで、鉱工業生産は緩やかな増加基調を辿ると考えています。なお、景気回復の持続性の観点からは、特に個人消費・非製造業の動向が重要とみております。この点は後ほどやや詳しくご説明致します。

この間、リスク要因としては、新興国・資源国経済の動向、欧州債務問題の今後の展開、米国経済の回復ペースなどが挙げられます。昨年と比べると、例えば米国経済については、財政を巡る不確実性が大きく後退し、金融政策についても、資産買入れの減額がスタートしました。リスクは概ねバランスしているとみています。

(2)景気回復の持続性

現在の景気回復の大きな特徴は、従来の「輸出主導」ではなく、「消費・非製造業主導」という点です。消費の回復は、株高による好調な高額消費だけが要因ではありません。その底流では、身近な消費・非製造業関連の分野で、潜在的な需要を喚起する取組みが幅広く進展してきています。企業の収益力も高まってきており、それが雇用・所得環境の改善基調を支えているとみられます。

(イ)消費・非製造業主導による景気回復の現状

まず「消費・非製造業主導」による景気回復の現状を確認してみましょう。民間消費支出、輸出、設備投資、公共投資のデータをみると(図表4)、従来の「輸出主導」の景気回復パターンは、2002-08年の拡張局面に顕著に表れています。その後輸出は、リーマンショックや東日本大震災に伴う大きな落ち込みからは回復してきましたが、やや長い目でみれば横ばい圏内で推移しています。一方消費支出は、様々な影響を受けつつもスムーズに成長し、2012年入り後は伸びを一段と高めてきました。

消費の改善基調は、設備投資、公共投資と比べても際立っています。設備投資は、輸出と同じくこれまで景気循環を主導してきましたが、足もとでは持ち直しの動きにとどまっています。公共投資も昨年4-6月期以降ようやく明確に増加してきました。景気回復の初期段階において、輸出・国内設備投資の増加を伴わず、消費が一段と伸びを高めてきていることは、特筆に価する動きと言えます。

消費の改善の動きを、財とサービスに分けてみると、両者とも、過去数年に亘り伸びを高めてきています(図表5)。財の消費をさらに分類して、衣類や食料などの「半耐久財+非耐久財」、自動車や家具などの「耐久財」に分けてみると、前者はほぼ横ばいですが、後者の耐久財消費はリーマンショック後から顕著な伸びを続けています(図表6)。個人消費の中でも、とりわけサービス消費と耐久財消費が、ここ数年の景気回復を牽引していることが分かります。

非製造業が景気回復を主導している姿も確認できます(図表7)。リーマンショック・大震災以前は、製造業が先導する形で非製造業の活動はほぼ同じ方向に変動しました。大震災の影響がほぼ一巡した2012年以降では、製造業の活動が盛り上がりに欠ける一方、非製造業は明確に活動水準を高めてきました。

輸出や製造業の国内活動に弾みがつきにくい背景には、グローバル競争の一段の激化があります。特に製造業企業は、海外需要地での生産・調達・設備投資などを一段と加速してきており、それが輸出や国内設備投資の重荷となっている可能性があります(図表8)。もっとも、そのなかで企業は海外で稼ぐ力を着実に高めてきています。連結ベースでの企業収益の拡大は株価上昇に寄与し、海外からの純所得/所得収支の改善は、国民全体の貯蓄や純資産の重要な源泉となります(図表9)。これらはわが国の成長を支える力となるでしょう。

(ロ)需要を喚起する新しい取組みの進展

では実際、どのような活動が消費・非製造業主導の回復を支えているのかをみると、非製造業では、潜在的な需要を喚起する新しい取組みが、小売、飲食、観光、運輸、建設など、様々な分野で進展してきています。それは、コンビニやショッピングセンターの積極出店、高齢者向けマンション建設、宅配サービスやネット通販、高度な物流センターの増設など、幅広いものです。その取組みを類型化すると、(1)拡大するシニア層の生活の便や質を高め、健康寿命を伸ばすようなサービスの開発や提供、(2)外国人観光客の需要を喚起するような各種の取組み、(3)より高い、あるいは多様な顧客ニーズに応える企業向け・個人向け新サービスの提供などに分かれます。

これらの動きは、いずれも本源的な需要に裏打ちされた、より高い付加価値を生み出す取組みです。1つ1つは小粒であっても、息長く持続しうるものであり、経済全体にも幅広く広がっています。また、新技術を体化した設備投資を伴っているケースもあります。

実際、非製造業企業の収益力(売上高経常利益率)は、過去数年に亘り、基調的に高まってきています(図表10)。それに直近の製造業の収益力向上も加わって、全体でわが国の生産性向上や成長力強化の基調を支え、人々の恒常所得見通しの改善にも寄与しているとみられます。

また、この間の一段と緩和的な金融環境(低い長期金利、株高・円安など)も、これらの取組みを強力に後押しています。銀行貸出の伸びは2011年末から前年比プラスに転じ、着実に高まってきています。

(ハ)変容する労働・雇用環境

非製造業活動の活発化に伴い、労働・雇用環境においても変化が生じてきています。非製造業企業の労働需要は基調的に高まってきており、特に中小企業の雇用不足は顕著です(図表11)。パート・アルバイト賃金の上昇や非正規雇用を正規化する動きなどもみられ始めています。また春季労使交渉(春闘)の回答状況をみても、月例賃金や賞与・一時金などの上昇が見込まれるケースが少なからず報告されています。

企業では、新たな労働参加を促す対応に迫られており、女性配偶者の有業比率や女性の労働参加率も高まってきています(図表12、13)。短時間・低賃金労働が増えることは一人当たり賃金の減少要因となりますが、その実体をみると、家事・育児などの自分のニーズに合うといった主体的な理由で増えてきている側面も見逃せないところです。これまで家事・育児に専念していた人々が新たに労働参加すれば、経済の供給力を高めるとともに、世帯の所得を追加的に増やすことになります。非正規の雇用環境の改善が持続することは、正規雇用への波及や安定化にも寄与するでしょう。

(ニ)消費主導の景気回復の持続性

これまでの議論をまとめますと、まず経済の供給面では、非製造業を中心に消費需要を喚起する新しい取組みが進捗し、より高い付加価値が生み出され、設備投資も活発化しています。それらは企業の収益力・生産性向上の基調を支え、経済の成長力を高めます。

労働面、雇用・所得面では、企業の労働需要は幅広く増加する一方、女性の自主的な労働参加が促され、家計の労働供給が増加しています。労働に対する需要の増加に供給の改善が伴うことで、雇用者数は大きく増加し、賃金も緩やかに伸び、雇用者所得は基調的に改善します。

需要面では、より高い付加価値が生み出され、家計の雇用・所得見通しが改善する結果、消費支出は基調的に高まります。企業が海外で稼ぐ力を高めることも、国民全体の貯蓄や純資産を増やし、息長く消費活動をサポートします。

このように3つの側面を総合して考えると、消費・非製造業主導による自律的な景気回復メカニズムは持続するとみられます。こうしたもとで、消費税率引き上げによる成長率の一時的な振れや家計の可処分所得への影響などがあるとしても、基調としては潜在成長率を上回る成長を続けていくとみております。

(3)高まる物価上昇圧力

消費主導の景気回復が持続するなかで、物価上昇圧力も高まっています(図表14)。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は+1.3%となり、エネルギー関連だけでなく幅広い品目で改善しています。食料・エネルギーを除いてみた場合の消費者物価の前年比も+0.8%にまで回復してきました。先行きについても、消費税率引き上げの直接的な影響を除いた消費者物価上昇率(除く生鮮食品)は、しばらくの間、+1%台前半で推移するとみています。

その背景としては、財・サービスへの需要が持続的に増える状況のなかで、企業がより高めのマークアップを設定したり、コストをよりストレートに価格に反映させるなど、前向きな価格設定を実施し始めた点を指摘することができます。これは、同じ需要の増加に対して、物価がより大きく上昇する(つまり、フィリップス曲線の傾きがより急になる)ことを意味します(図表15)。とりわけサービスと耐久財に対する消費需要は持続的に増加してきており(図表5、6)、それが全体の物価上昇圧力を高める方向で作用しているとみられます。

こうした動きは、実際、様々な品目でみられ始めています。消費者物価を構成する品目を子細にみると、前年比で物価が上昇した品目数は着実に増加する一方、物価が下落した品目数は着実に減少してきています(図表16)。今後も消費主導による自律的・持続的な景気回復が続くなかで、物価上昇圧力は幅広く高まっていく可能性が高いとみています。中長期の予想物価上昇率も高まっていくとみています。

3.金融政策

(1)金融政策運営の枠組み

昨年1月、日本銀行は、消費者物価上昇率2%という物価安定目標を導入し、その早期実現を約束しました。そして昨年4月には、この目標を、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現するため、量的・質的金融緩和を導入しました(図表17、18)。

その枠組みを改めて説明しますと、第1に、マネタリーベースが、年間約60〜70兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行うことです。第2に、長期国債について、保有残高が年間約50兆円に相当するペースで増加し、平均残存期間が7年程度となるよう買入れを行うことです。第3に、ETFおよびJ−REITについて、保有残高が、それぞれ年間約1兆円、年間約300億円に相当するペースで増加するよう買入れを行うことです。そして第4に、CP等、社債等について、2013年末までにそれぞれ2.2兆円、3.2兆円となるまで買入れたあと、その残高を維持することです。全体の「量」の面でも、買入れ資産の「質」の面でも、相当に思い切った措置ということがお分かり頂けると思います。

以上の措置で構成される「量的・質的金融緩和」を、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで継続します。また、その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行っていくこととしています。

この結果、ストック(残高)でみれば、マネタリーベースや長期国債・ETFの残高は、2年間で2倍程度となる見通しです。また、マネタリーベースの対名目GDP比は、2014年末には56%程度となる見込みです。これは、先進国では群を抜いて高くなるだけでなく、リーマンショック前との比較でも3倍以上に拡大することになります。

足もと2014年3月末の残高は、マネタリーベースが約220兆円、長期国債が約154兆円となっています。上記の「量」、「質」とも思い切った措置の継続を毎月決定し、強力な金融緩和を着実に推進しています。

(2)「量的・質的金融緩和」の特徴等

量的・質的金融緩和の特徴としては、第1に、戦力の逐次投入ではなく、必要とみられる措置をすべて講じたこと、第2に、物価安定目標を「2年程度の期間を念頭に、できるだけ早期に実現すること」を表明して決意を示したこと、第3に、2%の物価安定目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで継続することを表明していること、などが挙げられます。

将来の政策に関するガイダンスとしては、「2年程度の期間を念頭に」という決意のもと、「目標を安定的に持続するために必要な時点まで」として将来の政策の継続を政策目標にリンクさせ、オープンエンドの要素を持たせています。経済物価情勢次第で対応が決まるという点では、state dependent なガイダンスです。また、オープンエンドの要素を持たせることで、経済・物価の見通しが目標への経路から下振れると人々が予想すれば、緩和の長期化すなわち緩和の強化が予想され、それが新たな経済・物価の見通しに織り込まれて目標に近づくという安定化メカニズムが働くことも期待できます。

「量的・質的金融緩和」の政策効果をリアルタイムで測定するのは容易ではありませんが、先に述べたわが国経済の回復を、金融面から強力に後押ししているとみています。今のところ、わが国の経済・物価は、政策委員の見通し―中央値でみて、実質GDPが2014年度+1.4%、2015年度+1.5%、物価が消費税率引き上げの影響を除くベースで、2014年度+1.3%、2015年度+1.9%―に沿って推移しているとみています(図表3)。

この間、マーケットやエコノミストの見方は慎重で、特に物価については、ESPフォーキャストなどをみても、2014・15年度いずれも1%前後であり、日本銀行の見通しとはギャップがあります。主な要因は中長期のインフレ期待の立ち上がり方や企業の価格転嫁の度合いなどの見方に違いがあるためとみられますが、日本銀行としては、引き続き見通しの背後にある考え方やメカニズムを丁寧に説明していく所存です。

ちなみに、非伝統的政策の効果に関しては、日本のかつての量的緩和政策(2001-2006)に関する実証研究が進んできています。時系列分析による推計結果からは、株価上昇や為替円安などの波及経路を通じて生産を増やすという結果が示唆されています。現在の「量的・質的金融緩和」では、バランスシート全体の大幅な拡大、資産サイドのデュレーションの長期化、明確な物価安定目標の導入、目標にリンクしたガイダンスの設定などの点で、当時の量的緩和政策より高い政策効果が期待できるとみています。

(3)波及効果を強める施策:「貸出支援基金」の拡充

日本銀行では、緩和的な金融環境を企業や家計に最大限に活用してもらうよう後押しするため、「貸出支援基金」を運営しています。この基金には、「貸出増加を支援するための資金供給」(貸出増加支援資金供給)と「成長基盤強化を支援するための資金供給」(成長基盤強化支援資金供給)の2つがありますが、2月の金融政策決定会合において、規模を2倍としたうえで1年間延長することを決定しました(図表19)。

具体的には、貸出増加支援の資金供給について、金融機関が貸出を増加させた額の2倍まで、日本銀行からの資金供給を受けられるようにしました。成長基盤強化支援の資金供給については、本則の総枠を3兆5千億円から7兆円に倍増するとともに、対象金融機関ごとの上限を現行の1,500 億円から1兆円に引き上げました。また、両資金供給について、固定金利0.1%で4年間の資金供給を受けられることとしました。

貸出支援基金は、これまで金融機関が貸出を総額として増やす動きをサポートしてきたほか、企業や金融機関が成長基盤を強化する取組みを進めるうえで「呼び水」としての効果を発揮してきたとみています。日本銀行としては、今回の見直しにより、貸出増加や成長基盤の強化に向け、金融機関の一段と積極的な行動や企業や家計の前向きな資金需要が増加することを期待しています。これにより、「量的・質的金融緩和」の波及効果が強まると考えています。

なお、成長力強化という点からは、民間部門の取組みとともに、政府の対応も非常に重要です。昨年1月の日本銀行との共同声明には、政府の対応として、大胆な規制・制度改革などを総動員し、日本経済の競争力と成長力強化へ向けた取組みを強力に推進すること、財政運営に対する信認を確保する観点から持続可能な財政構造を確立する取組みを着実に進めることが明記されています。政府の取組みが着実に実行されることを、改めて強く期待しています。

4.終わりに 〜岡山県経済について〜 

結びにあたり、岡山県の経済についてお話したいと思います。

当県は、県内総生産の約3割を製造業が占める、ものづくりに強みを持つ産業構造を有しており、全国有数の規模を誇る水島コンビナートを中心に、石油、化学、鉄鋼、自動車をはじめとした製品を国内外に供給しています。最近では、産学官や金融機関の協力のもとで、電気自動車や航空機など裾野が広く、次代を担うことが期待される産業クラスターの育成にも積極的に取組まれています。

製造業だけでなく、当県は、中四国の結節点に位置するという恵まれた条件から、最近では、中四国全域を視野に入れた物流センターやショッピングセンターの建設が相次いでいます。こうしたもとで、ショッピングセンターの集客力を地元経済の発展に活用すべく、道路整備や周辺小売業の連携強化など、新たな町づくりに向けた取組みにも着手されています。

また、晴天が多く温暖な気候は、桃やブドウなど全国的にも有名な農産物や豊かな森林を育んでいるだけでなく、最近は太陽光発電にも活用されています。さらに、地盤が強固で津波リスクが低いという地理的な特性から、大型データセンターの進出も目立っています。このほか、わが国屈指の総合病院の集積は、医療・介護産業の発展に繋がっています。加えて、県内には後楽園や美観地区など世界に誇る多くの観光名所や、最近話題の「B級グルメ」による町おこしなど、観光資源が豊富に存在しており、この潜在力の一段の発揮に向けて、関係団体の連携強化やトップセールスをはじめとしたPR強化にも積極的に取組まれています。

今後も、当県が持つこうした特徴や強みを活かしつつ、成長が期待できる新しい分野の育成を進めることで、当県の経済が更なる発展を遂げていくことを期待しています。

日本銀行としても、県内各部門の皆様のご尽力が成果に繋がっていくよう、中央銀行としてできる限りの応援をして参りたいと思っています。