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【挨拶】最近の金融経済情勢と金融政策運営

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静岡県金融経済懇談会における挨拶

日本銀行副総裁 中曽 宏
2014年7月23日

目次

1.はじめに

日本銀行の中曽でございます。本日は、当地の行政および金融・経済界を代表する皆様との懇談の機会を賜りまして、誠にありがとうございます。また、皆様には、日頃より日本銀行静岡支店の様々な業務運営にご協力を頂いております。この場をお借りして改めて厚くお礼申し上げます。

昨年4月、日本銀行は2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に2%の「物価安定の目標」を実現するため、「量的・質的金融緩和」を導入しました。それから1年あまりが経ちました。日本経済は、なお途半ばではありますが、2%の「物価安定の目標」の実現に向かって順調に道筋を辿っています。本日は、皆様との懇談に先立ちまして、まず、内外経済の情勢と先行きに対する見方についてご説明したいと思います。続いて最近の金融システム面での現状と課題についてお話しをします。最後に当地の経済について申し上げたいと考えています。

2.内外経済の現状と先行きの見方

海外経済の現状と先行き

当地、静岡県には、製造業・輸出企業が多数集積していることもあり、海外経済の動向について、ご関心をお持ちの方が多いことと思います。この点について、まず、ご説明します。海外経済は、新興国の一部になお緩慢さを残しつつも、米欧などの先進国を中心に回復しており、先行きも緩やかな回復傾向が続くとみています。IMFによる世界経済見通しでも、世界経済の成長率は、2014年は3.6%、2015年は3.9%と、緩やかに伸び率を高めていく姿となっています(図表1)。地域別にみますと、米国経済は、1〜3月期のGDP成長率は寒波の影響もありマイナスとなりましたが、春以降、多くの経済指標がリバウンドしており、民間需要を中心とする回復基調が鮮明になっています。先行きについては、緊縮財政による景気下押し圧力が弱まり緩和的な金融環境が維持されるもと、景気回復のテンポは徐々に増していくと考えています。なお、最近、米国の潜在成長率がやや低下したのではないかとの見方、いわゆる「長期停滞論(secular stagnation view)」が、一部で聞かれていますが、現時点ではそうした見方を裏付ける確たる証拠はありません。実際、FRBや民間エコノミストの中長期成長率見通しが足もと明確に下方修正された様子はありません(図表2)。

欧州経済についてみると、債務問題の根本的な解決が未だ途半ばの状態にある中、消費者物価上昇率が1%を下回る状態が半年以上続いており、デフレを懸念する声も聞かれています。さらに、ウクライナ・ロシア情勢の影響もリスク要因として注視していく必要があります。もっとも、足もとの経済情勢としては、欧州中央銀行による追加緩和策が実施されたこともあり、金融資本市場が安定的に推移するもと、家計や企業のマインドは改善しています。実際、ユーロ圏経済のGDPは4四半期連続のプラス成長となりました。先行きについても緩やかな回復が続くと見ていますが、先ほど申し上げたように過剰債務などの構造問題の影響には注意が必要です。現在、資産審査(Asset Quality Review:AQR)やストレステストによって欧州連合の金融システムの頑健性が精査されており、10月に結果の公表が予定されています。欧州経済の先行きを考える上では、これらの金融システムに対するテストの結果が鍵を握っていると言えるでしょう。

中国経済については、以前に比べれば低めではありますが、安定した成長が続いています。最近の動きをみると、不動産投資の鈍化が続いているほか、中国当局が引き続き構造調整を進める過程で、経済に下押し圧力がかかっています。もっとも、今春以降の当局による景気下支え策の効果が及んできていることに加え、外需も持ち直しているため、成長モメンタムの鈍化には歯止めがかかっているとみています。

この間、やや気になるのはアジアを中心とする新興国経済です。国・地域ごとにバラつきが大きいため、ひと括りに評価することはできませんが、NIES、ASEANでは、当面、成長に勢いを欠く状態が続くと考えています(図表3)。NIES、ASEAN地域は、日本の輸出に占めるウェイトが高いうえ、本邦企業の生産拠点も数多く存在しているため、先行きの景気展開については、国際金融資本市場の動向と合わせ注意深くみていきたいと考えています。

以上、海外経済について総括すると、中国が僅かに成長率を切り下げながらも安定成長を続ける中で、やや長い目でみれば、先進国の景気回復が新興国にも次第に波及していくとみています。

日本経済の現状と先行き

次に、日本経済の動向についてです。わが国の景気は消費税率引き上げに伴う駆け込み需要とその反動の影響を受けつつも、基調的には潜在成長率を上回るペースで成長を続けています。家計部門をみると、個人消費には消費税率引き上げ後の反動減が現れていますが、これまでのところ反動減の規模は概ね消費税率引き上げ前に想定していたとおりであり、雇用・所得環境の改善が進むもとで底堅く推移しています。この点、日本銀行が7日に公表した地域経済報告、いわゆる「さくらレポート」でも、各地で消費税率引き上げの影響の報告がありましたが、ここ静岡県を含め全地域で基調的には回復傾向が続いているとの判断を維持しました。企業部門についても、収益の改善などを背景に設備投資の増加が明確になってきています。先般公表した6月短観では、これまで出遅れ気味であった製造業においても先行きの設備投資計画に前向きな動きがみられています。

このように内需は堅調ですが、輸出は、現状横ばい圏内の動きにとどまっています。輸出の伸び悩みの背景としては、先ほどご説明したような新興国を中心とした海外経済のもたつきが、大きな要因として指摘できます。さらに春先頃までは、米国の寒波の影響や、消費税率引き上げ前に国内向け出荷が優先されたことが、一時的な下押し要因として作用していました。もっとも、これらの要因を勘案しても、過去の経験則に照らしてみると、海外景気の回復のペースや為替水準との対比でみて、日本の輸出の動きが鈍いことも事実です。この点について以下3点ほど、指摘したいと思います。

第一の論点は、リーマンショック以降、グローバルな貿易パターンが変化しており、これが、わが国の輸出にマイナスに作用しているのではないかという点です。リーマンショック直後の先進諸国の貿易の下落率をみると、日本は金融システムへのダメージが比較的軽微であったにもかかわらず、輸出が最も大きく低下した国のひとつでした。この理由として、金融危機による世界需要の落ち込みは、投資財や耐久消費財などの高付加価値製品において顕著であったことが指摘されています。皆様ご承知の通り、性能の高い高付加価値品は日本の製造業の得意分野です。このため、高付加価値品を中心とした世界的な最終需要の落ち込みは、他国対比、日本の実体経済、とりわけ製造業にとって大きなダメージとなりました。このところの日本の輸出の伸び悩みについても、同様の議論があてはまるのではないかと考えています。すなわち、今般の景気回復局面では世界的に設備投資の回復の遅れが目立っており、これが高付加価値品を得意とするわが国の輸出に大きく影響しているということです。もっとも、最近の機械受注統計をみると外需は増加傾向にあります。今後、世界的な投資需要が回復傾向に転じていけば、わが国の輸出にも好影響が期待できます。

第二に、日本企業の国際的な競争力が低下しているとの見方があります。この見方については、「国際競争力」という概念自体がやや曖昧なこともあり、議論が分かれるところです。わが国の輸出の品目別内訳をみると、もともと日本企業が強みとしてきた情報関連財や資本財・部品において不振が続いてきたことは事実です。新興国の台頭などにより、こうした市場の競争環境は厳しくなっていますが、高付加価値品を中心に日本企業が競争力を維持している分野も少なくありません。実際、ごく最近になっては高付加価値製品の部品などを中心に、情報関連財の輸出に持ち直し傾向が窺われるとの声もあり、この点は明るい材料と言えます。

第三の論点として、製造業を中心とする生産拠点の海外移管の影響が考えられます。過度な円高が続いていた時期に、海外シフトが進んだことは事実であり、構造的な変化が生じていることは否定できません。もっとも、意思決定から実際の拠点移管までにかかるタイムラグを考えれば、既往の円高の修正は、この先の海外移管のペースを抑制すると考えられます。

こうした議論を踏まえると、先行き国際金融資本市場が安定的に推移するもとで、海外実体経済が設備投資を含めて回復傾向を強めていけば、これまで日本の輸出の伸び悩みの背景となってきた要因は徐々に剥落していくことになります。こうしたもとで、輸出は緩やかに増加していくとみて良いと考えられます。もちろん、まだ実際には輸出全体の持ち直しは確認されていないため、楽観視することなく引き続き注視していきたいと考えています。

以上、申し上げた最近の経済情勢を踏まえ、当月の金融政策決定会合において、4月に公表した「展望レポート」で示した2016年度までの経済・物価見通しの中間評価を行いました。先行きの見通しの基本的な考え方については4月時点から大きな変更はありません。生産・所得・支出の好循環が持続し、基調的には潜在成長率を上回る成長が続くと予想しています。消費税の直接の影響を除いたベースの消費者物価の前年比は、暫くの間、1%台前半で推移したのち、2015年度を中心とする期間に2%程度に達する可能性が高いと考えています(図表4)。

物価の動向と日本銀行の金融政策運営

次に物価面の動きについてお話ししたいと思います。生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみて、4月、5月は、それぞれ+1.5%、+1.4%となりました。消費税率引き上げ後も緩やかな物価上昇基調は維持されています。最近は、毎月の消費者物価指数の数字に注目が集まりがちですが、「物価安定の目標」の達成のために、より重要なことは物価の基調的な上昇メカニズムが維持されているかどうかです。物価の基調的な動きは経済全体の需給バランスと予想物価上昇率という2つの要素に依存します。

まず、第一の要素である需給バランスについては、失業率や有効求人倍率がリーマンショック前の水準にまで回復しているほか、設備の稼働率も上昇しています。足もと、需給ギャップは過去の長期平均並みであるゼロを超え、プラスに達しているとみられます(図表5)。今後は、潜在成長率を上回る成長が続く中で、基調的な物価上昇率を押し上げる方向に働くとみています。

第二の要素である「予想物価上昇率」というのは耳慣れない言葉かもしれませんが、人々が先行き、どの程度物価が上昇すると見込んでいるかという予想を意味するものです。わが国では、15年近くデフレが継続したことにより、「物価は上がらない」との予想が定着してしまいました。この状態から脱して、2%の物価安定目標を持続的に実現していくということは、企業や個人が2%程度の物価上昇が続くことを予想しながら経済活動を行うようになるということを意味します。この点、今春はベアを実施した企業が増加したほか、これまで低価格を基本戦略にしてきた企業でも、従来以上に品質を重視しコストを反映した価格設定に切り替えるなど、企業行動には変化の兆しがみられます。また、個人や企業、エコノミストなどを対象としたアンケート調査や、金融市場関連のデータからも、予想物価上昇率は全体として上昇しているとみられます(図表6)。

昨年4月に導入した「量的・質的金融緩和」は、明確なコミットメントと大規模な資産買入によって、需給ギャップの改善と予想物価上昇率の上昇を促し、基調的な物価上昇率を引き上げることを意図した政策です。この政策は所期の効果を発揮しています。すなわち、長期金利が日本銀行の国債買い入れもあって安定的に推移している一方、予想物価上昇率は全体として上昇しています。したがって、名目長期金利から予想物価上昇率を差し引いた値である実質金利は低下しており、民間需要を刺激しています。この結果、需給ギャップは改善し、実際の消費者物価も上昇しています。先行きもこうしたメカニズムが働くもとで、実際の物価上昇率と予想物価上昇率は上昇して行くと考えられます。先ほど申し上げた通り2015年度を中心とする期間に2%程度の物価上昇率を実現し、その後次第に、これを安定的に持続する成長経路へと移行していく可能性が高いと考えています。このように日本経済はデフレの制圧が視野に入ってきましたが、現状では2%への道筋はなお途半ばです。日本銀行としては、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、この政策を継続していきます。もちろん、従来から一貫して申し上げているとおり、今後、何らかのリスク要因によって見通しに変化が生じ、2%の「物価安定の目標」を達成するために必要であれば躊躇なく調整を行う方針です。

3.金融システム面の現状と課題

次に、金融システムに目を転じたいと思います。

日本経済が持続的な成長を実現していく上で、金融システムが「安定性」を保ちながら企業や家計の経済活動を力強く支援していくという、信用仲介面での「機能度」を高めていくことが重要です。

以下、金融システムの「安定性」と「機能度」の2つの面から、現状と課題を挙げておきたいと思います。

まず、金融システムの「安定性」に関しては、現状、大きな問題はないとみています。わが国の金融機関は、全体として充実した資本基盤を有しており、国内の金融・経済面である程度大きなショックがあったとしても、信用仲介機能が大きく損傷を受ける可能性は低いとみています。

ただ、グローバルにみると、先般の国際金融危機の経験を経て、国際的な金融市場や金融システムにおいてリスクが顕在化し、そのショックが広く伝播することへの備えが求められています。こうした中、金融機関に対しては、より高い基準での健全性と経営管理が求められていく方向にあります。バーゼルIIIをはじめとする国際金融規制や各国独自の規制が順次実施に移されつつあるほか、国際的に活動する金融機関に、もう一段の資本の積み増しを求めることにつながりうる議論も進められています。

日本銀行は、これらの国際金融規制の見直しの背景にある金融機関の健全性と経営管理をさらに強化し、金融システムの安定性を一段と高めるという考え方には深くコミットしています。同時に、具体的な規制の設計にあたっては、金融機関の活動が過度に制約されると、金融政策の効果が波及しにくくなったり、経済を金融面から後押しする力が弱まるおそれがあり、こうした点には十分な配慮が必要と考えています。また、金融システムを取り巻く制度や事情は国によって異なるという点も、念頭に置く必要があります。日本銀行は、これらの点を踏まえた適切な規制の策定につながるよう、国際的な議論に積極的に関与していく方針です。

次に、金融システムの「機能度」について触れたいと思います。

経済・物価情勢が改善に向かうもとで、企業の資金需要も、業種・地域の拡がりを伴いつつ徐々に高まってきており、金融機関はこれに積極的に対応していこうとしています。この面では、金融システムは、景気の回復を促す方向に着実に機能していると判断しています。同時に、金融システムは、人口減少や高齢化といった中長期的な課題に対する企業や地域経済の取り組みを後押しするというより大きな機能も担っていくことが期待されていると思います。

当地においても、これまで培ってきた産業技術の蓄積や、充実した交通網などを活かし、新たな産業の創出・集積に向けた取り組みが進んでいると伺っています。また、地元企業の海外展開は「空洞化」として受け止められることもありますが、販路の拡大や国際分業の構築などを通じて地元企業の成長につながるとともに、地域経済と海外経済とのつながりを深め、新たなビジネス機会をもたらす面もあると思います。地域金融機関による創造的企業の支援や企業の海外展開サポートといった新たな領域への挑戦が、やがて地域経済の活性化として結実することを確信しています。

日本銀行は、考査・モニタリングやセミナーの開催等を通じて、金融機関による企業支援の取り組みを、金融実務、リスク管理、体制整備の側面から支援していきたいと考えています。

また、金融システムの機能に関連して、「決済サービスの高度化」についても触れたいと思います。

日本経済が持続的な成長を遂げていく上では、決済ニーズの多様化や金融のグローバル化に応じた決済サービスの高度化を図ることも重要です。新しい「成長戦略」では、日銀ネットの稼動時間が延長されることを活用した金融機関・企業等における資金・証券決済の高度化が挙げられています。

日本銀行が構築を進めている新しい日銀ネットの稼動時間については、その機能を最大限有効に活用して頂くことを通じて、金融市場の活性化や金融サービスの高度化等に寄与していく観点から、2016年2月より、当面の稼動終了時間を21時まで延長することとしました。延長される時間帯は、日本銀行本店と日銀ネットの取引のある金融機関がそれぞれの経営判断により任意に利用するものです。

その検討の過程では、主要金融機関や業界団体との協議会において、日銀ネットの夜間利用を通じて、取引先企業のアジアの拠点から国内拠点への送金や、欧州市場における日本国債を担保としたクロスカレンシーレポの決済を当日中に処理するなど、先進的な様々なアイディアが示されたところです。

日本円や日本国債をいつでもどこでも受け渡しできるインフラを整備することは、積年の課題である円の国際化を決済の面からサポートするものでもあります。各金融機関におかれましては、アジアに進出した企業に対する金融・決済サービス面のサポートに際し、新日銀ネットを最大限有効に活用し、自らのビジネス展開に役立てて頂くことを期待しています。

さらに、新しい「成長戦略」では、銀行振込みにおける入金の即時処理化や決済電文への商取引情報の添付拡張も取り上げられています。決済サービスの提供は、銀行の中核業務とも言えるものであり、そのインフラの改善は、取引先企業への新たなサービスの提供につながると考えられます。具体的な検討は銀行界や産業界において進められるものと思いますが、日本銀行としても政府と連携しつつ、こうした検討の後押しを行って参りたいと考えております。

4.おわりに

最後に静岡県経済の現状等についてお話しします。

静岡県経済は緩やかに回復しつつあります。個人消費は、雇用・所得環境の緩やかな改善を背景に、消費増税後の反動が概ね想定の範囲内にとどまり、最近は改善に向け徐々に手応えが出てきています。また、好調な企業業績等を背景に設備投資が増加しているほか、公共投資も高水準で推移しています。こうした動きは、6月短観の地元企業の業況感等からも確認されたところであり、今後も改善基調は維持されると考えています。

ただ、静岡県経済の回復感は、これまでのところ全国に比べて力強さを欠いています。これは、リーマンショック後の円高進行を機に輸送用機械や電気機械といった主力製造業の相次ぐ海外生産シフトにより、静岡県の製造業出荷額が4兆円程度減少するなど、当地の生産・輸出の落ち込みが影響していると考えられます。こうした経済構造の変化の中で、中小・零細企業の業況感は総じてなお厳しい状況にあります。

このため、静岡県経済の喫緊の課題はリーマンショック後の生産・輸出の落ち込みを補った上でさらに発展を遂げていく新たな産業の創出です。この点、既に将来性ある意欲的な取り組みが始まっていると伺っており、心強く感じています。

県東部では医療関連産業の集積を目指す「ファルマバレー」、県中部では健康増進に資する機能性食品産業の集積を目指す「フーズサイエンスヒルズ」、県西部では光学関連産業の集積を目指す「フォトンバレー」といった、新産業クラスター構想が展開されています。また、災害リスクが少ない新東名高速道路周辺への企業誘致等を図る「内陸フロンティア」構想の取り組みも始まっています。

また、昨年6月には、静岡県を代表する観光資源でもある富士山が世界文化遺産に登録されたほか、来年は静岡に縁の深い徳川家康公の「顕彰400年記念事業」が予定されているなど、観光地としての静岡県を、その歴史や文化も含めて内外にアピールする好機を迎えています。さらに、2019年に開催されるラグビー・ワールドカップや、2020年に開催される東京オリンピックは、競技会場や関係者の合宿地、観戦客の宿泊地といった面も含め、当地経済に様々な可能性をもたらし得る大きなイベントであり、今後の静岡県のチャレンジが楽しみなところです。

これらの取り組みが着実に成果を挙げるには、主役となる地域の産業界をはじめ、内外の関係者との調整役となる行政、産業化に必要な知恵を供給する大学・研究機関、これらを資金面で支える地域金融機関、これら四者の従来にも増した連携強化が重要であることは言うまでもありません。この点、本年3月には、川勝知事が座長を務める「県産業成長戦略会議」が発足し、産官学金が一体となって地域の成長戦略を検討されており、この秋にも産業構造の転換に向けた具体的な対応策を取りまとめられると伺っています。関係者の強力なリーダーシップのもと、実効性ある成長戦略の策定とスピード感のある取り組みを大いに期待したいと思います。

日本銀行としましても、日本経済の安定的な成長の実現に向け、着実に「量的・質的金融緩和」を進めて参ります。政策遂行に際しては、静岡支店をはじめ全国の支店網を通じて、中小・零細企業を含めた地域経済の実態を丹念に点検していくことが重要と考えています。その意味で当地の産業界、金融界の皆様から頂く情報は大変貴重です。引き続き静岡支店の調査活動等にご協力頂きますようお願い申し上げます。

今後、静岡県における各種施策への取り組みが実を結び、当地経済が更なる発展を遂げられることを心より祈念いたしております。

ご清聴ありがとうございました。