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【講演】東京金融市場のさらなる発展に向けて -レポ市場改革の取り組みを中心に-

FIAジャパン金融市場会議2015における講演の邦訳

日本銀行政策委員会審議委員 佐藤 健裕
2015年5月13日

目次

1.はじめに

本日は、日本、欧米、アジアを代表する金融機関、年金・ファンド等の機関投資家の方々とともに、日本の金融市場の一層の発展に向けて意見交換のできる貴重な機会をいただき、大変うれしく思う。

日本銀行としても、金融政策運営の「場」であり、そして、その効果を映す「鏡」でもある、金融資本市場の機能度をより高める観点から、内外の市場関係者と協力しながら、市場インフラの整備に積極的に取り組んでいるが、本日は「レポ市場」をテーマとして取り上げたいと思う。

わが国のレポ市場は、国債の先物市場がそうであるように、国債の発行・流通市場に対して流動性を供給し、円滑なマーケットメイクと価格形成に貢献するという非常に重要な機能を果たしている。その意味で、国債の先物市場とレポ市場はいわば車の「両輪」の関係にあり、レポ市場の発展は、国債市場の流動性向上を通じて、先物市場のさらなる発展にも繋がると考えられる。そうした金融市場間における相乗効果を期待しつつ、レポ市場を巡る国際的な議論の動向や市場の発展に向けた市場関係者の取り組みについて、日本銀行の考え方や役割なども交えながらお話したいと思う。

さて、皆さんご承知のとおり、レポ取引は、資金と証券を一定期間交換する取引であり、多くの主要な金融市場において、資金や証券の運用・調達を行うための重要な取引手段となっている。わが国のレポ市場の残高をみると、2008年のリーマン・ショックの後一旦減少したが、足もとにかけては一段と増加しており、短期金融市場の約半分を占める中核的な存在にまで成長している(図表1、2)。

このレポ市場について、わが国では、「市場改革」ともいえる取り組みが、国際的な議論も踏まえつつ、市場関係者の間で進められている。今、「市場改革」と申し上げたが、私なりにこの「改革」でポイントとなる視点を整理すると、「透明性」、「安定性」、「効率性」、「グローバル化」の4つになると思っている。

2.レポ取引を巡る国際的な議論

レポ取引については、リーマン・ショックを契機とするグローバル金融危機の経験も踏まえ、G20のイニシアティブのもと、FSB(金融安定理事会)などの国際的なフォーラムにおいて、その「透明性」や「安定性」を一段と高めるために、さまざまな改革に向けた議論が行われており、日本銀行のスタッフもこうした議論に参画してきている(図表3、4)。

こうした議論の背景には、主として米国において流動性の低い証券化商品を対象とするレポ取引が大きく増加し、いわゆる「シャドーバンキング」としてレバレッジの拡大や過大なリスクテイクが生じていたことが、金融危機をより深刻なものにしたのではないか、との問題意識がある。FSBの議論では、こうした「行き過ぎ」を防ぐためには、まず、金融当局がグローバルなレポ取引の動向を適切にモニターする必要があるとされた。また、適切なヘアカットを導入することでレポ取引のリスク管理をより強化していくことも求めている。つまり、グローバルな金融安定上のリスクに対応するため、プルーデンス政策の観点から、レポ取引の「透明性」と「安定性」を更に高めて行くことが国際的に合意された。

「透明性」の向上に向けた改革<データ収集体制の構築>

FSBは、レポ取引の担保となる証券などの詳細なデータを収集し、レポ取引によるレバレッジの積み上がりのほか、満期ミスマッチの状況、特定の市場参加者へのリスクの集中度合いといった金融安定上のリスクを把握することを狙いとして、レポ取引に関するデータの収集体制を各国およびグローバルの2段階で整備していく方針を示している。現在、FSB内の専門家グループにおいて具体的な検討が進められており、日本銀行もメンバーとして議論に参加している。昨年11月には、データ収集の項目等の詳細を示した市中協議文書が公表され、この市中協議の結果を踏まえて、本年末までに最終的なデータ収集の枠組みが取り纏められる予定である。

今後を展望すると、本年末にかけて、グローバルレベルでのデータ収集に関する議論が深まるもとで、わが国においても、各国レベルでのデータ収集をどのように行っていくか、といった議論が徐々に本格化していくと思う。その際、円滑なデータ収集を行うためには、当然のことながら、システム対応など市場参加者の負担や取引実務にも十分な配慮が必要である。

そのうえで申し上げると、政策当局の間では、今回のデータ収集プロジェクトは、レポ市場、さらに言えば、銀行システムの外側にあるシャドーバンキングの「透明性」を高める効果的な手段であり、金融安定上のリスクを抑制していく上で、とても重要な政策対応であると広く認識されている。従って、今回のデータ収集プロジェクトにしっかりと対応することは、わが国金融市場に対する国際的な信認を確保し、グローバルな金融市場間の競争力を高めるだけでなく、グローバルな金融安定への貢献といった観点からも大切なことだと思っている。日本銀行としても、レポ取引のデータ収集体制の円滑な構築に向けて、内外の関係者と協力しながら、引き続き積極的に貢献していく考えである。

「安定性」の向上に向けた改革<適切なリスク管理の実施>

レポ取引における「ヘアカット」とは、担保となる証券の価格変動リスクを反映した「掛け目」をかけたうえで資金のやり取りを行うことで、取引の安全性を高めるリスク管理の仕組みである。金融危機の際には、レポ取引の担保となっていた証券化商品の価格が急落し、そのヘアカットが急激に引き上げられた結果、証券化商品の価格下落や流動性の低下がスパイラル的に加速し、レポ取引の「安定性」が著しく低下したとの指摘がある。

こうした経験を踏まえて、FSBでは、各国当局に対し、中央清算機関(CCP)で清算されない全てのレポ取引について、「ヘアカット」に関連した2つの政策対応を求めている。

まず、一つ目が、レポ取引のヘアカットに下限値を設定する「最低ヘアカット規制」である(図表5)。景気が良い時には、市場参加者がレポ取引の担保となる証券の価格変動リスクを過小評価し、過度に低いヘアカットを設定する傾向が指摘されている。この規制の狙いは、レポ取引を行う際に、過度に低いヘアカットを適用するインセンティブを抑制することで、好況時の行き過ぎたレバレッジの拡大や、不況時の急激なデレバレッジ、いわゆる「プロシクリカリティ」(景気循環性)を防ぐことにある。

なお、現在の政策提言では、国債を対象とするレポ取引は「最低ヘアカット規制」の対象外とされている。これは、国債の価格動向は景気循環的でない傾向がみられることや、国債のヘアカットは多くの取引でゼロ、あるいはゼロに近いためとされている。この点、わが国のレポ取引は、証券化商品を担保とするレポ取引のウエイトが相応にある米国などとは異なり、その殆どが国債を対象としており、ヘアカットを行わないものが大部分を占めている(図表6、7)。このため、「最低ヘアカット規制」が、わが国のレポ市場に与える影響は、現時点で、全体としてそれほど大きくならないのではないかとみている。

もうひとつの政策対応が「メソドロジー基準」である。FSBは、市場参加者が、平時においても金融資産価格の下落など一定のストレスを想定して「ヘアカット」の算定が行われるよう、各国当局に対して定性的な基準(メソドロジー基準)を設定するよう求めている。

さきほど申し上げた通り、わが国のレポ取引は、その殆どが国債を対象としており、ヘアカットを行わないものが大部分である。もっとも、十分な信用力と流動性を備えた国債であっても、金融商品である以上、価格変動のリスクがあることは否定できない。このため、ヘアカットのメソドロジー基準のあり方も含め、レポ取引の安定性を確保していくうえで、どのようなリスク管理が望ましいのか、市場参加者間で議論を深めながら、共通の認識を作り上げていくことが大切だと思う。

この点、FSBでは、法域間の規制裁定を抑制する観点から、最低ヘアカット規制の実施状況を定期的にモニタリングする枠組みを導入する予定である。このモニタリングの結果によっては、将来的に、現在国債を対象とする取引をグローバルな規制対象から除外している最低ヘアカット規制の「適用対象」や「最低ヘアカット水準」の見直しを検討する可能性があるとしている。日本銀行としては、2017年末までの導入が予定されている最低ヘアカット規制が、グローバルなレポ市場の流動性などに「意図せざる影響」を与えることがないかどうかにも留意しつつ、今後とも、最低ヘアカット規制の枠組みの検討に関する国際的な議論に積極的に参加していく必要があると思っている。

3.「効率性」の向上に向けた改革(国債取引の決済期間短縮化)

以上申し上げたレポ取引に関する国際的な議論と並行して、国内では、国債取引(アウトライト取引)の約定から決済までの期間を2日(T+2)から1日(T+1)に短くする取り組みが進められている。

国債決済期間の短縮化は、リーマン・ショック後の国債市場におけるフェイル急増の経験を踏まえた取り組みであり、未決済残高の圧縮を通じて決済リスクの削減を実現するものである。しかし、金融市場インフラの整備の観点からみると、国債決済期間の短縮化は、わが国のレポ市場に大きな変革をもたらし得る重要な取り組みであることに気付く。

国債のT+1決済を実現するためには、国債のアウトライト取引等の結果として生じる資金や債券の過不足の調整に用いられるGCレポ取引について、T+0決済(即日決済)を実現することが大前提となる。そのためには、レポ取引にかかる事務処理の一段の効率化を進める必要がある。これが3つ目のキーワードである「効率性」の向上である。これを実現するため、わが国では、GCレポ取引に係る「銘柄後決め方式」の導入、そして、そのための担保管理サービスを行うインフラの整備が予定されている。

レポ取引における「銘柄後決め方式」と「担保管理インフラ」の導入、つまり、レポ市場における効率化の一層の進展は、わが国の短期金融市場に大きな変革をもたらす可能性がある。なぜならば、それが大規模な即日資金市場の創設を意味するからである。

かなりざっくりとした見積もりだが、現在T+1決済で行われている翌日物GCレポがT+0決済に単純に全て移行すると想定すると、その市場規模は20〜30兆円に達することが予想される(図表8)。一方で、例えば、翌日物の無担保コール市場(短資経由)の残高は、現在2〜3兆円程度である。つまり、わが国のT+0決済のGCレポ市場は、将来的に、コール市場の規模を大きく上回り、東京短期金融市場において最も大きな翌日物の即日資金市場となる可能性がある。

冒頭に申し上げたとおり、わが国のレポ市場の残高は大きく伸びているが、金融危機以降の資金市場の動きを振り返ってみると、無担保の資金取引が世界的に縮小している一方で、有担保の資金取引は相対的に活発である。これには、金融危機後のインターバンク取引における信用リスクに対する意識の高まりや、無担保の短期資金取引の増加をディスカレッジする金融規制の導入といった、構造的な要因が影響しているように思う。

こうした大きな流れを踏まえると、T+0決済のレポ市場という即日資金市場が創設されることは、既存のコール市場における資金取引への影響のみならず、中央銀行が行う金融調節オペレーションにとって重要な市場である短期金融市場全体に構造変化をもたらす可能性があると思う。この点、現在のコール市場とGCレポ市場の参加者を比べると、資金調達面でのプレゼンスは、前者は「銀行」や「短資会社」が高い一方、後者は「証券会社」が高くなっている(図表9)。また、将来を展望すると、即日決済のレポ市場が発展することによって、即日資金市場の厚みや参加者の多様性が増し、短期金融市場全体の活性化に繋がる可能性もある。

こうした点も念頭に置きつつ、即日決済のレポ市場の創設がわが国の短期金融市場に与える影響については、コール市場とレポ市場の市場規模や参加者、資金フローなどの市場構造がどのように変化するのか、また、そうしたもとで、両市場における短期の市場金利の形成にどのような影響が生じるのかといった点も含めて、市場参加者とも意見交換しながら、今後とも注目してみていきたいと思う。

4.「グローバル化」に向けた改革(レポ取引の新現先取引への移行)

国債の決済期間短縮化と、必ずしも直接的に関係するものではないが、レポ取引の契約形態については、国際標準である「売買形式」(新現先取引)に一元化する方向で市場関係者が合意し、今後、基本契約書の変更などの具体的な対応を進めて行くことになっている。レポ取引の「グローバル化」に向けた取り組みである。

わが国のレポ取引の法的性格は、かつて有価証券の売買に有価証券取引税が課されていたこともあって、国際標準の「売買形式」ではなく、「貸借形式」(現担レポ)が一般的となっている。有価証券取引税自体は既に廃止されているが、こうした歴史的経緯もあって、わが国では3種類の契約形態(現担レポ、新現先、旧現先)が併存しており、それに伴って取引実務にも多様なパターンがある(図表10)。こうした複数の取引形態の存在が、レポ取引にかかる事務処理の一体的な効率化やシステム化が進みにくい一因となっているとの指摘もある。

また、わが国で「レポ取引」と呼ばれている「現担レポ」が、海外においては、「レポ取引」ではなく「証券貸借」と呼ばれる取引と同じ法律構成となっているために、海外の市場参加者や海外当局とのコミュニケーションがスムーズにいかない、といった声も聞かれる。

こうした指摘を踏まえると、レポ取引の新現先取引への一本化は、わが国金融市場の一層の「グローバル化」に資するとともに、本会合にお集まりの海外投資家の方々との取引を含めて、わが国レポ市場全体の活性化にもつながり得るものと考えている。今後、市場参加者において、システム対応や事務手続きの変更のほか、顧客に対する説明なども必要になってくると思う。日本銀行としても、新現先取引への一本化に向けた市場関係者の取り組みを、しっかりとサポートしてまいりたい。

5.おわりに

本日は、わが国のレポ市場改革の取り組みについて、「透明性」、「安定性」、「効率性」、「グローバル化」といった4つの視点から、お話しさせていただいた。この4つの視点は、レポ市場に限らず、広く金融市場インフラの整備に共通する重要な切り口だと思う。

今後、国内の貯蓄や投資動向の変化に伴い、日本国債の海外保有比率は中長期的に高まっていく可能性がある。こうした点を踏まえると、海外投資家の方々を含めて、多様な投資家にとって、使い勝手がよく、安心で魅力的なレポ市場を作り上げていくことは、国債市場の流動性向上に資するだけでなく、わが国金融市場全体に対する信頼性を高めることにも繋がると思う。

2008年のリーマン・ショックを契機にスタートしたレポ市場改革の取り組みは、今後2〜3年で最終ゴールを迎える予定である。その意味で、これからが改革の正念場と言えるかもしれない。日本銀行としても、わが国の短期金融市場の中核的な存在であるレポ市場が、透明性と安定性、効率性をさらに高め、海外からもよりアクセスしやすい金融市場に成長していくことは、非常に意義のあることだと考えている。

本日お話したように、わが国のレポ市場がまさに変革期を迎えつつあることも踏まえて、日本銀行では、「レポ市場フォーラム」を5月14日に開催し、レポ市場改革の4つの視点を主なテーマに、市場参加者の方々と意見交換することにしている。こうした取り組みも含めて、今後とも、レポ市場のさらなる発展、ひいては、東京金融市場のさらなる発展のため、中央銀行としての立場から、市場関係者の方々とともに一層の貢献を果たしていく考えである。

ご清聴感謝する。