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【挨拶】第93回信託大会における挨拶

日本銀行総裁 黒田 東彦
2018年4月11日

はじめに

本日は、第93回信託大会にお招き頂き、誠にありがとうございます。皆様におかれましては、常日頃より、信託の機能を活かした金融商品やサービスを提供されることで、日本経済の発展に貢献されています。こうしたご努力に対し、日本銀行を代表して改めて敬意を表したいと思います。また、皆様には、平素から、日本銀行の政策や業務運営に多大なご協力を頂いております。この場をお借りしてお礼申し上げます。

経済・物価情勢と金融政策運営

私からは、まず、経済・物価情勢と日本銀行の金融政策運営についてお話しします。

わが国の経済は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、緩やかに拡大しています。実質GDP成長率は、昨年10~12月期にかけて8四半期連続のプラス成長となりましたが、これは、1989年以来、28年ぶりのことです。やや仔細にみると、企業部門では、海外経済が総じてみれば着実な成長を続ける中、輸出が増加基調にあります。設備投資も、企業収益や業況感が改善基調を維持するなかで、増加傾向を続けています。家計部門をみると、失業率が足もと2%台半ばまで低下するなど、労働需給は着実な引き締まりを続けており、賃金も、緩やかに上昇しています。こうした雇用・所得環境の改善を背景に、個人消費は、振れを伴いながらも、緩やかに増加しています。

続いて、物価の動きです。エネルギーと生鮮食品を除いた消費者物価の前年比は、2013年秋以降、プラス基調を続けており、既に、わが国は、「物価が持続的に下落する」という意味でのデフレではなくなっています。景気拡大や労働需給の引き締まりに比べて、弱めの動きとなっていますが、昨年の前回大会以降の1年間についてみても、消費者物価の前年比は、緩やかに上昇率を高めてきています。先行きも、マクロ的な需給ギャップが着実に改善していくなかで、企業の賃金・価格設定スタンスは次第に積極化し、中長期的な予想物価上昇率も、実際に価格引き上げの動きが拡がるにつれて、着実に上昇していくと考えられます。この点、今春の賃金改定交渉では、多くの企業で5年連続のベースアップが実現すると見込まれるほか、ベースアップ率も、現時点での集計によれば、前年の実績を上回っています。中小企業を含め、労使双方のこうした取り組みが、この先、賃金の増加とともに物価上昇率が緩やかに高まっていくという経済の好循環に繋がっていくことを期待しています。

このように、経済・物価情勢は着実に改善していますが、2%の「物価安定の目標」の実現までにはなお距離があります。また、米国の経済政策運営や国際金融市場の動向など、様々なリスク要因も存在します。こうした中、日本銀行としては、「物価安定の目標」の実現を目指し、引き続き、現在の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の枠組みのもとで、強力な金融緩和を粘り強く進めていく方針です。

信託業界への期待

次に、信託業界の皆様に期待する役割について、3点ほど申し上げます。

第一は、社会のニーズの変化に的確に対応したサービスを提供していくことです。信託業界では、これまでも、少子高齢化の進行に伴い、次世代への円滑な資産の移転・承継や高齢者の財産管理に関するニーズが高まる中、「遺言代用信託」、「後見制度支援信託」、「教育資金贈与信託」などの商品の提供に積極的に取り組んでおられます。信託は、リスク遮断機能に加え、対象財産や、その管理・運用の目的を柔軟に設定できる点が特長です。今後とも、こうした特長を活かし、新たなIT技術の進展も踏まえながら、社会のニーズに応じた商品を開発・提供していくことは、顧客の利便を高めるとともに、金融サービスの付加価値向上にも資すると考えられます。

第二に、個人や年金基金などの財産の受託者として、リスクマネーの供給を通じて、投資先の持続的な価値向上や、中長期的な家計の資産形成を後押ししていくことです。この点、各信託銀行などでは、「日本版スチュワードシップ・コード」の導入やその改訂などをきっかけとして、従来以上に投資先との対話を深めるとともに、議決権行使などの状況を公表するようになっています。こうした取り組みは、家計資産の運用の多様化を進めるとともに、投資先の生産性向上を通じて日本経済の成長力を引き上げていく上でも重要です。

第三に、決済リスクの削減に向けた取り組みを進めていくことです。具体的には、信託勘定における外為取引の同時決済の導入に向けた取り組みが進められているほか、皆様のご尽力・ご協力もあって、来月には国債決済期間のT+1化が実現する運びとなりました。これらは、金融におけるグローバル化が進展する中、決済システム・金融システムの安定性の向上にも繋がる意義深い取り組みであると思います。信託業界の皆様もこれらの取り組みを積極的に進めてこられているところであり、日本銀行としても、引き続き協力してまいりたいと考えています。

おわりに

最後に、信託業界のますますのご発展を祈念し、私のご挨拶とさせて頂きます。ご清聴ありがとうございました。