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【挨拶】令和2年全国証券大会における挨拶

日本銀行総裁 黒田 東彦
2020年10月5日

1.はじめに

本日は、令和2年全国証券大会において、ビデオメッセージという形でお話しする機会を頂き、誠にありがとうございます。日本証券業協会、全国証券取引所協議会、投資信託協会に加盟の皆様におかれましては、常日頃より証券市場の発展に尽力され、これを通じて日本経済の安定的な成長に貢献されています。皆様のご努力に対し、日本銀行を代表して、心より敬意を表します。

本日は、新型コロナウイルス感染症の影響も踏まえながら、最初に、最近の経済・物価情勢と日本銀行の金融政策運営についてご説明し、次に、金融システムの現状と証券業界への期待についてお話しします。

2.最近の経済・物価情勢と日本銀行の金融政策運営

まず、経済情勢についてお話しします。今年に入ってからの感染症の大流行は、内外経済に大きな影響を及ぼしています。春先以降、多くの国・地域で厳格な公衆衛生上の措置が講じられたことを受け、本年前半の世界経済は大幅に落ち込みました。IMFの見通しでは、2020年の世界経済成長率は、リーマン・ショック時を超える大幅なマイナスが予想されています。現在も、感染症の拡大が収まっておらず、世界経済は、厳しい状態が続いています。もっとも、多くの国・地域が、経済活動を徐々に再開させる取り組みを進めるもとで、大きく落ち込んだ状態からは持ち直しつつあります。

わが国経済も、引き続き厳しい状態にありますが、経済活動が徐々に再開するもとで、持ち直しつつあります。4~6月の実質GDP成長率は、個人消費や輸出を中心に大幅なマイナスとなり、雇用・所得環境にも下押し圧力がかかりました。しかしながら、緊急事態宣言の解除後、経済活動は徐々に再開しています。輸出・生産は持ち直しに転じており、個人消費も全体として徐々に持ち直しています。先行きについては、不確実性がきわめて大きいですが、標準的なシナリオとしては、感染症の影響が和らいでいくもとで、改善基調を辿ると考えています。ただし、感染症への警戒感が続くもとでは、そのペースは緩やかなものにとどまると見込まれます。

次に、物価です。消費者物価の前年比は、当面、感染症や既往の原油価格下落などの影響を受けて、マイナスで推移するとみられます。その後は、経済の改善に伴い物価への下押し圧力は次第に減衰していくと予想されることや、原油価格下落の影響が剥落していくと見込まれることから、消費者物価の前年比は、プラスに転じ、徐々に上昇率を高めていくと考えています。

もっとも、こうした経済・物価の先行き見通しについては、感染症の帰趨や、それが内外経済に与える影響の大きさといった点を中心に、きわめて不確実性が高く、下振れリスクの方が大きいと考えています。

感染症は、金融面にも大きな影響を及ぼしました。国際金融市場は、2月下旬以降、先行きの不透明感の高まりから、急速に不安定化しました。また、経済の大幅な落ち込みによる売上げの減少から、企業の資金繰りは世界的に悪化しました。

今回の感染症が経済・金融面に及ぼすショックへの対応として、日本銀行は、本年3月以降、(1)企業等の資金繰り支援を目的とした新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム、(2)金融市場の安定確保のための国債買入れやドルオペなどによる円貨および外貨の上限を設けない潤沢な供給、(3)資産市場のリスクプレミアムへの働きかけを目的としたETFおよびJ-REITの積極的な買入れの「3つの柱」により、金融緩和を強化してきました。こうした対応は、政府の各種施策や、民間金融機関の積極的な取り組みと相まって、効果を発揮しています。金融市場は、感染症への警戒感から、依然、神経質な状況にありますが、ひと頃の緊張は緩和しています。企業の資金繰りには、なお厳しさがみられますが、銀行貸出残高の前年比伸び率は3か月連続で6%台となっているほか、直接金融であるCP・社債の発行残高も前年比10%を超える高い伸びが続くなど、外部資金の調達環境は緩和的な状態を維持しています。この間の皆様のご尽力にも、改めて感謝申し上げたいと思います。

日本銀行としては、引き続き、効果を発揮している現在の金融緩和措置をしっかりと実施していくことで、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めてまいります。また、このことを通じて経済を下支えし、日本銀行の使命である2%の「物価安定の目標」の実現を目指していきます。とりわけ、感染症の経済・金融面の影響には大きな不確実性があることから、当面、感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる方針です。

3.金融システムの現状と証券業界への期待

次に、金融システムの現状と、証券業界に期待する役割について、お話しします。

これまでお話ししたように、感染症は内外の経済・金融面に大きな影響を及ぼしていますが、わが国の金融機関は、資本・流動性の両面で相応に強いストレス耐性を備えており、金融システムは全体として安定性を維持しています。また、政府や日本銀行による思い切った政策対応も相まって、金融仲介機能は円滑に発揮されています。

さて、証券業界では、これまでも、金融資本市場の機能発揮や、その前提となる市場インフラの整備のほか、「NISA」や「個人型確定拠出年金(iDeCo)」の普及促進を通じた家計の中長期的な資産形成の支援に取り組まれてきました。今後、日本経済の持続的成長を実現していくうえでは、今般の感染症の経験も契機としながら、環境変化に応じたビジネスモデルの構築や金融資本市場の発展に向けた取り組みを、さらに加速していくことが重要です。こうした観点から、証券業界に期待することを3点申し上げます。

まず、ビジネスモデルの面では、デジタル技術の活用が一層重要になりつつあります。証券業界でも、スマートフォンやAIを利用した新しいサービス・金融商品の提供などに取り組まれてきたほか、感染症の影響により対面業務が制約されるもとで――今回の全国証券大会も同様と言えますが――オンラインのさらなる活用を進められています。また、顧客側でも、行動様式が変化する中で、デジタル化のもたらすメリットを再認識していると思います。こうした環境変化も追い風として、デジタル技術を一層活用しながら、金融サービスのフロンティアを切り開いていくことが期待されます。

次に、金融資本市場のさらなる発展に資する取り組みです。近年、証券業界では、資本市場を通じた社会的課題の解決に向けて、「持続可能な開発目標(SDGs)」に関連する様々な取り組みが進められてきました。足もとでは、新型コロナウイルス感染症対策に関連する債券(いわゆる「コロナ債」)やグリーンボンドへの社会的な関心も高まっています。今後とも、証券業界には、企業や投資家の新しいニーズを積極的に汲み取りながら、わが国金融資本市場の一層の発展や競争力の向上に貢献していくことが期待されます。

加えて、金融関係者にとって、金利指標改革への対応も当面の重要な課題です。特に、幅広い金融取引の金利指標として利用されてきたLIBORの公表が2021年末に停止されることが見込まれており、今一度この時限性を強く念頭に置いて対応することが必要です。証券業界においても、経営陣の関与のもとで、債券の発行体や投資家など幅広いステークホルダーと連携しながら、積極的かつ主体的な対応を進めることが期待されます。

日本銀行としては、今後も皆様方と協力しながら、中央銀行の立場から、証券業界の取り組みを後押しするほか、市場インフラの整備等を通じて、わが国金融資本市場の安定性と機能度の向上に貢献していきます。また、金融広報中央委員会の活動を通じ、家計の金融リテラシー向上にも証券業界の皆様とともに貢献していきたいと考えています。

4.おわりに

最後になりましたが、今後とも、皆様方のビジネスの発展、そしてわが国金融資本市場のさらなる発展を祈念いたしまして、私からのご挨拶とさせて頂きます。ご清聴ありがとうございました。