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【挨拶】わが国の経済・物価情勢と金融政策高知県金融経済懇談会における挨拶要旨

日本銀行政策委員会審議委員 中村 豊明
2021年2月10日

1.はじめに

日本銀行の中村でございます。本日は、新型コロナウイルス感染症の影響が続く中、オンライン形式ではありますが、高知県の行政および金融・経済界を代表する皆様との懇談の機会を賜りまして、誠にありがとうございます。皆様には、日頃から高知支店の業務運営に多大なご支援を頂いており、この場をお借りして厚くお礼申し上げます。

本日は、内外の金融経済情勢や金融政策等について説明させて頂き、高知県経済の現状と、期待している取組みについて触れさせて頂いた後、皆様からの率直なお話を承りたく存じます。

2.最近の経済・物価情勢

(1)経済情勢

まず、海外経済です。昨年4~6月期は多くの国でロックダウンなどを受けて大幅なマイナス成長となりましたが、経済活動が再開される中で7~9月期は大幅なプラス成長に転じました(図表1)。10~12月期は米国と中国が前期に続きプラス成長となりましたが、欧州は感染再拡大に伴い公衆衛生上の措置が強化された影響からマイナス成長に転じるなど、改善ペースは地域・分野によって様々です。先行きも、積極的なマクロ経済政策にも支えられて改善していくとみられますが、当面はそのペースは緩やかで、感染症に左右される状況が続くことから、下振れリスクは大きいと思われます。

こうしたもとで、日本経済は引き続き厳しい状態にありますが、基調としては持ち直しています(図表2)。輸出や生産は、自動車関連から資本財や情報関連に裾野を拡げながら、はっきりとした増加を続けています。一方、非製造業では、感染症第3波等により、対面型サービスを中心に再び停滞感が強まっています。設備投資は、昨年7~9月期まで減少を続けましたが、輸出・生産の回復を受けて製造業の機械投資が持ち直しています。しかし、12月短観では、業況判断は「最近」・「先行き」とも引き続き「悪い」が「良い」を上回り、今年度の売上計画(全産業・全規模)も前年比1割弱の減収見込みでした。今年度の研究開発投資計画(全産業・全規模)が前年比マイナスになったことも懸念される動きです。その後、感染症の影響も拡大していますので、対面型サービス業を中心に下振れリスクは大きいと思われます。

また、昨年4~6月の実質GDPの大幅な落ち込みと7~9月の持ち直しを日米欧で比べてみますと、日本経済の回復力は力強さに欠けるようにみえます(図表3)。内訳をみると、設備投資や個人消費といった内需項目が、特に米国対比で弱めです(図表4)。個人消費は感染症への警戒感が根強い高齢者人口が多いこと、設備投資はデジタル投資等が遅れていることが影響している可能性があります。そして、後ほどご説明しますが、日本経済が長年抱える様々な課題が影響していると考えています。

(2)物価情勢

続いて、物価情勢です。生鮮食品を除く消費者物価(コアCPI)の前年比は、感染症の影響が深刻化した昨春以降、マイナス圏で推移しています(図表5)。足もとの下落には既往の原油価格下落やGo Toトラベル事業による宿泊料の割引などが影響していますが、これらは消費者の購買力上昇などを通じて、いずれは消費者物価に対してプラスに作用すると考えています。コアCPIがマイナスということだけに着目するのではなく、需要の変化を含めた品目ごとの動向やミクロ情報など実態をしっかり確認、分析することが一層重要になっていると思います。例えば「生活意識に関するアンケート調査」の12月調査をみると、現在の物価が1年前と比べて上がったと回答した人の割合や、1年後の物価が現在と比べて上がると回答した人の割合はいずれも約6割で、下がると回答した人の割合は1割未満です(図表6)。その他の情報を踏まえても、今のところは、企業の付加価値を低下させるような価格引き下げの動きは拡がっていないとみています。

(3)経済・物価の先行き

次に、経済・物価の先行きについて、政策委員の中心的な見通しをお話します。まず、わが国経済の先行きについては、感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで改善基調を辿ると想定していますが、緩やかなペースにとどまると考えられます。その後、世界的に感染症の影響が収束していけば、海外経済が着実な成長経路に復していくもとで、わが国経済はさらに改善を続けると想定されますので、1月の「展望レポート」における政策委員の大勢見通しは、2020年度の実質GDP成長率は▲5.7~▲5.4%、2021年度は+3.3~+4.0%、2022年度は+1.5~+2.0%となっています(図表7)。

物価の先行きについては、コアCPIの前年比は、当面、需給ギャップの悪化や先ほど触れました一時的な価格下落の影響などにより、マイナスで推移するとみられます。その後、経済の改善に伴い物価への下押し圧力は次第に減衰し、原油価格下落の影響などが剥落していくことから、プラスに転じ、徐々に上昇率を高めていくと想定していますので、政策委員の大勢見通しは、2020年度は▲0.7~▲0.5%、2021年度は+0.3~+0.5%、2022年度は+0.7~+0.8%となっています(図表7)。

今のところ物価が全般的かつ持続的に下落していくリスクは高くないとみていますが、最近の感染再拡大により非製造業を中心に経済の回復に時間がかかる可能性が高まっていますので、企業収益が感染症拡大前の水準を下回り、当面、雇用・所得面の弱さが続くと見込まれます。また、長くデフレを経験した日本では米欧と比べ、実際の物価下落が人々の物価観により強く影響を及ぼす傾向がみられますので、引き続き注意が必要と考えています。

3.金融政策運営

次は、金融政策運営です。日本銀行は昨年3月以降、感染症への対応として、「3つの柱」による強力な金融緩和措置を実施しています(図表8)。具体的には、第1に、企業等の資金繰り支援のための特別プログラム、第2に、国債買入れやドルオペなどによる潤沢かつ弾力的な資金供給、第3に、資産市場のリスク・プレミアムへの働きかけを目的としたETFおよびJ-REITの積極的な買入れです。

これらの対応は、政府の施策や金融機関の積極的な取組みと相俟って効果を発揮しています。金融市場では、依然として様々な不確実性が意識されているもとで、最近、神経質な動きがみられているものの、昨年春から夏頃までと比べて緊張は和らいでいます。企業の資金繰りにも厳しさがみられますが、悪化には歯止めがかかっており、銀行借入やCP・社債等の調達環境は緩和的な状態が維持されています。このように金融仲介機能が円滑に発揮されていることは、金融面から実体経済への下押し圧力が強まったリーマン・ショック時とは大きく異なっています。

しかし、感染症の影響による経済・物価への下押し圧力は長引くと考えられます。そこで、昨年12月の金融政策決定会合では、特別プログラムの期限を本年9月末まで延長するとともに、2%の「物価安定の目標」を実現する観点から、より効果的で持続的な金融緩和を実施していくための点検の実施を決定しました。

日本銀行は、QQE(「量的・質的金融緩和」)を開始した2013年から3年後の2016年夏に、その効果について「総括的検証」を実施しました。その結果、第1に、大規模な金融緩和のもとで、それ以前の極端な円高や株安が是正されるなど、金融環境が大きく改善したこと、第2に、これが企業業績の改善や経済活動の押し上げに繋がったことが確認されました。一方、物価面では、第1に、「物価が持続的に下落する」という意味でのデフレではない状況を作り出すことができましたが、目標とする2%には届かなかったこと、第2に、「長きにわたるデフレの経験」により定着してしまった物価は上がりにくいという人々の考え方や行動を転換するには、なお長い時間がかかることが確認されました。また、金融緩和が、金融機関の利益や生命保険・年金などの運用に累積的にマイナスの影響を与え、ひいては金融仲介機能に悪影響を与え得ることも確認されました。

こうした検証結果を踏まえた政策対応として、2016年9月にイールドカーブ・コントロールを導入しました。これは、緩和の効果だけでなく副作用にも配慮しながら、適切な水準に金利をコントロールするものです。また、2018年7月には、強力な金融緩和を粘り強く続けていく観点から、長期金利が上下にある程度変動し得るよう、また、ETFやJ-REITの買入れ額が市場の状況に応じて上下に変動し得るよう、金融市場調節や資産買入れについて、より弾力的な運営に変更しました。

今回の点検もこうした問題意識の延長線上にあります。現在の枠組み(「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」)は、導入後4年間、コロナ禍の期間を含めて適切に機能を発揮していますので、この枠組みのもとで、その運営方法や、各種資産買入れなどの施策ツールについて、所期の効果を発揮しているか点検します。長引くコロナ禍の影響により金融緩和は更に長期化せざるを得ませんので、より効果的で持続的な金融緩和を実施していくうえで、さらなる工夫があれば、反映したいと考えています。

点検の結果は、3月の金融政策決定会合を目途に公表する予定ですので、予め結論を申し上げることはできませんが、例えば様々なご意見を頂戴しているETFの買入れについて、私見を申し上げますと、過去の経験から株式市場の不安定化がデフレマインドに繋がりやすいわが国の特異性を踏まえると、本施策はそうしたマインドを払拭するうえで効果を発揮してきましたし、今後も必要なツールであると考えています。しかし、ETFに限らず、大量の資産買入れや保有の長期化によって、市場機能に影響が生じ得ることにも留意が必要です。具体的な対応については、引き続き効果や副作用を慎重に点検したうえで検討したいと思いますが、この先も起こり得る経済・物価・金融情勢の変化に対して、タイムリーかつ効果的に対応できるよう準備しておくことが重要と考えています。

4.日本経済の課題と成長力強化

日本経済の課題

次に、より長期的な視点から日本経済の課題についてお話します。

1985年のプラザ合意までは2度の石油ショックが起きる中でも円安環境が続き、企業は国内に設備投資を集中し、合理化・効率化を進め、高い価格競争力を武器に輸出を伸ばして外貨を稼ぐ「加工貿易立国」として日本は成長しました。輸出の拡大により、企業利益と家計所得が増加し、その預金が金融機関を通じて企業に回り、設備投資や研究開発投資などに活用される好循環が発揮されました。この過程で、企業は終身雇用や年功序列型賃金を通じて従業員に所得が安定的に伸びるという安心感を与え、従業員との間でも企業にロイヤリティを持って改善に貢献するwin-winの関係や、勤勉さ、「個」より「集団」を重んじる文化等が醸成されたと思います。

プラザ合意後の1980年代後半には1ドル230円前後から120円台への円高が進行し、バブル崩壊後は不良債権処理にあえぐ中で、安価な労働力など高い価格競争力をもった新興国が台頭しました。また、わが国では少子高齢化が急速に進み、生産年齢人口も1995年をピークに減少に転じました。このため、日本企業が従来の事業構造で価格競争力を維持することは難しくなり、イノベーション力の強化や産業構造の改革が必要となりました。

しかし、雇用慣行や働き方の改革がなかなか進まず、多くの企業は業績悪化に対し、人件費や償却費などの固定費削減といったコスト構造改革で対応し、付加価値を高める事業ポートフォリオ改革は先送りされました。この結果、低収益事業や競争力の低下した事業などが継続され、研究開発等の各種投資に悪影響を及ぼし、成長事業の強化が遅れました。また、収益力の低下に伴い、大きな景気ショックに備えてリスクを避ける傾向が強まったように思います。こうした積み重ねが30年にも及ぶ生産性の低迷と低成長に繋がり、世界の成長から取り残されてきたように感じています。

日本企業の労働生産性の推移を規模別にみると、大企業は、リーマン・ショックにより大きく落ち込んだ後、2018年度に漸く2007年度の水準を超えました(図表9)。一方、中堅企業や中小企業のリーマン・ショック時の落ち込みは小さかったものの、その後の改善は緩やかで、日本全体の生産性の向上を牽引するほどの力強さはみられません。

経済環境の変化と構造改革の必要性

現在、わが国はデジタル化と脱炭素化という大きな変化に直面しています。デジタル化の進展により、人々は時間や距離といった様々な制約から解放され、サイバーとリアルが融合したSociety 5.0の社会では、規模や効率性のみを求めるのではなく、課題解決や新たな価値創造が求められると思います。また、脱炭素化の動きを受けて、例えば長年わが国の成長と雇用を支えてきた自動車産業は、世界的なガソリン車廃止の流れに直面しています。電気自動車の普及により、コモディティ化やデジタル化の進展など市場環境が大きく変わることも考えられます。

こうした中で、政府は「デジタル」と「グリーン」を次の成長の原動力とし、そのために必要な日本の長期的な研究開発力の強化とともに、ベンチャー企業や中小企業が育っていく環境を作り出し、中小企業の生産性の底上げや中堅企業への成長、海外市場への挑戦を後押しする方針を示しています1。実際に、TPP等により、規制が緩和され、市場が拡大することは、人口減少などの構造問題を抱える日本にとって大きなチャンスです。このように環境が大きく変わる状況では、イノベーション力を強化し、一歩先んじて変化に挑戦し、成長を実現することが重要で、そのためには政府が示すように経営基盤の強化により企業規模の拡大を実現することが重要と思います2

企業においても、雇用慣行・働き方・事業ポートフォリオの改革やデジタル活用の必要性が強く意識され、日本型システムの変革が進み始めています。例えば、雇用の流動化、ジョブ型雇用への移行、成果に応じた賃金体系への転換などの動きが広がりつつあります。また、企業の枠を超えた再編や統合、買収と売却、業務提携なども進みつつあります。付加価値の創出と事業の成長によって生産性の向上を実現する事業ポートフォリオ改革が進むと期待しています。

  1. 成長戦略会議「実行計画」(令和2年12月1日)。
  2. 脚注1と同じ。

中小企業の成長

GDPは、企業の事業活動により創出された付加価値の総和ですので、日本の成長には企業の生産性向上と付加価値拡大が必要と思います。その担い手として、スタートアップや中小企業から、中堅企業や大企業、企業価値の評価額が10億ドルを超えるユニコーンへと成長する企業が増えることが重要と考えています。

米国のある調査会社によると、ユニコーンは世界で518社あり、その半数に近い249社が米国にあり、次いで中国が122社ですが、わが国より経済規模の小さいドイツで13社、インドで26社、韓国でも11社あり、日本はわずか4社です(図表10)。フィンテックやオンラインでのサービスなど、経済環境の変化に一歩先んじて対応できる技術やサービスに成長資金が集まっているということだと思います。

持続的な成長と企業価値の向上は、簡単なことではありません。私自身のこれまで経営に携わってきた経験では、環境変化をチャンスに変えるためには、自前主義にとらわれず、異なるバックグラウンドや知見を持つ人材の活用などを通じて経営リソースを強化し、一歩先んじて変化に挑戦し、自社の事業構造を先送りすることなく改革して、成長を実現することが重要と思っています。

そのためには、自由な事業活動を促進する規制緩和と、企業が成長戦略を実行し持続的な成長を実現するための投資資金を潤沢に調達できる市場が重要だと思います。そうした資金調達の観点から直接金融と間接金融に期待している役割について、お話したいと思います。

直接金融に期待される役割

まず、企業が株式などを発行して直接、資金調達する直接金融についてです。昨年9月末時点で、わが国には家計が持つ金融資産が約1,900兆円ありますが、そのうち約1,000兆円は現金・預金、約500兆円は保険・年金ですので、金融機関には多くのお金が流れている一方、事業活動の主体である企業に直接流れているお金はそれほど多くありません。

また、株式発行による資金調達の動向をみると、わが国の2019年のIPO(新規株式公開)とPO(公募増資等)による資金調達額は約100億ドルで、米国の1/10と少額にとどまっています。

さらに、ファンドによるベンチャー投資をみても、米国では、2020年のベンチャーキャピタル(VC)の投資額3は、コロナ禍のもとでも増加を続け、16兆円(1,562億ドル)に達する一方、日本国内では、2019年のVC投資額4は2,000億円程度で、2020年1~9月は前年同期比で約3割減少しています。

このように潤沢な資金が企業に流れる米国では、破壊的な技術やビジネスモデルを持ったスタートアップが持続的に資金を調達してイノベーション力を強化し、一部はユニコーンになり、上場後も直接金融市場で成長資金を調達して大企業に成長しているということだと思います。

他方で、わが国の場合、東証一部上場企業5の2020年末の株式時価総額は667兆円と、バブル期の1989年末の591兆円を上回っていますが、この間に上場会社数は約1,000社増えていますので、1社当たりの企業価値でみると、一部上場企業全体としては、成長しているようには窺われません。株式時価総額は投資家による成長期待を表していますので、ファンダメンタルズに裏付けられたものとなるためには、当該上場企業は投資家の期待を実現する成長が必要で、そのために成長投資資金の調達が必要です。

足もとでは海外投資ファンドやVCが日本のスタートアップに出資する動きが広がりつつあり、首相も国内外の環境投資を呼び込む金融市場の枠組みを作る方針を示されました6。幅広い投資家が成長を支援する長期資金市場の一つとして、直接金融市場の拡大や流動性の向上などが進むとともに、成長の柱が明確になったことなどにより、VCによるスタートアップへの投資も再び活性化すると期待されます。

  1. 3出所:全米ベンチャーキャピタル協会(NVCA)、PitchBook
  2. 4出所:一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンター。
  3. 52013年7月16日付の東京証券取引所と大阪証券取引所の現物市場の統合に伴い東証一部に上場した37社を含むベース。
  4. 6第204回国会における内閣総理大臣施政方針演説。

間接金融に期待される役割

続いて、金融機関から資金調達する間接金融です。企業に必要な運転資金や設備投資資金が金融機関を通じて安定的に供給されていることは、経済成長のためのインフラとして日本の強みです。しかし、地域金融機関の経営環境は少子高齢化や人口流出などの構造要因、低金利環境の継続に加え、感染症の影響により厳しさを増しています。

こうした中、日本銀行は昨年、「地域金融強化のための特別当座預金制度」の導入を決定しました。本制度は、地域金融機関が将来にわたり地域経済をしっかりと支え、金融仲介機能を円滑に発揮していくために必要な経営基盤強化の取組みを後押しするものです。

この点、地域金融についての私見を申し上げます。地域金融機関の営業地域は都道府県単位で区切られがちであった一方、バリューチェーンは都道府県単位で区切られている訳ではありません。人口減少が進み、特定地域での事業成長が難しくなる中で、生産性向上と規模拡大を追求する企業は多いと思います。成長を目指すスタートアップや中小企業には、優れた技術やサービスがあっても、人・モノ・カネといったリソースと顧客基盤が不足していますので、これらを強化するために、地域金融機関が、地域の中小企業の実力や成長力、その他情報を活用して、価値の高いサービスを提供し、持続的な成長をサポートしていくことは顧客の期待にも沿うものと思います。

現在はデータや情報が価値を生む時代ですので、「地域の枠を越えて」それらのネットワークを拡大し、経営課題の解決等、取引先が求める価値提供を行うことが期待されていると思います。こうした地元の中小企業の成長に向けた取組みを持続的に一層サポートしていく観点からは、地域金融機関の経営統合や合併も一つの選択肢ですし、他業態を含むアライアンスなども有力な手段だと思います。

土佐が生んだ幕末の英雄といえば坂本龍馬が挙げられますが、彼は厳しい移動制限のあった時代でも、現代における商社と言われる亀山社中を率いて、薩摩と長州という地理的・心情的に大きな距離のあった二つの藩の資源や戦略に着目して、薩長同盟を斡旋し、人材やネットワークを広げて日本を変革しました。現代の高知県でもそうした動きが更に強化されていくと期待しています。

ポストコロナを見据えて、スタートアップを含む中小企業の生産性向上や規模拡大に向けた取組みにおいて、直接金融と間接金融の役割は大きく、主に事業の成長可能性についてはリスクマネー市場の目利き力、持続可能性については銀行等の目利き力が発揮されることが重要と思います。経営者と市場との対話が増え、経営者のマインドが持続的な成長重視へと変わり、積極的な成長投資資金の調達を進め、ビジネスモデルやポートフォリオなどの改革が進み、経済全体の生産性向上が実現することを期待しています。

現在、中小企業をはじめとする経営者や従業員の方々は感染症という大きな環境変化に対応するために、懸命に取り組んでおられます。そして、大きなショックの後には低成長が長引くという経験から、今回、各国の政府・中央銀行も、感染症のショックが、長期にわたって後遺症として経済に悪影響を及ぼし続ける、いわゆる「scarring effect」を、できるだけ回避しようと懸命に取り組んでいます。大きな変化に直面した時に、一歩先んじて行動し、チャンスに変えることで、企業は大きく成長することができます。日本は低成長が長引き、デフレに苦しんできましたが、感染症によって浮き彫りとなった諸課題が、漸くこの機に解決されていくだろうと期待していますし、日本銀行も緩和的な金融政策運営を通じて、そうした取組みを後押ししていきたいと考えています。

5.おわりに ―― 高知県経済について ――

最後に高知県経済について申し上げます。

高知県経済も全国と同様、感染症の影響により、対面型サービス消費を中心に一部で強い足踏み感が続いているものの、基調としては持ち直しています。

設備投資と住宅投資は弱めの動きが続いている一方、公共投資は高水準で推移しています。個人消費は、全体では食料品や日用品の巣ごもり需要などを中心に持ち直し基調が続いており、製造業の生産も、全体では緩やかに持ち直しつつあります。このため、労働需給面の弱さや雇用者所得への下押し圧力は続いていますが、大幅な悪化はみられていません。また、企業収益は厳しい状況にありますが、各種の資金繰り支援措置の効果等もあって、倒産は低い水準で推移しています。

もっとも、より詳しくみると、足もとの感染再拡大やGo Toトラベル事業の一時停止等により、対面型サービス消費に関連する企業の業況は再び厳しくなっています。

先行きについても、当面の間は不確実性の高い状態が続くと考えられるため、企業の収益・資金繰りや雇用・所得へのダウンサイドリスクに注意が必要です。

そうしたもと、感染防止と経済再生の両立を図りながら、コロナ禍による厳しい経済状況を乗り切っていかねばなりません。そして、将来の成長機会を結実させるためには、先ほど申し上げた経済のデジタル化の進展など、構造変化の流れを捉え、一歩先んじて挑戦していく積極的な取組みが欠かせません。

この点、当地では「デジタル技術を活用した生産性向上」や「新しいひとやモノの流れを創出する取組み」など、ポストコロナを見据えたイノベーティブな取組みが官民連携のもとで力強く進められていると伺っており、大変期待しています。

例えば、「デジタル技術を活用した生産性向上」については、当地の主力産業の一つである施設園芸農業において、官民連携のもと、様々な環境・生育データとAIを融合させた栽培モデルを構築して、生産管理の最適化や出荷量・時期の予測を行うシステムの開発プロジェクトが進んでいると伺っています。

また、「新しいひとやモノの流れを創出する取組み」についても、経済同友会との連携を活用し、リモートワーク等の拠点となるシェアオフィスやワーケーション環境の整備に着手されているほか、関西圏との連携強化を軸に観光や外商拡大のための具体的な戦略が進められていると伺っています。

日本銀行としても、緩和的な金融環境の維持を通じて、このように将来を見据えた持続的な成長努力を粘り強くサポートしていきたいと考えています。

最後に、南海トラフ地震について述べさせて頂きます。大規模な地震・津波の発生が想定される当地では、行政のリーダーシップにより、各種の防災・減災の取組みが進められているほか、民間の金融機関や企業でも業務継続拠点の整備など各種の対策が進められていると承知しています。日本銀行としても、高知支店を中心に、災害時の決済機能や現金供給機能の維持に向け、地域に貢献できるよう努めて参ります。

地域経済を取り巻く環境は厳しく、また、当面、感染症の影響から不透明感の強い状況が続きますが、日本銀行としても、高知支店を中心に、高知県経済の一層の発展に貢献して参りたいと考えています。

ご清聴ありがとうございました。