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【挨拶】わが国の経済・物価情勢と金融政策大分県金融経済懇談会における挨拶要旨

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日本銀行政策委員会審議委員 安達 誠司
2021年12月1日

1.はじめに

日本銀行の安達でございます。この度は、大分県の行政、財界、金融界を代表される皆様とお話をさせて頂く貴重な機会を賜り、誠にありがとうございます。また、皆様には、日頃から日本銀行大分支店の業務運営に対し、ご支援、ご協力を頂いておりますことを、この場をお借りして改めて厚く御礼申し上げます。昨年の新型コロナウイルス感染症の流行以降、こうした意見交換は、オンライン形式での開催を余儀なくされてきましたが、本日は、最近の感染の落ち着きを受けて、対面での開催となりました。こうして、皆様に直接お目にかかることが出来ることを大変嬉しく思います。

本日は、わが国の経済・物価情勢と日本銀行の金融政策運営につきまして、私の考えを交えつつお話しします。その後、皆様から、大分県経済の動向や日本銀行の業務・金融政策に対する率直なご意見をお聞かせ頂ければと存じます。どうぞよろしくお願い申し上げます。

2.経済・物価情勢

(1)経済情勢

感染症の動向

はじめに、新型コロナウイルス感染症の動向を振り返ります。新型コロナウイルス感染症の新規感染者数は、各国・地域毎にみれば、増加と減少を繰り返しており、ばらつきも大きい状況ですが、ワクチン接種が進捗するもと、夏場以降は全体として落ち着きをみせた後、足もとでは再び、欧州諸国やロシア等で大きく増加し、米国でも増加する動きをみせています。一方、アジアやラテンアメリカ等は、一部の国を除き、相対的に落ち着いた動きとなっています(図表1)。この間、ワクチン接種は、新興国では相対的に遅れが散見されますが、先進国の多くで接種完了率が高い水準となっており、世界的に重症者数及び死者数が大きく減少している点は、明るい兆候といえるのではないかと思います。

わが国の新規感染者数は、週間平均でみて8月中旬に2万5,000人に迫る勢いで急増した後、足もとでは大幅に減少しており、著しい改善をみせています。

もっとも、ごく足もとでは、新たな変異型による感染拡大への懸念も高まっており、状況は注意深くみる必要があると考えています。

内外経済の現状

新型コロナウイルス感染症を巡る状況は、引き続き不確実性を伴っておりますが、先ほど申し上げたような明るい兆候もみられるもとで、経済情勢にも変化の兆しがみえつつあります。以下では、最近の日本を含む世界経済に共通していると考えられる3つの特徴についてお話ししたいと思います。

第1の特徴は、サービス消費の底打ちと持ち直しです。これまでの新規感染者数の増加局面では、多くの国・地域において、人流抑制を目的とした公衆衛生上の措置が講じられたため、飲食・宿泊・娯楽等の対面型サービス業の多くが事実上の営業停止状態を余儀なくされました。しかし、ワクチン接種の進展等によって、それらの業種における営業活動は多くの場合は再開され、業況は持ち直しつつあります(図表2)。この点は経済にとって明るい材料といえますが、感染症の動向は不確実性が高い状況にあり、サービス消費がすぐにコロナ禍前の水準に戻ると考えるのは楽観的だと思われます。実際、日本の状況をみると、一部で期待されていたような「リベンジ消費」、すなわち、コロナ禍で抑圧されていた消費が経済活動の再開を機に一気に拡大する現象は、今のところまだみられていません。

第2の特徴は、企業の設備投資の積極化です。世界的な新型コロナウイルス感染症の拡大は、家計や企業の行動様式、例えば人々の働き方等に大きな変容をもたらしました。また、それはデジタル・トランスフォーメーション(DX)に代表されるような企業の新たな設備投資需要を生み出しました。加えて、今年のノーベル物理学賞で気候変動問題に関連する研究に賞が授与されるなど、気候変動問題に対する世界的な意識の高まりもあり、企業によるカーボンニュートラルに向けた設備投資需要も今後大きく拡大する可能性が出てきたと考えられます。

わが国の視点では、設備投資は足もとまで持ち直しの動きをみせていますが(図表3)、先行きも設備投資需要が堅調を維持するならば、資本財の分野で高い国際競争力を有する製造業にビジネス機会をもたらし、企業の輸出や生産の拡大にも寄与するものと思われます。また、日本銀行が、2%の「物価安定の目標」の実現に向けて、現行の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のもとで、強力な金融緩和を粘り強く続けていく局面にあることも、こうした新たな設備投資需要を支える一因になると思います。

これまでお話しした第1と第2の特徴は、経済にとって明るい話題でした。一方で、次にお話しする第3の特徴は、今後の経済情勢を考える上での懸念材料とも言えるもので、今後も注意深くみていく必要があると考えています。

第3の特徴とは、経済における供給制約の影響です。昨年来、日本を含む世界経済は、様々な供給制約に直面してきました(図表4)。2020年度後半頃からは、自動車用の半導体不足が大きな問題となってきました。コロナ禍で、当初、自動車販売が急減するもとで、世界の半導体メーカーは、比較的マージンが薄いと言われる自動車用の半導体の生産を抑制していました。一方で、自動車自体の需要は、コロナ禍で「人との接触機会をなるべく減らす」という人々の行動変容もあり、予想外の急激な増加を見せました。こうした中で、自動車用の半導体の供給不足が発生しました。その後、本年入り後には、自然災害や工場火災などの影響により、供給不足はさらに強まりました。本年夏にかけては、自然災害や工場火災に起因する供給不足の問題は緩和したものの、主に東南アジア諸国での感染症急拡大に伴う工場閉鎖等から、半導体だけではなく、他の自動車部品の生産も止まり、新たな供給制約が顕在化しました。供給制約がみられる産業は、自動車に限らず、白物家電等の他の財にも波及しつつあり、企業の輸出や生産の下押し要因となっています(図表5および6)。供給制約の影響は、予想外の需要の急拡大により深刻化したわけですが、港湾労働者における感染症の拡大に起因した港湾機能の低下による物流面での制約も影響しており、その背景は複雑です。また、供給制約の解消の見通しは、今後の感染症の動向次第でもあり不確実性が大きくなっている印象を受けます。現時点で、このような供給制約は一時的との見方を維持していますが、今後の動向を注意深く見ていきたいと考えています。

(2)物価情勢

海外の動向

次に物価情勢についてお話しします。このところ、米欧諸国では、インフレ率が中央銀行の目標値である2%を上回る状況が続いています(図表7)。このインフレ率の上昇には、先に述べた世界的な供給制約に加え、原油や天然ガスをはじめとするエネルギー価格の上昇等が影響していると考えられます。また、特に米国では、コロナ禍入り後に労働市場から退出した「無業者」の労働市場への復帰が予想以上に緩慢となっており、足もとでは労働需要の拡大に労働供給が追いついておらず、これにより賃金の上昇圧力が高まっています。

もっとも、米欧諸国のインフレ率の上昇については、需要・供給サイドともに、コロナ禍における一時的な要因が影響しており、それが中長期的な物価上昇圧力、例えば、中長期の予想インフレ率の上昇に波及していく可能性は小さいというのが米欧当局の現時点の中心的な見方となっています。

わが国の動向、見通し

わが国のインフレ率をみると、直近10月の全国消費者物価指数の前年比は、除く生鮮食品で+0.1%と、ゼロ%近傍の低位にとどまっています。この要因としては、4月に実施された携帯電話通信料の値下げ等の影響が大きいことが指摘できます。携帯電話通信料等の影響を除いてみれば、消費者物価の上昇率は、+1%台半ばの伸び率となっており、足もとではエネルギー価格の上昇もあって、その上昇ペースは速まっています(図表8)。

私自身は、コロナ禍入り前は、わが国の物価の先行きについて、慎重な見方を持っていました。すなわち、わが国経済は、もはやデフレではない状況にはあるものの、相応のデフレ圧力は残っており、インフレ率はゼロ%近傍で推移するのではないかと考えていました。しかし、最近では、次に述べる幾つかの要因を踏まえて、物価上昇率が高まっていく可能性が高まったと考えています。

第1の要因は、企業の価格設定行動の変化です。コロナ禍において、企業、特に消費関連サービス業は、急激かつ大幅な需要減少に直面しましたが、過去の大幅な需要減少局面でみせたような激しい価格競争を今回は行わず、価格低下を小幅にとどめたり、価格を据え置いたりする行動をとっていると考えられます。これは、今回の需要減が公衆衛生上の措置という人為的な要因や感染症への警戒感によるものであり、企業経営者は、価格を下げても売上増加につながらないと判断したことが一因と推測されます。政策面では、政府による各種支援金や実質無利子・無担保融資、および、日本銀行による新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペ(以下、コロナオペと言います)といった資金繰り支援策が、事業の継続を支え、企業による激しい価格競争を回避させる要因となった可能性もあると思われます。

また、コロナ禍が落ち着きつつある現在、企業が自社の財・サービスの価格を引き上げる動きを徐々に見せ始めています。コロナ禍をきっかけに、特に消費関連業種では、顧客ニーズの構造的な変化を見極め、過去に多くみられた「薄利多売」のビジネスモデルを転換し、高付加価値でマージンの厚いビジネスの展開を志向する先が増え、しかも売上を伸ばしている、という話も聞かれるようになりました。これらの動きは、企業の価格設定行動の変化を示しているように思われます。

第2の要因は、経済情勢のところで指摘した点とも重なりますが、企業の設備投資スタンスの積極化に裏打ちされる成長見通しの改善です。最近の企業の設備投資は、「資本ストック循環」(図表9)という観点からみると、将来の収益見通し、より専門的な言葉では「期待成長率」、の上方修正を伴った積極的なスタンスに変わってきている印象を受けます。企業が、自社の経営環境について、前向きな見方をするようになっているということは、自社の財・サービス価格の引き上げを通じた利益率の上昇も視野に入れた、収益から設備投資への「前向きな好循環」が起きつつあるといえるのではないでしょうか。企業が価格の引き上げを通じてマージンを拡大させることは、今後賃金の引き上げにも波及する可能性があり、2%の「物価安定の目標」を実現するための大きなカタリスト(触媒)になることが期待されます。

第3の要因は、エネルギー価格が高止まりする可能性があることです。他国においてもエネルギー価格の上昇が足もとインフレ率上昇に大きく寄与していますが、日本においても、携帯電話通信料等の影響を除くベースでみた足もとのインフレ率の上昇の約半分はエネルギー価格の上昇によるものです。先行きのエネルギー価格は、不確実性があり、どこかのタイミングで反転し、インフレ率の低下要因になる可能性はあります。しかし、現在のエネルギー価格の上昇は、従来とは異なり、比較的長く持続する可能性も否定できないと考えています。その要因として、世界的な気候変動リスクへの対応によって代替エネルギーへの転換を志向する動きが指摘できると思います。

主要国は、気候変動リスクへの対応として、二酸化炭素排出量の大幅な削減にコミットしようとしています。そのもとで、世界的にエネルギー源を石油や石炭といった化石燃料から、太陽光、風力、水力、地熱といった代替エネルギーへ転換する必要性が各国の共通認識となっています。そのため、従来は、原油需要が拡大した局面では、原油供給量が増えることでエネルギー価格の上昇が抑制されましたが、今次局面では、代替エネルギーを模索する動きがあるもとで、原油需要に見合うかたちで原油供給量が増えず、結果としてエネルギー価格の上昇が続いています。こうした動きは、今後も長く続く可能性があるように思います。また、この間、わが国における中長期的な予想物価上昇率は、持ち直しており(図表10)、先行きも上昇傾向を辿ると考えています。

ポストコロナの物価情勢の注目点

以上のように、先行き物価上昇率が高まっていく可能性についてお話ししましたが、物価上昇が日本国民の大多数のみなさんにとって「良いインフレ」になるためには、賃金上昇率が高まっていくことが必要になると考えられます。現時点では、残念ながら、賃金上昇率が高まっていく動きはまだ明確にはみられていません。しかし、私としては、コロナ禍を通じた企業・家計の行動変容が、人々の「物価観」を変え、それを通じて企業による賃金設定にも、賃金の上昇に繋がり得る変化が生じる可能性に注目しています。

新型コロナウイルス感染症は、いつかは収束するとはいえ、当面、ウイルスが完全に撲滅されることは想定しにくい状況です。ワクチンの効果が相応に期待できるとはいえ、感染症との共存を余儀なくされる状況においては、特に飲食・宿泊・娯楽といった対面型サービス業で感染抑制に相応のコストをかけ続ける必要が生じる可能性があります。また、わが国における高齢化の進行を踏まえると、価格が高くても付加価値が高い財・サービスの消費が、個人消費全体を牽引していく可能性も考えられます。このような高付加価値の財・サービスを提供するため、企業が従業員により高い賃金を支払う動きが出てくる可能性があるのではないかと考えています。これらを踏まえると、ポストコロナという局面は、企業、とくにサービス業が、販売価格を引き上げ、さらに従業員の賃金も引き上げるうえで良い機会になるかもしれないと考えています。

(3)為替相場の物価等への影響

このところ、為替相場の物価等への影響がメディア等で話題になっているため、その点についてお話したいと思います。

最近、円安の動きがわが国のインフレ率上昇に繋がることに関して、「悪い円安によるスタグフレーション」のリスクを指摘する声や、その流れを止めるために日本銀行は早急に金融政策の修正を図るべきであるとする声がメディア等で聞かれます。

スタグフレーションの定義は、論者によってまちまちではありますが、一般には、持続的なインフレ率の上昇と、景気の悪化が同時進行する現象を指すと思われます。10月28日に公表した日本銀行の展望レポート(「経済・物価情勢の展望2021年10月」)における、景気とインフレ率の見通しの中央値を確認すると、実質GDPは、2021年度が前年度比+3.4%、2022年度が同+2.9%、2023年度が同+1.3%、また、消費者物価指数(除く生鮮食品)は、2021年度が前年度比0.0%、2022年度が同+0.9%、2023年度が+1.0%となっており、現状も今後も、スタグフレーションとは程遠いと考えています。これは、例えば、第1次オイルショック時に実質GDPがマイナス成長となり、消費者物価が前年比20%を超える上昇率を示したような状況とは全く異なります。

為替相場の水準について具体的にコメントすることは差し控えますが、一般論としては、円安がわが国経済に与える影響は、様々な要素の相互作用の結果として決まり、その時々の内外の経済物価情勢によって変化し得ると言えると思われます。そう申し上げたうえで、私自身は、このところの為替相場の動きが、例えば、スタグフレーションに繋がるような「悪い円安」の状態にある、とは考えていません。むしろ、このところの円安は、日本企業の海外子会社の収益の増加や輸出企業の収益への寄与を通じて、企業の設備投資を下支えしたり、海外企業による日本での工場建設等の「企業立地」の検討を後押ししたり、わが国にとってプラスをもたらしている面があると思います。

なお、円相場は、中長期的なタイムスパンでみると、比較的狭いレンジ内で推移しているとみています(図表11)。「金利平価説」的な考え方でみると、市場において、わが国と米欧の間の金利差が大きく拡大するとみられておらず、そのもとで円相場が比較的狭いレンジで推移している状態にあるとも言えると思います。日本銀行を含む多くの中央銀行は、為替相場の水準を金融政策の目標とせず、あくまでも2%の物価安定の目標に向けて金融政策運営を行っていますが、主要先進国がともに2%の物価安定の目標を目指していることは、為替相場を安定させている一因になっているとも考えられます。

3.金融政策

日本銀行では、2%の「物価安定の目標」の実現まで、緩和的な政策を粘り強く続けていく所存です(図表12)。

感染症への対応としては、昨年来、日本銀行は、政府と協調しながら、経済を下支えする政策を講じてきました。政府は金融機関による信用供与を支援するため、信用保証や実質無利子・無担保融資を推進し、日本銀行はコロナオペ等を実施してきました。これらの施策の効果もあり、これまでのところ、企業金融環境は全体として緩和した状態を維持してきました。企業の資金繰りは、一部に厳しさはみられますが、企業の倒産件数は、極めて低水準で推移しています。日本銀行の政策対応は、政府の対応とともに、日本経済を下支えする効果があったと考えております。

コロナオペの来年4月以降の取り扱いについては、今後、日本銀行において、新型コロナウイルス感染症の動向や、それが企業金融面に及ぼす影響等を丹念に点検しながら、検討していくことになります。

そう申し上げたうえで、私自身が感染症への政策対応として意識すべきと考えている論点についてお話させて頂きます。

まずは、当面、感染症の影響を注視し、必要があれば、企業による事業の継続を支援する観点から、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる姿勢にあることを指摘しておきたいと思います。今後、もし、感染が再拡大し、公衆衛生上の措置を再び取らざるを得ない状況になった場合等には、企業の資金繰りを支える必要が生じる可能性があります。コロナオペのあり方は、感染症の動向に依存するところが大きく、その動向や企業金融面への影響を見極める必要があります。

一方で、コロナ禍の前から収益性が低く、将来的に債務返済が滞るリスクが高かった企業が延命しているのではないか、といういわゆる「ゾンビ企業論」の意見が、識者の間にあることも承知しております。仮にそれが現実に起きてしまうと、産業の新陳代謝、及び、新規開業などが阻害され、特に地域経済において、経済活性化の妨げになることが懸念されています。コロナ禍入り後の2020年以降の企業の倒産件数について、歴史的な低水準で推移していることは良いことと言えると思いますが、あわせて、成長が期待できる分野において新しい企業が誕生することも意義のあることと考えます。さらに、金融システムの観点からは、コロナ禍に累積した企業債務が、将来、不良債権となって、金融システムのリスクとして顕在化しないかといった視点も意識する必要があるように思います。この点は、地域金融機関の経営上も重要な論点であり、与信先企業の健全性の見極めにあたっては、特に、地域に密着した営業基盤を有する地域金融機関の役割が大切なように思います。低採算企業の再生がテーマになる場合は、企業再生ファンド等の民間資金の役割も重要と思われます。

4.おわりに ――大分県経済について――

最後に、大分県経済について、日本銀行大分支店の調査を通じて承知している情報も踏まえて、お話ししたいと思います。

足もと、大分県経済は、一部に厳しさが残るものの、基調としては緩やかに持ち直しているとみています。個人消費は、感染症の影響が和らぐ中で、人流も戻りつつあり、大型小売店等を中心に持ち直しの動きがみられています。生産も、自動車関連で供給制約に関する先行き不透明感がある一方、化学、鉄鋼、窯業・土石といった素材業種や半導体関連での操業度は高めの水準で推移しています。この間、設備投資も、製造業が牽引するかたちで増加しています。こうした中、今後の成長につながるような前向きな動きがみられ始めていることが、最近の大きな特徴と言えます。

1つ目は、新しい観光業への挑戦です。大分県の主力産業である観光業については、持ち直しの動きがみられるものの、引き続き厳しい状態にあります。ただ、各宿泊施設では、料理のテイクアウト販売や日帰り入浴プランの設定、自家製食品・調味料のインターネット販売の開始など、消費者ニーズの変化に合わせてビジネスモデルを見直す動きがみられています。今般、臼杵市がユネスコから「創造都市ネットワーク」食文化分野への加盟を認定されたことも、観光業の活性化につながると期待しています。

2つ目は、ドローンやアバターといった先端技術の活用です。アバターについては、小中学生による県外教育施設の訪問や工場見学などに活用されているほか、商店街で買い物をする実証実験も行われており、大きな可能性を感じています。また、大分空港がアジア初の宇宙港となる計画が着実に実現に向かう中で、大分県も宇宙ビジネス創出推進自治体として様々な取り組みを進めているなど、今後の宇宙産業創出に向けた動きにも大変注目しています。

3つ目は、カーボンニュートラルに向けた取り組みです。大分県では、2020年5月にゼロカーボンシティを宣言し、各種施策を進めています。とりわけ、水素社会の形成に向けた動きが特徴的です。大分県は、地熱発電および地熱利用によるエネルギー供給量が全国トップで、再生可能エネルギーの自給率が全国第2位と、同分野では先端を行く地域です。足もとでは、この地熱発電の電気を使用して、水を電気分解して水素を製造する実証実験が行われているほか、石油化学コンビナートの精製過程で発生する混合ガスから、高純度の水素を取り出す実証実験が行われていると伺っています。こうした次世代技術の確立に向けて挑戦する動きは大変心強く感じています。

最後に、地方移住促進の動きです。大分県の人口は、若年層を中心とした人口流出により、1985年の125万人をピークに減少傾向にあり、全国を上回るペースで人口減少、高齢化が進んでいます。これに対し、大分県では、コロナ禍を地方移住促進の好機と捉え、移住促進策の強化やワーケーションの推進、積極的な情報発信に取り組んでおり、2020年度のUIJターンによる県内移住者は過去最多を記録したと聞いています。また、移住希望者を対象にIT技術の取得を支援することで、県内におけるIT人材の不足という地域課題の解決にも繋げようとする試みも、将来の成長に資するものと考えられます。

こうした前向きな取組みが結実し、大分県の経済が一層の発展を遂げられることを祈念しまして、挨拶の言葉とさせていただきます。ご清聴ありがとうございました。