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【挨拶】わが国の経済・物価情勢と金融政策青森県金融経済懇談会における挨拶要旨

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日本銀行政策委員会審議委員 片岡 剛士
2022年3月24日

1.はじめに

日本銀行の片岡でございます。本日は青森県の行政、財界、金融界を代表する皆様とオンライン形式で懇談させて頂く貴重な機会を賜り、誠にありがとうございます。あわせて、皆様には、日頃から日本銀行青森支店の業務運営に対し、ご支援、ご協力を頂いておりますことを、この場をお借りして改めて厚く御礼申し上げます。

本日は、わが国の経済・物価情勢と日本銀行の金融政策運営につきまして、私の考えを交えつつお話しします。その後、皆様から、青森県経済の動向や日本銀行の業務・金融政策に対する率直なご意見をお聞かせ頂ければと存じます。青森県を訪問することがかなわず大変残念ですが、どうぞよろしくお願い申し上げます。

2.経済・物価情勢

(1)経済・物価の現状

最初に経済・物価の現状についてご説明します。まず、海外経済は、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が進んだ2020年4~6月期に大幅に落ち込んだものの、その後は国・地域によりばらつきを伴いつつ回復を続けてきました(図表1)。主要国・地域別に敷衍しますと、米国経済は、オミクロン変異株による感染再拡大や供給制約といった逆風はあるものの、個人消費を中心に回復を続けています。また、欧州経済は、新規感染者数の増加を受けて一部の国々で公衆衛生上の措置が一時的に再強化されましたが、全体としては回復しています。中国経済は、基調としては回復しているものの、規制強化に伴う不動産やインフラ投資の弱含み、感染症の拡大に伴う一部地域における公衆衛生上の措置などを背景に成長ペースが鈍化しています。中国以外の新興国や資源国経済は、このところ新規感染者数が増加しているものの、持ち直しています。

しかしながら、2月24日にロシアがウクライナに侵攻したことや、それに伴う各国のロシアへの経済制裁などの動きは、先行きの世界経済への下押し要因となると予想しています。ウクライナ情勢の悪化が経済・物価動向に与える影響として、大きく、ロシアへの経済制裁を背景とした供給懸念に伴う原油・天然ガス・小麦などの資源・穀物価格の上昇、ロシア関連の貿易活動の停滞、そして国際金融市場の変動の3つを挙げることができます。資源・穀物の価格上昇は、インフレ圧力の一層の高まりや長期化を通じて、企業や家計の購買力を悪化させます。またロシア関連の貿易活動の停滞は、ロシア経済の下押しはもとより、グローバルな供給制約の長期化という形で、世界経済の下押しにつながる懸念もあります。さらに国際金融市場では、資産価格が大きく変動するなど神経質な展開が続いています。ウクライナ情勢の帰趨は極めて不確実性が大きく、指摘した3つの変化が海外経済に与える二次的な波及効果や、経済制裁を含む主要国の政策運営が各国経済に与える影響も含め、状況をしっかりと把握していく必要があると考えています。

こうしたもとで、わが国の経済は、基調としては持ち直しの過程にありますが、本年入り後は、下押し圧力が増していると私自身はみています。図表2左図では、実質GDP成長率を折れ線、民間消費や民間設備投資といったGDPを構成する需要項目の寄与度を棒グラフで示しています。2021年10~12月期の成長率は、前期比+1.1%、年率では+4.6%となりました。デルタ変異株による感染拡大が昨年9月にかけて収束し、公衆衛生上の措置が解除されたことで、民間消費や民間設備投資が持ち直したことが寄与しています。また、企業業績も海外経済の回復に沿って製造業を中心に改善し、生産や輸出は拡大しました。もっとも、図表2右図が示すとおり、実質GDPの水準がコロナ禍前を上回るには、まだ時間が必要な状況です。そして2022年入り後は、オミクロン変異株による感染拡大に伴う公衆衛生上の措置の影響により、民間消費を中心に、わが国経済は持ち直しの動きが一服しているとみています。

わが国の物価についてみると、図表3に示したとおり、本年2月の消費者物価は、生鮮食品を除く総合で前年比+0.6%となりました1。また試算値ではありますが、携帯電話通信料に加えてエネルギー価格などの一時的な要因を除いた消費者物価は、前年比0%台後半のプラスで推移しています。図表4では消費者物価の基調的な変動を示す指標の動きをまとめています。物価の基調を示すこれらの指標は、感染症の影響が深刻化した2020年以降は緩やかに低下しましたが、2021年以降は上昇に転じ、足もとでは感染症拡大前の水準まで戻っている状況です。

  1. 1生鮮食品およびエネルギーを除く総合では、前年比-1.0%となりました。

(2)経済・物価の先行き

続いて、わが国の経済・物価の先行きについて、政策委員の中心的な見方をご説明します。図表5は、本年1月に公表した日本銀行の展望レポートにおける経済・物価見通しの中央値を示していますが、実質GDP成長率については、2021年度+2.8%、2022年度+3.8%、2023年度+1.1%と予想しています。昨年10月時点の見通しと比べると2021年度は下振れ、2022年度は上振れとなっていますが、これは、2021年度半ばから後半にかけて、供給制約の影響を受けた自動車部門などの生産落ち込みによる成長率の押し下げと、2022年度以降の政府の経済対策や挽回生産などによる成長率の押し上げを踏まえたものであって、基本的なシナリオに変化はありません。すなわち、日本経済は、感染症によるサービス消費への下押し圧力や供給制約の影響が和らいでいくもとで、外需の拡大や緩和的な金融環境、政府の経済対策の効果が下支えとなって回復基調を辿ることが予想されます。また感染症の影響が収束すれば、成長はさらに強まることが期待できます。

わが国の物価の先行きについては、図表5のとおり、展望レポートにおいて2021年度ゼロ%、2022年度+1.1%、2023年度+1.1%と予想しています。2022年度にかけて、エネルギー価格や原材料コストが上昇するもとで携帯電話通信料の下落といった特殊要因も剥落することから、物価上昇率は、プラス幅を拡大していくと見込んでいます。その後は、マクロ的な需給ギャップの改善や中長期的な予想物価上昇率の高まりなどによる基調的な物価上昇圧力を背景に、見通し期間終盤にかけて前年比1%程度の上昇率が続くと考えています。

(3)先行きのリスク要因

以上、経済・物価の先行きについて政策委員の中心的な見方を説明しました。もっとも、こうした見方はロシアのウクライナ侵攻の影響を踏まえていないことに留意する必要があり、特に当面は、感染症拡大に伴う影響や地政学的リスクを中心に経済は下振れリスク、物価は資源価格上昇に伴う上振れリスクに注意が必要と考えています。以下では、先行きのリスク要因について、私が注目しているポイントを3点お話ししたいと存じます。

1点目は、感染症の拡大が繰り返されることによる経済成長への影響です。昨年11月後半にアフリカ南部で確認されたオミクロン変異株は、世界各地で猛威をふるいました。図表6は世界における新規感染者数の推移を示していますが、直近のピークをみると、デルタ変異株による感染が拡大した昨年後半の数倍の規模となっており、オミクロン変異株の感染力が非常に強いことが分かります2

感染症の拡大は、総需要および総供給の減少を通じて経済に影響します。すなわち、感染者数の拡大に伴う医療負荷を抑えるための外出や移動制限、一部産業に対する営業制限といった公衆衛生上の措置や、感染症への警戒感を受けた人々の自発的な外出の抑制は、家計消費をはじめとする総需要を減少させるとともに、労働力供給の減少を通じて総供給の減少にもつながります。2020年春の感染拡大期には世界中で厳しい行動制限が導入され、経済成長率は、需給両面の落ち込みを伴いながら大幅なマイナスとなりました。その後は、米欧ではブースター接種を含むワクチンの普及などにより感染抑制と経済活動再開の両立の動きが進み、感染症の拡大が総需要に与える影響は弱まってきています。とはいえ、新たな変異株による感染拡大が総需要の回復を後ずれさせ、ひいては、供給面の落ち込みを伴いながら経済の成長力そのものを停滞させるリスクには引き続き留意する必要があります。

2点目は、供給制約が長期化する可能性と、それが各国経済に及ぼす影響です。2020年以降、供給制約が強く意識されるようになった理由は、感染症が長期化するなかで、特に財に関して、総需要の拡大に総供給が十分に追いつけない状況が続いたためです。総需要については、感染症による経済の落ち込みを最小限にするべく各国政府や中央銀行が大規模な財政・金融政策を講じるなかで、経済活動の再開が進むにつれて感染症下で抑えられていた総需要の巻き戻しが生じました。こうした巻き戻しはペントアップ需要という形で、感染抑制と経済活動再開の両立を早いタイミングで進めた米国や欧州で顕在化しました。一方で総供給については、感染を避けるなどの理由で労働市場から退出していた人々が期待ほど市場に戻らなかったために労働供給の回復が遅れたこと、またサプライチェーンの毀損や物流のボトルネックの長期化もあって、自国のみならず他国の生産力の回復の遅れにもつながっています。図表7では、左側にエネルギーや食品の価格も含めた物価上昇率、右側に入荷遅延の状況を示しています。遅延の度合いが物価上昇率の高止まりに影響していること、そして、遅延の度合いには各国で差があるものの深刻な納期の長期化が続いており、当面の間は、納期の長期化が容易に解消されない蓋然性が高いことがわかります3

供給制約は、大きく言えば、生産の下振れに伴う企業の機会損失に加え、インフレ圧力の高まりに伴う家計の購買力低下や交易条件の悪化による企業収益の下押しといった経路を通じてわが国経済にも影響を及ぼします。このうち、インフレ圧力の高まりに伴う家計の購買力低下については、主としてエネルギーや食料品といった必需財の価格が上昇しており、特に、購買力低下の影響を受けやすい低所得者層への影響が懸念されます。

また交易条件の変化について図表8をみると、2013年以降では、交易条件の悪化局面が2013年から2014年10月、2017年から2019年5月、そして2021年3月以降の3度にわたって生じていることがわかります。また、今次局面の特徴として、悪化度合いの大きさに加え、輸入価格の上昇が大きく影響していることが挙げられます。さらに、原油輸入価格の上昇が交易条件の悪化の主因であった2017年から2019年の状況とも異なり、今次局面では、原油価格だけではなく、供給制約を反映して金属製品や木材など幅広い財の輸入価格も上昇していることが特徴です。こうした原材料コストの高止まりが続くもとで販売価格へのコストの転嫁が進まない状況が続く場合、企業が資本や労働に利益を分配する流れを頓挫させるリスクが高まります4

3点目は、各国のマクロ経済政策の今後の影響5、特に米国の金融政策が資産市場と国際金融市場に及ぼす影響です。米国の利上げは、米国経済のみならずコロナ禍からの回復途上にある新興国市場にも、国際金融市場の資本フローの変化を通じて影響を及ぼします。また、中国経済についても、不動産部門などの調整が成長率を下押しすることで世界経済に負の影響を及ぼすリスクが懸念されます。あわせて、先ほども申し上げたとおり、最近のウクライナ情勢などの地政学的リスクが資源・穀物価格、世界経済や国際金融市場に及ぼす影響についても十分に注視していくことが必要です。

  1. 2わが国でも、オミクロン変異株の流行が始まった本年1月以降、感染者数が急増しました。オミクロン変異株は、デルタ変異株に比べて重症化率が低いとみられるものの、この間、ピークでみると重症者数は昨年秋の約7割に達し、一部地域では医療提供体制の逼迫につながりました。
  2. 3たとえば日本貿易振興機構(2022)「供給制約、輸送の混乱と企業の対応状況」(下記URL)によると、少なくとも年内は物流の混乱が続くとの声が多いことがわかります。
    https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/covid-19/info/logistics0217r.pdf
  3. 4なお、為替レートは、円ベースでみた輸出価格と輸入価格の両面に影響するため、全体として、交易条件に与える影響は大きくないことに注意が必要です。
  4. 5世界的なインフレ圧力の強まりに伴い、2021年10~12月期に利上げに踏み切った中央銀行は31と7~9月期の23から増加しています。

3.金融政策運営

以上の経済・物価見通しを踏まえつつ、現在の金融政策の概要と最近の政策決定についてご説明します。そのうえで、金融政策運営に対する私の考えを申し上げたいと存じます。

(1)金融政策の概要と最近の政策決定

日本銀行は「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」という枠組みに基づき、2%の「物価安定の目標」の達成に向けて金融政策を運営しています。この枠組みは、「長短金利操作」、「リスク資産の買入れ」、そして、先行きの政策運営についての対外的な約束である「コミットメント」の3つから構成されます。

これらに加えて、日本銀行は2020年3月以降、感染症に伴う経済・金融的影響への対応策を実施してきました。これは大きく、(1)企業等の資金繰りを支援する「特別プログラム」、(2)円貨および外貨の潤沢かつ弾力的な供給、(3)ETFとJ-REITの買入れ、の3つの柱から成っています。昨年12月の金融政策決定会合では、感染症への対応策のうち、本年3月末が期限であった「特別プログラム」について中小企業向けの資金繰り支援を9月末まで半年間延長する一方で、大企業向けについては期限通り終了することを決定しました。図表9では概要を示していますが、こうした判断に至った理由は、企業の資金繰りは全体として改善しているものの、対面型サービス業および中小企業を中心になお厳しさが残っているためです。「特別プログラム」の修正は、感染症への対応策の終わりを意味するものではありません。日本銀行としましては、引き続き、感染症の影響を注視しつつ、必要があれば、適切な措置を講じていく方針に変わりがないことを強調しておきたいと存じます。

また、気候変動問題に関しては、中長期的に経済・物価・金融情勢に極めて大きな影響を及ぼすとの認識から、気候変動分野での金融機関の多様な取り組みを支援するための資金供給を行っています。昨年11月に対象先として43先を選定し、12月の初回オペでは約2兆円の資金供給を行いました。日本銀行としましては、引き続き、気候変動対応に資する民間の取り組みをサポートしていきたいと考えています。

(2)金融政策運営に対する私自身の考え

以上ご説明した金融政策のうち、私は、感染症や気候変動への対応策については賛成しましたが、長短金利操作とコミットメントについては反対を続けました。資金繰り支援策、流動性供給や気候変動対応だけではなく、2%の「物価安定の目標」を早期に達成し、日本経済が力強い成長軌道に復することを支援するため、より金融緩和姿勢を強める必要があると引き続き考えているためです。

順を追って説明したいと存じます。金融政策の判断の基礎となるのは物価動向の判断です。足もとの状況を判断する際には、次の2つの点に留意すべきです。

第1に、物価動向の判断にあたっては、消費者物価のみならず、企業物価やGDPデフレーターも含めた幅広い指標の動きをみる必要があるということです。特に、GDPに関する物価指数であるGDPデフレーターは、2021年4~6月期以降、図表8でみた交易条件の悪化を反映して、図表10のとおり前年比で下落を続けています。これは、足もとの物価上昇は海外からの輸入品価格上昇に依る所が大きく、国内における需要の拡大や賃金上昇が主な要因ではないことを意味しています。

第2に、消費者物価の動きを判断する際には、一時的な要因等を除いた基調的な動きをみることが重要だということです。図表4から改めて消費者物価の基調的変動を示す各指標の動きを確認すると、足もとでは、石油製品、食料工業製品や被服といった財価格を中心に、各指標は緩やかに上昇しています。もっとも、 消費者物価の上昇率が2%を上回った時期を含む、基調的変動を示す各指標の動きを示した図表11をみると、1990年半ばから1992年半ばまでは加重中央値および刈込平均、1991年半ばから1992年半ばまではすべての指標が、消費者物価と同じく2%を上回る上昇率に達しており、足もとの刈込平均、加重中央値や最頻値の水準と比較すると差があります。以上から、価格上昇の「広がり」といった観点から足もとの消費者物価を取り巻く環境を評価すると、基調的変動を示す各指標は、一時的に消費者物価の上昇率が高まった2008年や2014年頃と同程度の水準に達しているものの、2%の「物価安定の目標」を安定的に達成できる環境からは距離があると言えます。

さらに図表12のとおり、物価の基調的な変動に影響する需給ギャップや予想インフレ率の動きをみても、需給ギャップは依然として供給超過の状態が続いていますし、予想インフレ率も上昇傾向にあるとはいえ、まだ2014年頃の直近ピークには達していません。

消費者物価の動きについては、これまで述べた物価の基調的な変動や、それに影響を与える変数の動きに着目することに加え、物価上昇の「勢い」がどの程度であれば目標に到達しうるのか、という観点からも検討可能です。図表13は、統計的手法を用いて「2年後までに物価上昇率が2%に到達する確率6」を試算したものです。過去1年間の物価上昇率の平均的なトレンドが先行きも続くとの前提で試算した2%到達確率は、昨年7月以降上昇しているものの、その多くがエネルギー価格の上昇によるものであったことがわかります。特殊要因を除いた物価上昇率から計算した確率も上昇していることから、物価上昇の勢いがエネルギー価格に留まらず様々な財に先行き広がっていく可能性はありますが、到達確率の観点からは十分とは言えません。

消費者物価は、2022年度入り後、これまで物価を押し下げていた特殊要因が剥落するため、一時的にせよ1%台半ばを上回る上昇率で推移する蓋然性が高いと思いますし、原油価格の動向次第ではその動きがさらに強まる可能性もあります。しかしながら、消費者物価の基調的な動きをみる限り、こうした物価上昇は長続きせず、2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムはみられないというのが現時点での私の判断です。

このような判断を前提とすると、コロナ後を見据えた企業の前向きな設備投資を後押しすることで企業の高水準の貯蓄の解消を進め、所得と需要の拡大を伴った持続的な物価上昇につなげるためにも、需給ギャップと予想インフレ率を高めるべく緩和姿勢をより強めることで、経済の回復と物価安定目標の達成を早期に実現していく必要があると考えています。具体的には、需給ギャップの拡大に働きかけるべく、長短金利操作において、長短金利の低下を明示したうえで、積極的な国債買入れを行うことが適当です。

また、予想インフレ率を高めるためのコミットメントの強化については、政策金利のフォワードガイダンスを物価目標と関連付け、具体的な条件下で行動することが約束されている強力な内容に修正することが適当と考えます。これは、2%の「物価安定の目標」を安定的に達成・維持できる状況を満たさない限り、引き締め方向への金融政策の変更はないことをより明確に表明することにつながりますし、金融政策において重要な、期待をコントロールするという観点からも意味があると考えます。さらに財政・金融政策の連携を強化し、ポリシーミックスを着実に実行していくこともあわせて重要です。引き続き、日本銀行政策委員会の一員として、「物価安定の目標」の達成・維持に向けて最大限の努力をして参りたいと存じます。

  1. 6確率過程がある閾値に初めて到達する時点がワルド分布に従うことを前提に、閾値を2%、2年後を基準として、それまでに物価上昇率が2%に到達する確率を試算したもの。1991年から2012年までの推計結果については、片岡剛士(2018)「わが国の経済・物価情勢と金融政策―神奈川県金融経済懇談会での挨拶―」(下記URL)の図表9をご覧ください。
    https://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2018/ko180906a.htm/

4.青森県経済について

最後に、青森県経済について、日本銀行青森支店の調査を参考にしつつお話しいたします。

青森県は、三方を海に囲まれ、世界遺産である白神山地をはじめとする豊かな自然に恵まれた地域です。歴史を振り返ると、江戸時代には陸路と海路の整備が進められ、交易を通じて商業が発達しました。また、豊富な資源を背景に農林水産業や観光業が発展したほか、製造業の集積も進んできました。こうしたなか、日本銀行青森支店は、1946年に戦後第1号支店として開設され、現在に至っております7

足もとの県内景気は、オミクロン変異株による感染拡大の影響により宿泊・飲食といった対面型サービス消費を中心に厳しい状態にあるなか、供給制約の影響もあり、弱含んでいます。また、構造的には、人口減少や少子高齢化が全国に先駆けて進んでいます。しかしながら、コロナ禍において、地方移住への関心の高まりが追い風となったこともあり青森県の転出超過数が縮小するなど、明るい兆しもみられています。先行きを展望しますと、コロナ後の中長期的な成長に向けて、青森県は3つの大きなポテンシャルを有していると考えています。

1点目は、青森県は、再生可能エネルギーの一大供給地であることです。特に風力発電事業では、津軽地域や下北半島が好立地として注目されており、2020年度の風力発電実績は全国トップとなっています。脱炭素化の流れが急速に進むなか、今後も風力発電施設の建設が計画されており、当地でもメンテナンス産業への参画などを通じた雇用機会の創出や域外からの収入獲得が期待されます。

2点目は、昨年7月に「北海道・北東北の縄文遺跡群」が世界文化遺産に登録されるなど、豊富な観光資源を有していることです。1万年にもわたり続いた縄文文化に触れることのできる縄文遺跡群は、悠久の歴史に思いを馳せることのできる大変魅力的なコンテンツであり、ウィズ・アフターコロナにおいて交流人口の増加につながることが期待されます。

3点目は、食糧供給基地としての優位性です。青森県の食料自給率は全国トップクラスで、農業産出額の伸び率も全国1位となっています。りんごをはじめとする一次産品の輸出額は東アジアを中心に増加しています。また、最近では高度なAI・IoT技術を駆使することで減農薬栽培を実現するなど、生産性の向上や高付加価値化に取り組む動きもあると聞いています。

日本銀行としても、青森支店を中心に、青森県経済の発展に少しでも貢献できるよう努めてまいります。

ご清聴ありがとうございました。

  1. 71965年から68年にかけて、「戦艦大和ノ最期」という著作で作家としても有名だった吉田満が支店長として勤務しました。吉田は、その著書「青森讃歌」における「青森県経済の診断書」という章で、青森は「未来県」、「持てる可能性をすべて引き出すことができれば、前途はまさに洋々たるものであろう」、「青森県の持つ第一の宝庫は、何といっても天然資源であろう」と著し、青森県の持つ可能性に大きな期待を見出していました。