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【挨拶】第97回信託大会における挨拶

日本銀行総裁 黒田 東彦
2022年4月13日

はじめに

本日は、第97回信託大会にお招き頂き、誠にありがとうございます。

今年は、大正11年(1922年)に信託法および信託業法が制定されてから100周年の節目となります。この間、信託制度は、信託財産の規模を拡大し、その活用分野の裾野を広げるなど、大きく発展を遂げてきました。あらためて、わが国の経済や社会に貢献してこられました信託業界の皆様のご尽力に対し、日本銀行を代表し、深く敬意を表します。

経済・物価情勢と金融政策運営

まず、経済・物価情勢と金融政策運営についてお話しします。

わが国経済については、感染症の影響などから一部に弱めの動きもみられますが、基調としては持ち直していると判断しています。個人消費は、年明け以降のオミクロン株の流行の影響から、持ち直しが一服していますが、3月下旬以降は、まん延防止等重点措置の解除を受けて、改善の兆しもみられます。この間、企業部門では、供給制約の影響が長引いていますが、輸出や生産は、海外経済の回復を背景に基調としては増加を続けています。3月短観では、感染再拡大や、ウクライナ情勢等を受けた資源価格の上昇の影響などから、業況判断は小幅に悪化しましたが、企業収益と設備投資の増加基調は続いていることが確認できました。先行きのわが国経済は、資源価格上昇による下押しの影響を受けますが、感染症や供給制約の影響が和らぐもとで、財政・金融政策の下支えもあって、回復していくとみています。

次に、物価です。消費者物価の前年比は、足もとでは0%台半ばとなっています。先行きについては、当面、エネルギー価格が大幅に上昇し、食料品を中心に原材料コスト上昇の価格転嫁も進むもとで、携帯電話通信料下落の影響も剥落していくことから、プラス幅をはっきりと拡大すると予想しています。この間、マクロ的な需給バランスの改善や予想物価上昇率の高まりなどを背景に、基調的な物価上昇圧力は高まっていくとみています。

ただし、こうした見通しを巡っては、変異株を含めた感染症の影響に加え、ウクライナ情勢の帰趨とその資源価格への影響などを中心に、きわめて不確実性が高いと考えています。

続いて、金融政策運営です。わが国のGDPは、依然として感染症拡大前の水準を下回って推移しています。また、足もとでみられる輸入コストの上昇に起因する物価上昇は、家計の実質所得の減少や企業収益の悪化を通じて、わが国経済の下押し要因となります。このような経済・物価情勢を踏まえ、日本銀行としては、現在の強力な金融緩和を粘り強く続けることで、感染症からの回復途上にある経済活動をしっかりと支え、2%の「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現を目指していきます。

信託業界への期待

次に、信託業界に期待することを2点申し上げます。

1点目は、国民の安定的な資産形成や財産管理の支援です。資金循環統計によれば、2021年12月末に家計の金融資産残高は2千兆円を超え、過去最高を更新しました。人生100年時代において、生涯を通じて個人が安心して利用できる資産運用手段として、信託制度が果たす役割は非常に重要です。信託業界では、投資信託や年金信託に加えて、高齢化が進む社会のもとで、遺言・相続にかかる各種のサービスや、中小企業・小規模事業者の事業継承などの支援にも積極的に取り組まれてきました。今後も、受益者のニーズに応える形で、付加価値の高い金融サービスを提供されていくことを期待します。

2点目は、気候変動問題など社会の持続的な成長に向けた課題解決への貢献です。日本版スチュワードシップ・コードは、機関投資家が、ESG要素を含む中長期的な持続可能性の考慮に基づいて、投資先企業とのエンゲージメントなどを行うことを期待しています。また、最終的な受益者たる個人が、持続的な社会の実現に資する投資判断を行うためには、適切な金融商品やサービスが提供されることも重要です。信託協会では、企業のESGへの取り組み促進に関する研究会を設置し、先月、その議論を取りまとめたレポートを公表されました。企業のみならず、機関投資家などにとっても、今後の取り組みを進めていくうえで、非常にタイムリーで有用な内容だと受け止めています。

おわりに

最後に、今後の信託業界の皆様方のご健勝とご発展を祈念いたしまして、私からのご挨拶とさせて頂きます。ご清聴ありがとうございました。