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【挨拶】CBDCを発行するとすれば「中央銀行デジタル通貨に関する連絡協議会(第3回)」における開会挨拶

日本銀行理事 内田 眞一
2022年4月13日

本日は、中央銀行デジタル通貨(CBDC)に関する連絡協議会にご参加頂き、誠にありがとうございます。

昨年10月に第2回の協議会を開催してから半年あまりが経過しました。

その後、日本銀行では、CBDCに求められる機能や特性が技術的に実現可能かどうかを検証するための概念実証の第1段階(フェーズ1)を予定通り終了し、4月からは第2段階(フェーズ2)に移行しています。フェーズ2では、フェーズ1で確認したCBDCの基本機能に、より複雑な周辺機能を付け加え、その実現可能性や課題を検証していきます。概念実証を終えた後、必要に応じて、金融機関や民間事業者が参加するパイロット実験を実施していくことも検討していく方針です。

海外に目を転じますと、欧州中央銀行(ECB)は、昨年10月に正式にスタートした「デジタルユーロ」プロジェクトの下で、様々な実務的な課題への対応を進めており、欧州議会や各国政府との間で制度設計に関する議論も行われています。また、中国人民銀行は、デジタル人民元の発行に向けた準備を進めており、試験的な運用の一環として、北京オリンピック・パラリンピック会場でもパイロット実験を行いました。この半年間で、最もニュースが多かったのは米国です。まず本年1月、FRBは、CBDCに関する市中協議ペーパーを公表し、技術面でも、ボストン連銀がMITと共同でCBDCに関する研究(プロジェクトハミルトン)のフェーズ1報告書を公表しました。3月にはバイデン大統領が、FRB以外の連邦政府機関にも、「デジタルドル」の研究を進めるよう指示しました。

この間、民間のステーブルコインは、海外を中心に存在感を着実に高めてきており、その残高は、日本円換算で10兆円を優に上回る規模となっています。ステーブルコインは利用者にメリットをもたらす可能性がある一方で、そのメリットを持続的に享受できるようにするには、マネーロンダリングやサイバーリスク、消費者・投資家保護、金融システムの安定への影響など様々な課題が解決される必要があります。そうした認識の下で、先進主要各国は、ステーブルコインに対し、厳格な規制で臨む方向になっています。米国では発行を「預金取扱機関」に限定する方向が示されましたし、ユーロやわが国では、ノンバンクによる発行を認める一方で、その際には顧客から預かった資金について、安全かつ流動性の高い資産に運用したり、供託などによる厳格な利用者保護を求めたりする方針です。つまりステーブルコインを発行するなら銀行になるか、あるいは顧客の資産をしっかりと保全するという方向になっています。

具体的な規制の進展度合いは各国まちまちですが、仮にこの先そうした方向で進むとなれば、ステーブルコインの発行者は、デジタル決済そのものではなかなか儲からない、ということになりそうです。となれば、例えば、プラットフォーマーとしてデータ利用や広告で収入を得るとか、顧客を囲い込んで加盟店手数料を取る、といった方法で、この「儲からない」部分のコストを補うことになっていきます。これを決済システム全体としてみた場合、細切れ化(フラグメンテーション)や独占といった問題が深刻になっていく可能性を無視できません。

そうならないようにする、つまり、安全で切れ目のない決済システムを構築するためには、この「儲からない」部分をどう提供するか、考えなければなりません。もともと「儲からない」のは、安全性と相互運用性という全体利益の対価ですから、これを非競争領域として、金融界あるいはより広く社会全体で提供していくということもひとつの選択肢になってきます。例えば、欧州では、デジタル通貨の基盤となる部分は非競争領域として、スウェーデンのスウィッシュのように民間金融機関の共同運営により提供するか、ユーロシステムが模索しているように中央銀行が公共財としてCBDCを提供するということになってきています。デジタル化の下で、ネットワーク効果が格段に大きくなっていることから、従来のように、個々の民間事業者の競争に委ねておけば自ずと決済サービスの改善が実現するとは限らず、何らかの協調、コーディネーションが不可欠になってきているということでしょう。

こうした点に関し、前回の協議会では、仮にCBDCを発行する場合の基本的な考え方を申し上げました。すなわち、第1に、中央銀行は、あくまで公共財としての則を守り、民間決済サービスとの共存を図る必要がある、第2に、その際、「水平的な共存」だけでなく、「垂直的な共存」すなわちCBDCのエコシステムの中で様々な主体がどのように役割を分担するかが重要である、というお話をしました。

具体的なエコシステムの姿としては、中央銀行がCBDCという公共財を発行したうえで、民間事業者がCBDCの上に様々なサービスを上乗せして利用者に提供する、あるいは、CBDCが民間事業者の構築した様々な基盤の上やそれらの間を流通する、という構造が想定されます。これが出来れば、相互運用性を確保しながら、非競争領域における民間事業者の重複投資を回避するとともに、残りの競争領域において、多数の民間事業者が創意工夫を競う環境を整えられることになります。

CBDCを発行する場合のデザインを考えるうえで、もうひとつ重要なポイントがあります。それは、中央銀行が構築するCBDCの中核システムには、極めて高い信頼性が求められるということです。CBDCの場合、国民全てがユーザーとなるわけですから、民間主体がそれぞれ提供するデジタル決済手段に比べて、サイバーアタックの対象になりやすくなります。システムトラブルなどによって一時停止すれば、社会への影響は格段に大きなものになるということも、十分に認識する必要があります。

改めて申し上げますが、日本銀行は、CBDCを発行するか否かについて、決定していません。それは、日本銀行あるいは金融界だけで決められることではなく、国民的な判断になります。ただ、「発行するとすればどのようなデザインになるか」を考えていくことは、「発行すべきかどうか」の判断をするうえでも有益です。その際には、以上お話ししたような観点、すなわち、第1に、中央銀行が提供する公共財としてどういうものがふさわしいか、第2に、極めて信頼性の高いCBDCエコシステムを、どう作っていくか、といった点を念頭に置く必要があります。

具体的な制度設計については、今後議論していくことになりますが、例えば、フェーズ2では、1ユーザーに対する複数仲介機関を通じた口座提供や複数口座の「名寄せ」について実験を行います。ひとつの口座や仲介機関が使えなくなっても別のルートを使えるようにしておくことは、エコシステム全体の頑健性を確保するための一つの選択肢です。利便性の面でも、ユーザーが用途に合わせて、接点となる仲介機関やその他の民間事業者を選べることは利点の一つになると考えられます。

フェーズ2では、銀行預金からの不測の資金シフトを防止するためのセーフガードとして、CBDCの保有額や取引額に対する制限について検証します。また、CBDCに対する付利機能についても検証していく予定です。現金代替という基本的な役回りや預金との競合を回避することなどを考えると、付利機能を導入する必要性は高くなさそうですが、それでも、制度設計に関する将来の議論に備えて、「できるかどうか」を技術的に確認しておくことは必要です。なお、学界等でマイナス金利実現の観点からCBDCの付利機能を使うというアイデアが語られることがありますが、こうした観点でCBDCを導入することはありません。そうした「動機」に、国民的合意が得られるとは考えられませんし、実務的にも、現金が並存することを考えると現実性がありません。

昨年度に比べますと、皆様との対話におきましても、より具体的なシステムデザインをお示ししながら、「発行するとすればこのようなデザインのCBDCを考えているのだけれども、どう思われますか」といったお話をさせていただく機会が増えると思います。そのうえで、皆様の将来のビジネスにどうフィットしていくのか、そして、それはどのような決済システムの全体像につながっていくのか、一緒に考えていければと考えております。その先にいずれは、「そういうデザインのCBDCは必要か」というまさに「発行すべきかどうか」という問いに対する、金融界全体としての答えにつながっていくのではないかと期待しています。

最後に、CBDCがあるにせよ、ないにせよ、日本独自のシステム、ガラパゴスになることは避けましょう。いくら器用で工夫に満ちたものでも、世界の標準的なやり方とフィットしない仕組みは、デジタルの世界では決定的なディスアドバンテージになります。日本銀行は中央銀行間の協力関係を大事にしながら、世界のトレンドを押さえ、その形成にも貢献していこうと考えています。同時に、世界の流れによっては、私共の仕事も、皆様のビジネスも、これまでの延長線上で済まなくなる可能性は相応にあり、そうした覚悟を持って、進めていかなければならないテーマなのだろうと思っています。

本日も、この後、実証実験の進捗状況等について情報共有させて頂くとともに、皆さまから幅広くご意見を聞かせて頂き、今後の検討に役立てて参りたいと考えております。よろしくお願いします。

ご清聴ありがとうございました。