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【挨拶】最近の金融経済情勢と金融政策運営岩手県金融経済懇談会における挨拶

日本銀行副総裁 雨宮 正佳
2022年7月28日

1.はじめに

日本銀行の雨宮でございます。本日は、岩手県の行政および金融・経済界を代表する皆様との懇談の機会を賜りまして、誠にありがとうございます。また、皆様には、日頃より、私どもの盛岡事務所および仙台支店の様々な業務運営にご協力頂いております。この場をお借りして、改めて厚くお礼申し上げます。

日本銀行は、先週の金融政策決定会合において、2024年度までの経済・物価見通しを「展望レポート」として取りまとめ、公表いたしました。本日は、その内容をご紹介しながら、わが国の経済・物価情勢についての日本銀行の見方と金融政策運営の考え方について、ご説明します。

2.経済情勢

景気の現状

はじめに、景気の現状についてお話しします。わが国経済は、新型コロナウイルスの感染状況に応じて、一進一退の動きを長らく続けてきましたが、本年春以降は、感染症の影響が和らぐもとで、持ち直してきています。

まず、家計部門の動向です(図表1)。感染症は、人との接触や移動を伴う消費活動、とりわけ外食や旅行といった対面型サービス消費を下押ししてきました。本年1から3月も、オミクロン株の流行に伴い、個人消費はサービス分野を中心に弱めの動きとなりました。もっとも、3月下旬の「まん延防止等重点措置」の解除以降は、人出の増加を伴いながら、個人消費の回復は明確になってきています。実際、外食産業の売上高は、大人数での会合や二次会需要などに弱さは残っていますが、全体としてみれば、感染症拡大前の水準に近づいてきています。また、国内旅行についても、日本銀行による企業へのヒアリング等も踏まえますと、現時点では、「県民割」の効果もあって、夏休みは堅調な滑り出しとなっている模様です。もっとも、最近の感染者数の増加は、かなり急激であるだけに気がかりな要因です。また、エネルギーや食料品を始めとする物価上昇についても、消費者マインドの悪化に繋がっており、今後の動向には十分な注意が必要です。

次に、企業部門の動向です。企業の生産活動は、世界的な供給制約による強い下押し圧力を受けており、その影響は、輸出のみならず、国内の設備投資や耐久財の消費にも拡がっています(図表2)。感染症の流行は、世界的にサービスから財への大規模な需要シフトを引き起こすとともに、オンライン会議や在宅勤務の普及などを通じて、デジタル関連需要の急激な拡大とそれに伴う半導体不足をもたらしました。こうした中で、各国の行動制限により工場の稼働停止の動きも相次いだことから、供給制約の影響は、当初の予想以上に長期化しています。最近では、中国上海市で実施されたロックダウンに伴う物流網の混乱の影響も加わって、部品の調達が難しくなっており、わが国の生産水準は、自動車関連を中心に、はっきりと低下しています。こうしたもとで、輸出については、海外経済の回復に支えられた増加トレンドを維持していますが、供給制約の影響から、このところ改善が足踏みしています。耐久財の消費についても、供給制約の強い自動車の販売は低水準で推移しており、購入から納車までの期間は長期化している模様です。企業からのヒアリング情報も踏まえますと、中国ロックダウンの影響は、徐々に和らいできているようですが、中国政府がいわゆる「ゼロ・コロナ政策」を維持する中で、再び同国の感染者数は増加しており、今後の動向には注意が必要です。

このように、わが国経済は、感染症の影響が和らぐ中で、サービス部門を中心にようやく明るさが見え始めていますが、一方で、今申し上げたような供給制約により、製造業の生産活動は下押しされています。この点は、6月短観の企業の業況感でも、非製造業の改善、製造業の悪化という形で表れていました。

景気の先行き

次に、景気の先行きについてです。わが国経済は、ウクライナ情勢等を受けた資源高による下押し圧力を受けますが、感染症の影響が和らぎ、供給制約も解消に向かう中で、回復していくと予想しています。

こうした見通しについて、もう少し詳しくご説明します。まず、家計部門です(図表3)。個人消費は、感染症拡大のもとでの行動制限や自粛などにより、所得に比べ著しく低迷しましたが、現在は、感染症の影響が和らぐもとで、外食や旅行などのサービス消費を中心に緩やかに増加しています。先行きについては、物価上昇による下押し圧力を受けるものの、これまで蓄積した貯蓄にも支えられ、行動制限下で控えられてきた需要、いわゆるペントアップ需要が顕在化することから、引き続き増加するとみています。この間、雇用者所得は、経済活動の回復に伴う雇用者数や賃金の増加を反映して、緩やかに改善しており、この動きが今後も続くと見込まれます。来年度以降は、ペントアップ需要の顕在化ペースは鈍化していくとみていますが、こうした雇用者所得の改善が下支えとなり、個人消費は着実な増加を続けると考えています。

続いて、企業部門です(図表4)。輸出は、海外経済の回復が続くもとで、供給制約の解消に伴い、自動車関連やデジタル関連を中心に増加していくとみています。企業収益については、法人企業統計の経常利益をみますと、2021年度は既往ピークを更新しました。先行きについては、原材料コストの上昇が下押し圧力として作用しますが、内外需要の増加に加え、為替円安の影響もあって、業種・規模間のばらつきを伴いながらも、全体として高い水準で推移すると考えています。そうしたもとで、設備投資は、緩和的な金融環境による下支えに加え、供給制約の緩和もあって、増加傾向が明確になっていくとみています。実際、6月短観の設備投資計画をみても、2022年度は、例年以上にしっかりと増加する計画となっています。企業は、人手不足対応の省力化投資だけでなく、デジタル化や脱炭素化といった分野での研究開発を含む設備投資についても、積極化させていくことが期待されます。

以上の見通しを実質GDPの成長率で申し上げますと(図表5)、2022年度が+2.4%、2023年度が+2.0%、2024年度が+1.3%になると予想しています。日本経済の巡航速度である潜在成長率は、足もとで0%台前半と推計されますので、昨年度も含めれば4年連続で潜在成長率を上回る成長が続く見込みです。GDPの水準も、本年度後半頃には、コロナ以前の2019年の平均水準を回復するとみられます。ただし、回復ペースは欧米に比べ遅れをとっており、この点については後ほど改めて触れたいと思います。

見通しを巡るリスク

こうした見通しを巡る不確実性はきわめて高く、当面は下振れリスクの方が大きいと考えています。リスク要因として、私自身は、次の2点をとくに意識しています。

第1は、個人消費の持続力です。先ほども申し上げたとおり、当面の個人消費は、実質所得面からの下押し圧力を受けながらも、ペントアップ需要に支えられて増加すると想定しています。しかし、ペントアップ需要が期待されるのは、とくに外食や旅行といったサービス消費ですので、その動向は、今後の感染状況に大きく左右されます。また、ペントアップ需要は、その性格上、次第に勢いが衰えていくものですので、個人消費の増加が持続するためには、賃金の上昇が不可欠となります。この点、ウクライナ情勢を巡る不確実性が高い中で、例えば、資源・穀物価格の高止まりが長期化した場合、賃金の上昇が物価の上昇に十分に追い付かず、個人消費を中心に経済が下振れるリスクがあります。

第2は、海外の経済・物価情勢です(図表6)。先般公表されたIMFの世界経済見通しをみますと、成長率は、ウクライナ情勢や中国ロックダウンの影響に加え、世界的なインフレ高進を受けた各国中央銀行の引締め政策への転換もあって、下方修正されています。それでもなお、2022年と2023年は、ともに3%程度のプラス成長を続ける見通しとなっており、景気後退に陥るとの見方にはなっていません。もっとも、国際金融資本市場では、インフレの抑制と経済成長の維持が両立するかが懸念されています。そうしたもとで、資産価格の調整や為替市場の変動、新興国からの資本流出を通じて、グローバルな金融環境が一段とタイト化し、ひいては海外経済が下振れるリスクがあります。日本銀行としては、引き続き、金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響を、十分注視する必要があると考えています。

3.物価情勢

次に、物価情勢に話を移します。生鮮食品を除いた消費者物価の前年比は、昨年の携帯電話通信料引き下げの影響の大部分が剥落した4月以降、2%程度で推移しています(図表7)。最近の物価上昇の主因は、ガソリン・灯油・電気代といったエネルギー価格と食料品価格の上昇です。この点、生鮮食品とエネルギーを除いたベースでみれば、6月の消費者物価の上昇率は+1.0%、エネルギーと食料品を除いたベースでみれば、+0.2%となっています。

こうした物価動向を諸外国と比べますと、総合ベースでみて、米国は+9.1%、ユーロ圏は+8.6%となっています。米国は約40年ぶり、ユーロ圏では1997年の統計開始以降で最も高い上昇率を記録するなど、いずれも高インフレに見舞われています。これとの対比でみれば、わが国の物価上昇率は相対的に低いレベルにとどまっていると言えますが、物価上昇率は徐々に高まってきています。消費者物価の上昇率が2%を超えるのは、2008年以来14年ぶりのことです。

こうした物価上昇の背景をみますと、国際的な資源・穀物価格の上昇や為替円安により、輸入物価は上昇しています。また、そうしたもとで、企業によるコスト転嫁の動きが、供給制約の長期化による品不足の影響もあって、強まってきています。このため、生鮮食品を除いた消費者物価の前年比は、本年末にかけて、エネルギーや食料品、耐久財などの価格上昇により上昇率を高めていき、2022年度は年度平均で+2.3%と、2%を上回る見通しです。もっとも、年明け以降は、原油等の資源価格がこの先も上がり続けるという仮定を置かなければ、エネルギー価格の押し上げ寄与は減衰し、さらにコスト転嫁の動きも徐々に一巡していくと予想しています。この結果、2023年度と2024年度の生鮮食品を除いた消費者物価の上昇率は、それぞれ+1.4%、+1.3%と、2022年度から伸び率が低下する見込みです。また、短期的に振れの大きいエネルギーを除いたベースでみた消費者物価の前年比は、マクロ的な需給バランスが改善し、中長期的な予想物価上昇率や賃金上昇率も高まっていくもとで、緩やかにプラス幅を高めていきますが、見通し期間終盤の2024年度でも、1%台半ばの上昇率にとどまると想定しています。このように、現段階では、2%の「物価安定の目標」を持続的・安定的に実現する姿を見通せるには至っていません。

4.日本銀行の金融政策運営

金融政策の基本的な考え方

ここからは、日本銀行の金融政策運営についてお話しします。

日本銀行は、「物価安定の目標」を持続的・安定的な形で実現することを目指して、金融政策を運営しています。ここで、「物価安定の目標」の実現とは、消費者物価の前年比が、エネルギーなどの外生的な輸入物価の上昇により、一時的に2%に到達することではなく、景気の変動などを均して平均的に2%になることです。そうした観点からは、一時的な変動要因を取り除いた各種のコア物価指標に加え、先行きの物価見通し、また、その背後にある需給ギャップや中長期的な予想物価上昇率、賃金の動向などを総合的に点検し、物価上昇の持続性を判断していく必要があります。大事なことは、経済が成長を続ける中で、賃金と物価がともに上昇し、人々の暮らし向きが改善するという好循環が実現できるかどうかです。

この点、わが国経済は、依然として感染症による落ち込みからの回復過程にあります。実際、わが国のGDPは、米国やユーロ圏とは異なり、依然として感染症拡大前の水準を回復できていません(図表8)。さらに、資源の大部分を輸入に頼るわが国にとって、ウクライナ情勢等に伴う最近の資源高は、海外への所得流出という形で景気に対する下押し圧力として作用しています。この4から6月の資源輸入額は、昨年度の平均的な四半期対比で4兆円弱の増加となっており、これは、GDP比で2から3%程度の追加的な所得流出に繋がっていることを意味します。このように、わが国経済の回復基盤はまだしっかりしたものとは言えず、先行きの賃金動向を巡っても不確実性が高い状況では、金融緩和によって経済活動をサポートすることが必要です。

こうした認識を踏まえ、日本銀行は、先週の決定会合において、イールドカーブ・コントロールという金融政策の枠組みのもとで、従来の強力な金融緩和方針を継続することを決定しました。この政策により、わが国の長期金利は、海外からの金利上昇圧力が強い中にあっても、きわめて低い水準で推移しています。わが国の名目長期金利が低位で推移する一方、人々の予想物価上昇率は上昇しています。このため、名目金利から予想物価上昇率を差し引いた実質金利は、このところ低下しているとみられます(図表9)。実質金利は、どの年限の名目金利から、どのような予想物価上昇率を差し引くかで様々な値を取り得る点には注意が必要ですが、短中期ゾーンの実質金利は総じて低下傾向にあり、金融緩和効果は従来よりも高まっていると考えられます。それでも、今回の展望レポートが示すとおり、2%の「物価安定の目標」を持続的・安定的な形で実現できる見通しとはなっていないこと、さらには、先行きの賃金動向を巡って不確実性が高いことを踏まえますと、手を緩めることなく、金融緩和を継続する必要があると考えています。

「物価安定の目標」の実現に向けた賃金上昇の重要性

次に、「物価安定の目標」の実現に向けて、カギを握る先行きの賃金動向について、私どもの考え方をお話しします。先ほど申し上げたとおり、当面は、行動制限下で積み上がった貯蓄とペントアップ需要が、個人消費の腰折れを防ぐバッファーの役割を果たしますが、ペントアップ需要が一巡した後も、個人消費が持続的に拡大していくためには、物価上昇率を上回る名目賃金の上昇が必要です。

この点、今年度については、今春のベースアップが一般労働者の所定内給与に反映されていくほか、夏季賞与も、高水準の企業収益を背景に、製造業を中心に増加するとみられます(図表10)。加えて、対面型サービス部門に多い非正規雇用の賃金も、外食や旅行におけるペントアップ需要の顕在化などに支えられて、徐々に上昇基調が明確になっていくと予想されます。このように、今年度の賃金は上昇すると見込んでいますが、その上昇率が消費者物価の上昇率を上回るとは想定していません。

ただ、来年度以降については、経済の改善に伴い労働需給が引き締まっていくもとで、労使間の賃金交渉において、物価上昇率の高まりも勘案されると予想されることから、ベースアップも含めた賃金の更なる上昇が期待できると考えています。こうしたもとで、インフレ率の低下とも相俟って、賃金上昇率は、消費者物価の上昇率を上回っていく姿を想定しています。

一般的に、賃金形成には、労働生産性や成長期待、労働組合の交渉力、最低賃金など様々な要因が影響しますが、マクロ経済政策である金融政策も、労働需給などに働きかけることを通じて影響を与えます。すなわち、日本銀行の金融緩和は、まず、資金調達コストの低下といった緩和的な金融環境を通じて、企業や家計の前向きな支出活動をサポートし、総需要を押し上げます。このことは、企業収益の増加に繋がるとともに、企業の労働需要の増加を通じて、労働需給の引き締まりをもたらし、ひいては賃金上昇にも貢献すると考えています。日本銀行としては、今後とも、金融緩和により経済活動をしっかりとサポートし、賃金上昇を伴う形で「物価安定の目標」を持続的・安定的に実現することを目指していきます。

5.岩手県経済の現状と展望

最後に、岩手県経済についてお話しします。

岩手県の景気は、緩やかに持ち直していると判断しています。全国同様、供給制約の影響などから、生産は持ち直しの動きに足踏みがみられるものの、感染症の影響などが和らぐ中で、個人消費はサービス消費を中心に持ち直しています。

このうち、観光面の動きに着目すると、岩手県では「北海道・北東北の縄文遺跡群」の1つとして昨年7月に世界遺産に登録された御所野遺跡を始め、魅力的な観光資源が豊富に備わっております。また、コロナ禍で中止を余儀なくされた「盛岡さんさ踊り」の3年ぶりの開催を4日後に控え、サービス消費の改善に向けた期待が高まっています。

岩手県では、東日本大震災という未曽有の大災害から11年が経過し、この間の復興を、県民の皆様、企業、行政が一体となって進めてこられました。今回、私も被災地を訪問し、震災の経験・教訓を後世へ伝承するための取り組みを拝見しました。三陸沿岸道路を始めとする「復興道路」、「復興支援道路」など社会・生活インフラの着実な整備の状況を心強く思いましたが、同時に復興への道のりの険しさについても改めて実感したところです。

急速に進む人口減少、少子高齢化、さらには気候変動という重要な課題を背負いつつ、地域経済の活力を維持していくには、地域内に止まらず、日本全国や世界からニーズを取り込む工夫が避けて通れないと思います。そうした観点から、当地の2つの動きに注目しています。

1つは、県南地域への工場誘致を通じた、自動車や半導体関連の製造業の集積です。これは、交通アクセスが充実してきたことや、リスク分散、さらには官民を挙げた誘致活動などに対する評価が反映されたものであり、このところのサプライチェーンの国内回帰に繋がる動きのようにも思われます。

もう1つは、ポスト・コロナをも見据えた岩手県経済の活性化を実現するため、デジタル化の取り組みが進められていることです。当地では「いわてデジタルトランスフォーメーション推進連携会議」のもと、地域の課題解決や企業の生産性向上、人材不足への対応等について、産学官金の連携による「オール岩手」での重層的な取り組みが進められていると伺いました。こうした活動は地域の抱える課題を解決する重要な施策になると考えております。

最後になりますが、復興そして変革へと取り組んでおられる岩手県が、地域経済の更なる活性化を実現されることを心より祈念いたしまして、私からのご挨拶とさせて頂きます。ご清聴ありがとうございました。