このページの本文へ移動

【挨拶】わが国の経済・物価情勢と金融政策福岡県金融経済懇談会における挨拶要旨

English

日本銀行政策委員会審議委員 中村 豊明
2022年8月25日

1.はじめに

日本銀行の中村でございます。この度は新型コロナウイルス感染症が急速に再拡大している厳しい状況の中、福岡県の行政および金融・経済界を代表する皆様と懇談させて頂く貴重な機会を賜り、誠にありがとうございます。皆様には、日頃から福岡支店の円滑な業務運営に当たり、多大なご支援を賜り厚く御礼申し上げます。

本日は、内外の金融経済情勢や金融政策、日本経済の持続的成長に向けた私の思いなどについてお話させて頂き、福岡県経済の現状と期待される取り組みに触れさせて頂いた後、皆様から率直なお話を承りたく存じます。皆様との懇談を通じて、地域経済の現状や課題に対する理解を深め、頂いたご意見を日本銀行の業務や政策判断に活かしてまいりたいと存じます。

2.内外経済情勢

(1)経済・物価の現状と展望

海外経済は、一部に弱めの動きがみられるものの、総じてみれば回復しています(図表1)。米国や欧州は、一部に弱めの動きがみられますが、サービス消費を中心に回復を続けています。中国は、ロックダウンなどの影響が和らぐもとで、輸出や生産を中心に持ち直しつつあるほか、中国以外の新興国・資源国も経済活動の再開が本格化するもとで総じてみれば持ち直しています。

そうしたもとで、日本経済は、資源・穀物価格上昇の影響などを受けつつも、新型コロナウイルス感染症の影響が和らぐもとで持ち直しています。企業部門では、輸出は、供給制約による強い下押し圧力を受けていますが、基調としては増加しています。設備投資も、供給制約の影響がみられますが、持ち直しています。一方、家計部門の個人消費は、感染症の影響が和らぐもとで、ペントアップ需要の顕在化にも支えられて、サービス消費を中心に緩やかに増加しています。この間、消費者物価(除く生鮮食品)は、エネルギーや食料品の価格上昇を主因に、前年比で+2.4%まで上昇しています(図表2)。

日本経済の先行きを展望しますと、感染症の影響や供給制約の影響が徐々に和らぐもとで、回復していくとみられます。また、消費者物価の前年比は、本年末にかけて、エネルギーや食料品、耐久財などの価格上昇により上昇率を高めた後、エネルギー価格の押し上げ寄与が減衰していく中で、プラス幅を縮小していくと見込まれます。

(2)経済・物価のリスク要因

こうした見通しを巡る不確実性として、私が特に注目しているポイントをお話します。

1点目は、内外における新型コロナウイルス感染症が日本経済に及ぼす影響です。国内で感染症の急速な再拡大により警戒感が再び高止まる場合、サービス消費を中心にペントアップ需要の押し上げ効果が想定よりも弱まり、個人消費が下振れるリスクや、入国制限などを通じてインバウンド消費の持ち直しの遅れにつながるリスクがあります。また、グローバルに半導体不足が続くもとで、中国などで感染症による行動制限が再拡大される場合には、サプライチェーン障害などを通じて、供給制約の長期化・拡大につながり、輸出・生産や財消費、設備投資に下押し圧力がかかることも考えられます。

2点目は、ウクライナ情勢の展開や資源・穀物価格の動向です。世界的な気候変動対応に伴って資源開発投資が抑制されるもとで、ウクライナ情勢をはじめとする地政学的な要因を巡り、先行きの不確実性が高まっていることから、資源・穀物価格の上昇・高止まりは長期化するリスクがあり、ユーロ圏を中心に内外経済が一段と下押しされることが考えられます。特に長年にわたりユーロ圏経済を牽引してきたドイツは、ロシアなどに依存したバリューチェーンから脱却するコストが大きいとみられますので、欧州全域への影響を含めて動向を注視しています。

3点目は、海外の経済・物価情勢と国際金融資本市場の動向です。先進国を中心にインフレの高進が続くもとで、各国中央銀行は大幅な利上げを行っています。米欧の中央銀行は、ある程度経済の減速を覚悟したうえで、インフレ抑制を優先しているものと思われますが、国際金融資本市場では、インフレの抑制と景気後退の回避が両立できるかが懸念されています。こうした懸念が大きく高まった場合、資産価格や為替相場の調整、新興国からの資本流出を通じて、グローバルに金融環境が一段とタイト化し、海外経済が大きく減速するリスクがあります。このため、金融・為替市場の動向や日本の経済・物価・賃金に与える影響を注視しています。

3.金融政策運営

このような経済・物価情勢を踏まえて、当面の金融政策運営に関する基本的な考え方についてお話します。私は、現在の日本経済において強力な金融緩和を粘り強く続ける必要があると考えています。その主な理由は、以下の3点です。

1点目は、日本経済は依然として感染症による落ち込みからの回復途上にあることです。日本の実質GDPは、輸出や個人消費を中心に持ち直してきているとはいえ、米国やユーロ圏と異なり、今なお感染症拡大前の2019年平均の水準を回復できていません(図表3)。労働や設備の稼働状況を表すマクロ的な需給ギャップも、2020年4から6月期以降、一貫してマイナスです(図表4)。このように供給力に対して需要不足が続いている局面で、金融政策を引き締め方向に転換すると、景気の足を引っ張り、企業や家計の経済活動に大きな抑制圧力がかかると考えています。

2点目は、日本が直面している物価上昇と米欧が直面している物価上昇では、その程度や広がりが大きく異なることです。日米欧の物価の動きを比較しますと、消費者物価の総合指数の前年比が米欧では+8%超であるのに対し、日本では生鮮食品を除くベースで+2.4%と大きな開きがあります(図表5)。その内訳を品目別分布でみますと、感染症による景気の落ち込みからいち早く回復した米欧では、サービスを含む幅広い品目で大きく上昇している一方、日本ではエネルギーや食料品など限られた品目の価格上昇の押し上げ寄与が大きいものの、サービスを含めた多くの品目の上昇幅は依然として小幅で、輸入インフレにとどまっています(図表6)。こうした違いの原因には、賃金上昇率の違いがあると考えられます。米欧では感染症による景気の落ち込みからの回復で賃金に大幅な上昇圧力がかかりましたが、日本では経済の活動水準自体が回復途上にあるほか、後ほどお話する構造的な課題が賃金上昇を抑制しているために、賃金上昇は依然として小幅にとどまっています。このように、海外からの輸入品によるコスト・プッシュ要因で一部の価格が大幅に上昇している現在の状況では、総需要を抑制する金融政策ではなく、対象を絞った政策対応が効果的と考えています。

3点目は、2%の「物価安定の目標」は、持続的かつ安定的に達成される必要があることです。生鮮食品を除く消費者物価は、本年末にかけて、エネルギーや食料品、耐久財などの価格上昇により上昇率を高めるものの、その後はエネルギー価格の押し上げ寄与が剥落していくと想定しており、現状では、「物価安定の目標」が持続的かつ安定的に達成できる状況にはないと考えています。具体的な数値で申し上げますと、2023年度以降は政策委員見通しの中央値で1%台前半までプラス幅が縮小するとみています(図表7)。2%の「物価安定の目標」は国民生活の健全な発展を実現するために継続的に達成を確認していく指標、すなわちKPI(key performance indicator)ですので、消費者物価上昇率(除く生鮮食品)は、エネルギー価格の上昇などにより一時的にでも2%に達すればよいというものではなく、持続的な賃金上昇を伴って安定的に2%になることが重要と考えています。一部の品目の価格上昇に押し上げられて全体の物価が2%上昇しても、家計の可処分所得が向上しなければ、予算制約のもとで他の製品・サービスなどへの支出の減少を通じて、物価全般の上昇が抑制され、経済活動が停滞し、結果的に賃金が抑制されて悪循環に陥りますので、まだ目標の実現は道半ばにあると考えています。

以上の3点を中心に、現時点では現在の金融緩和を継続する必要があると考えていますが、世界的なインフレが進行する中、「物価は上がらない」という、日本に根付いた考え方や慣習に変化が起きつつあるようにも感じます。「物価は上がる」という、世界的にみれば一般的な経済環境では、労働生産性が向上するもとで、名目賃金はそれを上回るペースで上昇する必要がありますが、日本では、過去30年間は、物価がほとんど上がらなかったため、賃上げできなくても、後程ご説明しますが、自社の従業員が転職してしまうという状況にはなかなかなりませんでした(図表8)。しかし、高齢者や女性の労働参加の拡大余地が狭まってきており、人手不足がますます深刻になる中で(図表9)、賃上げが人手確保に一段と重要な環境になりつつあり、生産性を高めて労働の対価を引き上げていくことが経営課題になってきました。このため、中小企業、大企業のいずれもが自社の製品やサービスの付加価値や魅力を高めながら販売価格も高めて賃上げの原資を稼ぐという、好循環を回していくことが期待されます。

連合の調査によると、2022年度のベースアップと定期昇給を合わせた賃上げ率は+2.07%と中小企業を含めて前年度を上回り、また、先日示された今年の最低賃金も前年比+31円(+3.3%)と過去最高の上昇となりました。夏季賞与についても、経団連による大手企業を対象とする夏季賞与アンケート調査によると、8%を超える増加となったようです。このように、人手不足感が続くもとで、経済活動全体の持ち直しを反映して賃上げの動きは広がりつつあります。

こうした賃上げ率の上昇が、今年だけでなく、来年以降も持続していくことが必要ですので、冬季賞与と来年度の賃金改定はとても重要になると考えています。そのためには、一刻も早く感染症対策と経済活動の両立を実現して、感染症による落ち込みから経済を回復させることが必要です。そして、日本企業には、新型コロナ禍で激変した経営環境に適応する事業への変革を進めることが求められます。日本銀行としては、現在の金融緩和を通じて、そうした動きを粘り強く後押ししてまいりたいと考えています。

4.日本経済の持続的な成長に向けて

2%の「物価安定の目標」の実現には、賃金の上昇などによる家計の可処分所得の持続的かつ安定的な増加が必要です。可処分所得の増加は、最終需要となる家計の消費支出の拡大を通じて企業の売上・利益の拡大につながります。そうして生まれた資金や借入などによるレバレッジを活用し、企業が付加価値を高める投資を行い、自社の製品・サービスや労働の価値を高め、それを販売価格に反映し、さらなる賃上げや投資の原資を獲得して成長するという好循環が形成されます(簡略化した構図は図表10)。

しかし、家計の可処分所得を日米独で比較しますと、1990年代前半以降、米国は3倍超、ドイツは2倍程度に増加していますが、日本はほとんど増加していません(図表11)。このような可処分所得の停滞を打破するために必要と考えております3つのダイナミズムについて、私自身の民間企業での経験も踏まえて私見をお話したいと思います。

(1)企業のダイナミズム

1点目は、企業のダイナミズムです。日本企業の多くは、1985年のプラザ合意以降の急激な円高や1990年代前半のバブル崩壊に加え、海外経済の成長に伴う輸入原材料価格の上昇や新興国からの低価格品の流入などにより、収益力の低下や業績の悪化に直面しました。しかし、雇用の維持が強く求められましたので、賃金や「人への投資」を含む人件費や研究開発費などの固定費削減によるコスト構造改革で対応し、既存の事業ポートフォリオを維持したため、国内で過当競争に陥り収益力や成長力が低下しました。この間の開業率と廃業率をみますと、開業率は2008年以降4から6%で推移しており、廃業率もほぼ一貫して低下して4%以下と、両者とも国際的にみて低い水準にとどまっています(図表12)。このことから、企業の開業と廃業を通じた資源の再配分といった新陳代謝が限定的であった様子が窺われます。

このような企業のダイナミズムの不足は、1990年代後半から進行したデフレとも相俟って、イノベーションや投資の不足を通じて、生産性や賃金の低迷につながってきたように思います。すなわち、物価が持続的に低下するデフレが進行するもとでは、企業は投資の期待収益率が低下するためにリスクを抱える積極的な投資が行いにくくなりますので、コスト削減による利益・キャッシュフロー確保を優先するようになります。一方、従業員も、低い企業の新陳代謝や終身雇用慣行等の環境では、企業が倒産して失業すると再就職の不安が募りますので、賃金の上昇より雇用の安定を求めるようになります。こうした形で、短期的には事業の存続を優先することは可能ですが、グローバルな競争環境が強まるもとで、海外では製品やサービスの付加価値の向上とともに経済成長が進み、賃金と物価も上昇していますので、日本でも自社の製品やサービスの付加価値を高めていかなければ、企業・従業員ともに「稼ぐ力」は徐々に弱まります。

2013年以降の大胆な金融緩和や機動的な財政政策により、デフレの流れは止まりました。また、事業価値を最大化することが期待されるベストオーナーへのM&Aを通じた統合など、「選択と集中」に向けた事業ポートフォリオ改革も動き始めています。しかし、回復の過程で、パンデミックが発生し、日本経済は再びマイナス成長に陥りました。そして、感染症による経済の落ち込みからの回復の途上で、世界的なインフレ圧力が高まり、価格転嫁と賃金上昇が進む米欧に対し、日本では相対的に価格転嫁の広がりが限定され(図表13)、成長力や賃金上昇率の低迷が顕在化しました(再掲図表1、11)。こうした状況下において、付加価値の向上とそのための賃上げを含む「人への投資」が事業成長における重要な経営課題であるとの認識が経営者の間に広がりつつあります。新しいものを生み育てるスタートアップの成長と相俟って、こうした動きが日本の企業のダイナミズムを復活させ、日本経済の持続的な成長につながると期待しています。

(2)雇用のダイナミズム

2点目は、雇用のダイナミズムです。米欧では、感染症拡大以降、産業間や企業間で労働移動をはじめとする資源の再配分が進み、労働生産性の改善に寄与したとの分析が多くあります 1 。一方、日本では、これまでのところ資源再配分の動きは活発化していないように思われます。日本銀行スタッフの分析 1 によると、産業間の資源再配分による実質労働生産性の押し上げ寄与は、感染症拡大以降もきわめて小さくなっています(図表14)。また、雇用者数に占める転職者数の割合は4%程度で、正規雇用者間では1%程度にとどまっています(図表15)。これに対して、米欧の転職者数の割合は、10から20%程度となっています(図表16)。

こうした転職などを通じた資源再配分の進捗状況と労働生産性の改善ペースの違いは、賃金上昇率の違いにもつながっている可能性があります。米国について、転職者と非転職者の賃金の推移をみますと、転職者の賃金とともに非転職者の賃金も上昇しています(図表17)。米欧でも、賃金上昇を求めて転職をしているのは従業員の一部ですが、従業員が他社に移るかもしれないという危機感が、経営者に生産性向上に向けた取り組みと従業員への処遇改善を促していると思われます。また、個人の能力評価と賃金がリンクするジョブ型の雇用契約のもとで、労働者自身の能力強化により労働生産性が高まっている可能性もあり、非転職者の賃金にもその影響が及んでいるのではないかと考えています。

そして、転職などを通じた資源再配分が活発化していくうえでは、感染症による景気の落ち込みからの回復と、企業のダイナミズムの復活を通じた企業の成長とともに、積極的な挑戦を促すセーフティネットや持続可能かつ転職が不利とならない社会保障制度の整備など、制度面の改善も必要と思います。

従来、日本では「人への投資」を無形資産であるhuman capital(人財)への投資ではなく、labor cost(労務費)という費用として捉える傾向が強かったように思います。来年度以降も今年度を上回る賃金上昇が継続するモメンタムを形成するには、米欧に比べて大きく後れを取っている「人への投資」の活性化は重要です(図表18)。雇用のダイナミズムが生まれ、企業による「人への投資」が活発化することで、各個人の付加価値創出力、ひいては企業の付加価値創出力が強化され、所得と物価の好循環が加速していくと期待しています。

  1. 1詳細は、八木智之・古川角歩・中島上智「わが国の生産性動向――近年の事実整理とポストコロナに向けた展望――」、日本銀行ワーキングペーパーシリーズ、No. 22-J-3を参照。

(3)家計金融資産のダイナミズム

3点目は、家計の金融資産のダイナミズムです。日本の家計が保有する金融資産は2,000兆円を超えるまでに増加していますが、その内訳の推移をみますと、株式等や投資信託の伸びは鈍い動きとなっています。バブル崩壊後の1992年3月末では日本のその保有比率は15%、米国は37%でしたが、2021年3月末ではそれぞれ15%、51%と一段と大きく差が開いています 2 (図表19)。こうした動きを反映して、日本の家計の配当収入は、1990年代前半と比べてほとんど増加していませんが、米国やドイツでは雇用者所得と配当収入が可処分所得の増加に寄与しています(再掲図表11)。

企業は、雇用や賃金を提供する場であるとともに、付加価値を創出するツールでもあります。日本の家計の可処分所得は、そのほとんどが雇用者所得ですが、勤労の機会は多くの場合は1人1社ですので、自身の勤務先以外の上場企業を含む多くの企業の成長の果実を獲得するためには、投資が必要です。「長期・積立・リスク分散」による投資方針のもとでの余資による安定的な資産形成の動きが広がり、家計の金融資産にダイナミズムが生まれてくれば、日本でも可処分所得が厚みを増し、個人消費の活発化を通じて、マクロ的な需給ギャップが解消し、企業活動が更に積極化していくことが期待できます。すでに、NISAやiDeCoといった制度面のサポートもあり、若年層を中心に投資信託などへの関心が高まっているほか、政府の「新しい資本主義実現会議」も資産所得倍増プランを策定する方針を示していますので、こうした動きに弾みがつくと期待しています。

以上のように、企業と雇用のダイナミズムが企業の成長を促進し、雇用と家計の金融資産のダイナミズムが家計の所得増加を促進することで、所得と物価の好循環が強化されていくと期待しています。そうした動きを粘り強く支えるために緩和的な金融環境を提供することで、国民生活の健全な発展につながる2%の「物価安定の目標」の実現に近づいていくものと考えています。

  1. 2家計の金融資産に占める株式等・投資信託の割合を算定。日本のデータは日本銀行「資金循環統計」、米国のデータはFRB,“Financial Accounts of the United States”より、取得。日本と米国の家計や金融資産の定義等が異なっているため、日本と米国の比較にあたってはこうした点に留意する必要がある。

5.おわりに ―― 福岡県経済について ――

最後に、福岡県経済について、お話したいと思います。

福岡県経済は、卸売・小売業やサービス業など第3次産業のウェイトが大きいという特徴はありますが、製造業では自動車産業や半導体産業など高い技術力を持つ企業が多数立地しているほか、農業では「八女茶」や「あまおう」などブランド力のある農産物を多く有しています。さらに、世界遺産である「神宿る島(宗像・沖ノ島と関連遺産群)」など観光資源にも恵まれており、多様な産業がバランス良く集積しています。

こうした中、足もとの県内景気は、緩やかに持ち直しているとみています。生産面では供給制約の影響がみられていますが、個人消費では、サービス消費を中心に緩やかな持ち直しが続いているほか、設備投資は全体として増加しています。先行きについては、資源価格上昇などによる下押し圧力を受けるものの、感染症や供給制約の影響が和らぐもとで、企業努力に加え、外需の増加や緩和的な金融環境、金融機関や自治体の支援、政府の経済対策の効果に支えられて、全体としては持ち直し基調を続けるものと期待しています。

より長い目でみれば、感染症と経済活動の両立といった課題に加え、少子高齢化や人口減少、デジタル化、気候変動への対応など、中長期的な生産性の向上や成長に向けた取り組みが重要です。

この点、福岡県は、九州の経済、行政、文化、学術などの機能が集積しているほか、古くからアジアと日本を結ぶ交流拠点の役割を担う中で、交通・物流ネットワークも優れています。豊かな自然環境に恵まれる一方で、最近は「天神ビッグバン」などの都市開発が進められるもとで、都市機能が一段と高まりつつあります。このように、利便性が高く、活気があり、住みやすい都市という特徴は、定住人口や交流人口の増加に資する当地の強みだと考えています。

また、福岡県では「福岡県総合計画」(2022から2026年度)を策定し、中長期的に目指す姿を示し、産業人材の育成、戦略的な企業誘致などの施策を展開しておられ、高い成果が期待される取り組みと感じています。例えば、産業人材の育成では、産学官金で構成する「九州DX推進コンソーシアム」により地域におけるデジタル人材の育成などに取り組んでおられるほか、企業誘致では、産学官金が一体となり推進組織「TEAM FUKUOKA」を立ち上げて、国際金融機能の誘致に向けたプロモーションなどの活動や企業の進出を支援しておられます。このほか、福岡県が事務局となっている福岡県ベンチャービジネス支援協議会において、県内ベンチャー企業のビジネスマッチングや、中小企業の輸出・海外展開に関する情報提供やコンサルティングなどの支援を実施されているほか、福岡市でも国家戦略特区として「グローバル創業・雇用創出特区」の指定を受け、創業を促進する規制緩和や税制措置、スタートアップ支援拠点の整備などに取り組まれ、これまでに多数の創業や販路開拓などが実現しています。こうした福岡県の強みや、将来に向けた皆様の取り組みが着実に実を結び、福岡県の経済が一層の発展を遂げられることを祈念しております。

なお、日本銀行福岡支店は、昨年12月に開設80周年を迎えましたほか、今年4月には新しい営業所を竣工しました。引き続き、当地において中央銀行業務を遂行するとともに、関係者の皆様との意見交換などを通じて福岡県経済の発展に貢献できるよう努めて参ります。ご清聴ありがとうございました。