公表資料・広報活動

ホーム > 公表資料・広報活動 > 公表資料 1999年 > 内部モデル・アプローチに基づいて算出されたマーケット・リスクに対する自己資本賦課の実績サーベイ対象期間:1998年7月1日-12月31日(日本銀行仮訳)

内部モデル・アプローチに基づいて算出されたマーケット・リスクに対する自己資本賦課の実績サーベイ対象期間:1998年7月1日−12月31日

(日本銀行仮訳)

1999年 9月16日
バーゼル銀行監督委員会

1.概要

 1998年にバーゼル委員会のマーケット・リスクに係る自己資本合意の改定(以後「改定合意」)が実施されたことに伴い、トレーディング業務を大規模に行なっている銀行は、現在、自行が内部的に用いているリスク測定モデルを用いるか(以後「内部モデル・アプローチ」)、あるいは委員会が開発した「標準的」な手順によって、マーケット・リスクに対する所要自己資本額を算定することを求められている。モデル・タスクフォースは、内部モデル・アプローチに基づいて算出された所要自己資本額の適切性を評価するためにサーベイを実施し、9か国に所在する改定合意の適用対象となっている40行以上を分析した1。本サーベイは、市場のボラティリティが高まった1998年第3および第4四半期を対象としている。収集した情報は普遍性を保証し得ない性質のものであり、対象期間はかなり短い。従って、本サーベイからモデルの堅確性に係る確かな結論を引き出すことはできない。しかしながら、これらの銀行において、内部モデル・アプローチに基づいて算定された所要自己資本額は、対象期間中のトレーディングに係る損失2に対する十分なバッファーとなった。モデル・タスクフォースは今後の課題として、内部モデル・アプローチを用いる銀行がそれらのモデルの実績を継続的に再評価し、改定合意に述べられている要請に沿って、引続き堅確なストレス・テストのプログラムによりモデルを補完していくことを期待する。

  1. サーベイ対象行の数が概数となっているのは、(a)第3、第4四半期中に合併が行われたこと、および(b)一部の銀行の第4四半期のデータが入手不可能であったことによる。一部のサーベイ対象銀行は対象期間中にモデルの認定を受けた。また、本ペーパーの記述は、未だ当局に内部モデルの認定を申請していない数行から提供された情報にも依拠している。
  2. 計測対象となるリスクは、トレーディング勘定の金利関連商品と株式に係るリスクと全勘定の外為リスクとコモディティに係るリスクである。本報告書では取り敢えず、こうしたリスクから生ずる損失はすべて「トレーディング」に係る損失として参照することとする。

2.サーベイの結果

 本サーベイは、日次のトレーディングに係る損失を、内部モデル・アプローチにより算定された所要自己資本額、および、保有期間1日で計算した当該銀行の信頼区間99パーセンタイルのバリューアットリスク(VaR)の推計値と対比したものである。後者は、改定合意におけるバック・テスティング手続きのベースとなるものである。所要自己資本額は、保有期間10日に対する99パーセンタイルのVaR推計値、および監督目的上用いられている乗数(3倍ないし、それ以上)に基づいて算定される。すなわち、(a)上記のパラメーターに基づいて算定した前日のVaR値、ないし、(b)直前の60営業日における日次のVaR値の平均に乗数を適用した値の大きい方を所要自己資本額としている。改定合意におけるバック・テスティングの枠組では、直前の250営業日中に、日次のトレーディングに係る損失が保有期間1日、信頼水準99%のVaR推定値を上回った回数(いわゆる“exception”)が算定される。改定合意においては、直近の250営業日で観測されたexceptionの発生回数が、所要自己資本額を算出する際に用いられる監督上の乗数に直接反映される3

 サーベイの結果により、マーケット・リスクに対する所要自己資本額は、対象期間中のトレーディングに係る損失に対して十分なバッファーとなっていたことがわかった。特に、サーベイ対象行の中に、任意の連続する10日間において、当該期間の期初の所要自己資本額を上回ったトレーディングに係る損失を受けた先はなかった。

 1998年の下期はボラティリティが高かったにもかかわらず、サーベイ対象行のほぼ半数の先は、当該2四半期中に日次のトレーディングに係る損失が日次のVaR推計値を上回ったケースは一度もなかったと報告している。exceptionが発生した銀行の場合も、多くは1~4回にとどまっている。3行において、1998年下期中にexceptionが5~7回発生している。exceptionが発生した場合でも、一般に日次のトレーディングに係る損失は日次のVaRの2倍を超えていない。少数の銀行は、VaR値の2~3倍にのぼるトレーディングに係る損失を被ったケースを報告している。改定合意の下では、原則的に、銀行は推計したVaR値をトレーディングの実績と対比する際に、手数料収入を算入することを認められている。本サーベイの結果、一部の銀行において、日々の手数料収入によりVaR推計値を上回る損失を免れた例が幾つかあることが明らかになった。

  1. 3改定合意では、exceptionの発生回数はグリーン、イエロー、レッドの3つのカテゴリーに分類されている。直前の250営業日中のexceptionが4回以下の銀行はグリーン・ゾーンに分類され、使用モデルは問題がないとみなされる。5~9回であればイエロー・ゾーンに分類される。レッド・ゾーンに分類される結果(10回以上)は、一般に、モデルに問題があると自動的に判断されることにつながる。本文中に述べられているとおり、乗数はexceptionの発生回数に基づいて設定される。本サーベイに参加した監督当局が用いている乗数は、一般に、対象期間中に3~4の範囲にあった。しかしながら、一部の国では、乗数の大きさはモデルの事後的な実績のみに基づいて設定されるのではなく、当該銀行のリスク管理プロセスなど、何らかの定性的基準によるアドオン・ファクターが加味されている。

3.所要自己資本の配分

 サーベイ対象行の間では、全業務に占めるトレーディング業務の重要性にかなりのばらつきがみられた。トレーディング業務に係る所要自己資本の総リスク・ベース自己資本に占める割合は、これらの銀行において1~45%となっている。トレーディング勘定の内部においても、3つの主要リスク・カテゴリーに対する所要自己資本の配分は区々であった。すなわち、サーベイ対象行のほぼ半数の先において、カウンターパーティー・リスクはトレーディング勘定に係る所要自己資本のかなりの部分を占め、一般市場リスクや個別リスクに対する所要自己資本を上回っていた。その理由として、一部の銀行は、レポ取引をはじめ短期金融市場におけるトレーディング業務のウェイトが高いことを挙げている。一方、大多数の銀行において、一般市場リスクに係る所要自己資本は、個別リスクに対する所要自己資本を上回っていた。

4.リスク管理実務に係るその他の考察

 モデル・タスクフォースは、本サーベイにおいて、対象行がモデルのパラメーターを更新する頻度や適時性、およびストレス・テストの実施状況も調査した。これらの質問に対する回答は、普遍性を保証し得ない性質のものではあるが、実務のあり方に大きな開きがあることを明らかにするとともに、業界の更なる努力が待たれる分野を示唆している。

 改定合意では少なくとも四半期ベースでデータ・セットを更新することが求められているが、大多数の銀行は、対象期間中により高い頻度で更新を行なっている。多くの銀行は主要なパラメータを2週毎に更新している。かなり多くの対象行はヒストリカル・シミュレーションに基づくVaRシステムを採用していた。こうしたシステムのほとんどは、前日のデータを加味するため毎日更新している。さらに、通常は月次ないし四半期ベースでモデル・パラメータを更新していた銀行も、1998年下期中、特に主要な市場において大幅な価格変動が観察された後においては、より頻繁に更新を行なっていた。少数の銀行は、標準的な四半期ベースの更新頻度を保った。これらの銀行では、一般に、影響を被った市場におけるトレーディング業務は、業務全体の中に大きなウェイトを占めていなかった。いくつかの銀行は、パラメーターの推計値を更新する手続きに多大な時間を要すると報告した。極端な例として、新しいデータを測定し、これをVaRの枠組に組み入れる作業に最大4週間を要すると報告した先もあった。

 本サーベイにおいて、銀行はストレス・テストの実績についても述べている。ストレス・テストは、銀行のポートフォリオに多大な悪影響を及ぼし得る事象を認識し、これに基づいてエクスポージャーを再評価することを目的として行われる。サーベイ対象行のほとんどは十分に高度化したストレス・テストのシステムを保有している旨報告しているものの、対象期間におけるそれらのテストの実績は区々であった。かなりの銀行は、自行のテストが実際の市場展開を正確に反映し、かつ、発生する損失を保守的に予測していたと述べている。しかしながら、ストレス・テストの成果がより限られたものにとどまり、ある種のショックの影響や大きさを予測し得なかったとする銀行もある。

 サーベイ対象行が用いているストレス・テストの手法は、単一ファクターのシフトを織り込むにとどまっているものもあれば、過去の実例に基づくシナリオと、仮想的な危機が及ぼす潜在的影響を予測するためのシナリオの双方を用いたものもあるなど、千差万別である。銀行がこれらの様々な手法を用いた結果はまちまちである。市場変動の標準偏差を数倍して考える統計的なストレス・テストは、一般に、第3四半期の市場のイベントを予想し得ていない。長期データのヒストリカル分析に基づくストレス・テストは、より堅確であることが実証された。また、質への逃避などの仮想シナリオは、方向性としては正しい場合もあったが、発生したショックの規模や継続期間を十分に予測し得てはいない。

以上