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1998年秋の国際金融危機

A Review of Financial Market Events in Autumn of 1998
(日本銀行仮訳)

1999年10月20日
国際決済銀行
グローバル金融システム委員会

日本銀行から

 BIS・グローバル金融システム委員会(the Committee on the Global Financial System)では、1998年秋の国際金融危機に関する報告書「1998年秋の国際金融危機(A Review Financial Market Events in the Autumn of 1998)」を公表しましたので、同報告書(除くAnnex)の仮訳を掲載します。

 本報告書に関するご質問等がございましたら、金融市場局金融市場課(直通03-3277-3044)までご照会下さい。なお、同報告書の原文(英語)はBISのウェブ・サイト(外部サイトへのリンク)に掲載されておりますので、併せてご参照下さい。

 全文は、こちら(bis9910b.pdf 520KB)から入手できます。

イントロダクションおよび要約

 BISグローバル金融システム委員会(the Committee on the Global Financial System <以下、CGFS>)は、1999年3月の会合における討議を受けて、国際金融市場において1998年秋に生じたマーケット・ストレスに関連する出来事を検証する目的で、 CGFS Working Group on financial market events in the autumn of 1998(議長:Karen Johnsonthe Board of Governors of the Federal Reserve System>、以下、当WG)を設置した。当WGは、当時の出来事を様々な観点から考察することを目的にしている。特に重要な観点は、流動性の枯渇やリスク・スプレッドの上昇がなぜ突然生じたのか、何が市場参加者のリスク・テイク意欲を減退させたのか、混乱からの回復度やその速さはどの程度なのか、といった点である。このため、当WGは、多くのマーケットで生じた、比較的短期間における展開に焦点を合わせており、CGFSに設置された他のWGによる市場流動性に関する一般的な調査1、米国大統領が設置したWGによる特定の金融機関の経営についての調査2、およびthe Counterparty Risk Management Policy Groupから出された提言3といったものとは異なった目的を持っている。

 当WGは、主要な国際金融市場における重要な価格情報に関する膨大なデータ・セットを作成した上で、マーケットの平静時との比較を通じて、1998年秋における価格変動の大きさとマーケットの平静時とは異なる各種価格の相関関係を検証した4。また、当時のマーケットに影響を与えたと思われる出来事についての整理も行った。当WGの各国メンバーは、1999年6月中に、様々な国際金融センターで活動する市場参加者にヒアリングを行い、1998年秋の国際金融危機時におけるリスク・エクスポージャーおよびクレジット・リスク管理に関して調査した。そして、同年7月初めにはバーゼルにおいて、市場参加者6名を交え、当WG全体で討論を行った5

 本稿は、当WGの活動から得られた調査結果を取り纏めたものである。まず、第2章においては、1998年秋にマーケット・ストレスが発生した背景を整理する。同章前半部分においては、1997年半ば以降にマーケットで生じた混乱を、1997年7月から1998年7月までと1998年8月から1999年初頭までの二期間に分けて比較した。同章後半部分においては、混乱からの回復プロセスを検証する。1998年秋の混乱からの回復プロセスは、当局の行動とスプレッドの拡大による利益獲得機会の発生により、市場参加者が取引を積極化させたことから急速なものとなった。

 第3章では、1998年7~10月における出来事について分析を行うとともに、金融市場間での混乱の伝播と価格変動の増大に寄与したと思われるメカニズムを明らかにする。こうしたメカニズムのうち、過剰なレバレッジを利かせることを許してしまったカウンターパーティー・リスクの不適切な評価、市場流動性の枯渇が価格形成へ与える影響を軽視するリスク管理上の問題点、およびマクロ的なポジションに関する情報の不足などに関しては、公的当局および民間双方の先行研究によって既に市場構造上の問題点として明らかにされており、その後の様々な改革の引き金になったものである。その一方で、市場参加者数の減少、同一の資金調達手段・取引手法・リスク管理方法の広範な利用や近視眼的な意思決定を促す報酬体系といったメカニズムは、金融業の産業構造に深く浸透しているものであり、今後も、何らかのリスクをもたらす可能性がある。同章最後にある概念図は、当WGによって理解された1998年秋の混乱の伝播の仕方を体系的に纏めたものである。

 第4章では、1998年秋の危機の残存する影響を検証している。リスク・スプレッドや市場流動性を表す各種指標は危機以前の水準には戻っておらず、中には危機時と同水準となっているものもある。このことは、一方でマーケット・メーカーやアービトラージャーがその活動をいくらか縮小し、他方で投資家が多様な証券に関しての収益見通しを悪化させたことを示唆している。危機以前には、このようなリスク・スプレッドは歴史的にみて極めて低水準にまで縮小していたため、危機後に拡大したことで、同スプレッドはファンダメンタルズとより適合的な水準になったともいえる。その上、市場参加者は、価格体系のベンチマークとして、国債の利回りではなくむしろ民間発行証券の利回りを用いること等によって、質への逃避(flight-to-quality)の再発により影響を被るエクスポージャーを軽減させた。しかし、裁定取引に投下される資本の減少やヘッジ手法の変更などは、各種の金利スプレッドの拡大に繋がっている可能性がある。特に、主要先進国における最近のスワップ・スプレッドの拡大は著しい。

 また同章は、1998年秋の危機から、政策当局者にとって有益な教訓を引き出している。その中でも最も重要な教訓は、マーケット・ストレスへの最も有効な対抗手段が、市場参加者の側での健全なリスク管理であるという理解である。このことは、市場が信用力評価やリスク・テイク行動に効果的な規律を与えることを保証するような規制面や金融政策面での環境が必要であることを意味している。また、1998年秋の金融市場における危機が主要先進国の実体経済に与えた影響はあまり大きくなかった。これは、健全な商業銀行制度が直接金融での金融仲介活動の低下を補ったためである。このことは、間接金融の比重が大きい大陸欧州などの金融システムにおいては、直接金融の比重が大きい金融システムに比べ、非金融部門へのクレジット・アベイラビリティーが低下しなかった事実の説明となろう。このように、健全な預金受入金融機関の維持は、今後も重要課題である。金融機関の中には何度かマーケット・ストレスに直面した先もあるが、1998年秋の危機は、当初は一般的なクレジット・アベイラビリティーの低下というよりはむしろ、市場流動性の枯渇が問題であった。しかしながら、事態はしばらくして複雑な展開をみせた。市場参加者の価格設定に対する自信を削いだ当初の混乱が、その後、担保価値の下落と取引相手の信用力に関する不安の増大によって信用収縮に繋がった。

 最後に第5章では、結論を述べるとともに、今後の課題を纏めている。当WGでは大規模なデータ・セットを作成したが、これは必要な実証分析のほんの入口といえる。また、一層高度なファイナンス理論が、マーケット・ストレスをより厳密に定量化する可能性も指摘し、同時に、市場参加者との継続的なコンタクトが、マーケット・リスクやクレジット・リスクの管理方法を理解する上で大変有益であることも指摘している。

  1. BIS, Committee on the Global Financial System, Market Liquidity : Research Findings and Selected Policy Implications (the Shirakawa Report)(1999)など参照。
  2. The President's Working Group on Financial Markets, Report on Hedge Funds and the Long-Term Capital Management Episode(1999)参照。
  3. Counterparty Risk Management Policy Group, Improving Counterparty Risk Management Practices ( the Corrigan-Thieke Report)(1999)参照。
  4. なお、これらのデータおよびデータ間で観察された広範囲な相関関係については、英語原文(BISホームページ<http://www.bis.org>(外部サイトへのリンク)より入手可能)のAnnex 2を参照。
  5. 英語原文(BISホームページ<http://www.bis.org>(外部サイトへのリンク)より入手可能)のAnnex 1には、一連のヒアリングから得られた見解が要約されている。

以上