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流動性の高い国債市場を目指して

(日本銀行仮訳)

1999年11月12日
国際決済銀行・グローバル金融システム委員会

日本銀行から

 本報告書に関するご質問がございましたら、金融市場局金融市場課(直通03-3277-3543)までご照会ください。なお、同ペーパーの原文(英語)は、BISのウェブサイト(外部サイトへのリンク)に掲載されておりますので、併せてご参照ください。

プレス・ステートメント

 BISグローバル金融システム委員会(注)Committee on the Global Financial System、CGFS)は、本日、「流動性の高い国債市場を目指して」("How should we design deep and liquid markets? The case of government securities")という文書を公表する。本文書は流動性の高い国債市場を育成する上での基本的な考え方や具体的な政策提言を記している。これらの基本的考え方や提言は、委員会での議論から導かれたものであり、本年5月に公表されたCGFS報告書「市場流動性:研究結果と政策へのインプリケーション」"Market Liquidity: Research Findings and Selected Policy Implications")の内容も参考にしている。

 最近の金融危機の経験を踏まえ、頑健かつ効率的な金融システムを維持するためには流動性の高い市場が必要であることについて、広範なコンセンサスが得られつつある。こうした目的に応えるため、本文書では、流動性の高い市場を実現するための5つの基本的な考え方(guiding principle)を特定した。すなわち、競争的な市場構造、市場分断の程度の低減、低い取引コスト、健全、頑健かつ安全な市場インフラ、市場参加者の多様性である。多くの国では、金融市場において国債が中心的な役割を果たしていることから、国債市場の流動性は特に重要である。こうした見地から、国債市場の流動性向上のための5つの実務的な政策提言が議論されている。すなわち、債務管理戦略、税制、発行と取引情報に関する透明性、取引ルールとインフラ、関連市場の整備である。

 本文書は、個別の国債市場について特定の手段を採ることを主張するものではなく、また、良き慣行の規範(code of good practice)とみなされるべきものでもない。むしろ、本文書は流動性向上のために有効であった方策を整理したガイドラインとなることを意図している。議論されている問題は成熟した市場の経験をもとにしているが、国債市場の適切な機能を確保・発展させることを目指している全ての国に適用できる可能性がある。

 本文書は、BISのウェブサイト(http://www.bis.org)(外部サイトへのリンク)からも入手できる。

  • グローバル金融システム委員会は、G10諸国の中央銀行総裁により設立された中央銀行のフォーラムであり、金融政策および金融システムの安定化といった中央銀行の責務を果たす上で有用な政策提言を行うため、金融市場および金融システムに関する広範な課題についてモニターおよび検討を行っている。こうした使命を実現するため、委員会では、総裁を補佐していくうえで、特に金融市場やグローバル金融システムの安定に対する脅威を認識し、分析し、対応していくことに重点を置いている。

流動性の高い国債市場を目指して

 本稿は、G10諸国の中央銀行により構成されるグローバル金融システム委員会(Committee on the Global Financial System、CGFS)における市場流動性に関するスタディグループの研究成果等を踏まえ、流動性の高い国債市場1を構築する上での基本的な考え方と具体的な政策提言を記したものである2。市場流動性に影響する要因は多様である。証券法制、ディーラーへの規制や監督、会計制度といった制度要因は重要であるし、マクロ経済状況や発行者の信用状況の変化といった環境要因も影響を及ぼす。しかし、本稿では「市場」、特に市場デザインに焦点を当てる。

 最近の金融危機の経験を踏まえ、流動性の高い金融市場、特に国債市場が、頑健で効率的な金融システム全体の維持のために必要であるというコンセンサスが得られつつあるようにみえる3。本稿が示すガイドラインは良き慣行の規範(code of good practice)とされることを意図したものではない。むしろ、本稿の目的は、国債市場の発展やその適切な機能を確保するための各国の努力をサポートするような考え方や提言を、成熟した市場の経験から抽出することにある。

 ここで強調しておくべきことは、本稿が、債券市場の流動性を高めるという目的のためだけに政府が借入を増やすべきと主張している訳ではないことである。むしろ、本稿のガイドラインは政府の資金調達ニーズがどのようなものであれ、当てはまるものである。

 本稿の構成は以下の通りとなっている。第1節では、特に国債市場に注目する理由が議論されている。第2節では、流動性の高い市場を設計するための基本的考え方(guiding principle)が特定されている。第3節では、市場流動性を高めるための5つの政策提言が記載されている4。すなわち、(1)発行サイズの大きいベンチマーク銘柄の確立のための適切な発行年限配分と発行頻度の確保、(2)税の流動性阻害効果の最小化、(3)ソブリン発行者、発行スケジュール、市場価格、取引情報(但し市場参加者の匿名性に配慮)についての透明性の確保、(4)取引や決済に関する慣行についての安全性と標準化の確保、(5)レポ、先物、オプション市場の整備である。最終節では、中央銀行の役割が議論されている。

  1. 本稿では、流動性の高い市場を、参加者が、大ロットの取引を価格への影響を殆ど与えずに迅速に執行できる市場と定義する。この定義は、上記のスタディグループでも使用されている(BIS[1999a]、Market Liquidity: Research Findings and Selected Policy Implications、Basle、May<訳注:日本銀行による仮訳が「市場流動性:研究結果と政策へのインプリケーション」として本ホームページに掲載されている>)。
  2. 1997年12月のグローバル金融システム委員会(当時はユーロ委員会)の決定に基づき、中央銀行のエコノミストと市場アナリストからなるスタディグループが市場流動性の決定要因に関する研究を実施した。スタディグループの報告書(BIS[1999a])は、1999年5月3日に公表された。
  3. 世界的に観察された金融市場の混乱の結果、APEC等の複数のフォーラムが国債市場の発展のための健全な慣行を定式化しようとしている。
  4. 基本的考え方や提言の中での相対的な重要性は市場毎にかなり異なっている可能性が高く、本稿で示されている順番とは無関係である。

1.国債市場の重要性

 市場流動性の本質的な特徴の一つは、流動性の高さはさらなる流動性の高さを呼ぶという自己実現的な過程である。市場参加者は予見できる将来において高いレベルの市場流動性が期待できる市場において、より進んで取引し、ポジションを造成するが、このような取引への意欲はさらに市場流動性を向上させていく。これを踏まえると、その市場における十分な流動性が金融市場全体にメリットをもたらすような市場を特定することが生産的と考えられる。そのような市場を、ここでは核となる金融市場と定義する。

 多くの場合、国債市場は、そのような核となる市場の最も自然な候補である。これは、国債は信用リスクを殆ど含まないため、そのイールドカーブが他の金融資産の値付けのベンチマークとなるからである。結果として、国債はディーラーの主要な金利リスクヘッジ手段として、また、レポ、先物、オプションといった関連市場の原資産や担保として利用されている。

 しかし、国債の供給量が不十分な国では、金利スワップのような民間の金融商品の市場が核となる金融市場となり得る。そのような市場の流動性を高める上でも、若干の修正は必要かも知れないが、基本的に同様の基本的考え方が当てはまるであろう。

2.政策提言を行うための基本的考え方

 流動性の高い市場を実現するための実務的な政策提言を策定する上では、相互に関連する一連の基本的考え方を特定することが有益と考えられる。これらの考え方を基に、特定の市場状況に適合するように微調整した具体的な政策提言を導き出すことができる。

基本的考え方1:競争的な市場構造を維持すべきである。

 金融商品は、店頭、取引所、またこれらのどちらにも区分されないような多くの取引システムや市場構造のもとで取引されている。特定の資産について、どの取引の場(platform)に取引が集中するかは、原資産の標準化の程度、市場参加者のサイズや洗練の程度、その他一連の制度上、規制上、または沿革的な要因に左右される。取引は、金融システムの進歩、市場参加者のニーズの変化、情報技術の進歩の実現に伴い、しばしばある取引の場から別の取引の場にシフトする。従って、取引の場の適切な形態について一般的な結論を導くことは困難であると考えられる。

 しかしながら、根本的な戦略として、競争的な市場構造を維持することは重要である。ディーラー間の競争は、ビッド・アスク・スプレッドの縮小圧力の増大を通じて流動性を高めるであろう。取引所においては、その数は限られているものの、主要な取引所とそうでない取引所、また店頭市場と取引所市場とのダイナミックな競争は、市場流動性の向上に貢献する。この意味で、「コンテスタブルな市場」──支配的なプレーヤーが独占や寡占の力を利用しようとすると新規参入者による挑戦を受け得るような市場──を維持することが必要である5

  1. 5同時に、過度の市場分断は避ける必要があるし、新しい取引所は基本的考え方2や4で述べられているような健全な市場慣行に従うことが必要であろう。

基本的考え方2:市場分断の程度を引下げるべきである。

 他の条件が一定であれば、ある商品が他の商品と代替可能なときには、それぞれの市場について市場分断の程度が低くなるため、市場流動性は高くなる傾向がある。これは、高い代替可能性(低い市場分断)を有する証券の存在は、より大きな取引供給量を意味するからである。証券の取引供給量が多いときには、取引需要を吸収しやすい。もちろん、一般に高い流動性をもたらす大量かつ同質的な商品と市場参加者の個別のニーズに応える多様な商品との間でのトレードオフには留意する必要がある。様々な投資家ニーズに対応するため、イールドカーブの短期ゾーンから長期ゾーンまで、いくつかの「鍵となる年限」で債券を発行することは、このトレードオフを解決する上で有益と考えられる。

基本的考え方3:取引コストを最小化すべきである。

 市場流動性は市場参加者が取引を行う容易さによって決まる。従って、他の条件が一定のもとでは、低い取引コストは高い市場流動性をもたらす。取引コストは、税、必要なインフラを維持するコスト、流動性提供サービスに対する報酬といった様々な要素からなっている。それらの要素は市場によってもたらされる場合もあるし、市場にとって外生的要因によってもたらされる場合もある。いずれにせよ、直接であれ、間接であれ、取引コストが高いときには、金融商品の売り手が実際に受け取る価格と買い手が実際に支払う額との差が大きくなる。そのような状況では、売り注文と買い注文を付け合せることが困難になり、市場流動性が低下する。さらに、取引コストがあまりに高く参入障壁を構成するときには、その市場は少数のディーラーや投資家しか集められず、市場流動性は低下する。しかし、取引コストの中には、例えば健全な決済インフラの維持に必要なコストのように、市場全体の頑健さを改善するために必要なものもある。従って、取引コストは、当該市場の安全性を減じない限り最小化されるべきである。

基本的考え方4:健全、頑健かつ安全な市場インフラを確保すべきである。

 決済システム、規制・監督の枠組み、および市場のモニタリング/サーベイランスから構成される健全、頑健かつ安全な市場インフラは、市場が適切に機能するための前提条件である。そのような市場インフラは活発な市場参加を促進し、その市場を外部ショックからすぐに立ち直らせ、また継続的な価格発見を可能にすることを通じて、市場流動性を向上させる。

基本的考え方5:多様な取引主体の市場参加を促進すべきである。

 取引ニーズ、リスク評価、投資ホライズンといった点に関する市場参加者の多様性は市場流動性を向上させる。この点では、様々なタイプの国内投資家の参加を確保することが主要な関心事項ではあるが、非居住者が国内資産を保有したり、居住者が海外資産を保有したりすることを禁止する規則を廃止することも有益と考えられる。通常、非居住者はある国の国債をグローバルなポートフォリオ配分の観点から保有するため、居住者とはリスクへのエクスポージャーが異なる傾向にあり、それ故新規情報に対し異なった反応を示す可能性がある。従って、必要に応じ、居住者と非居住者との間で等しい競争条件を確保するような方策が採られるべきである。同時に、そのような方策を講じる前に、エマージング諸国における最近の金融市場の混乱でみられた通り、国内市場の発展段階に適切な注意を払っていくことが必要である。

3.政策提言

 上記の基本的考え方を踏まえ、流動性の高い市場についての以下のような実務的な政策提言が特定できる。これらの提言を検討するに当たっては、流動性の高い市場の構築はコスト、例えば決済システムの構築や取引活動に従事する人的資源といったコストを伴うことを認識する必要がある。これらのコストは、一般的には市場全般の発展度合い、特に市場の大きさによって異なり、様々な提言を実行することによる潜在的な便益を評価する上で考慮されるべきである。また、ある市場に対する個別の提言の妥当性は、その市場の特質によって異なることを強調しておく必要がある。

提言1:一貫した債務管理戦略

鍵となる年限における大きなベンチマーク銘柄を創出する手段として、発行年限の適切な配分や適切な発行頻度を確保すべきである。

 一般的な原則としては、金融商品の取引供給量が多いほど市場流動性は高くなる。同様に、他の条件が一定のときは、大きな発行サイズ(同じ償還日の同質の証券の発行残高が大きいこと)は市場流動性を向上させ、市場で取引可能な量を増加させる。証券の入手コストが低く、在庫リスクが限定されていれば、ディーラーのマーケットメイク機能は促進される。

 政府の借入ニーズを一定とすると、国は「鍵となる発行年限」に対する投資家の需要を満たすようにイールドカーブ上に満期を適切に配分しつつ、発行年限の数を減らすことにより、個々の銘柄の発行サイズを拡大できる。例えば、米国は1997年に、政府の資金調達ニーズが減少したため、イールドカーブ上の全ての年限についての発行額を減らすのではなく、3年債の発行を中止した。

 また、発行頻度の削減によっても発行サイズの拡大は可能である。例えば、米国では、財政バランスの改善を背景として、1998年に5年債の発行頻度を毎月から毎四半期に引き下げ、毎回の入札額を増加させた6

 発行サイズを拡大する一つの方法として、同一の証券を、一回の入札ではなく、連続する複数回の入札を通じて発行する定例リオープンがある。定例リオープンを行う場合、ディーラーは多額の証券を一時に引受ける必要がないため、発行者は、ディーラーに支払うリスク・プレミアムを減らしつつ、大きな発行サイズを実現できる。財政黒字が進行する中にあっては、新発債の大きな発行サイズを維持するため、発行者は、流動性の低い、古い銘柄を買い戻すことも検討に値するかも知れない。

  1. 6BIS[1999a]参照。

提言2:税制

税の流動性阻害効果を最小化すべきである。

 直接的であれ間接的であれ、一般に税は取引コストを増加させ、市場流動性を阻害する可能性がある。従って、政府が金融資産について課税するときには、潜在的な税収の増加と潜在的な市場流動性の低下を比較考量することが適当であろう。例えば、取引への直接的な課税は、取引される商品の供給価格と需要価格との間に楔(wedge)をつくることで、売り注文と買い注文の付け合わせを困難化する。この意味で、そのような税は流動性の高い市場を構築する上での障害となる。近年、金融取引に課税する国は少なくなってきている。取引税がまだ存在する国においても、その流動性阻害効果を最小化するために、活発な市場参加者はしばしば取引税を免除されている7

  1. 7BIS[1999a]参照。取引税率があまりに高く設定されていれば、取引は海外に逃避してしまい、トータルの税収は減少するかも知れない。

提言3:透明性

ソブリン発行者や発行スケジュールの透明性は確保されるべきである。取引情報の透明性も市場参加者の匿名性に配慮しつつ、促進すべきである。

 透明性は三つの異なった文脈で市場流動性と関連する。すなわち、発行者の透明性、発行スケジュールの透明性、市場情報の透明性である。

 第一に、投資家によるリスクのプライシングが容易になり、発行者の財務状況に関する情報の利用可能性が改善されると、市場参加と取引活動が促進されることから、市場流動性が向上する。ソブリン発行者について言えば、IMFによる特別データ公表基準(Special Data Dissemination Standard、SDDS)──外貨準備に関する部分についてはCGFSが基準策定に貢献した──を多くの先進国が実行していることに伴う透明性向上は、この点に関する重要な前進である。

 第二に、発行の予見可能性は市場流動性を向上させる。そのため、ソブリン発行者は定例的な発行サイクルを維持し、資金繰りニーズの変動を与件として可能な限り発行スケジュール(発行される証券の特徴や額を含む)を事前公表することが望ましいと考えられる。発行スケジュールの事前公表により、最善のポートフォリオを構築するための投資戦略を立案することが容易になるため、より多くの投資家がその市場に参入するであろう。独立ではあるが関連する問題として、入札日前取引、すなわち入札発表日(通常入札の数日前)から入札日までの取引の利用可能性がある。もし、国債の入札日前取引が可能であれば、入札や発行直後の市場流動性は向上する可能性がある。それは、マーケットメーカーにとって入札前に証券の真の価値が市場で試されていれば、狭いビッド・アスク・スプレッドを提示しやすいからである。ソブリン発行者や発行スケジュールの透明性の確保は、国際投資家からの安定した資本流入に依存する小規模の開放経済国にとって特に重要である。

 第三に、最適な情報の中身は市場の特質により異なるが、取引過程の中で市場参加者が観察できる透明性の程度も重要である。

 一般にディーラー市場においては、市場価格(prevailing prices)を最終投資家を含む幅広い取引主体(trading community)に配信することで、市場流動性は向上するであろう。例えば、米国では1992年に、取引情報をリアルタイムで一般に配信することを目的に、プライマリーディーラーとインターディーラーブローカー6社のうち5社が参加してGovPxというジョイント・ベンチャーが設立されたが、この取組みが米国債市場の流動性をさらに高めたと言われている。対照的に、市場参加者の匿名性を危うくするような特定の注文に関する情報の公開は、ディーラーのマーケットメイク意欲を損ねる可能性があり、慎重な検討が必要であろう。1997年にイタリア国債の業者間市場でマーケットメーカーの匿名性が高められたが、本措置は、ビッド・アスク・スプレッドの縮小や大口取引のマーケット・インパクトの低下という点で市場流動性の向上をもたらしたことが知られている6

  1. 6BIS[1999a]参照。

提言4:取引ルールとインフラ

取引・決済慣行の安全性と標準化を確保すべきである。

 標準化された頑健な取引ルールや安全なインフラは潜在的な取引コストを引下げることから、市場流動性を向上させる。これは、原資産市場のみならず、レポ、先物、オプションといった関連市場にも当てはまる。市場の取引の場が急増していることを踏まえると、市場参加者にとって信頼できる核となる慣習や慣行が存在することは特に重要である。

 安全な市場ではより多くの投資家が取引しようとすることから、取引や決済の安全性は流動性の高い市場の前提条件であるといえる。その意味で、決済ラグをT+3以下に短縮することや、同時決済(DVP)慣行を導入することは望ましいことである。T+3決済やDVPは先進国の国債市場においては一般的になってきている。国債市場における改善された決済慣行が他の債券市場にも拡がると、裁定やヘッジ取引ニーズが増加し、さらに市場流動性を向上させる可能性がある。

 第二に、取引・決済慣行の相違が取引インセンティブを阻害していたようなケースでは、これらの標準化は一般に市場流動性を高める。これらの慣行が標準化されている場合、証券の供給量が事実上大きくなり、市場分断の低下をもたらす。それに加えて、標準化は非居住者の参加を促進し、市場参加者の多様性を増すことを通じて市場流動性を高める可能性がある。この点において、この標準化を実現する上では取引所市場がもっとも直接的な方法かも知れない。どの慣行について標準化するべきかという点に対するコンセンサスがある訳ではないが、フェイル慣行(ディーラーがペナルティを払うことにより証券の引渡を延期できる慣行)は、一つの良い候補である。

 第三に、空売りが可能であることも流動性を向上させる取引ルールの重要な要素である。もし空売りが認められていなければ、ディーラーは投資家からの買い注文に素早く対応できないことから、こうしたマーケットメイク機能の障害は、市場流動性の低下をもたらすと考えられる。多くの国が、債券貸借および(または)レポ市場、フェイル慣行、および供給不足にある証券を当局が提供するという債券貸出および(または)レポファシリティといった空売りを容易にする方策を採用している6

  1. 6BIS[1999a]参照。

提言5:関連市場

レポ、先物、およびオプション市場を整備すべきである。

 ヘッジ、裁定、および投機取引が容易に実行できれば、市場流動性は全体として向上する。このため、レポ8、先物、およびオプション市場は重要である。レポ取引により、ディーラーは買い持ちポジジョンのファイナンスや売り持ちポジションのカバーが可能になることから、顧客のニーズに素早く対応することが可能になる。適切に設定された先物市場はヘッジコストを減少させ、現物市場でのポジション造成を容易にする9。また、オプション市場も柔軟なヘッジや裁定取引を促進する。

 この結果、現物市場の発展と平仄を合わせつつ、このような関連市場を健全な法制面・規制面および実務面のインフラのもとに発展させていくことは、市場流動性を向上させると考えられる。

  1. 8この文脈においては、レポ取引には債券貸借取引や買い/売り戻し条件付売買取引を含む。
  2. 9BIS[1999b]、Implications of repo markets for central banks、Basle、March(訳注:日本銀行による仮訳が「中央銀行にとってレポ市場が有するインプリケーション」として本ホームページに掲載されている)。

4.中央銀行の役割

 中央銀行が金融システムの中で果たす役割に対応するかたちで、その様々な活動は必然的に市場流動性に影響を与える。第一に、中央銀行は金融政策の運営主体であることから、政策決定、統計、および公開市場操作のオファーといった中央銀行が発信する情報は、市場価格に素早く織り込まれる。第二に、主要な市場参加者として、中央銀行は国債を用いて公開市場操作を行い、国債を担保として受け入れるため、証券の取引供給量に影響を与える。第三に、多くの場合、中央銀行は国債の決済機関であることから、国債の市場流動性状況に影響を与える。中央銀行は、これらの役割と金融システムの安定にかかる責任とに鑑み、これまでも市場の機能向上に努力してきたが、今後ともストレス下における流動性の枯渇等市場流動性の状況を念入りにモニターしていくべきである。

 同時に、市場流動性のダイナミクスについての知識は依然として限られている10。例えば、ストレス下での市場流動性の枯渇をもたらすメカニズムに対する理解は初期段階のものに止まっている11。従って、中央銀行は市場流動性のダイナミクスを引続き研究すべきであるし、政策決定主体や学術的機関による研究を促していくべきである。

  1. 10BIS[1999a]に収録された研究論文("Expectations and market microstructure when liquidity is lost")は将来の研究の出発点となり得るかも知れない。
  2. 11特定のケースについての分析としては、"A review of financial market events in the autumn of 1998"というBISの報告書を参照(訳注:日本銀行による仮訳が「1998年秋の国際金融危機」として本ホームページに掲載されている)。

以上